青春時代というものがろっくなのかもしれない 作:粗茶Returnees
後藤ちゃんの家に行ってバンドTシャツのデザインを考えるらしい。片道2時間かけて高校に通っている後藤ちゃんの家に行くということは、遊びに行ったら往復4時間ということ。長くない? アトラクションの待ち時間じゃないんだから。
『パッシーお前も行ってこい』
「は? 店長正気ですか? 見捨てる気ですか!?」
『喜ぶどころか怯えるんだな』
「女子の家に他の女子たちと行く男子なんて、許されるのは小学生か頭おかしい大学生くらいですよ!」
『一応その手の大学生に謝っとけ。一応な』
あれ混ざってて何が楽しいんだろうか。実は足として使われてるだけじゃなかろうか。従者として扱われて終わりだと思うんだ。
ハーレム状態? そうするのはネジが壊れたチャラ男だけだと思います。
「真面目な話、なぜに行く必要が? 結束バンドのTシャツのデザイン決めですよ? おれ、部外者、アンダースタンド?」
『馬鹿にしてるだろお前。店長命令だ。行け。今日のシフト分は働いたことにしてやる』
「行ってきます!」
これ拒んだらバイト行っても帰らされてシフト削られるだけだね。賢いおれには分かるんだ。
そんなわけで後藤ちゃんの家に行かないといけないわけなんだけど、最寄り駅が同じの伊地知と先に合流。そこから喜多ちゃんと合流してから、後藤ちゃんの家に向かう。そんな流れになりました。
「喜多ちゃんとの集合時間に遅れないようにねー」
「ナチュラルになぜ家にいる」
「迎えに来たら上がっていってって言われたから」
「母さん……。駅集合でよかっただろ。ロインでもそういう話になったよな?」
「変な服着ていきそうだなって思ったから、チェックも兼ねて」
どちらにするか悩んでいたタキシードもスーツも、この流れのせいで却下させられた。挨拶に向かうのなら正装にするのは常識ではなかろうか。非常識? そんな馬鹿な。
合流した喜多ちゃんにも「それはやめて正解ですね」って言われちゃったしよ。2人ともどうしちゃったんだ。そんなことでは「服装自由です」とか言われた会社説明会で、1人だけスーツじゃないみたいな展開になるぞ。
でもあれって、自由だからスーツである必要性は本当にないはずだよな。
「先輩スーツを持っていたんですね」
「身長も止まったからな。スーツを仕立てておいて損はないし」
「ですね! ところでタキシードはなぜ?」
「結婚式用とか、パーティー用」
「ず、随分先のことを考えてるんですね」
実際もう使ってるからな。去年のクリスマスパーティーは、男友達だけで全員タキシード着用。立食パーティー再現して楽しんでた。お酒はなしの料理は各自が用意。料理下手な友達が多いから、ピザが圧倒的に多かったのも楽しい思い出。
「今年もするんですか? タキシード姿見てみたいです」
「明日店で着ようか?」
「お願いします!」
「着なくていいから! せめて今年のクリスマスパーティーとかにして!」
スターリーでパーティーでもするんだろうか。おれはまだ何も聞いてないぞ。と言ってもまだ夏だしな。伊地知が店長と何かしら話し合ってる段階なのかも。
そんなこんなで電車にガタゴトと揺られ、辿り着いたは後藤家。結束バンドを歓迎する横断幕が張られているから間違いなくここだね。
「後藤ちゃん遊びに来たよー」
「横断幕はスルー!?」
「え、だってそれ結束バンド向けのやつだし」
山田は今日来ないらしい。遠出が面倒くさかったんだろうな。マイペースオブザイヤーだよ山田は。
「よっ、ようこそいらっしゃいました。いっ、いぇぇぇい」
「イェーイ! 楽しんでるね後藤ちゃん」
「あっえっ? パッシー先輩も来てくれたんですか?」
((自然に流した!))
「店長に行ってこいって言われたから」
「あっ、嬉しいです。お、男の人呼ぶの初めてで。あっ友達呼ぶのも初めてですけど」
「そうなんだ。なんか光栄だね」
「あら? 後藤さん、前よりもパッシー先輩と話せるようになったのね」
「言われてみれば、ぼっちちゃん横向きながら話さなくなったね」
「そこは後藤ちゃんの努力の証だよねー」
「あっはい!」
嬉しそうに笑顔を浮かべてるのはいいけど、星形メガネと付け髭してるせいでシュールさが勝ってるよ。こういうところも後藤ちゃんのかわいいところか。
「ぼっちちゃんに甘いよね」
「私もそう思います」
「そんなことはないだろ」
少なくとも店長ほどじゃないって。
「あ! お姉ちゃんのお友だちだ! ほんとにいたんだ!」
「本物だよ~」
((
奥の部屋から出てきたのは、後藤ちゃんの妹のふたりちゃん。犬の名前はジミヘンらしい。さらにはご両親まで出てきて、2人ともぴしっと固まってしまった。後藤ちゃんの友達が来るだけでそんな衝撃……あるんだろうな。初めてって言ってたし。
「ひとりちゃんの虚言に付き合わせてしまってごめんなさい」
「ん?」
「男装までしてもらっちゃって……」
「あの、本物の男なんですけど……」
「彼氏バイトをしてもらってごめんなさい!」
「そんなバイトしてませんけど!?」
「お、お母さん! パッシー先輩に失礼だから!」
((大声初めて聞いた))
「あなたがパッシー先輩? 男の子だったのね~」
おやおや? 後藤ちゃんの両親に両脇を固められたぞ?
「ちょっとお借りするわね~」
「あっ……」
「連れてかれたね」
「ドラマみたいなこと本当にあるんですね」
リビングへとどなどなされた。後藤ちゃんたちは部屋に行ったっぽい。あとで合流ってことになるね。
まずはこの場を切り抜けねば。
「パッシーくん、と言ったね」
「はい」
あだ名だけど。
「娘とはどういう関係なのかな?」
「バイト先の先輩後輩ですね。バンドの方は全然関わってないですよ」
「そっか~」
急に緩くなったな親父さん。
というか本当に慣れないことだったんだろうな。すぐにやめてる。人の良さが感じられるし、後藤ちゃんのことを暖かく見守ってるのも伝わってくる。後藤ちゃんがやりたいことをやれてるのは、この人たちが親だからなんだ。やっぱ環境って大事だ。
「いや~これやってみたかったけど、結構疲れるね。慣れないことはするもんじゃないな~」
「お付き合いしてないのは少し残念だけど、娘と仲良くしてくれてて嬉しいわ」
「えーっと。これのために運ばれました?」
「「正解!!」」
「仲いいですねぇ」
2人揃って親指立てちゃってるよ。ノリもいいんだろうな。親バカなとこもありそう。
「パッシーくんには一度お礼を言いたくてね」
「お礼を言われるようなことは何もしてないですよ?」
「してるさ。君や結束バンドの人たちもね。ひとりは家でも口数が少ないんだけど、話の割合が最近変わってきててね。バンドの話とバイトの話が大半なんだ」
「ひとりちゃん、他人と接するのが苦手でしょう? だからバイトの話を聞いて大丈夫か不安だったの。あの子自身も、私たちより不安に思ってたはずで」
初日は伊地知が付きっきりだったか。傍目から見てる分でも、苦手なのは十二分に理解できた。
「それでも頑張れてるのは、きっとパッシーくんたち、周りの人たちのおかげ。だからありがとうってお礼を言いたかったの」
「……後藤ちゃんが自分で頑張れてるからですよ。芯の強い子ですから」
「最近バイトを楽しいと思えてるみたいだから、これからも娘のことを頼むよ」
「楽しめてるなら嬉しいですね。一緒にスターリーで働いてる間は、任せてください」
親父さんと熱い握手を交していると、リビングのドアががちゃりと開いて後藤ちゃんが入ってきた。握手してるおれ達を見て完全に思考を停止してる。
「今パッシーくんに、ひとりちゃんのことをお願いしますって話してたところなのよ~」
「あっ。そ……え?」
「せっかくだから、今日を機にひとりちゃんって呼んでもらうのはどうかしら?」
「へっ、変なこと言わないでよお母さん」
「あらあら」
目線をあっちへこっちへと飛ばしまくった後藤ちゃんが、近くまで来て耳元で囁いてくる。両親には聞こえないような声量だ。
「い、今まで通りでお願いします。そっ、そっちの方がす……いいです」
「うん。わかった。それでここに来たのは飲み物を取るため?」
「あっはい」
「手伝うよ。一緒に行こうか」
「あっ、ありがとうございます」
後藤ちゃんは後藤ちゃん。呼び方を下の名前にするだけで、距離感はぐっと縮まる。それを後藤ちゃんはお気に召さなかったようだ。
いや、ふんわり笑えてるのを見ると、今の感覚がいいんだろうな。
それなら、これからも後藤ちゃんで呼ぶとしよう。
おれと後藤ちゃんの距離は、きっと今が最適なんだ。