青春時代というものがろっくなのかもしれない   作:粗茶Returnees

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伊地知星歌の姉心

 

 パッシーは虹夏の幼馴染だ。家族想いの虹夏が同じだけ、あるいはそれ以上に想いを寄せていた相手でもある。

 家族ってのは、単純に考えれば生まれた時から与えられる居場所だ。私が生まれた時、私の家族は父さんと母さんだった。虹夏が生まれた時、妹ができた。虹夏の場合、生まれた時から両親と姉がいる。家族はその時からいる。

 それは特別な存在でもある。同じ空間で生活して、笑って、時に怒って、泣いて……よく泣かせていたのは置いといて。悪かったなとは今思ってるさ。ともかく、家族ってのは初めからあるもので、大切なものだ。

 マセガキだった虹夏は、本気でパッシーと結婚したがっていた。どうやったら結婚できるのかを母さんに聞いてたし、子供はどうできるのかを父さんにも聞いてた。

 家族じゃない、いわば他人である男と家族になりたがる。その想いの強さは、ある意味生まれた時からの家族に向けるものより強いと思う。

 

「虹夏にもとうとう男が……そうだもんなぁ。かわいいもんなぁ。ちっちゃい頃はパパと結婚するって言ってくれてたのに……」

 

「完全に酔い潰れてんな。その手のやつを本気で捉えてたのかよ」

 

「本気じゃなくても嬉しいものだろぅ! いつも家になかなかいれないのにさぁー。それでも言ってくれてたんだぞぉ! 虹夏に子供ができたら旦那さんをパパって呼ぶんだろうな。……他にパパが……ぐぁぁぁ!!」

 

「うるせぇぇ!! てかあいつら付き合ってねぇぞ」

 

「……なんで? 虹夏に魅力を感じてないの? は? 虹夏を振るなら処すけど?」

 

「めんどくせぇぇ」

 

 明日になったら忘れてるんだから尚の事タチが悪い。……今回の場合はいい方に転ぶか。

 ともかく、昔の虹夏の想いは一度止まった。今も虹夏の中にあるんだろうが、別と判断して切り替えられてるみたいだ。そしてまた、虹夏の中で芽ばえた。……いや、昇華した。

 虹夏を見てて思ったのは、子供の頃って恋を知らなくとも愛を漠然と理解しているということ。昔のあれは「愛」で、今の虹夏は「恋」をしている。

 恋愛、恋から愛へと変わるなんてとんでもない。恋は飛来する流星だ。一時期その人の中にあって、やがてそれは流れていく。恋心は他の形に変わっていく。

 楽しそうに弁当を作っていた。いつもなら味付けの確認で済ませる工程も「この味でいいのかな?」なんて思考を挟んでた。喜んでほしいと思って作っていた虹夏の姿は、身内びいきだとしても誰よりもかわいい奴だ。

 

「虹夏が結婚したら虹夏のご飯を食べられなくなるのか……父さん寂しいよ」

 

「じゃあ反対するのか?」

 

「虹夏に相応しい相手か判断してから送り出すとも……! カハッ!」

 

「ダメージ負い過ぎだろ……」

 

「娘の幸せを願い、喜ぶのが親というもの。……その後の食事問題は一大事だがそれはそれ」

 

 そこはたしかにやばい。私は苦手だし、父さんも得意ではない。毎日弁当だと出費が嵩むしな……。ライフラインに影響でかいな。虹夏に頼りきってたのが原因か。

 虹夏は充実した生活を送れてるだろう。バンドを組んで、本気で活動できている。パッシーとの関係は……まぁ後腐れなく落ち着いてもらうとして、一緒に過ごしてるのは楽しそうだ。戦力的にバイトで同じ配置にしてやれないのは、堪忍してほしい。

 

「年も明けたんだから、自分の部屋で寝てくれよ」

 

「虹夏の着物姿、写真撮ったか?」

 

「撮ったしロインで送ってやるから、ベッドに行けって」

 

「かわいかったなぁ。ウェディングドレスも似合うだろうなぁ……ぐすっ」

 

「おら、いい加減寝てくれよー」

 

 父さんをベッドに突っ込ませて、リビングで片付けを終えたら私も部屋に行って寝る。虹夏が帰ってくるのを待つのはやめた。パッシーのことだから、必ずあいつが家まで送り届けてくる。心配する必要はない。

 パッシーにはパッシーの人生がある。あいつの道がある。どういう選択を取ろうと、私は口出しをする立場にはいない。相談とかされたら答えるけど、そうじゃないなら干渉しない。姉としては、妹を泣かせない選択をとってほしいけどな。

 虹夏にとって、パッシーの存在は大きい。想像よりも大きい。

 虹夏のトレードマークとも言えるリボン。今年……じゃなくて去年か。去年にパッシーはプレゼントしたようだが、()()()2()()()だ。過去にもプレゼントしたことがある。

 あの後虹夏がアルバムを開いて、両手に2つのリボンを握りしめていたことを、あいつは知らない。その胸中を私も推し量れない。私にできるのは、妹を見守ることだけだ。

 

 朝になって起きると、さすがに虹夏も家に帰ってきてた。補導されたわけでもなさそうで一安心。ソファで虹夏の横のパッシーも揃って寝てることには度肝を抜かれた。新年早々ドッキリだ。

 着物から部屋着に変わってはいる。虹夏のではないパーカーに袖を通して寝てる姿は、愛らしさの他にもこみ上げて来るものがある。

 

「もっと暖かくして寝ろよ……」

 

 毛布を持ってきてそれを2人にかける。なんとも幸せそうに寝てる我が妹は、さぞかしいい夢を見てるんだろうな。

 だけど場所も悪いし状況もあんまよくはない。父さんがまだ起きてこないことが幸いだ。出てくる前にどっちかには起きていてほしい。面倒事のフォローはしないぞ。面倒だからな。

 

「あれ……店長?」

 

「わり、起こしちゃったか」

 

「いえ……寝転んでないと寝付き浅いだけなんで……。というか寝落ちです」

 

「だろうな。飲みかけだった飲み物は捨てといたぞ」

 

「ありがとうございます。ところで……」

 

「虹夏なら部屋に運んでもいいし、そのままソファに寝かせてもいいぞ」

 

「店長が運んでくれるんですか?」

 

「いややらねぇ」

 

「ならここに寝かせるしかないですね」

 

 ま、17の男が同い年の女子の部屋に勝手に入るのはキツイわな。本人が隣で寝てるなら尚の事だ。……余計な心配かもしれないが、虹夏の部屋には昔の写真も多い。それが変な刺激になるのも困りものだ。

 

「……実は起きてたりしない?」

 

「いや、それ寝てるぞ」

 

「離してくれないんですけど」

 

「ベッドにぬいぐるみ置いて寝てるからな。昔から抱き癖があるんだよ」

 

「寝てる時ってこんなに力入るっけ……」

 

「なんだったら虹夏を起こしていいぞ」

 

「うーん。それはやめときます。起こしづらい」

 

 気持ちはわかる。気持ちよさそうに寝てるやつを起こすのは躊躇うよな。

 

「んで? 虹夏がお前のパーカーを着てる理由は?」

 

「着てみたいって言うから貸しただけですよ。大きめのパーカーが好きらしいんで」

 

「たしかにサイズは違うけどさ」

 

 まぁいいか。本人たちがそれでいいなら、余計なことは言わないでおこう。10代って難しい時期だしな。

 

「そうだ。誕プレありがとな。部屋に置かせてもらってるわ」

 

「いえ。パーティーには参加できなかったですし、普段お世話になってるから誕プレくらいは渡しときたかったので」

 

 私がサプライズ派なのは知らなかっただろうけどな。不覚にも喜んじまった。

 

「お前の誕生日は4月だったよな。お礼は考えとく」

 

「えぇ。普段のお礼に渡しただけですよ」

 

「こっちも礼したいことがあるんだよ。虹夏のことでな」

 

「……」

 

「その様子だと、虹夏と昔馴染だったことは知ったみたいだな」

 

 年相応な困り顔をしやがって。忘れたからってとやかく言わねぇよ。私だってはっきりとは覚えてなかったんだ。記憶ってそういうもんだろ。人によってまちまちだ。どれを大切に覚えているかも違う。

 

「昔の関係を引きずる必要はねぇよ。互いにな。虹夏だってそこは割り切るようにしたんだ。つまんねー同情をしようもんなら、今の関係が崩れるぞ」

 

「そう、ですよね」

 

「今の虹夏をちゃんと見てやれ。ぼかさずに、過去を考えずに。お前がどう決断しようと、私はお前の選択を押してやる」

 

「……いいんですか?」

 

「そりゃあ姉としては妹を応援したいけどな。でもお前は、大丈夫に振る舞うだけの男だ。自分の傷を隠そうとするガキだ。だからお前のことだって応援してんだよ」

 

 姉貴分としてな。

 ソファにパッシーが沈む。数秒の沈黙を挟んで虹夏のことを見た。そんなタイミングでパッシーのスマホから着信音が鳴った。その音を目覚まし代わりにして、眠そうに瞼を擦りながら虹夏が起きた。

 

「なんで電話番号知ってるんだろ……」

 

 さらっと怖いことを言いながらパッシーが電話に出た。脳の認識が追いついてきた虹夏は、状況を把握してコイみたいに口をパクパク動かす。

 虹夏にとっちゃあ、今の状況は刺激が強いもんな。

 

「旅行? 大丈夫ですけど。……え、後藤ちゃんと? 待って待ってそれは! ……切れちゃった……」

 

「……へー。ぼっちちゃんと旅行に行くんだ?」

 

「聞こえてた?」

 

「聞こえてないけどなんとなくで分かったよ」

 

「き、決まったわけじゃないし……後藤ちゃんも嫌がるんじゃないかな」

 

「どうだろうね。でもいいんじゃない? ゆっくりしてきたら。この年末予定詰め込み過ぎて疲れてるでしょ」

 

 なんだっけ? 同人誌製作にコミマ、打ち上げからの昨日は別の予定を挟んで虹夏と初詣だっけか? まぁ、詰め込んでるな。

 

「えっと、いいのか?」

 

「なんで?」

 

「伊地知機嫌悪そうだから……」

 

「悪くないですー。ぼっちちゃんとの旅行は全ッ然気にしてないから」

 

(絶対気にしてるじゃん……! 店長ヘルプ!)

 

 あの野郎、ぼっちちゃんと旅行に行くのかよ。

 

(こっちもダメそう!! お土産で許してもらおう。……さすがに保護者同伴だよな。そこは信じていいよな!?)

 

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