やはり俺がシャドーガーデンにいるのは間違っている ver.1.8 作:醤油味のぽんず
「す、すいません。変な雰囲気にしてしまって」
今までのムードから一転してヘコヘコと頭を下げるベータ。
やっぱり切り替え早いな、とか思いながら別にいいと返す。
なんだかこっちまで申し訳なくなってきた。
「あはは、、、。これからどうしますか?大方のものは食べてしまいましたし、シャドウ様も見失ってしまいましたし」
トホホ、と絵に書いたように肩を落とし、体中から残念ですという感じで話しかけてくる。
どうと言われれも。
まだまだ日は高く、解散しようと言うには早すぎる。
だからといって、どこかに行く宛もなく、そもそもここすら始めてきたような俺に心当たりなど無い。
うーん、と目を空へ向け黙考すること約二秒。
ふーむ、と目を地に向け熟考すること約二秒。
おーん、と目を胸に向け雑考すること約二秒。
「イプシロン」
「ほぇ?」
意外な名前だったのか小首をかしげるベータ。
かわいい。
「いや、イプシロンに会ってないなと思って」
「だから、会いたいと、、、?」
「そうだな」
なぜだろう、久しぶりに比べたいと思ってしまった。
何がとは言わんが。
でも、あくまで全く関係ないはずなのだが、何故かベータのことは直視できないっすね。
「そうですね、、、。いるとしたら、拠点だと思いますけど、任務中ではその限りでは無いですし」
「別にいないならそれでいいんだ。ただ、元気にしてるかと思って」
イプシロン。
七陰の第五席次で透き通った湖のような髪と瞳をもつエルフで、緻密のイプシロンと呼ばれている。
なにかとベータと仲が悪いが、俺は彼女たちは喧嘩するほど仲がいいタイプだと思う。
この喧嘩するほど中がいい理論は使える場合と使えない場合があるが、彼女たちに至ってはおそらく前者で間違いない。
だって、何かと似てるもん。
ベータは作家でイプシロンは作曲家。
一文字しか違わない。
それにどちらも、うん、フクヨカだよね。
だから、俺がベータを見たときにイプシロンを思い出してしまうのは自然なことであり、他意はない。
「なら行きますか。ここからなら、そんなに遠くないですね」
「ちなみにどのくらい?」
「ここからなら見えますよ。ほら、あちらに」
そう言ってベータはある方向に指をさす。
その直線状を辿ってみると、ここよりも小高いところの高級店が立ち並ぶエリアを指していた。
?
「おい、あっちに住宅地なんてないだろ」
「ええ、当然でしょう。だって私達──ミツゴシ商会本店に住んでいるんです」
──マジすか。
半信半疑でついていってみると、そこには屋敷があった。
あたかも森の中のセリフのようだが、ここは摩天楼の中である。
ビルの森といえば、なるほど、現代建築の中でも自然と同等に語れるかもしれないが、それくらいでは説明がつかないようなところに屋敷はあった。
「どこのバカがミツゴシの中に拠点を作ろうと言い出したんだ」
「ええっ!?良いアイデアだと思いませんか?まさか、こんなところにシャドーガーデンの秘密があるだなんて思わないじゃないですか」
確かに思わないが、、、。
大規模建築の上に屋敷を構えるとか斬新すぎだろ。
わかりやすく言うと、百貨店の上に遊園地をのせたときの驚きとでも言えばいいだろうか。
「アイディアは私で実行はイータですね」
「お前が、、、ってことは例の陰の叡智からってことか?」
「まあ、それもあるんですけど、それよりも神にも等しいシャドウ様の住まいが低いところにあるというのが嫌なのが一番ですかね」
その神は今俺よりも低いところに住んるぞ。
「ええ、なのでイータとともにシャドウ様の宿を五十階建てにする計画をガンマ、イータとともに勧めているところです」
「さすがにミツゴシはやることがちげぇな」
「はい、ちなみに名前はシャドウ様のお話からとって『バベルの塔』にしようと思ったんですけど、どうですか」
「やめとけ。今すぐそれを中止しろ。なんか分からんけど天災多発地帯になる予感しかしない」
「シャドウ様にもそう言われたんですけど、、、。ではまた新しいのを考えるしかないですね」
ベータは胸に拳をあげ「次こそは」とやる気を見せるが、大丈夫か。
てか、シドがやめろって言った時点でやめろよ。
と、やっとベータが扉に手をかけ、重そうな扉を軽々と開ける。
こんなところ一つ一つでもミツゴシの技術力が使われているようだ。
もしくは、ベータが怪力なだけか。
普通にありえる。
中は城と言われても顕色のない豪華さ。
先まで続く廊下の窓は一枚一枚が手入れされており美しく輝いている。
そして、真紅のカーペットのしかれた廊下を歩いていると美しいピアノの音が聞こえてきた。
撫でたくなるような、柔らかく滑らかで艶のある深々とした音。
コレほどの音が出せる人間を俺は一人しか知らない。
「イプシロン、いるみたいですね」
「よくこれだけ音出しても気づかれないな」
「そういう技術らしいですよ。これだけは彼女の実力ですから」
そう言いつつ彼女のいるであろう部屋へと胸を張って(物理)入っていく。
ということは、彼女の実力でない何かがあるんですかね。
「帰りました」
「あらベータ、、、ッチ。早かったわね。朝、原稿を上げてくるって言ってなかった?」
「ええ、そのつもりだったんですけど、思わぬ人と出会ったので」
中の様子を見てみると、茶色を基調としたオサレな空間があった。
バーのようなクラシックな雰囲気で、日常生活にも使われているだろうにその鱗片を全く見せない。
管理が届いてるなぁ。
こういうのはアルファの成果かなと思いながら、俺、場違いじゃね?と今更ながらに気づく。
そうすると、自然に足が一歩止まってしまった。
けれど、ここまで来てしまった以上もう後には引けない。
そう、俺だって一端の貴族、とりあえず笑っときゃなんとかなる。
「思わぬ人って、、、ヤハタ、それやめてほしいんだけど」
俺がひょっこりと顔を出すと苦虫を噛み潰した表情を取り、彼女が紡いでいた音が途切れる。
それから、黒のスカートを存分に揺らしこちらに近づいてきては、
「ちょっと、来るんなら来るって先に言っておいてほしいんだけど。まだ準備できてないわよ」
「いや、途中経過まででいい。俺も特に来る予定はなかったんだが、、、会いたくなった」
「うわキッモ。まあ、わからなくはないけど」
「おいそこ、キモいって言うな。男の子は女子からのキモイにはマジで敏感だからな」
「分からなくはないって、フォローしたじゃない、、、」
めんどくさいわね、とため息をつくイプシロン。
しかし、コレばっかりは許せない。
この言葉一つで何千人の同志諸君が夜な夜な、朝な朝な枕を濡らしてきたことか。
言葉は刃物なんだ。
使い方を間違えばやっかいな凶器になる。
滅多刺しにされてきた祖霊のためにも俺は、戦わなければならない──ッ!
けれど、そんな俺の宣誓を歯牙にもかけず、ベータの方へと向き直ると、
「ちょっとヤハタと話があるから、隣の部屋にいるわね」
「それはもちろん構わないけど、ヤハタさんとイプシロンってそんなに仲良かった、、、?どことなく陰と陽的なイメージが逆だから相性が悪いと思ってたんだけど」
「俺が陽でイプシロンが陰だな。俺は光栄ある孤立として光り輝いてるし、イプシロンは七陰だし」
「いや、あなたが陰で私が陽でしょ。ほら、私ってこう、キラキラしてるじゃない」
「ふっ、すっごい馬鹿っぽい発言だな」
「なっ、陰だとか陽だと気にしてるやつのほうが馬鹿でしょ!」
「だそうですよベータさん」
「話をややこしくしないでください、あぁ、いつの間にこんなに仲良く、、、。これは、ちょっと面白くなってきた、、、かも?」
「ベータ、ボソボソ言ってないでよ」
「あ、ごめんなさい。では、どうぞ。今となりは使われていないはずですよ」
「ありがとね。ほら、さっさと行くわよ」
はいよ、とやる気なさげに答え彼女についていく。
そして、彼女は迷うことなく左に曲がり割と近くにあったもう一つの部屋へと足を踏み入れ、それに続く。
ここは先程とは一変して結構ラフな雰囲気。
大人の気品があるというよりも、便利に暮らすためのいわば庶民的な気がする。
「そりゃそうよ、ここ、私が半分くらい自室として使っている部屋だし。どう?」
「どうと言われてもな」
わざわざそんなことを聞いてくるので、またぞろこの部屋の風景を見渡す。
まず目に入ってくるのは、大きくこの場を占有するソファー。
ニ○リにありそうな緑のやつ。
隣の部屋なら違和感があっただろうが、この部屋の雰囲気ならそれはなく、むしろ相応とも言える。
それから隣には机。
部屋の大きさの割に小ぶりだが、ソファーとの兼ね合いもありバランスが取れている。
この部屋で食事をするわけではないだろうし、必要最低限と言った感じだ。
そんなふうにいくつか見ていると、どれも豪華とはかけ離れた、リーズナブルという言葉が似合うような空間だと思い始めた。
ソファーも椅子も机も、先程の部屋とは対象的にこじんまりとしていて、ちょっと安め。
「今度この部屋に主様をお招きしようと思ってるのよ。どう、、、その嫌だとか思われない?」
そう聞いてこのチョイスに納得した。
それからイプシロンは謎解きを始めるように声に色をのせ、
「ほら、主様っていつもあまり高級なものをつけていないでしょ。もちろん、それが世を忍ぶための演技だということも知っているわ。けれど、それにしたって主様の部屋にはものがなさすぎる。ということは──」
と、そこまで口にすると急に反転して俺に近づいてきて、、、っておいおいおい!
「──主様は高価なものがお気に召さない」
互いの吐息さえ聞こえるような超近距離。
耳元で紡がれる妖しい囁きは俺の脳髄を芯から刺激する。
身長が俺のほうが上な分上目遣いも相成って──
「と、思うんだけどヤハタはどう思う?」
けれどそれはたった一瞬の出来事。
彼女はすぐさま俺のもとから離れ、定位置なのか例のニ○リソファーに体重を預ける。
男は辛いぜ。
「いいんじゃねえの」
先程、割と吟味していたのだがそれをそのまま口に出せるほど俺は素直な人間ではない。
長年染み付いてきてしまった、純粋に人を褒められないという悪癖はいつまでたっても取れそうにない。
難儀なものだと自分では分かっているが、どうせ時間が解決してくれるだろうと勝手に思っている。
解決する兆しは一向に見えないけどな。
むしろ、解決させないほうがいいまである。
人は流れに乗って生きている。
考え方や性格なんてまさにそうだ。
年齢とともに経験が増え、価値観が変わっていく。
それをゆっくり待てばいいのであり、わざわざ意識的に帰るなんて不可能。
ソースは俺。
子供の時から何も変わっていない。
ん?あれれ~おかしいぞ〜。
年齢とともに価値観が変わっていくんじゃないのか?
子供の頃から変わらない俺って。
いや、忘れよう。
証明に例外を作らせない。
と、ひとり俺が矛盾から抜け出すと同時にイプシロンは立ち上がり、棚をあさり始める。
アレ、無いわねとかなんとか言いながら、やっとお目当てのものが見つかったのか茶色の段ボール箱を引っ張ってきて机の上にのせた。
ということはコレが──
「はい。持ってきて上げたわよ」
と、中から取り出したのは一枚の写真。
しかし、ただの写真ではない。
今の俺ひとりでは決して手が届かない至高の品なのだ。
なぜなら、コレこそが──
「ホント、ヤハタってシスコンよね。だって──シャドウガーデンにコマチちゃんのストーカーを頼むとか普通の兄ならありえなくない?」
コマチの日常が詰まっているからである。
「ストーカーとは外聞が悪い。見守っていると言え」
「犯罪者はみんなそう言うのよ。それに盗撮までしてくれとか、、、。まぁ、コマチちゃんは可愛いし分からなくもないんだけどね」
「協力してる時点で同罪と突っ込みたいが、コマチの良さがわかるから許す。コマチはちっちゃい頃から可愛くてな。今ではカワイイ、キュート、器量よしと3Kが売りなんだが昔は『おはし』が売りで──」
「い、いきなり目が輝き出したわね。てか、なにそれ聞いてない。教えて」
「いいだろう。コマチの『幼い、カワイイ、少女』伝説を語ってやる、、、ッ!」
いつぞや、といっても数十分前のことなのだが初めの方にこんなことを言ったことを誤解している人もいるかも知れない。
『そうですね、、、。いるとしたら、拠点だと思いますけど、任務中ではその限りでは無いですし』
『別にいないならそれでいいんだ。ただ、元気にしてるかと思って』
これの元気にしてるかと思って、という部分。
これはコマチが元気にしているかということであり、決してイプシロンのことではない!
コマチになにかあったらすぐに駆けつけなければならない。
だからこそ、俺は彼女と会い、そしてコマチの無事を確認したかったのだ。
ついでに、そろそろコマチ成分が不足してきたのもある。
体の半分はコマチからできていると言っても過言ではない。
それが足りないというのは人が水を飲まないのと同じである。
というわけで──
「でな、あの頃コマチは俺に抱きついてきて『お兄ちゃん、行かないで、、、!』って抱きついてきたんだよ。もうね、あの日のことはマジで忘れられない。今でも夢に見る」
「何その可愛い子ッ!ヤバい、今からでも抱きしめに行きたい」
「フッ、分かってないな。俺たちは触っちゃいけないんだ。あくまで、尊いものは尊いものとしなければならない。」
「盗撮は立派な犯罪よね」
「気にしたら負けだ。それにいいか──バレなければ、犯罪は犯罪ではない」
「──ッ!!」
その瞬間、イプシロンの胸が揺れた。
そのたわわな実に希望が宿ったかのように。
「そうよ、、、バレなければ何をしたって咎められないのよ!ありがとね、ヤハタ。おかげで自信がついたわ」
「お、おうそうか。なんの自信がついたかは知らんが良かったな」
「ええ!続きを語りましょう」
こうして、俺たちは外がオレンジ色に染まるまで話し続け、いい友達に慣れたとさ。
めでたしめでたし。
一方その頃。
「となり、うるさいわね。何を話してるんだろう。私も交ざりたいな──って、いけないいけない!原稿が間に合わないのよ!集中、集中っと」
予定通りカフェで書ききれなかった作家が、色んなものに邪魔されながら締切と戦っていた。
ちゃんと味わえなかったからにと入れた珈琲の湯気が、邪念すらもかき消してくれると信じながら。
そろそろ前日譚書き直すかも
優柔不断でほんとごめん
でも、アレは見てられない