青春時代というものがろっくなのかもしれない   作:粗茶Returnees

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 珍しく前回との前後編です。


伊地知虹夏がわからない

 

 今日は途中から伊地知の調子がおかしかったな。調子というか様子というか。激的に変わったわけじゃなくて、普段と変わらないように演じてる感じだった。

 話してた中で伊地知が一番驚いてたのは、高校卒業でスターリーを辞めるってところか。そのタイミングでバイトを辞めるのって、珍しくはないと思うんだよな。店長も納得してたし。

 それともあれかな。男手が消えるのが痛手ってことなのかな。もしそうなら、おれが思っていたよりスターリーに貢献できていたってことか。これからも頑張ろう。

 それは一旦置いといて。

 

「むずかしい」

 

 勉強は花火大会のために。それはありがたい話だからいいとして、教室で勉強する必要はあったのかな。図書室でもよかった気がするんだよな。それ以外だと最寄りはおれの家だけど、いきなり異性の家にってのは躊躇うよな。伊地知の家に行くのも同じこと。

 そう考えていくと、やっぱ学校で勉強ってのはわかる話。それでも教室である必要性が不明。

 あの状態にする理由があったはず。2人だけになる必要性……。

 

「さっぱりわからん」

 

 女子って世界のどんな謎より難しい。

 

 

 

 

 

 

「? 虹夏お前今日はバイト休みだろ。どうかしたのか?」

 

 あたしたちの家は3階。スターリーはその建物の下にあるライブハウス。バイトがある日はそのまま直行して、ない日は3階の自宅に入る。

 今日は休みだから本当ならそうやって家に帰るんだけど、今日はここに寄ることにした。お姉ちゃんと一緒に住んでるんだし、待っていてもよかったけど先に話をしておきたかったから。

 

「お姉ちゃんにちょっと話があって」

 

「私にか。もうライブを始める時間なんだけどな……」

 

「大丈夫ですよ。私達で回しておきますから、お話聞いてあげてください」

 

「わかったよ。しゃーねーな」

 

(満更でもないくせに)

 

 お姉ちゃんはいつも意地悪な言い方する。そんなに渋々って態度見せてこなくたっていいじゃん。

 

「それで話って? 夕飯先に食べたいなら食べてていいぞ」

 

「そういうのならロインで連絡するよ。そうじゃなくて、お姉ちゃんは知ってたの?」

 

「は? 何が?」

 

「っ、……高校でスターリー辞めるって話」

 

 なんでだろ。言葉にするのが詰まっちゃった。口が急に重くなってる。

 

「ぼっちちゃんが!? 辞めちゃうのか!?」

 

「いやぼっちちゃんじゃなくて!」

 

「ほっ。違うなら……あー、パッシーのことか」

 

「うん」

 

「知ってたも何も、面接の時にあいつから言ってたからな。高校卒業までの2年だけでも雇ってほしいって言われた」

 

「あたし聞いてないよそんなの」

 

「言ってなかったからな。聞かれなかったし、私から言う話でもないだろ」

 

「それは、そうだけど」

 

 お姉ちゃんは雇う側の人間で、従業員のプライバシーとかも守らないといけない人間。私が知らないだけかもしれないけど、こういう話は普段からあまりしてない気もする。聞いたら教えてくれてたのかな。

 ううん。それもないよね。そしたら「私じゃなくて本人に聞けよ」とか言われてた。

 出会いがあれば別れもある。それは当たり前のこと。高校進学で別々になった中学の友達だっているし、高校の友達だって他にも進路が別れる。

 

「あいつは相変わらずのバカだけどさ、バカなりに考えてることはあるんだ。そこは理解してやれ」

 

「……わかってる」

 

「言いたいことは本人にもな。ま、愚痴くらいなら私が聞いてやってもいいぞ」

 

「お姉ちゃん、今日の夕飯はなんか食べてて」

 

「えっ、あ、あぁ。お前も何か食べろよ」 

 

「うん」

 

(ピザでも頼んどこ)

 

 お姉ちゃんは料理が苦手。だからあたしがいつも作ってる。でも今日は料理をしたくない気分だ。

 スターリーを出て家の中に入ったら、自分の部屋に鞄を置いてベッドに座った。あたしの部屋にはリョウの私物がいっぱいあって、置かれてる漫画もリョウのやつ。映画のDVDとかもリョウので、よくわからないやつもリョウの。あたしの私物は少なめ。

 ベッドに置いてあるぬいぐるみを1つ手に取って、それを抱きしめた。

 

「あたしが変なのかな」

 

 ぬいぐるみを抱えたまんまベッドに横になってみた。話しかけても、当たり前だけどぬいぐるみはそこにあるだけ。返事なんてない。

 もやもやする。落ち着けない。頭の中を整理しようとしても、息を入れたくても上手くいかない。

 

「あたし、なんで」

 

 なんだか息苦しい。

 

──ピンポーン

 

 誰だろ。宅配かな? お姉ちゃんかお父さんが何か頼んでたのかな。

 

「はーい。……どうしたの?」

 

「よっ伊地知。さっきぶり」

 

「う、うん。そのお腹何?」

 

「実はおめでた」

 

「いやいや、男の子はそうならないでしょ。走ってきたの?」

 

 汗をかいてて息もきれてる。おちゃらけてるけど、それも今はしんどそう。

 

「いやー、なかなか見つからなくてさ。なんとか買えてよかったよ。はいプレゼント」

 

「これって」

 

「あ、服の下に入れてたけど、おれの腹に直接は当たってないぞ。エア・リズムの助着てるからな!」

 

「そこじゃなくて」

 

 これ……あたしが前に言ってたペンギンのぬいぐるみだよね。こんなになるまで探してくれてたんだ。

 

「なんで今?」

 

「え。今日が伊地知の誕生日じゃなかったの? プレゼント期待して教室で勉強してたのかと思って、急いでぬいぐるみ買ってきたんだけど」

 

「あたしそんながめつくないよ!? それに今日別に誕生日じゃないし」

 

「なんですと!? えぇぇ……とりあえずそれ誕プレってことでいいですかね」

 

 仕方ないなぁ。

 

「いいよ。大切にするね!」

 

「あとはこれもプレゼント」

 

「もう1個あるんだ」

 

 もう1個は包装されてて中身がわからない。ここで開けていいか聞いたら「お好きにどうぞ」だってさ。珍しくちょっと緊張してるね。

 

「リボン?」

 

「ほら、サプライズがどうとも言ってたし。何がいいか考えたら、伊地知って結構リボン付けると思ったから」

 

「……普段から落ち着いてこういうことができたらモテるのに。彼女もできるんじゃない?」

 

「おれから今の言動を取るのは人間から二足歩行を奪うようなものだぞ」

 

「むしろ今が四足歩行になってるよ」

 

「酷い言いようだな!」

 

 あたしの友達とかクラスの子からも「良い人なんだけどなぁ……」って評価なんだから。良い人止まりでもあって、そこからマイナスが入ることもある。

 それで彼女ができてないのは、勿体ないよ。

 

「自分を抑えてまで誰かと付き合うのって、それはもう青春としてどうかと思う」

 

「まぁ、それもそうだね」

 

「さてと、夜に悪かったな。また明日ー」

 

「もう帰るの? ちょっと休んでからでもいいんじゃない?」

 

「いやいや、腹減ったしさ。帰って晩飯食べて寝るよ」

 

 この時間なら親御さんが夕飯をもう用意してるよね。それなら引き止めるのは悪いよね。

 

「今日は親が夜勤だから、その辺でテキトウに食べるけどな」

 

「あ。それならあたしもまだだからさ、一緒にどう?」

 

「ステーキ食べに行くつもりなんだけど、来るのか? 太るぞ?」

 

「奮発してるね! ステーキかぁ」

 

「ファミレスだけどな!」

 

「ファミレスかよ! しかも1人でそこに行くつもりだったの!?」

 

 あたしなら絶対無理だよ。1人ファミレスとかいたたまれないよ。

 

「で、どうする? 行くなら準備待つぞ」

 

「行く! ちょっと待ってて!」

 

 財布と鞄を用意しようと部屋に入りかけて、そこで1回玄関に振り返った。

 突然来られたから、話したかったことも聞きたかったことも吹き飛んじゃってる。だからそれはまた今度にしよう。

 言っとかないといけないことを、今言おう。

 

「プレゼントありがとう。すっごく嬉しい!」

 

 支度をすぐに済ませて、貰ったリボンを早速腕に巻いた。

 

 

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