青春時代というものがろっくなのかもしれない 作:粗茶Returnees
私こと後藤ひとりは、後藤家の長女。お父さんとお母さんがいて、年の離れた妹がいて、ペット犬のジミヘンがいる。そんな私は昔からぼっち生活をしてる。お父さんもお母さんも社交的で性格が明るくて、いつも笑顔でいる人たちなのに、妹のふたりも両親に似た性格なのに、私はぼっち生活を送ってる。
人と話すことが全然ない生活をしてきたから、言葉の最初には「あっ」ってつけちゃうし、人と目を合わせて話すこともパッシー先輩が
そんな私に当然交際経験はなく、むしろそういう雰囲気は青春コンプレックスを刺激されてダメージを負うし(最近喜多ちゃんと虹夏ちゃんから青春オーラを感じてるけど、不思議とこの2人のは大丈夫)、友達だって全然いない。
友達とのお泊りもハードルが高い。虹夏ちゃんとなら大丈夫だと思う。そんなレベルの私にお母さんが
「福引当たっちゃったからパッシーくんと使ってね♡」
すんごいニコニコされながら渡されたのは、1泊2日の温泉旅館宿泊券。略して旅行券。
渡されたのは1枚だけ。この1枚が2人分。
お父さんとお母さんで使うという選択肢は、
「ひとりとふたりを残してはいけないでしょ」
という至極真っ当なもの。うん。家事できないもんね。じゃあお母さんとふたり、もしくはお父さんとふたりという組み合わせはどうかと聞いても、
退路を断たれた私に逃げ道はなく、迎えたのは旅行当日。というか言われた翌日。お母さんに荷物を用意されて、先輩が来るのを待ってる。
「そわそわしてかわいいわねひとり」
「こ、この服が落ち着かないだけ!」
「大丈夫! 似合ってるわ!」
「そういうことじゃなくて!」
私の愛用ジャージはお母さんに回収されて、代わりに用意されたのはタンスに眠っていた服。お母さんの趣味で選ばれてるから、私の好みとは違う服。フリルのついた長袖の上下。下はスカート。かっこよくない……。
これで先輩に会うのは、なんか嫌だなって思ってたらチャイムが鳴った。そのパッシー先輩が来ちゃった。
もたもたしてるとお母さんに何を言われるかわかったものじゃない。荷物を持ってリビングから玄関にダッシュ。靴を急いで履いて先輩を連れて逃走……したかったのに。靴もいつものと違うから履くのに手間取ってる。
「後藤ちゃんちょっとストップ」
「あ、はい」
「たしかこういう靴のはここが……うん。足を入れていいよ」
先輩に手伝ってもらいました。かっこよくないポイントが加算されていく。
「あれ? ご家族は……」
「あら言い忘れてたわ~。旅行券は2人までなの。だからひとりのことお願いね」
「ま!?」
先輩、母が騙してごめんなさい。私は先輩側です。
抵抗しても無意味だから、私の準備が終わると顔を引き攣ってた先輩も諦めて切り替えた。高校生だけでの宿泊には親の同意書が必要で、お母さんはそれも用意してある。先輩の分も。なんで?
「温泉自体は楽しみだし、行きますか」
「あっ、はい」
「ライブ以外でジャージじゃない後藤ちゃんを見るのは新鮮だね」
「に、似合わないですよね。お母さんにジャージを取られたので仕方なく」
「まさか。似合っててかわいいよ後藤ちゃん」
「ぅぇっ!? ……ぁ……ぅ」
「あ、ごめん。後藤ちゃんの趣味じゃないなら、似合ってるって言うのは皮肉になっちゃうかな」
「い、いえ……。ほ、褒められるのは嬉しい、です」
喜多ちゃん曰く、お母さんが買ってくる服は甘い系というものらしい。私はかっこいい系が好き。だから先輩が気にしたのも合ってる。
それでも嬉しさがこみ上げて来る。だって人に褒められること少ないんだもん! コメント欄を除けば8割が先輩からの供給。私の承認欲求のほとんどを1人で賄ってくれる。
「あの……お母さんがすみません。先輩にご迷惑をかけて。い、嫌ですよね、私なんかと」
「てい」
「ほぇ?」
痛くない強さで、優しくチョップされた。先輩はちょっと怒ってるような。指摘が当たっちゃったから?
「後藤ちゃんのお母さんに振り回されたのはそうだけど」
「す、すみません」
「後藤ちゃんと旅行に行くことが嫌なわけないじゃん」
「え、なんで……」
「なんでもなにも。先輩後輩を無視したら、友達じゃん。友達と旅行に行くのは楽しいし、後藤ちゃんとだからこそ楽しめることもある」
「あっ、私はつまらない人間なので、ご期待には添えないかと」
「逆に後藤ちゃんは嫌だった?」
「そ、そんなことないです」
ずるい。そんな風に聞かれたら否定するしかない。でも、これは本心で言ってること。いつもの癖で反射的に答えちゃったけど、嘘じゃない。パッシー先輩とのお出かけは楽しい。プラネタリウムの時も、ぽかぽかしてた。
「あっ、でも。これを虹夏ちゃんとか喜多ちゃんに知られたら、また詰め寄られそうですね」
「ははは。だろうね~。伊地知にはもうやられたけど」
「早っ!?」
「伊地知といたタイミングで電話が来たからさ。それはそうと、後藤ちゃんは初詣に行った?」
「あ、行きました。喜多ちゃんに誘われて、喜多ちゃんの友達と一緒に。カラオケも行ったんですけど、歌が上手いと思われてて……」
「バンドしてたら上手いって思われるアレか。お疲れさま。後藤ちゃんも今日はゆっくり休もう」
改札を通って駅のホームへ。次の電車が来たらそれに乗る。途中で乗り換えも挟むちょっと長い移動。私は通学で慣れてる。
三が日だからか、人はいつもより少ない。席が空いてるから先輩と並んでそこに座った。
虹夏ちゃんには知られてるみたいだけど、喜多ちゃんは知らないはず。後ろめたさはある。喜多ちゃんとはコイバナをしたことがあるから、その時に私は知ってる。
本当ならお母さんに猛反対して断った方がよかった。きっとそう。それなのに、先輩と旅行に行きたいって気持ちもあって、口だけの文句になっちゃった。私は悪い女だ。
「後藤ちゃんって温泉好き?」
「あっ、温泉の雰囲気とかお湯とか、落ち着けて好きなんですけど、人がいるとちょっと」
「他人に肌を見られるのが嫌な人はいるよね。そりゃそうなんだけど」
「そ、それもあるんですけど、なんで陰キャがここにいるんだよってジロジロ見られて落ち着かなくて」
「そんな酷い客はそうそういないと思うんだけど!? 後藤ちゃんの場合……」
「? わ、私の場合は何ですか?」
「……いえ、これ言うとおれが捕まるので黙っておきます」
私のことを先輩が言うと捕まる→先輩は優しいから私を擁護してくれる→陰キャを擁護した罪→先輩が死刑!?
そんなの嫌だ!
「わ、私1人が死刑になりますから」
「どう飛躍したの!?」
「い、陰キャに社会の居場所はないです……」
「そんなことはないって。……うーん、誤解させたままなのもよくないし、あとで理由については言うか」
「あっ今じゃ駄目なんですね」
「うん。電車の中ではよくないね。旅館についてからでいいかな」
先輩がそう言うのならその時で大丈夫。
旅館……人はあんま多くないよね。あ、でも冬休みだからやっぱり多いのかな。全然調べてないけど、人気のところなのかな。
人気のところでも、たぶん部屋から全然出ないかも。ゆったりまったりしたいし、旅館で作詞してみるのも有りかな。なんかプロみたいでかっこいい。
「後藤ちゃん?」
「はっはひっ! ご、ごごめんなさいもたれ掛かっちゃって。重たいですよね」
「そんなことはないよ。乗り換えの駅までまだまだあるし、近くまで行ったら起こすから寝てていいよ。昨日のカラオケとかで疲れてるでしょ」
「あっ、ありがとうございます」
パッシー先輩は優しい。目線を合わせて、私のレベルを汲み取って接してくれる。何が不得手なのか、頑張れることと頑張れないことを見分けてくれる。
私はふたりのお姉ちゃんだけど、こういう風にはできない。パッシー先輩がお兄ちゃんだったらなぁ……。
「寝付きいいんだ……。お疲れさま後藤ちゃん」
本当はまだ寝付けてない。でも寝たフリをして先輩の肩に寄りかかってる。
あの2人の気持ちは知ってる。
でも、これくらいなら甘えてもいい、よね?
思ったより増えたので次回に続きます。
バレンタイン近いですね。間に合いそうになくて舌をなみました。失礼、かみました。