青春時代というものがろっくなのかもしれない   作:粗茶Returnees

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喜多ちゃんによる職場訪問

 

 世間一般的に、クリスマスのあとは年末年始。大晦日とか正月とかそっちに目が向く。大晦日の特別番組、正月番組、駅伝なんかも新年の行事で注目を浴びやすい。

 けれどそれは世間一般での話。オタクの場合はそうじゃない。オタクの最大のイベントはクリスマスでも正月でもない。ビッグサイトにて行われる東京夏の陣&冬の陣ことコミマである。コミマ名物始発ダッシュ(危ないからやめようね)があったり、すんごい経済効果を生んでいたり、年で一番献血が行われたりと、それはもう大きなイベントだ。

 

「設営完了! あとは時間まで待つだけだネ!」

 

「弁当持ってきてあるし、朝ごはんにしようか」

 

「うん! 楽しみ~」

 

「定番のおかずしか入ってないぞ」

 

「それがいいんだヨ! アニメで見るお弁当もそういうのが多いでショ!」

 

「もしくはダークマターの2択だな」

 

「イギリス料理より酷い見た目のご飯のパターンもあるよネ」

 

「え、自分で貶す?」

 

「本当に美味しくナイ……。一緒にイギリスに行った時はブロがずっとご飯作っテ?」

 

 ご飯を作るのはいいけども、親が泣くぞそれは。

 というか、それってイライザの味覚が変わってないか? 元々はイギリスでの食事で生きてきたんだし。日本に来て3年目になると変化が起きるものなのかな。

 弁当はイライザの家で作った。泊まり込んで同人誌を完成させて、印刷の依頼だったり受け取りだったり。その後はダンボールへの詰め込みに、ここまでの運搬。一度家に戻ったタイミングはあるけど、ほとんどイライザの家にいたな。

 これは去年もそうだった。去年の年越しはイライザとだったから、あけおめとおたおめを同時にしたな。今年はそうはならないけど、誕生日祝いはしないとな。

 

「お弁当が朝ごはんで、コンビニで買った軽食が昼ごはんってなんか逆だよな」

 

「私はブロのご飯を最初に食べられて嬉しいヨ」

 

「よく平然と言えるな……」

 

「本当のことだもん」

 

「イライザ……オタクはちょろいからあんまそういうこと言うなよ」

 

「? ブロにだけ言うネ!」

 

 だからそういうところなんだよな! 駄目だ何も分かってない。諦めよう。

 

「慌てるのかわいい」

 

「揶揄うなよ……」

 

「ふふっ。ブロのおかず1つ分けテ」

 

「中身一緒なんだけど」

 

「分けテ」

 

「……どれがいい? イライザのおかずと1つ交換な」

 

「うん! 私このタコさんウィンナー貰うネ!」

 

 イライザの箸の持ち方は綺麗だ。日本人でも綺麗な持ち方に苦戦する人はいるし、諦めてオリジナルの持ち方をする人も珍しくないのに。イライザは諦めずに修得してる。

 好きこそ物の上手なれってことだ。

 イライザはアニメが好きだから、そこで見たシチュエーションを真似たがる節がある。このおかず交換もそういうこと。タコさんウィンナーを選んだのは、日本の弁当くらいでしか見ないから。たぶん。日本だけだと思う。

 日本人としては食べ慣れたあの味を、イライザは美味しそうに食べている。業者の人にこの反応を見てもらいたいくらいだ。多少なりとも喜んでくれると思う。

 

「イライザ、ハンバーグちょうだい」

 

「だめ」

 

 流石に駄目か。ハンバーグはお弁当の人気おかずランキングで堂々の1位(おれ調べ)。これは当然の返し。

 

「それならミートボール」

 

「だめ」

 

「なんと!」

 

 まさかミートボールも駄目だと!? 3個入ってるうちの1個をくれたらいいだけなのに。譲歩しやすく、タコさんウィンナーとの交換も成立しやすいラインのはず。それなのにこれも断るとは、何ならくれるんだ。

 

「ブロ、口開けて」

 

「は?」

 

「あーん。どう? 美味しい?」

 

 何言ってんだとぽかんとしていたら、ミートボールを口に入れられた。いいんかい!

 いやそれはもうどうでもいい。イライザの拒否理由が、おかずのことじゃなくて食べ方にあったのは予想外だ。おれが食べるんじゃなくて、イライザに食べさせられるというシチュをしたかったとは。

 それぐらいなら家でしてたのに。弁当はまた別か。

 

「美味しいよ」

 

 弁当用意したのおれだけどな。

 周りからの視線があっても、イライザが止まらないことにはやめようもない。

 ここはアニメ好きの人たちが集まる場だ。イライザにとっては友達を作りやすい場所でもある。しかし男女比は圧倒的に男が多い。金髪アニメ好きハーフ女性という特盛り属性を持つイライザは、希少価値が高いことだろう。

 下心ありで仲良くなろうとする奴は寄せ付けさせない。同行してる友人として、これだけは守らないといけないラインだ。

 そうして始まったコミマ。ぞろぞろと流れる人の波を眺める。イライザの同人誌は1次創作。2次創作はネットのみ。……手がけ過ぎでは?

 

「完売したら嬉しいナ」

 

「そうだな」

 

 初回は半分残っちゃったからな。あの時のイライザは……。

 

「ブロ?」

 

「売れるよ。イライザの漫画はSNSでも広めてるんだし」

 

「ブロのそういうとこが好きだヨ」

 

 面と向かって言わないでほしい。年上感の薄いイライザの花の笑顔を向けられると照れるんだから。

 ともかく。日本3年目のイライザは、オタ活用のトゥイッターのアカウントも持ってる。今回売る同人誌の宣伝もしてあるし、試し読みできるように数ページは公開済。それなりに好評だった。

 それが実を結んで、1人また1人と買っていってくれる。中には喜ぶイライザ目当てで来てる人いるな? まぁそういう人たちは前回とかも来てるし、リピーターだからありがたい存在ではあるんだけど。

 

「ようやく着きました~! 先輩たちの場所ここだったんですね!」

 

「は……? え? 喜多ちゃん!?」

 

「本当に来てくれタ~! 嬉しい!」

 

 イライザは知ってたのか!? おれは何も聞いてないが!? 2人揃って何だその顔。さてはグルだな!!

 

「イライザさんのアカウントをフォローしてるんですよ。それで先輩も来られるということで、私も来てみました!」

 

「連れてこられた佐々木です。喜多がいつもお世話になってます」

 

「あぁいやいやこちらこそ。じゃなくて!」

 

 喜多ちゃんの陽のオーラがこの場では強過ぎる! 周りのテーブルの人たちの目が潰れてるよ。なんか崇め始めてる人たちもいる。気持ちはよくわかる。喜多ちゃんはとてもかわいい。

 

「食わず嫌いもどうかなって思って。先輩がいますし、経験してみるにはこの上ないタイミングじゃないですか」

 

「それはそう。大丈夫だった? 変な目にはあってない?」

 

「変な人たちならいっぱい目にしました」

 

「ならOK」

 

「イライザさんのどーじんし? 読んでみてもいいですか?」

 

「もちろん! 買ってくれるともっと嬉しい!」

 

「もちろん買いますよ!」

 

 喜多ちゃんに、喜多ちゃんの友達の佐々木さん。イライザもいるからこの場所だけ空気感変わったな。心なしかいい匂いもする。清涼剤だとでも言うのか。これが乙女パワー。

 

(このキャラのモデルって……)

 

「?」

 

「ふふっ。exactly!」

 

「なにが?」

 

(手伝ったのに気づいてないんだ!?)

 

「私もこれ買いますね」

 

「ありがとう! 喜多の友達もいい人だネ!」

 

「面白かったんで。過去作もあります? 残ってたら売られることもあるってネットで見かけたんですけど」

 

「お客様は神様ってこういうことなんだネ!」

 

 たしかそれ意味合い違うからな。字面では合ってるけども。

 

「こっちの本が過去作だヨ!」

 

「さっつー太っ腹ね」

 

「シリーズものみたいだし、最初から読みたくなるじゃん」

 

「それなら私も買おうかしら」

 

 友達が何冊も買ってたら、「自分も買った方がいいやつ?」ってなることあるよね。そういう理由だけで買いそうなのは後藤ちゃんだけど。陽キャには陽キャの苦労があるってやつだ。

 

「先輩たちはお昼どうされるんですか?」

 

「コンビニでおにぎり買ってあるから、それで済ませるつもり。完売までは時間いっぱい粘るつもりだし」

 

「そうだったんですね。それなら丁度よかったです」

 

「丁度いいとは?」

 

「お弁当を作ってみたので、よかったら食べてください!」

 

「え、喜多ちゃんたちが食べる弁当じゃないの?」

 

「いえ、差し入れしたいなと思って作ったんです。ご迷惑でしたか?」

 

「そんなことはないよ。ありがとう喜多ちゃん、美味しく食べるね」

 

 しゅんって落ち込んだ顔をされては断れない。というか動機も動機だ。それを聞いて断ることなんてどうしてできようか。米1つ残さずに食べ切らせてもらうとも。

 喜多ちゃんって料理できたんだっけ。お弁当を作ってくれたんだし、できる側か。

 

「よかった~! イライザさんのもありますから、よかったらイライザさんもどうぞ」

 

「ありがとう喜多! 私今日貰ってばっかりだヨ」

 

「……先輩の料理もいただいたということで合ってます?」

 

「そうだヨ。ブロはお弁当も上手!」

 

「へー。そうなんですね~」

 

(あぁ、この人がパッシー先輩ってことね。たしかに顔がいいな)

 

 喜多ちゃんがピリピリしてるね。イライザは無自覚にやらかしちゃうんだから~。

 

「今度喜多ちゃんに作ってあげようか? 3学期のどこかで山田にも弁当作るし」

 

「どこかってアバウトっすね」

 

「朝起きれるかが問題だからな!」

 

「あ~、たしかに」

 

「それでしたら先輩、明日のお昼ご飯作ってください」

 

「明日!?」

 

 すんごい急だね。お昼の時間帯ならたしかに空いてるけども。

 

「食材は買って行けばいい?」

 

「喜多の先輩ってフッ軽なんですね」

 

「どのみち弁当箱を返すために会うからね。食べ終わるまで居てもらうのも悪いし、洗って返したいじゃん」

 

「常識あったんですね」

 

「喜多ちゃんおれのことなんて話してるの?」

 

 目を逸らすんじゃありません。

 

「常識がなさそうでありそうでやっぱりない人」

 

「ちょっ、さっつー!」

 

「逆がよかったよ」

 

「せ、先輩信じないでください! 今は全然思ってないですし先輩は素敵な方でカッコよくてだから私は! ぁ……っ~~~! また明日ー!!」

 

「喜多ちゃん!?」

 

「私もこれで。イライザさん、応援してます」

 

「ありがとう! またネ~!」

 

 喜多ちゃん……お会計を立て替えてくれた佐々木さんにお礼言うんだぞ。

 




どっかのタイミングで、それぞれのif(√)回しようかなぁとぼんやり考えてます。(単発話で)
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