青春時代というものがろっくなのかもしれない   作:粗茶Returnees

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見逃してください伊地知先生

 

 結束バンドのメンバーは、誰もがバンドのことを大切に思っている。そしてメンバーのことをそれぞれよく見ている。山田はよくわからないけど、他の3人はそれが分かる。

 リーダーを務める伊地知はそれが顕著だ。まとめ役なのとあのバンド中核で潤滑油だから、余計にそういう場面が多い。本人の性格もあって面倒見がとても良い。普段から山田を介護してるし。

 

 その性格がまさか、こんなことに繋がるとは思わなかった。

 

「はい現実逃避しない。真面目に勉強して」

 

 放課後の教室で伊地知に勉強を見られております。他には誰もおらず、「勉強」というワードだけでおれの友達は全員逃走。それに紛れて山田も逃走。おれだけは伊地知に捕まってしまった。あいつら憶えてろよ。机にトラップ仕掛けてやる。

 

「期末テストはまだじゃん? おれ山田と同じで一夜漬けタイプなんだけど」

 

「去年たしか夏休みに補習受けてたよね」

 

「ハハハ」

 

「進級もギリギリだったって先生から聞いてるよ」

 

「ハッハッハ」

 

「一夜漬けタイプはそうかもだけど、勉強全然しなかったってことだよね?」

 

「そのと~~り。進級できる点は最終的に取れてるから大丈夫なんだよ」

 

「夏休みの補習は回避しよーよ」

 

 補習って聞くと面倒なイメージが強いだろうけど、実際教師としても面倒なんだろうけど。受けてみると案外楽しいんだよねアレ。普段の授業より断然面白い。

 普段の授業は進捗を気にしないといけないけど、補習はそうはならない。時間を使って説明ができちゃう。つまり面白いエピソードなんかも出てきちゃう。これが新鮮で楽しい秘密。家が学校から近いのもあって、時間も気にしないでいい。

 去年なんて質問とかも重ねて先生と盛り上がった結果、夜まで補習が続いて充実感満載。満腹状態で先生と校舎を後にしたからね。おかげで課題テストはバッチリでした。

 

「補習でやってない範囲はボロボロなんだけどなーこれが」

 

「もう、笑い事じゃないでしょ」

 

「伊地知も受けてみるか? 楽しいぞ。先生が晩飯奢ってくれたりするぞ」

 

「本当に楽しんでたのは聞いててわかるけど、今年はダメ」

 

「ふむ?」

 

「補習の日が花火大会と被ってる」

 

「……なるほどー」

 

 忘れてたわけじゃないぞ。本当だ。

 夏休みまでに、おれに彼女ができなかったら伊地知と花火大会に行くって話だよな。ちゃんと覚えてましたよ。なんでこんな条件つけてるのか謎だからよく覚えてますとも。

 花火大会と被ってるなら、それは回避を狙ったほうがいいな。彼女ができたとしても、「補習あるんだー」とか言ったら別れを告げられそう。 

 常識的に考えたら、それまでに補習終わるだろって話だけどそうはならない。おれはおれをよく知っている。興が乗っちゃうね。

 

「伊地知は優しいな」

 

「なにが?」

 

「おれが彼女にフラレないように手伝ってくれて」

 

「いや彼女いないでしょ」

 

「花火大会までにはいるかもしれないだろ! こうなったら原宿かどこかでナンパを繰り返すしか……!」

 

「それはやめたほうがいいよ本当に。3回目で心折れるでしょ」

 

「つまり2回で成功させれば!」

 

「変な方向にだけアクセル全開だね!」

 

 彼女を作るのが目標なんだから、こういう方面には全力になりますとも。去年は江ノ島に行って友達とナンパしてたもんね。大学生のお姉さんたちに可愛がられて終わりました。おかしいな。

 

「ナンパで思い出したけど、水着と下着ってほぼ一緒じゃない?」

 

「さいてー」

 

「男だとワンチャンバレない気がする」

 

「続けるんだ!? この話やめよーよ! というか勉強しなよ!」

 

「くっ、戻された」

 

「油断もスキもあったもんじゃない」

 

 そう言うわりには伊地知も楽しんでたような。いえ何でもないです。

 伊地知はバンドもバイトもしてるのに頭いいよな。勉強時間どこから確保してるんだろう。作詞と作曲をしないからかな。これ言うと怒られる気がする。

 

(失礼なこと考えられてる気がする)

 

 あのアホ毛って実は受信用のアンテナなんじゃないかな。逆三角形みたいになってるけど、もしかしたらワイファイなんじゃないか。脳に直接受信していてそれで問題を解けているとか? 満点を取らないようにわざと間違えることでバレないようにしてる説。あると思います!

 

「できたぞ」

 

「一区切りついた?」

 

「折り鶴!」

 

「……」

 

 無言でニッコリされたら怖いよ。5年前ならチビってたね。

 腹をくくるとしよう。真面目に解いてみるとしよう。理系は嫌いだけど、やってみるとしよう。後藤ちゃんだって苦手なことに挑戦してるんだから。先輩のおれも逃げるわけにはいかないな。

 

「急にやる気出したね」

 

「花火大会は彼女と行きたいからな」

 

「ぼっちちゃんのイマジナリー彼氏と一緒じゃん」

 

「後藤ちゃんイマジナリー彼氏いたの? よし、明日もう一度告白してみよう」

 

「何がよしなの!?」

 

 むっ。イマジナリー彼氏がいるからこそ、告白を断られてる可能性もあるか。まずは後藤ちゃんのイマジナリー彼氏を超えるとこからだな。こちとら3次元だぞ。2次元に勝ってやる。

 勉強しながらの雑談って頭が大忙しだ。伊地知はよくこれができるな。

 

「って伊地知も落書きしてるじゃん!」

 

「なっ! 落書きじゃないもん! バンドTシャツのデザイン考えてたの!」

 

「人には勉強しろって言うくせに!?」

 

「私テスト対策はしてるし」

 

「くっ、何も言い返せねぇ!」

 

「折れるの早っ!」

 

 伊地知がしてると言うのならしてるんだよ。元々おれより頭良いんだから、こんな早くから勉強する必要もないだろうしな。

 

「分かりづらかったところは、授業の復習してるからね」

 

「優等生だな。偉いな~伊地知は」

 

「あははー。ありがとう~。あ、これからも勉強見てあげようか?」

 

「それは嫌だ」

 

「即答された」

 

「ベンキョウ、ヤダ、ヤ、ダダダダダ」

 

「わかったわかった! わかったから落ち着いて!」

 

 ふう。危ない危ない。拒否反応を起こすところだった。

 

「そういやアー写? は前に撮ってたな。その写真を使ってるとこは見たことないけど」

 

「そ、それはこれからだよ。人気バンドになっていってから、実用性が出てくるんだから」

 

「そういうものなんだ。喜多ちゃんいるんだし、SNSとかで使えばいいのに。トゥイッターかイソスタ辺りで」

 

「無名の内から始めるのちょっと怖いというか……。ぼっちちゃんも心配だし」

 

「依存症の素質ありそうだもんな」

 

 喜多ちゃんはすでに依存気味だけど、後藤ちゃんは始めたら亜音速で追い越して依存の極地に至りそう。ごめんね後藤ちゃん。悪く思ってるわけじゃないんだ。

 

「なんでぼっちちゃんの写真に頭下げてるの? あとなんでぼっちちゃんの写真持ってるの?」

 

「店長が撮ったやつ」

 

「誰が撮ったかは聞いてないし聞きたくなかった事実!」

 

「そういやアー写見たことないや。どんな?」

 

「そうだっけ? ちょっと待ってね。はい、この写真だよ」

 

 伊地知のスマホの画面いっぱいに写真が表示されてる。4人でジャンプしてる写真だけど、これだけでも個性が見えてくるの面白いな。後藤ちゃんが俯いてるのもとてもらしい。

 伊地知と喜多ちゃんが両端で満開の笑顔で跳んでるのもらしいや。山田は相変わらず表情が無だし。

 

「いい壁で撮れたでしょ~。アー写ってのを抜きにしてもお気に入りなんだ」

 

「どちらかと言えば壁かもしれないけど、壁ってほど壁じゃなくないか?」

 

「いやいや、どこからどう見ても壁写真でしょ」

 

「そんな自分で断言しなくても……。自信持てよ伊地知。良いことあるって! 良さは別にもあるから!」

 

「……さては違う話してるな?」

 

 ちくしょう。真面目に勉強してたせいでとんでもない失言をしてしまった。

 あれ。急に視界が真っ暗になったな。こめかみに圧を感じるというか……。

 

「いだだだだ! ごめんなさいごめんなさい!」

 

「なんでそういう話に持っていくのかなー?」

 

「わざとじゃないんです!」

 

「私に対してデリカシーないのなんでなのかな? ぼっちちゃんと喜多ちゃんにはこういうこと言わないよね?」

 

「分けてるわけじゃなくて自然と言っちゃうだけなんです! 悪意はないんですほんとに!」

 

「……ばか」

 

「ぐぉぉ……頭割れるかと思った……」

 

 伊地知の小さな手1つでなんでアイアンクロー成立してたんだ。指が伸びるのか? ゴムなのか? 

 それはそうと、ドラムをしていてもやっぱ女子の手だったな。やわらかいんだな。

 

「さ、気を取り直して。勉強再開するよ」

 

「中も外も頭痛い……」

 

「中はともかく、外は自業自得だからね?」

 

「はい」

 

「勉強頑張ってみようよ。お、同じ大学目指してみよーみたいな」

 

「pardon?」

 

「あはは、なんちゃってー! あはははは……はぁ、忘れてください」

 

「情緒大丈夫か?」

 

「うるさいよ」

 

 そっぽを向かれてしまった。

 大学ね。伊地知は進学希望なのか。というかもう考えてるのか。行きたい大学とかも決めてるのか? 地に足付けてちゃんと前を見てるんだな。

 

「卒業はともかく大学はないな」

 

「そ、そうだよね。ちなみにさ。どの大学考えてるか聞いてもいい? それとも専門学校?」

 

「あー違う違う。そうじゃない」

 

「え?」

 

「おれ大学には行かないから」

 

 経済的にも厳しいし。

 

「だから伊地知と同じ学校ってのは、高校が最初で最後だな」

 

「ま、まぁそういうのは珍しくないもんね。うん。スターリーでは付き合い続くよね」

 

「え? スターリーも高校で辞めるけど」

 

「……ぇ」

 

 店長には面接の時に話してたんだけどな。どうやら伊地知には伝わってなかったらしい。

 

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