青春時代というものがろっくなのかもしれない   作:粗茶Returnees

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山田リョウの交通整理

 

 ぼっちほど青春に対する感情は持っていない。コンプレックスがあるわけでもなく、憧れがあるわけでもない。ぼっちのあの感情は、青春に憧れているからこその反動なんだと思う。

 歌詞にさえ載せられるほどのエネルギー。一種の才能。私には無い発想による作詞。それで曲が思いつくこともあるから、私にとっては幅が広がってる。逆のパターンもありけり。この前がそうだった。

 ぼっちは面白い。見ていて飽きない。そのぼっちがパッシーに懐いてるのも、犬が尻尾振って追いかけてるみたいで良い。

 

「ぼっち。パッシーと何かあった?」

 

「ぇ……」

 

 だからそんなぼっちが、パッシーとぎこちなくなってれば簡単に気づける。虹夏も郁代も気づいてるはずだけど、あの2人からは聞けないだろうね。店長はぼっちに嫌われたくないから踏み込まない。姉妹揃ってヘタレてる。

 

「パッシーを避けてるように見える」

 

「あっ、そ、そんなつもりはないんです。冬休み明けからパッシー先輩の様子が変で……。わ、私何か嫌われることしちゃったのかなって」

 

「ぼっちの奇行を受け止めてる男が今さら嫌うのはない」

 

「で、でも」

 

「うーん。冬休みにパッシーに会った?」

 

「あっ、はい。い、一緒に温泉に行きました」

 

「いいね。家族も?」

 

「そ……その……ふ、2人で」

 

「日帰りとかならそれもできるか」

 

「あっ泊まりです」

 

「ぼっちやるね」

 

 思ってたよりデカイのが釣れたな。これ虹夏たちが知らなくてよかった。どうなるか予測がつかない。

 それにしてもパッシーと泊まり。パッシーがぼっちにぎこちなくなって、それがぼっちに伝播してお互いにぎくしゃくしてるのか。……なるほど。

 

「ぼっち」

 

「え……え?」

 

「パッシーを殴ってもいいよ」

 

「何でですか!?」

 

 むっ、これはもしや合意のもとというやつか。それなら私からはとやかく言わない。ぼっちは頼み倒せば渋々でもOKを出してくれるほどに押しに弱い。べた褒めしながら押してみると驚くほどあっさりだ。一度これをやって、虹夏とパッシーから説教を受けた経験がある。

 ……ということはパッシーからの頼みではない? 逆パターン? まさかぼっち……、人は見かけによらないと言うし……。

 

「なんか物騒な話が聞こえてきたんですけど?」

 

「パッシー。ぼっちに襲われた感想は?」

 

「襲われてないが?」

 

「じゃあストレートに聞く。ぼっちに卒業させられた気分はどう?」

 

「何の話してんだよ!?」

 

「わ、私パッシー先輩を襲ってないです! 寝ただけです!」

 

「語弊のある言い方やめようね!?」

 

 顔が真っ赤になってるぼっちが言うと、より一層そっち方面でイジれそう。

 そうは思ってもそんなことはできない。虹夏と郁代が何の話をしてるんだろうとこっちを見てきてる。確定していない情報で2人を爆散させるわけにはいかない。ここは当時のことを私が聞き出して真相を確かめなければ。

 

「寝たというのは大人の意味で?」

 

「お、おとな……? ……~~っ!! ち、ちがっ! わ、私そんな……! 信じてくださいパッシー先輩!」

 

「もちろん後藤ちゃんの言うことを信じるよ」

 

 半溶け状態で訴えるぼっちを、パッシーがしっかりと受け止める。赤子をあやすように、パッシーがとんとんと優しくぼっちの背中を叩いていると、ぼっちも落ち着いてきて形態が人間に戻った。

 

「何も起きなかったならそれが一番だよ。あの時は起きたら後藤ちゃんが真横で寝てて、それで頭がバグっちゃってさ。真相が知れてよかった」

 

「ご、ごめんなさい。迷惑をかけてしまって」

 

「迷惑ってほどじゃないけどね。それにおれも変に距離感狂わせてごめんね」

 

「い、いえ」

 

「ぼっちの寝顔を見られて眼福だったもんね」

 

「そんな余裕はなかったよ」

 

「ちぇ」

 

「おい」

 

 ネタが見つかったかと思いきやそうはならなかったか。でもパッシーとぼっちが寝たという事実だけは、今後も使える必殺の刃になると思う。

 ぼっちとパッシーのズレも元通り、プラスマイナスでは間違いなくプラス。これでぼっちのモチベーションも上がるはず。

 ……いや、上げても無駄になるかもしれないか。なにせ来週にはバレンタインデーが控えてる。去年までなら虹夏からチョコをタダで貰うイベントに過ぎなかった。今年は必ず変わる。そしてこれまでの関係も変わる。

 

「ガールズトークするからパッシーは仕事してて」

 

「お前らも仕事しろよ……」

 

「任せた」

 

 わがままだなと言いながら、パッシーはそれを受け入れた。私たちの担当分を片付けるべく離れていく。申し訳なさそうにその背中を見つめるぼっちを呼んで、虹夏と郁代の所に行く。

 なんの話をしていたのかは当然聞かれたけど、適当に捏造話も混ぜてやり過ごす。

 そんなことよりも大事なことがある。

 

「チョコ作るの?」

 

「「っ!!」」

 

「え、作るんですか?」

 

 露骨にびくって反応する2人に対して、ぼっちは目を丸めて驚いてる。たぶん「これからみんなでチョコ作るのかな?」とか思ってるんだと思う。

 

「ざ、材料は何を買えばいいですか? カカオ豆ってスーパーで売ってますかね。あっ、でも専門店的なところの方がいいですかね」

 

「違う違う。ぼっちステイ」

 

「へ? あっはい」

 

「……渡さないって選択肢は2人の中でないとは思ってる。でも、答えは出るよ」

 

「わかってます。……でも自分の気持ちに正直でいたいです」

 

(あっ、チョコ作りってそういう。で、でも大丈夫なのかな。答えが出たとして、それでバンドに亀裂が入ったりしたら……。そ、そうなったら私どうしたら)

 

「心配しないでひとりちゃん」

 

「ひゃっ!? え、あ……」

 

「どうであれ恨みっこなし。そういう風に話してるの。ね、先輩」

 

「うん。まぁ正直怖いし、目の前で見せつけられたら流石に技を決めたくなるけど」

 

「え」

 

 郁代が固まった。

 

「でもバンド解散とかは絶対にないから。夢も目標も投げ捨てたりなんかしない」

 

「あ……よ、よかったです。私、このバンドがなくなったら嫌だなって。だから」

 

「そうだよね。ぼっちちゃん。私もその気持ちは一緒だから」

 

 虹夏がぼっちの手を握って笑いかける。それでぼっちも表情が和らいで、途端に足の力も抜けてその場に崩れ落ちた。

 虹夏だけじゃない。ぼっちだけでもない。私も郁代も、この結束バンドがなくなることは嫌だ。私はこのバンドで音楽を続けていく。他のメンバーなんてあり得ない。考えもしない。

 

「あっ、じゃ、じゃあみんなでチョコ作ってみませんか?」

 

「ひとりちゃんそれはちょっと……」

 

「う、うん。ごめんねぼっちちゃん。私も1人で作りたいかな」

 

「そ、そうですよね。ごめんなさい調子乗りました。食パン焼くのが限界の私なんて足手まといですもんね。へへっ」

 

「あ、ごめん! そういうことじゃなくて!」

 

 ぼっちって料理できないのか。料理ができるイメージはたしかになかったけど、まぁ大儲けするバンドになれば金銭面を気にしなくていいし、食べることには困らないな。

 

「ぼっちはみんなで作って誰に渡したかった?」

 

「あっ、バレンタインって誰に渡すのかを気にしなくていいってテレビで見たので。だからその……いつもお世話になってる店長さんやPAさんたちにも渡せたらいいなって思って」

 

「ぼっちちゃん……」

 

「で、でも私料理できないですし。そ、それでみんなで作れたらなって……邪な考えをしてすみません」

 

「そんなことないわ! 素敵よひとりちゃん!」

 

「え?」

 

「スタッフさんたちの分も一緒に作ろっか! 誰かさんの分は個人でやるとして」

 

「そうですね。そうしましょう!」

 

「みんなで作るならリョウの家の台所を借りたいんだけど」

 

「まぁそれぐらいなら。今年のチョコも期待してる」

 

「リョウも作るんだよ」

 

「……はい」

 

「頑張りましょうねひとりちゃん!」

 

「あっ、は、はい!」

 

 




次回、ifを抜けば最終回(の予定)
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