「エドお兄ちゃん! 久しぶり!」
「ニーナもすっかり大きくなったな!」
駅のホームで列車から降りて来た小さな女の子が勢いよく抱き着いて来た。
そう言えば人懐っこくてよくアルが肩車してたっけ。
「大きくなったのは兄さんもだけどね」
「そりゃそうだ、この二年間でバリバリ身長も伸びて来たからな」
オートメイルが無くなったこと、アルの体を取り戻したこと。
この二つが原因だと思うが、俺の身長もぐんぐん伸び、もうチビなんて人様に言われることもない!
「そう言えばエドお兄ちゃん大きくなったみたい」
ふふっ、子供というのは真実を見抜き素直に思ったことを口にするもんだ。
「あははっ、そうだろニーナ。お兄ちゃんは大きくなったんだぞ」
「ニーナ、僕のことわかる? 鎧は無くなっちゃったけど」
「うん、アルお兄ちゃんだ! あれ、逆にアルお兄ちゃんは小さくなっちゃったの?」
何気ないニーナの一言がアルに突き刺さる。
わなわな震えているが、それはお前と一緒に旅をしてきて常に付きまとった問題だ。
俺の気持ちをとくと味わえ。
「ち、違うんだよニーナ。前の鎧が大きすぎただけで、僕は小さくなんか」
「そうなんだよ、こいつすげぇ縮んじまったんだよ。前はニーナを肩車してたけど、今度からは俺が肩車しないとな」
横でぎゃんぎゃん言い訳をするアルはほっといて、目の前のめかし込んだニーナに声を掛ける。
ニーナは白いワンピースを身にまとい、麦わら帽子を被ってニコニコと笑顔を浮かべる。
「それじゃ、さっそくタッカーさんの所へ行くか! 突然ニーナが研究所に来たらお父さんきっと驚くぞ」
「うん! サプライズだもんね」
国同士の争いも少しばかり落ち着いた今日この頃、国を離れられないタッカーさんのためにいろんな人が協力してくれて、家族をアメストリスに呼び戻すことが出来た。
せっかくの再会なんだから思いっきり驚かせようと誰がきっかけかわからないが、みんなこの日のためにノリノリで動いてるんだよな。
向こうではリンやメイが家を上げて手続きをしてくれたらしいし、国を超えるまではヒューズ中佐、アメストリスに入国してからもわざわざ色んな人が家族を会わせるために集まって来てる。
「お母さんとアレキサンダーは元気か?」
「うん、先にイーストシティでお父さんが好きだったお菓子を買いに行くんだって!」
「まぁ、奥さんは町の人とも積極的に交流してたし、久々に会って積もる話もあるんだろうさ」
そりゃ、町の人にも頼られてたタッカーさんを支えてたんだ。
相談の窓口になったり積極的にご近所付き合いをしてたんだろう。
そういや、アルが元に戻ったら食べたい物のリストにいくつか名前が載ってたっけ。
「なぁアル、そっちって誰が付いてるんだっけ?」
ここにいないタッカー夫人を気にしてアルに確認してみる。
「アームストロング少佐とキンブリーが一緒だって、ちなみに二人ともこの日のために非番」
「国家錬金術師二人が護衛とかVIP待遇この上ないな、大総統夫人よりも厚遇してないか?」
「その大総統夫人も今夜のサプライズパーティーに参加するみたいだよ、僕の所にセリムが来てよろしくって伝えに来たから」
まじか、あいつらも来んのかよ。
セリムも見た目はニーナと変わらないから仲良くなっても普通の人はなんとも思わないだろうが、正体知ってる俺たちやタッカーさんは変な感じになるよな。
下手なことにはならないだろうが、なんとも複雑だ。
ってかそれだと大総統も来るよな、大佐も来るって言ってたし、なんで現大総統と次期大総統候補がホームパーティに顔出すんだよ。
「あっ!? 合成獣のキィちゃんだ!」
「キィちゃん?」
「うん、うちにいた合成獣の子なんだ、お~い!」
ニーナが手を振ると、屋根の上からこちらを見つめていた一匹の合成獣が飛び立つと、それに釣られ周りの合成獣たちも大空を舞う。
「すご~い!」
「もしかしてあれって……」
「うん、イーストシティからずっと一緒に戦ってくれた子だね。ニーナを見守りに来てたんだ」
たしか新しい合成獣たちのリーダーになったんだよな。
それでも当時一緒にいたニーナのことを覚えてて、こうやって迎えに来たのか。
両手を振り回しながら大きく手を振るニーナに、合成獣たちは応え空中で円を描く。
まるでニーナを祝福するかのように、キィちゃんと呼ばれた合成獣は鳴きながら飛び続けた。
「すげぇもんだな……命を錬成するって」
「うん、錬金術ってどこまでも奥深いね」
さて、あんまり研究所で足止めしてるバリーを待たせるのも悪いし、早いとこニーナを研究所まで案内しますか。
「よし、それじゃタッカーさんの所まで一緒に行くか! その間俺たちの冒険の武勇伝を聞かせてやるぜ」
「お父さんも出る?」
「出る出る! そうだな、テーブルシティってところで一緒に戦った話をしてやるよ」
肩車から降ろしたニーナと手を繋ぎながら、俺たちはタッカーさんのいる研究所へと向かう。
「お父さんと久々に会えるってうれしいよね」
「うちのバカ親父も早いとこ見つけないとな」
音沙汰なしだったがクソ親父だが、ピナコ婆ちゃんが母さんの墓に花束が添えられてたのを先日発見した。
ついでに村で見かけねぇ美人の姉ちゃんと生意気そうな男、あと俺そっくりな若い男を違う人が見かけたんだとさ。
帰って来てんなら一番に顔出しやがれってんだ。
「二人もお父さんとあんまり会えてないの?」
「うん、なんていうかすごく遠くに行ってて、最近帰って来たみたいなんだけど、僕たちの所に顔を出してないんだ」
「うちと一緒だね」
「一緒なもんか、ただの放浪癖が付いた迷子だよ」
本当に迷惑な奴だ。
まぁ、生きてて元気ならそれだけで十分。
それに最初に母さんに顔を出したのは評価してやる。
「それなら二人で会いに行きなよ、きっと喜ぶよ」
「う~ん、どこにいるかわからないからね。探す所からだ」
「ったく、また賢者の石探しをする羽目になるとはな。それよりも今はニーナの予定が最優先だ、お父さんの職場見学レッツゴー!」
「ゴー!」
「ふぅ、ちょっと休憩」
「おう、お疲れさん。旨くねぇコーヒーでも飲むか?」
机に座りっぱなしだと、どうしても体が硬くなってしまう。
思い切り背伸びして体を解すと、タイミングよくバリーがコーヒーを持って来てくれた。
見た目ホークアイ中尉で眼鏡をかけた秘書スタイルだからそれだけで絵になってしまう。
敏腕秘書なんかじゃ全然なくて、暇つぶしにコーヒーを淹れて事務的に渡してるだけだ。
「味覚だってかなり再現出来たんだから、少しくらいコーヒー淹れるのも上手くなれないもんかね?」
「いや、元からただ苦いだけにしか感じなかったからさ、それに俺は飲まないし」
「いい加減な秘書もいたもんだ」
一応肩書はうちで働く秘書になってるけど、ここじゃないとメンテや診断が出来ないからなぁ。
アル君が色々覚えてくれたから、長期で遠出するときにはコンビを組んでもらってるけど、本当にメイちゃんに悪いことしてるよな。
そのうち家族にも会いたいし、シン国に行ったときには出来る限りチャン家にお詫びしないと気が休まらない。
「今日だって急ぎの仕事は入ってないんだろ、少しくらいボケーっとしてていいのによ」
「視察が入るから説明のために研究所にいて欲しいなんて上から言われたらね、自分の研究を評価されるのって緊張するから仕事してる方が楽なんだよ」
「権威なんだからもっとどっしり構えてりゃいいのによ」
ははっ、あくまで見せかけの権威だからね。
クレタの合成獣人間で驚かされたけど、別に賢者の石やホムンクルスが関わらなくても人間はあそこまでの成果を作り出せる。
それを踏まえたら権威なんて自覚できないし、天狗にもなれないね。
「まぁ、その、なんだ。今日の視察は形だけのもんらしいから気楽に出迎えとけって」
「国が平和になって来ても、国家錬金術師は変わらず査定され続けるからね。せめて家族に会うまでは資格も維持したいなぁ」
「なんでそんなに自己評価低いのかね。俺様一人作り出せてんだからもっと胸張っとけって、他所の国の合成獣共はこんな美人ですげぇ合成獣なんて作れてねぇんだから!」
スッと懐から出した名刺を指先で投げると、ダーツの要領で壁に突き刺さる。
刃物を持ち込めない場所でも使える武器が欲しいってことで、あれこれアイデア出してエド君に作ってもらった特注名刺だ。
これのおかげで助かった場面も多いし、包丁が一番気に入ってるけどそんなの普段は持ち歩けないもんな。
アル君と一緒だといつでも使いやすい包丁を錬成してもらえるから良いって言ってるけど、エド君お手製名刺もお気に入りだよね。
「イーストシティの自宅が吹き飛んでから、まさかこんな立派な研究所が職場になるなんて思わなかったな」
「それを言うなら俺様の方が波乱万丈だぜ、肉屋から死刑囚の鎧になって、そこから絶世の美女で今じゃ先生の秘書さ」
それを言われたらそっちの方が凄い経歴だよね。
いや、本当にここまでよく生き延びたもんだよ。
お互い原作途中リタイヤ組だもん、俺に関しては良い所なしでだったけど。
思えばスカーに殺されないようにを当初は目標にしてたはずなのに、約束の日までずっとエド君たちに付き合って結局最後まで参加しちゃったな。
ついでに今もまだ生きて仕事出来てるし、あれからも色々トラブルはあったけど何とかやってこれたもんだ。
劇場版参戦は焦ったね、なんとか生き残れたけどシャンバラ編で異世界の扉が開かれたら本格的に不味いと考えつつも、もう俺に出来ることなんて何にもない。
「生き残ったんだから面白おかしく生きようぜ先生! 少なくとも先生がいねぇと俺様はこんなに楽しく生きていねぇわけだしよ」
「まったく、頼もしい限りだよ」
「それじゃ、俺はそろそろ来る視察の奴らを迎える準備してくるから、先生は少し休んでな」
片手を振りながらバリーが部屋を出て行ったのを見送り、俺は椅子に座りなおして大きく伸びをする。
誰が来るかによって説明が難しいんだよな、裏まで全部知ってる人には素直に話せるけど、そうじゃない人が来た時に余計なことを言わないようにしないと。
このあたりの塩梅が難しく、基本国家錬金術師って俺より優秀な人ばかりだから、ボロを出さないようにしないと。
「事件は起きなくなってきたけど、中々暇にはならないんだよね」
ありがたいことに必要としてくれる人も多いから生活に困らないし、向こうへの仕送りも十分すぎるほど出来ている。
手紙なんかも出せてるけど、国を超えた電話線なんかないもんだから家族の声も聞けないのは寂しいな。
「シン国に行く仕事とかないもんかな、雑用とかでもいいからあれば立候補するのに」
元々フィールドワークするタイプでもなかったし、伝手があってもこればかりはどうしようもない。
誰か知ってる人に様子を見てきてもらおうかな。
あれこれ家族に思いをはせていると、扉がノックされ秘書モードのバリーの声が耳に届く。
「タッカー先生、視察の方々がお見えになりました」
椅子から立ち上がり、開いた扉から入ってくる人物に挨拶をしようとすると突然お腹の当たりに衝撃が走る。
そう言えばアレキサンダーと遊んでた時によくのしかかられたっけ?
「お父さん!!!」
「いいなぁ、僕も父さんが帰ってきたら飛びついてみようかな」
「おっ、いいね。じゃあ俺も飛び膝蹴りを喰らわせよっと」
「ひゃひゃひゃ、親子ってのはどこも変わらねぇもんだな」
これにて『俺は綴命の錬金術師』の物語はおしまいとなります。
途中長く投稿しない期間を作ってしまいましたが、約二年にも及ぶ連載にお付き合い頂き、ここまで読んでくださった皆様には感謝の言葉しかございません。
ハーメルンで初めて書いた連載、途中違う連載も始めてしまったので、処女作にして完結が三番目になってしまいました。
特に最初の頃は文字数や投稿頻度が安定しておらず、文章の書き方も今と比べるとかなりの違いがありますね。
恥ずかしいのですが、これも連載の味だと思い、作者の未熟さを明るく笑って頂ければ幸いです。
今作のコンセプトのひとつは「才能のない成り代わり主人公」でした。
エルリック兄弟はじめ、国家錬金術師たちは才能に溢れたすごい人たちばかり。
そんな中、国家錬金術師足りえないショウ・タッカーを主役に抜擢。
活躍こそしてますが、戦闘は大してできないし、錬金術ですぐさま何かを生み出すことも苦手。
錬金術が中心の世界、その腕がいまいちでも、創意工夫やとりあえずなんでもやってみる根性で生き抜くことを目標となりました。
初めての作品だったので、読む人も少ないだろうと思い(元々鋼の錬金術師連載もハーメルン内で少なかったこともあり)ただ文章を書く練習といった気持ちで書き始めた今作。
そんな予想とは裏腹に多くの皆様に読んでいただき、たくさんの感想や高評価に恵まれました(ランキングにもたくさん載せて頂き、評価バーが赤くなった時などビビり散らかしました)
誤字脱字の報告もありがたい限り、すべてがこの作品のクオリティ向上と私の勉強になりました。
途中プロットにあれこれ足しすぎて、纏めるのが大変だったりもすべて良い経験をさせてもらいましたね。
沢山期キャラに付いても語りたいですが、一人だけピックアップするならニーナでしょうか。
原作では本当にトラウマになるような悲しい結末を迎え、エルリック兄弟の心に深い傷を残した女の子。
しかし、今作では救済され、別の形で心に残ることとなります。
エルリック兄弟にとっても、そしてタッカーさんにとっても、始まりであり物語を締めくくるにふさわしいキャラでしたので、物語最後のバトンを握ってもらいました。
最後になりますが、読んでくれてた読者の皆様に再度感謝を!
またどこかで発火雨の名前を見る機会があれば、暖かい目で見守って頂けると幸いです。