青春時代というものがろっくなのかもしれない   作:粗茶Returnees

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喜多郁代はかわいい後輩

 

 バイトを始めたのはスターリーが店を開いてから。だから喜多ちゃんが伊地知たちとバンドを組み始めた時のことも知ってるし、失踪した時のことも知っている。

 そのことに対して特にコメントする立場じゃないから、「一大事だなぁ」くらいしか言わなかった。後藤ちゃんの加入、そこからの喜多ちゃんの復帰。結束バンドが4人になって、本格的に始動できるようになって。

 その時の伊地知の喜びようは、店長も優しい顔を見せたほどだ。

 快く迎え入れた伊地知の心の広さ。罰とか言いながらもバイトとして雇った店長の後押しも、姉妹揃って優しいのなんの。

 喜多ちゃんも喜多ちゃんで、それに甘えるわけでもなく真剣にバンド活動もバイトも取り組んでる。良い子ですよほんと。学校で絶対モテてるね。

 たぶん友達が多すぎて男子からしたら近寄りがたいんだ。違う理由での高嶺の花になってると見た。残念だったな秀華男子諸君。君たちが感じている女子ガード(肉壁)は、ここスターリーには存在しない。アプローチできてしまうのだ!

 

「ごめんなさい」

 

「ぎゃふん!」

 

 まぁ、壁があろうとなかろうと、OKが出るかは別の話だけどね。

 

「パッシー先輩って、部活動されないんですか? 運動神経良いとリョウ先輩が言ってましたよ」

 

「部活?」

 

「はい。部活してる人ってモテるイメージありません? 野球部とかサッカー部とかバスケ部とか」

 

「まあね。でもおれには無理だな」

 

「そうですか? お断りしてる身で言うのもなんですけど、パッシー先輩ってルックス良いですよね。それで運動神経も良いなら」

 

「集団行動無理!!」

 

「あぁ……」

 

 野球は集団競技ではあっても、実質的に個人競技にも近いって話はわかる。何かが起きない限り、ピッチャーとキャッチャーとバッターの3人での勝負になるんだし。

 それでも練習とかは集団じゃん。あれ無理です。あと部活のノリがとても駄目。暑苦しいの何の。

 そんなわけで、チームスポーツのサッカーとかバスケも無理。

 

「テニスとか陸上とかは?」

 

「試合だけでいいならってなる」

 

「スポーツ嫌いなんですか?」

 

「全般的に好きだけどね~。遊びの範疇を超えてくると飽きちゃうんだよ」

 

 冷めると言ってもいい。だから真剣に取り組む人たちといると、邪魔になっちゃう。そんなわけで部活はお断り。

 

「それでバイトですか」

 

「バンドマンってモテるだろ? 客が多いとそれだけ出会いも多い!」

 

「そこでバンドマンになるって選択は取らないんですね!?」

 

「彼女できて不和に繋がるの嫌だし」

 

「バンドしたら彼女ができるって自信はどこから来るんですか……」

 

「自分を信じるのは大切なことだよ」

 

「この流れじゃなかったらかっこよかったのに。店長さんによく採用されましたね」

 

「男手あった方がよくない? って感じでアピールしてたら採用された」

 

 実際ここのスタッフって圧倒的に女性が多い。おれ以外の男の人どこ? 客ぐらいかな!

 そんなわけで、力仕事とかはよく任される。身長も女性よりはあるから、高いとこの荷物を取ったり逆にそこに移動させたり。雑用全般任されております。給料に色つけてくれてもいいよ。

 

「喜多ちゃんがバンドしてるのは、山田に惹かれたからだっけ?」

 

「はい! リョウ先輩の路上ライブがカッコよくて! 普通とは違う感じで、憧れたんです」

 

「山田の生態は普通じゃないな。後藤ちゃん程じゃないにしても」

 

「後藤さんはそういうところも可愛くていいんですよ。ギターを弾いてるときはカッコイイですし」

 

「ギャップ凄いよね。それだけ1つのことに打ち込めるのは良いことだ」

 

「本当に凄いですよね。私は後藤さんほどの情熱はなくて」

 

「そうなの?」

 

 スタジオでの練習だけじゃない。後藤ちゃんに教わって練習してる時間もあるはず。それに、たしか後藤ちゃんが言ってたけど、復帰前から指は固くなっていたとか。

 それは、それだけ練習しないとそうはならない。ギタリストの打ち込み具合は、その指を触るだけで察せられるものだ。(by後藤ひとり)

 情熱がなければそうはならない。

 

「喜多ちゃんは喜多ちゃん。後藤ちゃんは後藤ちゃん。あの子って何年も練習してるんでしょ? その時間は巻き戻せないよ」

 

「ですよね。後藤さんに追いつくのは難しいですよね」

 

「そうじゃなくて」

 

「へ?」

 

「これまでのことより、これからのことを考えようよ。喜多ちゃんには喜多ちゃんの良さがあるんだから」

 

「私の良さですか? 例えばどんなことでしょう?」

 

「かわいい」

 

「ありがとうございます。…………え、終わりですか?」

 

「違う違う」

 

 続けざまに言ったほうがいいのかな。

 

「自分を客観視できてるところ。努力家なところ。周りをよく見てるところ。気を使えるところ。優しいところ。綺麗な歌声を持ってるところ」

 

「じゅ、十分です! ありがとうございます!」

 

「えー。もういいの?」

 

 遠慮しなくてもいいのに。

 

「まだ会って短いのに、そんなにすらすら出てくるんですね」

 

「何も考えずに告白してるわけじゃないからね。おれはバンドやってないし、その分人を見る時間がある。ライブない日とか暇じゃん?」

 

「店長さんに怒られますよ」

 

「仕事はしてます」

 

 やることがなくなって暇になっちゃうんだから、それはもう仕方ないじゃないですか。それならもう先に帰ってもいいんじゃ、という話になりそうだけど、それも店長が許さない。

 だって店長は後藤ちゃんのことを気に入っているから。そう、駅までは見送って、後藤ちゃんが電車に乗るところまで見届けないといけないのだ。そんなことしなくたって、日本は平和なんだから大丈夫だろうに。ジャージ&スカート且つギター持ちは痴漢も遠慮する。

 

「先輩の家ってこの辺でしたっけ?」

 

「そう。学校から近くて、ここにもそこそこ近い」

 

「近さだけで選んでますよね」

 

「よくわかったね」

 

 学校の門から20歩で家に着く。ギリギリまでゆっくりできるからおかげさまでよく遅刻してる。油断して遅刻とかあるあるだよね。

 学校から近いともなると、バイトのない日はよくたまり場にもなってる。放課後に友達が家に来てワイワイ遊ぶのだ。最近のブームはマルオパーティー50ターン。たいてい終わらない。

 

「友達とそうやって遊べるのいいですよね~。小学生の頃は私もよく友達と遊んでましたよ。懐かしいですね」

 

「中学生からどんどん生活が変わっていくよね。スマホも持ったり。イソスタに目覚めたのは中学生の頃から?」

 

「そうですね。やっぱり友達と一緒のをやっちゃうんですよ」

 

「陽キャの苦労というか、陽キャ女子の苦労って感じか」

 

「男子はないんですか?」

 

「イソスタとか持ってても、喜多ちゃんみたいにガッツリじゃないかな。ゲームなら流行る」

 

「先輩はどういうゲームをされてるんですか?」

 

 いろいろやってるね。人気ゲームからクソゲーまで。ジャンルもいろいろ。友達と盛り上がれるゲームとして、大富豪とか人狼とかFPS系もある。

 どれもガッツリやり込んでるわけじゃないけどね。エンジョイ勢ってやつ。

 

「アウトドアもインドアも好きなんですね」

 

「飽き性だから余計にかな」

 

「告白は飽きないのに?」

 

「憧れみたいなとこある」

 

 飽きっぽい性格だから、不変っていうのは憧れる。後藤ちゃんが何年もギターを引き続けてる事とか、素直に尊敬できるんだよね。

 おれからしたら恋愛もそんな感じ。その人のこと一筋で、何年何十年と好きでいるのは凄い。そういう人間になれたらいいなって思う。

 

「周りからしたら遊び好きの軽い男に見えるだろうけどね!」

 

「いえそんな! ……はい、正直そう思ってました」

 

「だよね~。作戦変えるか」

 

 でもどうしたらいいんだ。デートを重ねてから付き合うっていうのがオーソドックスなのかな。先に告白してからデートをする人もいるような。

 人それぞれと言えばそれでおしまいか。あ、押して駄目なら引いてみよとも言うか。実践してみるか? 実践してみて誰も押してこなかったら、距離開くだけの致命的な失策にもなるような。恋愛難しい。ギャルゲー今度買ってこよう。

 

「先輩。よかったら今度の休みにお出かけしませんか?」

 

「ん、荷物持ちだな! ばっちこい!」

 

「……オネガイシマース」

 

 

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