やはり俺がシャドーガーデンにいるのは間違っている ver.1.8 作:醤油味のぽんず
理不尽にも主従を結んでしまった後、俺はそのまま寮への帰り道についた。
馬車に揺られ、待ちゆく人々の顔を見ているとこの国がどれだけ恵まれているのかがわかる。
道路が整備されているのも、そんな恵みの表れの一つだ。
今俺が揺られているこの馬車だって、その絶え間なる技術によって気持ちが良い程度の揺れに収まっている。
もう時間帯としては夜。
俺と同じく帰路につく中には家族連れやカップルなんかもいる。
街頭に照らされる彼ら彼女らは、この街の雰囲気自体を明るくさせていた。
それらを一瞥し、改めて今日も疲れたと肘掛けに体重をかける。
王女はあんなんだが、それでも彼女ならばこの国を守れるのだろうと思う。
間違っても王国最強と言われている彼女。
頼むから私的にそれを運用しないでほしい。
マジで被害者が出る。
まあ、そのために妹もいる。
アレクシアも、少なくとも外聞はいいからそれなりに国を収められるはずだ。
なんだかんだで仲はよかった思う。
よかった、、、?
どうなんだろ。
そういえば最近アレクシアの様子をあまり見ない。
かつては結構一緒にいたイメージがあったのだが、いつ頃からだろうか、その背中を追っている光景がなくなった。
あの姉を目指してます!って感じ可愛かったんだけどなぁ。
だが、その手のやつはどこかで絶望するのが落ちと相場が決まっている。
分からんが、似たようなやつをどこかで見た気が、、、う、頭がっ。
そうして、俺のあったかもしれない前世に思いを馳せていると馬車の動きが止まる。
どうやら寮についたらしい。
送ってくれた人に一言言って、早速寮へと向かう。
ミシミシと音のなるちょっとだけ使い古された匂いのする階段を上がり、俺の部屋へと一直線。
さーて、今日の飯は何にしようかと思いながらドアノブを回すと──?
この扉は鍵がついている。
学生寮として必要最低限の配慮だろう。
それなら、俺は鍵を締め忘れたか?
いや、たしかに今朝出るときは鍵を締めたはずだ。
あまり見られてはいけないものもあるから、鍵の確認は毎日怠っていないはず。
なのに、空いている。
ということは──
「ねぇ、聞いてよヤハタ!」
バタン!
中から突然シドが飛び出してきた。
だから──閉めた。
カチャリ。
だから──締めた。
今日は宿泊まりか。
まあ、たまにはそういうのも悪くないよな。
夕食を考える必要はなくなり、美味いものが食べられるとなって少しだけ上機嫌になる。
面倒くさいものから逃げるのは社会人の必須スキルだ。
俺もこれから就職し、立派な社会人となるのだから厄介事からは逃げるべき。
彼の鼻歌は、中から聞こえる「いてっっ」という声をかき消した。
「なんで無視したんだよ」
次の日、いつもどおり一人で優雅に昼飯を食べていたところシドに呼び出された。
喧騒がたえない食堂。
俺たちのような貴族から王族までいるというのだから、ここはかなり珍しい学校と言えるだろう。
ちらりと何を食べているかと見てみると、1980ゼニーの貧乏貴族ランチ。
まさしく貧乏と言った必要最低限のものをのせたランチ。
けれど、少しと奥を見てみると10品や20品はくだらない超豪華セット。
あんなもの、それこそ王族や上流貴族でしか食べられないのに、それをまざまざと見せつけてくる。
なかなか残酷な学校である。
子供の頃からこういったところで交友関係を広げ、おとなになったときのつながりとする。
悪くはないのだろうけれど、それなら12歳位から始めてもいいんじゃないですかね。
俺たちの青春はどこですればいいんでしょうか。
それとも、青春なんて無いとでもいいたげですかな。
大賛成。
しかし、俺が納得したところで前の人物は納得してくれない。
「なんでって、どうせ厄介事だろ。聞くだけめんどくさい」
「いやいや、というか君は僕に関しての噂とか聞かなかったのか?」
「友達がいないのに噂が聞けるかよ」
「聞けるさ。なんたって噂は独り歩きが可能だ」
「なら、俺の前は逆立ちでもして通ってったんだな。あいにくと顔は見えなかった」
「そんな奇特な噂じゃないはずだけど、、、。」
頬をかき、あくまで一般人のように振る舞う。
あいも変わらず、モブというのをやっているらしいシド。
モブとは何なのか。
どうしてモブを目指すのかは知らないが、何故かモブというものを目指しているらしい。
馬鹿か?
馬鹿です。
出会った頃はこんな馬鹿だとは思わなかったんだけどなぁ。
いつから変わってしまったのか、それとも最初からそうだったのか。
今となっては変わらない。
こいつに付き合うと決めてしまったのだから。
「僕、アレクシア王女と付き合うことのなったんだ」
と言いながら貧乏ランチの汁物を飲み干した。
へぇ、アレクシアがこんなので満足したと。
むしろ、面食いなイメージだったし、それこそ最近の注目株だったゼノンとか言う剣術指南のやつが好きだと思っていたが。
そういう噂もちらほら聞いたし。
ゼノンはイケメンだしコミュ力高いし陽キャだしいいところが一つもないのだが、さすがに目の前でうまそうにじゃがいもを頬張っているやつよりかはマシだと思う。
「それ美味しいのか?」
「まあまあだね。友達がじゃがいもを作ってるんだけど、そいつのおすすめの食べ方をしてみたら、これがまあ美味いこと」
「汁物に入ったじゃがいもに食べ方なんてあるのか?」
「あるらしいね」
そして、ズズッと一気に飲み干す。
一滴も残さないきれいな食べ方。
良い家庭に生まれたんだなぁ。
、、、それでいてなぜこうなったのか不思議でたまらない。
「というか、まじなのか?イマジナリー彼女ならまだ許されるが、実在するやつはやめといたほうがいいんじゃねえの?」
「別に嘘じゃない。というか、僕は嘘のほうが嬉しかった」
なら、なんで付き合ってるんだよ、と突っ込もうとした時机に陰が落ちた。
こんなメンツになにかようがあるのかと怪訝そうに振り向くと、その陰は現在進行中で渦中の人物だった。
「この席、いいかしら?」
アレクシア王女の登場。
二つに結んだ髪を揺らしお行儀よくシドの隣に座った。
シドは途端、不愉快な気分を体中から発するもアレクシアはニコニコとそれを完全にスルー。
どこのラブコメ主人公だよ、と心から思うがひとまずは置いておいて、先ず聞かなければならない事がある。
「久しぶりだな」
「そうね」
「お前らって、、、その、なんだ。つ、付き合ったり、、してるのか?」
完璧なカミカミメニュウー。
思春期真っ只中の男の子にそんなこと言わせないで。
あーあ。恥ずかしっ!
しかも、アレクシアはそれを無視すればいいものを、わざわざくすりと笑って返す。
「そうよ。シド・カゲノー君とは正しく清いお付き合いをさせてもらってます」
「意外だな。俺は面食いだと思ってたんだが」
「そんな薄っぺらい女じゃありません。それに、彼だってそんなに悪い見た目じゃないでしょう。あなたと違って」
「一言余計だろ。、、、まあ、シドは確かに平均くらいにはいいかもしれんな」
「おい」
「なら、ゼノンとかいうやつはいいのか?」
「え?だれそれ」
「フッ、、、。あんな奴のどこがいいのよ」
「ゼノンって剣術の先生のあの?」
「わかる。すごくよく分かる」
「おいおーい。無視しないでくれると助かるんですが」
「たしかに彼には、富、名声、力がある。でもそれだけよ」
「、、、」
「この世のすべてじゃないですか」
「モグモグ」
「だから嫌なのよ。というわけで私は次ゼノン先生の授業だからそれじゃ。行くわよ、カゲノー君」
「グェッ!」
そういうと、シドの襟を掴んでまるで犬のように彼を連れて行く。
周りの目の気にせずよくやるなぁ。
そう思いながら俺は彼らが見えなくなるまで見守り続けた。
ふと、彼らが食べきれなかった分を見てみる。
どちらも育ちがよく、あまり好き嫌いはないはず。
しかし、どちらの皿にも小さくて丸いくせに自己主張の激しい野菜がいた。
全く違う性格のはずなのに、こういうところが似ているのが面白い。
案外、お似合いなのかもしれないと思いながら俺も席を立つ。
ん?
そいうや、俺もつぎ武神流じゃね?
で、さっきあいつらはちょっと急いで外に出ていった。
なるほどなるほど。
あ、これ遅──
その数秒後、絶望の鐘が校舎に響き渡った。
我、ここに重役出勤せり。
授業開始から10分後、俺は堂々と青空教室へと入っていった。
青い空の下〜♪一筋の光〜が〜つなぐ〜♫
たとえ誰か遅れてきても誰も気づかない。
なぜなら、ここ、第八部の指導は特に誰からの指導もないからだ。
だから、ここにいる奴らはみんな好き勝手に棒を振り回している。
主張、理由、結論というとてもわかり易い三段論法でお送りいたしました。
はあ。
実際、ここにいる奴らはほとんどが剣の稽古とは名ばかりのチャンバラごっこをしている。
俺は入れてもらえないから素振りしてるけどグスン。
いてっ。
おい、誰だ今俺を殴ったやつ。
けれど、振り返ると走り回っているやつばかりで誰が犯人なのかはわからず仕舞い。
仕方がないと腰をおろし一休みをする。
改めて周りを見ても、やはり幼稚だなぁ、位の感想しか浮かばない。
楽しければそれでいいという意見もあるし、俺は何事も楽しまずにやっても仕方が無いと思っているが、これはなにか違う。
努力という行為そのものを楽しめないのに、よく教師はこいつらをほっとけるな。
めんどくさいのは誰でもやりたくないってか。
そりゃそうだ。
横を向いてみると、体育館のような大型の施設がある。
名称は知らない。
確か、妙にご立派な名前がついてた気もするが右から入って下から出てった。
あそこで今、アレクシアとシドが稽古をしている。
上級クラスだけあってこちらとは全然違い、真面目に剣と向き合っている。
基礎基本を大事にして、何をするのか意識する。
まるで別世界のようだが、そこに紛れ込んだ異物。
彼はもともと第九部に所属してたはずだが、なんか王女命令でいきなり飛び級していった。
王女命令ってほんとにあるのかよ、、、怖っ。
もし、アイリスにそれを乱用されるとなると俺の命が危ない。
これからは差し入れとか持ってこうかな。
何が好きなんだろ。
珈琲はすきだろうが、アレより美味しいのはなかなか見つからないし、女子女子しいものでも買っていけばいいだろうか。
今度アレクシアに聞いてみよ。
しかし、今頃ラブロマンスを繰り広げているのかと想像してみると、やけにムカつく。
キャキャうふふと乙女の園でダンスして。
俺と一緒に賢者になろうという約束はどこで捨ててきたんだ──
と、まあ、他愛もないことを一通り考えてから再び素振りに戻る。
いつもと同じ運動。
何年も続けていれば、何も考えずとも体が動く。
剣術だけ見れば余裕で上に行けるのだが、これほど言っても仕方ないものはない。
きっとずっとここだろうな。
けれど、遠目から見えたシドの顔は前とは変わって見えた。
朝が来た。
窓から差し込む細いビームが俺の目を焼き切るがごとく起きろと命じてくる。
いつもなら、それに耐えて二度寝と洒落込むことで俺の一日のスタートとするのだが、今日は勝手が違う。
動かなければ始まらないと、動きたくないと脳内で喚く悪魔を滅多刺しにして、元気悪く一日をはじめる。
眠い、眠いと目を半分だけ開いたまま支度をして始発の列車に乗り、地味に遠い学園へと足を運ぶ。
もう春も中旬とはいえ明け方はそれなりに冷え込むらしく、足先はその体温を無防備にばらまいている。
これならもう一枚来てくればよかったと遅きながらも後悔。
とはいえ、これより遅れることはできなかったのだから無駄な考えだと切り捨てる。
なぜか。
人と合う約束をしているから。
約束は基本バックレる俺だが時と場合、相手によってはちゃんと守る。
これがデルタなら行ってないし、ガンマでも行ってない。
ゼータなら、、、びみょいな。
アルファなら行く。絶対行く。怖いもん。
コマチ?
安心してほしい紳士諸君。コマチに呼ばれる前に隣りにいるのが兄の努めだ。
渋々ながらも学校に到着しまだ開いていない校門を飛び越え学園に入る。
ふと疑問に思ったのだが、これは果たして不法侵入になるのか?
学園は開いていないが俺はこの高校の生徒だ。
それならば大丈夫な気がするが、ここは上級生たちの寮も構えられていた気がする。
(ギリギリまで眠れるとかズルすぎる)
となると、居住地への侵入として普通に捕まる可能性もあるんだよな。
しかしながら、それに関しては今回は問題ない。
豪胆にも大通りを通って学校の裏へと回る。
森を通り抜け、待ち合わせ場所はあまり人に見られない場所。
その場所に俺よりも早く来ていたらしい相手を見て、軽く会釈を交わし昔話に花を添えんと声をかけた。
「お久しぶりですね──」
俺ガイル、やっぱおもしれぇなあ