青春時代というものがろっくなのかもしれない 作:粗茶Returnees
あいつと出会った場所は、私がバンドの活動拠点にしている新宿FOLT。その当時すでにイライザさんと知り合ってたらしく、SICK HACKのライブを見に来てたところを知り合った。
よくライブに来てたのに、ファンというわけじゃないらしい。「友達が楽しそうにしてるのを見ると、こっちも楽しくなるじゃん?」とかそういう理由で来ていた。来なくなったのは、新たなライブハウス
理由はそこでバイトをするため。徒歩圏内でのバイト先ともなれば、そりゃあそこを選ぶ。でもそれだけが理由じゃないのは、イライザさんじゃなくても、私でも分かった。新宿FOLTでのバイトは断っていたんだから。
結束バンド。ふざけた名前に聞こえるバンド。そこのギターも、姐さんが気に入っている。そのせいで姐さんは、よくSTARRYに行くようになった。
私情まみれの個人的な感情だけど、私はこのバンドを認めていない。それなのに。
「本番前は緊張するっすよねー」
「SIDEROSの皆さんも緊張するんですか?」
「そりゃあしますよ」
「全然そうは見えない」
「自分より緊張してる人がいたら逆に落ち着くっていうあれっす」
「あ~。それって私たちのこと?」
「いえうちのリーダーです」
「大槻先輩が毎回3日前から緊張で寝なくなるんですよ」
「寝不足でその目になってただけ!?」
う、うるさいわね。慣れないものは慣れないんだから仕方ないじゃない。
「ヨヨコ先輩ってライブ中も半目になってるんですよ~」
「そうなの!?」
それはもっと早く教えてほしかったのだけど!? なんで誰も言ってくれないのよ。気づいてたなら教えてくれたっていいじゃない。あいつも気づいてたはずよね。なんで言ってくれないのかしら。……面白いからとか言いそうね。言ってきたら殴ってやる。
「SIDEROSはメンバーの入れ替わりが激しいって聞いてたけど、その理由ってもしかして」
「お察しの通りっす。大槻先輩がコミュニケーション苦手なので」
「パッシー先輩もそう言ってましたね」
「あいつと言えば……あら? 後藤ひとりは?」
私のことをヨッコイショウイチとか呼んできた、ピンクジャージの後藤ひとりがいなくなってるわね。うちのメンバーも結束バンドも気づいてなかったみたい。どこに行ったのかしら。リハも終わって本番前だというのに。
「うーん、完成版完熟マンゴーにもいないね」
「なにそのダンボール!」
「ぼっちの鎧」
「小学生の工作じゃないんだから!」
「ぼっちちゃんのお父さんが作ったんだって~」
親が作るんかい! 夏休みの子どもの自由研究を手伝う親のそれじゃない!
「これすごいっすね。腕とかも動かせるようになってるっすよ」
「喜多さんはなぜゴミ箱を確認してるんですか?」
「ひとりちゃんは閉鎖的な環境か、人気のなくてジメっとしてるナメクジが好みそうな場所に隠れるので」
「さすがにゴミ箱には入らないんじゃないですかぁ?」
「いやぼっちはスターリーのゴミ箱によく入る」
「客用のゴミ箱は大きいからねー」
「控室のゴミ箱は小さいので入らないっすよ~」
「ひとりちゃんなら分裂して入りますよ~」
「……後藤さんって人ですよね?」
何の話してるのよ。何がどうなったら後藤ひとりが人間じゃないって話になっていくのよ。疑うべきは後藤ひとりの生態じゃなくて、ナチュラルに鬼畜なことを言ってる喜多の方でしょ。
結束バンドの他の2人もなんでそこを流してるのかしら。日常茶飯事ってことなの? これが? 頭痛くなってきた。
ただでさえこっちは寝不足でエナドリ決めてるのよ。まともな会話をしてほしいわね。
「お、同年代のバンド同士仲良くなってんじゃん」
「パッシー先輩! 来てくれたんですね!」
「そりゃあね。アウェーでのライブは緊張するだろうけど、頑張ってね。バンド活動を続けていくならむしろアウェーが多くなるんだし、今日は第一歩ってことで」
「はい! ところでひとりちゃん見ませんでした? いつの間にかいなくなっちゃって」
「後藤ちゃんなら後ろにいるけど?」
「ほんとだわ! コアラみたいにくっついてる!」
だからその子人間よね?
「ひとりちゃんどこに行ってたの? トイレ?」
「あっいえ。き、緊張するから外の空気を吸おうかと」
「外に出ようとしたところで、お客さんの入りを見て固まってたところを保護しました」
「そうだったんですね。でも緊張は解れてるような?」
「あっ、それは……えへへ」
あいつのことをちらっと見たわね。まぁ分かるわ。不思議と緊張を解してくるのよねそいつ。私も前までは助けられたものよ。
「? 幽々、この部屋冷房ついてたかしら?」
「ついてないですよぉ」
「それにしては部屋が寒くなったような」
「それはあの2人のせい。ある意味4人ともか」
結束バンドのベース、名前はたしか山田だったわよね。彼女の視線の先には、笑顔を貼り付けたボーカルの子が、後藤ひとりの腕を掴んで部屋の隅に連行してる。ドラムの伊地知も同じね。あいつのことを、後藤ひとりとは反対側に連れて行っているわ。
音楽も一通り聴いているし、ライブも一度見させてもらっているけれど、結束バンドってこんなホラーバンドだったかしら。
「これに関しては主にパッシーの責任」
「そうみたいっすねー。大丈夫なんすか?」
人間関係の拗れがバンド解散に繋がるのはそう。それはもうよく知ってる。
2人が別々の人間に気があるのなら、こういう心配を誰もしなくてよかったのに。気持ちを向けられた人間に全責任があるとは言わない。それはもう理不尽でしょ。
それでも、外野からすればうまいこと収拾をつけろと言いたくなることでもある。取るべき責任はそこだ。後腐れないように努める。そこだけは必要になると私は思ってる。
「私はあんまり心配してない。気にはかけるけど」
「信頼してるんですね~」
「虹夏も郁代もしっかり者だから」
「あ、そっち?」
「冗談。パッシーもやる時はやる男。学校でもそう」
たしかにそういう男ね。楽観的に考えているくせに、要所要所は真面目に客観的に判断する。だから信用が置ける。ただし誰も傷つけないような選択肢は存在しなくて、あいつはその選択ができる人間。
後藤ひとりが解放されたようだけど、大丈夫なのかしら。喜多さんにビクビクしてない? ビクビクするのはいつものこと? そう。
「虹夏も終わったみたいだね」
「男の方も部屋を出ましたね~」
「あの人の名前って何なんすか?」
「え、覚えてない」
「えぇ……」
同じ学校でクラスメイトなのよね!? ……私も人のことは言えないか。
そもそも関わりがない人間のことを覚える必要ないわよね。いくらクラスが一緒だからって。3学期にもなれば自然と覚えるものだし、それくらいでいいわよね。
「へー。あの人って海外に行くんすか。凄いっすね」
海外?
そう。そういうことだったのね。
「そうなんだ~。高校卒業したら行くから、あと1年とちょっとだけ」
「先輩にはもっとライブを見てほしかったんですけどね。もう決めたことみたいなので」
「結束バンドさん準備お願いしまーす」
「あ、はーい! 喜多ちゃん、ぼっちちゃん。大丈夫?」
「はい!」
「……はっ! あっ、はい!」
「リョウも行くよ~」
「結束バンド」
「?」
「前のライブより良くなってたわ。いつも通りできれば大丈夫。努力は裏切らない」
……少なくとも音楽は裏切らない。
「あっ、ありがとうございます。ヨッコイさん」
「ヨヨコよ!!」
「あっご、ごめんなさい」
ちょっと強く言い過ぎちゃったわね。あとで謝っておかないと。
「ヨヨコ先輩どうかしたんですか?」
「ちょっと機嫌ナナメっすね。カルシウム用意しとくっすよ」
「必要ないわ。ライブが終わったら、結束バンドに話があるだけだから」
「後藤さんはコミュニケーション苦手みたいですし、大目に見てあげましょうよ~」
「そっちじゃないわよ」
そこまで怒ることじゃないんだから。
ただ、さっきの会話は一言申したくなるわよ。本人が言ってないからでしょうけど、彼女たちは気づきもしてない。あいつの決意がどういうものなのかを。
あいつが新宿FOLTに来なくなったのと、STARRYの開業時期は重なる。それまでバイトをしなかった男がそこでバイトを始めた。明確な理由を知らなくても、核が誰なのかは見たら分かった。
イライザさんに真剣に英語の指導を頼んでたのもその辺。
全部が全部。誰の為なのかが明白なのよ。
あいつは結束バンドを強く信じてる。
それを知らずに……。もっと実力を付けて駆け上がらないと許さないわよ。あいつが……私の歌を初めて認めてくれたあいつが、その人生を掛けてるんだから。
ま、一番の座は私のものだけど。
評価者数が100に到達して喜びの舞。ありがとうございます!!
私もね、リアクションあると嬉しいのです。栄養素です。
そんなわけで、オラに元気を分けてくれー!