青春時代というものがろっくなのかもしれない 作:粗茶Returnees
山田リョウと言えば伊地知虹夏とのハッピーセット。そんな認識が男子の中にはある。なにせノートを写させてもらっていたり、制服を直してもらっていたり、移動教室の時に起こされていたり。とまぁそういうことが多いから、「この2人はよく一緒にいるよな」となる。伊地知に用があるときに山田に居場所を聞いたり、その逆も然り。
他の女子が言うには、山田は1人でいることが好きな人間なようだ。それなのに伊地知とは一緒にいるということは、それだけ2人の仲が良いということ。親友と言って間違いないだろう。
「虹夏にはこれからも世話をしてもらうつもり」
「介護じゃないんだから」
この2人は中学からの付き合いらしい。友達になってからずっとクラスが一緒なんだとか。1人が好きな山田と誰とでも喋れる伊地知が、どう仲良くなっていったのか。流れは想像できてもきっかけは不明。ちょっとは興味があるトピック。
それよりも気になる話は、結束バンド以前は同じバンドじゃなかったという話。伊地知はバンドそのものに思い入れがありそうで、山田は上手いベーシスト。仲の良さを考えると意外な話。
「そう? 小学生が友達同士で別々の野球チームにいるのと一緒だよ」
「わかりやすい例えだな」
おれと山田が話すようになったのは、バイトを始めてからだ。伊地知とは前から時たま話してたから、そこが違うポイント。春休み明けの課題テストの点数を見せ合って、熱い握手を交わしたのが始まり。
「お前ら中間テストで赤点取ってくるなよ。進級に響くようならバンド活動とバイト時間減らさせるからな」
「そんな殺生な! 考え直してください店長!」
「横暴。職権乱用」
「点とってくればいいだけだろ。パッシーは次席入学だったって虹夏が言ってたぞ」
「なんで知られてるんだ……!?」
「2位入学がその後のテストで悪い点取りまくれば知られる。学年内じゃ有名な話」
「一夜漬けで入学しただけでー。半分夢の中で入試解いてたら当たりまくっただけなんですよー」
「似てるポイント発見。抜け駆けしたら許さないから」
「任せろ。山田の期待は裏切らねェ」
「足引っ張り合うなよ」
その次席入学の話はおれが一番信じられなかったし、家族も信用してなくてカンニングしたのかと疑われたものだ。保護者面談の時にその話が持ち出された時も「他の生徒と間違えてませんか?」って担任に言ってた。
「そういや山田って作曲担当だっけ? 進捗どうよ」
「ぼちぼちかな。ぼっちの作詞に合わない曲を作ったら没になるし、今はぼっち待ち」
「作って置いとくパターンもあるくないか? 温めておいた曲ってのも有名な作曲家のインタビューでちょくちょく聞くワードだけど」
「まぁね。それでもいいんだけど、ライブがあるから期限も大まかに決まってる。ぼっちとのタイミングが合わないと、2曲が中途半端にもなりかねない」
「なるほどなー。さらっと話してるけど、作詞も作曲もどっちも凄い技能だよな。おれには無理そうだ」
「パッシーならきっとすごい
「今なんか変なこと言わなかった?」
「そんなことはない」
否定するなら目を合わせろよ。口元がぷるぷるしてるの隠せてないぞこの野郎。
「ぷふっ」
「笑ってんじゃねぇか!!」
「でも実際、どういう詞とか曲が受けるかは、出してからじゃないとわからない。良い曲に仕上げても、それが人気になるかは出たとこ勝負」
「あ~。たしかにおれも、好きなアーティストがいてもその中でもお気に入りの曲とかあったりするな。アルバムとかシングルの売上で数値化もされるもんな」
「そういうこと」
シビアな世界だ。ネットが普及してなかった時代なら、人気な曲がどうやって全国的に知られるか。その戦略も苦労が絶えなかったと思う。
逆にネットが普及した今は、ボカロの人気も出たり配信サイトが増えたり。誰もが挑戦できるような時代になってる。今度はどうやってその荒波に飲まれずに自分たちの曲に注目させるか。それが課題になる。
「音楽業界も大変だな~」
「気が向いたら作曲やってみて。どこかのフレーズだけでも光るものがあればそこ貰うから」
「分け前よこせコノヤロー」
「うちの庭の草でいい?」
「やっぱいらね」
伊地知も大変だな。もし山田がひとり暮らし始めたら、伊地知がそこに通う姿が想像できる。通い妻ならぬ通い友達。それならもう同棲してしまえ。いやいっそ初めから2人で住む部屋を探しちゃえ。
「ナイスアイデア。それ貰う」
「お前の生活なんでそんな他力本願なの?」
「私の目は音楽だけを見据えている」
「カッコイイけどダサいぞ!」
「一言で矛盾するのうまいね」
「実は地頭が良い」
「ダウト」
「神経衰弱で決着つけてもいいんだぜ?」
「フッ。望むところ」
「働けよ」
店長それおれのトランプ。没収は勘弁してくださいよ。あとで必ず返してくださいよね。昼休みとかに大富豪とかで遊んでるんですから。
先生に没収されないのかって? 先生にはバレてないからセーフセーフ。もしもの時の緊急避難先だって確保してる。生徒指導部とは仲がいいのだ。
「ね、パッシー。そろそろ次のドッキリ考えない?」
「前仕掛けてから2週間くらいは経つっけ」
「前やったのが20日前。虹夏の警戒も薄れてきてるはず」
「ドッキリって考えるのも大変だよな~。インパクトを求めつつ、やり過ぎないライン」
「骨折ネタはやり過ぎっぽかったから封印だね」
伊地知が本気で信じ込んじゃったから誤解を解くのが大変だったな。折れてないよとアピールするために山田に叩かせたら、山田がガチ説教食らってたし。結局伊地知を連れて病院に行って、事情を説明してレントゲン写真を撮ってもらって、そこからなんやかんやでようやく伊地知も納得したからな。
あの時の苦労は大変だったし、伊地知を本気で心配させてしまったのが心を痛めたもんだ。山田と2人で土下座した思い出。
「まさか病院の先生までグルって疑われるとは思わなかったな」
「私の親が医者で、2人のノリを虹夏も知ってるからだと思う」
「お前の親どうなってんの?」
「いろんな意味でパッシーとは会わせたくない」
話の流れからして、山田の親もドッキリとか進んで仕掛けちゃうタイプなのかな。仲良くなれそうだ。
あ、だから会わせたくないわけね。
「初回みたいなイタズラレベルに戻してもいいかもな」
「ドラムのスティックをスティックパンに入れ替えたやつか。すぐバレて私が真っ先に疑われた」
「その後道連れにされたな」
「やっぱり刺激が欲しい。虹夏はいい反応する」
「リアクションいいもんな。何か思いついたか?」
「パッシーずっと彼女欲しいって言ってるし、付き合った宣言してみる?」
「それはやってもすぐにバレるだろ」
「じゃあ実は付き合ってましたドッキリ」
「誤解を解く苦労が尋常じゃないぞ」
骨折ドッキリの時は医者という第三者がいたからよかったのに。これで信じ込まれたら第三者による補助がない。どうしようもなくなる。
これは危険だから却下だ。
「あれだな。ドッキリするにしても、伊地知の信じやすさが問題かもな」
(虹夏って信じやすいタイプじゃないはずだけど)
「驚かす系が後腐れなくて良さそうだな。壁からドーン的な方向性」
「じゃあもう壁ドンにしよう」
「考えるのが面倒くさくなってきてるよな」
「私がぼっちに壁ドンする」
「あれ? ターゲット喜多ちゃんに変わってない?」
「パッシーは虹夏に壁ドンで」
「壁ドンは確定なんだ」
「すぐに終わるから楽」
「やっぱ面倒くさくなってんじゃねぇか! 言い出したの山田なのに!」
その後も話し込んではみたものの、代案として良いものが出てきたわけでもなく、結局壁ドンということに決まった。
おれは「壁からドーン」を話していたのに、いつの間に「壁にドーン」になっていたのか。山田は話のすり替えがうまいな。
そして決行の日、山田は後藤ちゃんに壁ドンをして、おれも伊地知に壁ドンをしてみた。山田のほうが先に行っていたせいか、伊地知からは「はいはい。お疲れ様」って流されてしまった。
見事に喜多ちゃんだけは後藤ちゃんが壁ドンされたのを見て黄色い悲鳴をあげてた。