青春時代というものがろっくなのかもしれない   作:粗茶Returnees

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山田リョウの思案

 

 私と虹夏は親友。私は1人でいることを苦に思わないタイプで、虹夏はパッシーほどじゃなくても交友関係が広い。パッシーからすれば、私と虹夏が親友であることが少し不思議らしい。

 人間関係ってそういうものだと思う。不思議な組み合わせは他にも多い。私からすれば、パッシーとSICK HACKのイライザの組み合わせが不思議。普通に考えれば接点が謎。

 けどこういうのは、結局それを第三者が知らなかっただけ。知らないことは不思議で、分からないものになる。

 きっかけだって、特別なものの方が少ない。

 関係の改善、あるいは進展だって同じこと。特別なことがあったかは別。

 

「おはよー」

 

「おはよ。珍しいね虹夏がギリギリなんて」

 

「あはは。誰かさんが全然出てこなかったからね」

 

「あー。こっちも珍しいね。今日は遅刻じゃないんだ」

 

「ふぁ~ぁ。誰かさんに呼び出されたからな」

 

「あたし昨日連絡したじゃん」

 

「朝メッセ見た。深夜に送られてきても寝てるって」

 

「も~!」

 

 つまり深夜まで悩んでたってことか。

 何があったのかは知らないけど、2人はとても仲良くなった。昔の距離感がこうだったのかもしれない。これまでにあった壁がなくなってる。正確には虹夏の方から崩してる。

 

「ネクタイも何で緩めてるの!? 家出る時に締めたのに!」

 

「首元が窮屈だったから。いつも緩めにしてるじゃん」

 

「いつもより緩くなってる!」

 

「風紀委員より風紀委員してない?」

 

 「いつもネクタイの締まり具合見てるんだ?」とか「今日パッシーのネクタイ締めてあげたの?」とか、ツッコミたいことが次々と出てくる。

 それを言及する前に担任が入ってきたから、2人もそれぞれの席に着いた。

 

「今日も常習犯はちこkいる!? どうした!? 何か悪いことでもあったのか!?」

 

「家凸されたぐらいですかね」

 

「物騒だな! 個人情報の流出にはみんなも気をつけるんだぞ。近年はSNSが普及して、そこきっかけで被害が出ることも珍しくなくなってるんだから」

 

 特定班とかいるらしい。怖い世の中だ。

 

「山田さん。あの2人ってできてるの?」

 

「できてない」

 

「あれで?」

 

「あれで。今のだって、似たことなら私も虹夏に言われる」

 

「……たしかに」

 

 自分で言ってなんだけど、私って傍から見てたらあんな感じのことを虹夏にしてもらってたのか。

 まさかパッシーがライバルになる日が来るとは。

 

「記憶が戻ったのかと思ったらそうでもないのかー」

 

「そうでもないんだなーこれが。昔のおれって、さっきみたいなことしてたのか?」

 

「どうだったかなー。1つ言えることは、伊地知のおかん力が増してるな」

 

「察し」

 

「HR始まってるんだから静かにしろー」

 

 来たら来たで周りが話したがる。パッシーはいっそ遅刻してるほうがいいのかもしれない。

 パッシーの記憶喪失の件は、別にみんなに知られてるわけじゃない。今話しかけた男子も虹夏と同じ小学校。つまりパッシーとも友達。2人が仲良くしてたから、もしかしてと思って話に出したんだと思う。

 今の話が気になってざわついてた教室も、進学校というだけあって先生の一言ですぐに静かになる。HRのあとはまたその話になるんだけどね。

 

「記憶喪失の話だけであんな盛り上がるか?」

 

「珍しいから仕方ないよ」

 

 昼休みになって解放されたパッシーが、中庭の芝生に寝転んだ。虹夏がその側にハンカチを敷いてその上に座ってる。

 ここの芝生は美味しくないけど、寝転ぶには気持ちいい場所。服が軽く汚れちゃうのは残念。

 ところで今日のお昼を調達したいだけの私は、なんで2人の様子を見ないといけないんだろう。たまたま場所が被っただけにしても、運命のいたずらにはため息をつきたい。

 

「パッシーっていつも学食で食べてるよね?」

 

「うさぎみたいに草を食べてる奴に話しかけられるのは初めてだな」

 

「またお腹壊すよリョウ」

 

「食べられる草を覚えた。パッシーのその弁当は?」

 

「た、たまにはお弁当一緒に食べようよって誘っただけだよ」

 

「伊地知が朝くれた」

 

「ちょっ! なん……! も~~!」

 

「危ない危ない! 弁当溢れるって」

 

「溢れるのはおかず。そして溢れた分は貰う」

 

「溢れなくても分けるけど!?」

 

「パッシーはいい人。さすが。朴念仁」

 

「あれ貶されてない?」

 

 分けてくれるのは嬉しいけど、その弁当をなんで虹夏が用意してきてるのかは真剣に考えた方がいい。だって、私ですら虹夏に弁当を用意されたことがないんだから。

 ほら、虹夏も複雑そうな気持ちを抑えて愛想笑いしてる。

 

「せっかくだけど私はいい。今日の草は一味違う」

 

「そんな食レポ聞きたくねぇな。今度早起きできたら弁当作ってやろうか?」

 

「卒業まで気長に待つ」

 

「ナメてらっしゃる」

 

「パッシーは料理できるの? いつも学食なのに」

 

「できるぞ。親が基本夜勤だから、自分で用意することあるし。イライザの家に行ったらおれが作ってる」

 

「ふーん? イライザさんの家によく行くんだ?」

 

「そうは言ってないでござる」

 

「あたしにはそう聞こえたよ?」

 

「気のせいなり。山田、help」

 

「発音いいのイラッとしたからヤダ」

 

「どんな理由だよ!?」

 

 うっかりすることあるよね。パッシーは基本的にはその場にいない女子の話を避ける。郁代からそう学んだからだとか。それなのに失言しちゃってるのは、どんまいってところで。虹夏にぽかぽか叩かれてるのも当然の流れかな。

 

「おっ、玉子焼きうめぇ」

 

「叩かれながら食べてる人初めて見た」

 

「口に合ったならよかった~。男の子にとって量は物足りないかもだけど」

 

「作ってもらってるんだから文句も出ないって。伊地知は料理上手なんだな」

 

「お姉ちゃんが料理下手だから、あたしがいつも作ってるんだよ」

 

「なるほどなー。伊地知の料理好きかも」

 

「ほんと!?」

 

「弁当を少し食べただけだから、まだはっきりとは言えないけどな。玉子焼きにしても、味付けが好みに合ってる」

 

「そっか。それなら嬉しいな。こ、これからも作ってあげるよ?」

 

「さすがにそれは伊地知に悪いし」

 

「うん。それなら私の分もほしい」

 

「リョウはお金使い見直しなよ」

 

 虹夏はあんま考えてないだろうけど、今日みたいなのが続いていくと外堀から埋めていくことになる。クラスのみんなからしても、見え見えなぐらい分かりやすい。パッシーがどう応えるか。あとはそこだけって見られてる。

 私は私の一番の友達に笑っていてほしい。そのために必要なら手を貸す。

 ただ今のバンドの関係が崩れるのは嫌。結束バンドで音楽活動を続けていたい。ぼっちはともかく、郁代のことも気にしとかないと。

 

「ね、ねぇ。クリスマス……一緒にパーティーしない?」

 

「クリスマスは予定入ってる。ごめんな」

 

「えっ……そ、そうなんだ。友達多いもんね」

 

「今度は徹夜しないで済むといいなって思ってる」

 

「体に悪いからちゃんと寝てね」

 

「努力はする」

 

 徹夜……クリスマス……。パッシーの予定が何なのか分かったかも。今度は名前を出さなかったね。成長が涙ぐましいよ。

 それはそうと、あれの日程ってたしか。

 

「……虹夏」

 

「なに?」

 

 クリスマスってそんな特別なのかな。私にはピンと来ない。でも虹夏にとっては、落ち込むくらい特別視するイベント。店長の誕生日もそこだし。

 クリスマスはともかく、代替案は提案できる。郁代には悪いけど。

 

「初詣2人で行ってきたら? パッシーの予定まだ空いてるはず」

 

 小声で虹夏にだけ聞こえるように話してみると、虹夏はその日のことを考えて顔がちょっと赤くなった。クリスマスも自分で誘ってたわりに、恥ずかしそうにするよね。

 

「あ、あとで聞いてみる」

 

「今聞けばいい。善は急げ」

 

「だって……がっついてるみたいで、変に思われたくないし。さっきクリスマス断られたから他も断られるの怖いというか」

 

「ヘタレ」

 

 初対面でぼっちを勧誘した時くらいの行動力が、こっちでも活かせたらいいのに。

 

 

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