パワフル緋真さん 作:汚名卍解
今回は初めて緋真が出ません。オリジナル鬼道とオリジナル詠唱とかあります。あとついでにアニオリネタもあります。しかもルピがかなり独特で読みにくいです。
一応ご注意ください
「崩玉ゥ?なんだそれ初めて聞いたぜ」
藍染の問いに宇餓鬼は惚けるが、当然藍染にはそんな嘘などお見通しだ。
「そんなに隠さなくてもいい。君が隠れて浦原喜助と通じてる事は把握している。君が尸魂界の物を持ち出し彼に横流ししている事実は、君の事を少し監視するだけで分かる」
藍染の言葉に宇餓鬼は舌打ちする。どうやらいつの間にか宇餓鬼はマークされていたらしい。
藍染の監視の目に気づかなかった宇餓鬼は己の間抜けさに嫌気が差す。
「浦原が捕縛されて中央四十六室で裁判を受けてる最中にアンタの名前を出した事あったよな?」
「当時副隊長で周りから
タバコに火を付けながら宇餓鬼は少しずつ霊力を練り上げ、準備を完了する。
「俺は結局、浦原のクソ野郎から黒幕の名前を聞き出してねェんだよ。先生を嵌めた黒幕の名をな」
宇餓鬼はずっと探っていた。自身が尊敬する師が尸魂界から脱走せざるを得ない状況に追いやった黒幕を探していた。
その過程でずっと気になっていた者がいた。浦原が裁判中に出した『藍染』の名。
ずっと疑っていたが藍染は全くボロも出さず諦めかけていたが、これで漸く確信できた。
「やっぱテメェだったか…!藍染…!」
憤怒の表情に変わった宇餓鬼は、すぐさま藍染へと鬼道を放つ。
放たれた鬼道は蒼火墜。青い炎が藍染を襲うが
「やれやれ。正直に言えば穏便に済ませるつもりだったが」
宇餓鬼の放った蒼火墜は藍染に触れる事なく消滅した。
消滅した原因は藍染も蒼火墜を放ったからだ。
『反鬼相殺』。それは相手の放った鬼道と同質かつ逆回転の鬼道を放ち相手の鬼道を相殺する高等技術。
それが出来るのは相当な実力者だという事の証。
それは藍染が非常に優れた能力を持っているという事。
「上等だァ!」
宇餓鬼は執務室の机を藍染に向けて蹴り、詠唱を開始する。
「
藍染が飛んできた机を斬魄刀で両断する頃には宇餓鬼の詠唱は完了していた。
「破道の七十三
宇餓鬼の両手から二つの蒼火墜が放たれる。
完全詠唱された二つの蒼火墜は執務室を焼き尽くさんばかりの威力があった。
「縛道の八十一 断空」
藍染はそれを八十九番台の鬼道までを完全防御する防壁を展開し防御する。
「仕方ない。あまり得意ではないが尋問して喋らせるとしよう」
「やれるもんならやってみろやゴラァ!」
藍染の不遜な物言いに、宇餓鬼はキレながら次の鬼道を放つ。
「破道の三十一
宇餓鬼の赤火砲は一つだけではなく、霊圧を複雑に編み込み数十個の赤火砲を一気に展開していた。数十個の赤火砲は一斉に藍染を攻撃するが、それでも藍染の断空は破れない。
「ふむ…囮か」
それは当然の帰結だ。八十九番台以下の破道を全て防御する防壁を崩すには赤火砲では威力が足りない。
ならば、わざわざ大量の赤火砲を展開した宇餓鬼の目的は藍染の断空を壊す事ではなく目眩しにある。
「破道の九十一
宇餓鬼の詠唱破棄された九十番台の鬼道が放たれた。
宇餓鬼の周りに展開された無数の光弾が藍染へと向かい、光弾が藍染の断空を容易く砕き、藍染へと直撃する。
「甘い」
それでも藍染を傷つける事は敵わない。
藍染が刀を一閃させると、
(なんだ今の音?断空ごと斬ったのか?)
先程のパリンという何かが砕けた音。それはおそらく藍染自身が張った断空が割れた音だろう。
何かやったのかと一瞬疑問に思ったが宇餓鬼はそう判断した。
断空は大雑把に言ってしまえばただの硬い壁を作る鬼道。
通常ならば断空を斬るなど不可能。
だが、藍染は断空ごと詠唱破棄とはいえ九十番台の鬼道をたったの一振りで斬った。
その事実が藍染の真の実力を物語っている。
認めざるをえない
藍染は全死神の中でも最強格の実力の持ち主だと、宇餓鬼は認識した。
「『
「噂には聞いていたが見るのは初めてだ。実に興味深い」
藍染の言う通り宇餓鬼が先程から発している鬼道の詠唱は本来の詠唱とは違う物だ。
【改造詠唱】言霊による詠唱を、発する言霊にも微量な霊圧を込めながら詠唱する事で、詠唱を簡略化させつつ鬼道の威力も上げる超高等技術であり宇餓鬼が考案し編み出した技術でもある。
他の者が言霊と詠唱だけを真似するだけでは鬼道が不完全に発動し暴発してしまう。
場数とテクニックが組み合わせてようやく使える技術である。
その技術を開発した事で、宇餓鬼は周りから天才と呼ばれるようになった。
「ならもっと見せてやるよォ!」
宇餓鬼が印を結び、詠唱を開始すると、藍染は何をするのでもなく、ただ宇餓鬼を観察する。おそらく藍染は宇餓鬼の使う改造詠唱に興味があるのだろう。
「
「破道の九十二
強烈な冷気の暴風が藍染の周囲を凍てつかせながら飲み込んでいく。
冷気の暴風雨は藍染の周囲どころか執務室全体を凍り付かせ、執務室は冷凍室のような極寒の部屋と化した。
「ふむ。理解出来たよ」
だが、冷気の暴風雨はすぐに収まった。
藍染が反鬼相殺によって宇餓鬼の氷牙征嵐を打ち消したからだ。
「要するに言霊の詠唱を最低限に要約し、言霊に微量な霊圧を込める事で鬼道を発動しやすいように改造したのが君の“改造詠唱"な訳だ」
「良い発想だが品が無い。この程度の浅知恵では真似する意味も無い」
藍染はまるで散歩するかのような足取りで瞬歩で宇餓鬼の背後に回り込み斬りつける。
「使えりゃそれで良いだろ」
藍染の刃を宇餓鬼は咄嗟に生み出した幻影剣で受け止めていた。
幻影剣の強度は脆い。だが、幻影剣を一本のみに絞り込めば藍染の刀を防御できる程度には強度のある幻影剣を作る事は出来る。
「そんで…捉えたぜ」
宇餓鬼は即座に藍染の手を掴み、即座に詠唱を唱える。
「ほう」
本来なら危機的状況である筈だが、藍染は余裕の表情は崩れず、むしろ宇餓鬼の次に出す手を興味深そうに観察していた。
「
「
「
宇餓鬼が鬼道を発動させた瞬間、時が止まった
この時点で宇餓鬼の勝利は確定した。
宇餓鬼が使った鬼道は、鬼道衆の長のみが使える【
通常の鬼道よりも強力な術であり、中には時間停止や空間転移のような禁術とされる術も複数あるのが裏鬼道だ。
その強力さ故に護廷十三隊の隊士は勿論、鬼道衆の術士であろうと扱う事はおろか知る事すら許されない。
その裏鬼道を学び、大っぴらに使用が許されているのは鬼道衆の大鬼道長のみである。
宇餓鬼が使ったのは時間停止の裏鬼道【熾天崩輪】つまり禁術だ。
その止まった時間の中で、宇餓鬼は自由に動ける事ができる。
時を止める事の出来る時間は数秒程度が限界。だが、戦いの場において止まった時間で動ける数秒は圧倒的なアドバンテージとなる。
「あばよ」
宇餓鬼は素早く衝霊銃を抜き、すぐに藍染の頭を撃ち抜く。
「ダメ押しだ」
次に藍染の心臓を撃ち抜く。
弾には蒼火墜の鬼道を込めて、藍染の体内から青い炎が炸裂する。
そして
藍染は内側から蒼い炎に焼かれ、数秒後には消滅していた。
「先生…やっとアンタの無念を晴らせました」
消滅した藍染を見届けて宇餓鬼はこの場にいない尊敬する師に想いを馳せる。
「さて…時間止めてんのバレちまったし、先生の所に行ってみっか…」
宇餓鬼は普段から時間停止の裏鬼道を使っているが、それはいつも1秒もしない時間を止めているだけだ。
1秒でも時間を止めていると、時間を止めた事を観測されてしまう。
勘の良い鬼道衆の者達は勘づいているだろう。
いくら自分が鬼道衆のトップだからといって、禁術の使用は御法度。
鬼道長とて例外なく逮捕される。
捕縛され監獄に収容されるだろう。
その前に逃げるのが懸命だ。
宇餓鬼は空間転移で遠くの穿界門まで移動しようとする。
「どこへ行こうと言うのかね?」
すると先程倒した筈の藍染の声が宇餓鬼の耳に響いた。
宇餓鬼が驚きながら声のする方向に振り返る頃には既に藍染の一閃によって宇餓鬼の頚動脈が斬られた後だった。
「………なん…だ…と…ォ…?」
痛みよりも疑問の方が勝っていた。
何故だ?
確かにさっき倒した筈なのに?
どうして無傷なんだ?
宇餓鬼の頭に疑問ばかりが浮かぶ。
とりあえず宇餓鬼は回道を使って斬られた頸動脈を治療する。
緋真や卯ノ花程ではないが応急処置くらいはできた。
「疑問に思っているようだね。では答えを教えよう」
「君はさっきまで戦っていたのは
“
それは朽木緋真が考案した術。
術者が鬼道で“器"を作り、斬魄刀を具象化させ、その“器"に入れる事で斬魄刀を戦闘に参加させる高等技術。
だが、それでもどうしても解せない事がある。いくら複神体とはいえ、鬼道で作られた“器"は所詮鬼道であり半透明なのだ。
いくらどんなに精巧な“器"を作ろうとも複神体は必ず半透明になってしまう。
だが、宇餓鬼の戦っていた藍染は半透明などではない紛れもない肉体だった。
「“完全催眠"と言ってね。私の斬魄刀【
「催眠の条件は“鏡花水月の解放の瞬間を見せる"事。君はつい先ほど確かに見た筈だよ。
つまり、藍染は複神体を鏡花水月の能力で本物だと宇餓鬼に錯覚させていたのだ。
宇餓鬼にはさっぱり分からなかった。
一体いつ解放の瞬間を見たのか宇餓鬼には分からなかった。
“先ほど"と藍染は言っていた。つまり先ほどまでの攻防の中に藍染が解放した瞬間があったという事と藍染と対峙する前まで宇餓鬼は藍染の術中ではなかったという事だ。
宇餓鬼にはさっぱり分からない。一体いつからが鏡花水月による錯覚だったのか判断がつかない。
だがこれだけは分かる。
宇餓鬼は完全に藍染の手の平で踊っていたのだ。
「舐めやがってェ!」
屈辱に激怒しながらも宇餓鬼は冷静に再度詠唱し時間停止を発動させる。
「熾天崩輪!」
再び、時が止まった
「無駄だ」
だが、藍染の時間は止まらず。そのまま藍染は宇餓鬼へと歩み寄っていた。
「なッ⁉︎」
宇餓鬼の驚愕を他所に藍染は笑みを浮かべながら、まるで問題が分からない子供を諭す教師の様に解説する。
「驚いているようだね。別に不思議な事では無い。君の時間停止の鬼道は
「ならば君を遥かに上回る霊圧で鬼道ごと押し潰せば良いだけの事。“死神の戦いは霊圧の戦い"この絶対的な差はそう簡単には埋められない」
藍染の解説を聞いて宇餓鬼は藍染の出鱈目な実力を嫌というほど思い知る。
宇餓鬼の霊圧は護廷十三隊の隊長格と並ぶ霊圧はある。
だが藍染の霊圧はその倍かあるいはそれ以上だ。
熾天崩輪を力づくで攻略された宇餓鬼に逆転の手は皆無に等しい。
「クソがァ!!裏破道 三の」
「遅い」
苦し紛れに裏破道『鉄風殺』を撃とうとするが、その前に藍染の一閃によって腕を斬り落とされる。
「があああァァ!!!」
痛みに悶えながらも、まだ反撃しようと霊圧を練って踠くが、今度は
その攻撃は藍染による物では無い。第三者の手による物だ。
「すんません藍染隊長。横槍入れてもうた」
「張ってあった結界が破れはったし、それにさっきの大鬼道長はんのヘンテコな術で鬼道衆の方々が勘づかれとるでしょう。バタバタしとるみたいなので早めに済ませた方がよろしいかと」
「ああ、分かったよギン。後は尋問して終わるだけだ」
宇餓鬼の背後から現れたのは市丸ギン。
三番隊隊長ではあり藍染の側近だ。
もはや宇餓鬼の勝ち目は完全に皆無となった。
「さて、宇餓鬼君。尋問を始めようか?尋問と言っても無理に答えなくても良い。我々の質問に君が反応してくれるだけで良い。後は私が勝手に推理する」
片腕を落とされ、腹を刺され、致死量の血を流しながらもなんとかまだ立っている宇餓鬼へ向けて藍染は質問する。
「君は一年前に浦原喜助からの依頼で朽木邸に訪れ朽木緋真と朽木ルキアの両名に接触した。このどちらかに崩玉を仕込んだと私は考えている」
「崩玉の重要性は浦原喜助も熟知している筈だ。その崩玉をまだまだ席官程度の実力しかない朽木ルキアに仕込むとは考えにくい」
フラフラで今にも意識が飛びそうな宇餓鬼だったが、藍染の完全催眠による物なのか痛みが殆ど感じない。
足下がフラフラするだけで済んで、素早く動く事は全く出来そうにない。
痛みを感じないのは宇餓鬼が倒れて気絶されても困るからだろう。
完全に敵に命を握られている状態の宇餓鬼の内心は屈辱感が心を支配していた。
「朽木家という防波堤に護られた重要な物を仕込んでもバレず安心できる実力を持った者」
「崩玉を仕込むように浦原喜助が指名したのは」
「朽木緋真か?」
その質問が飛んできた直後、宇餓鬼は「それ以上喋るな」と言わんばかりに無詠唱で蒼火墜を撃つ。
「その反応は肯定と受け取ろう」
だが、宇餓鬼の蒼火墜は藍染が手で払うだけで霧散し宇餓鬼の悪足掻きは無駄に終わった。
まだ足掻こうとする宇餓鬼を藍染は一刀で斬り捨てた。
肩から斜めに袈裟斬りされ、血を吹き出しながら宇餓鬼は倒れた。
「行くぞ。ギン」
「了解です。藍染隊長」
藍染と市丸は倒れた宇餓鬼に目もくれず、何処かへと去って行った。
「……すんません……先生…アンタの無念を晴らす事が出来なかった…」
薄れゆく意識の中で宇餓鬼は此処にはいない師に届かぬ謝罪をする。
鉄裁としては浦原商店の店員としての今の現状を良しとしてるし、禁術を使って罪に問われた事は受け入れて無念などとは思っていない。
鉄裁が唯一心配している事は一つだけ。
それは弟子の成長を見届ける事が出来なかった事だけだ。
“無念を晴らす"など宇餓鬼の勝手な想像だ。
鉄裁に無念など無い
ただ弟子が脱走した自分の後を継ぎ、立派に大鬼道長を努めている。
その事実だけで鉄裁は満足だった。
だから鉄裁は今の宇餓鬼の生活を邪魔をするつもり無い。
鉄裁が宇餓鬼に中々会わないのはそれが理由だった。
勿論、そんな鉄裁の真意など宇餓鬼は一切知る由も無い。
「情けねェ…」
それだけ呟いて宇餓鬼は涙を流しながら意識を手放した。
数分後、異変を感じ取った鬼道衆の者達が宇餓鬼の執務室に行き、執務室の中を見て驚愕する事となる。
執務室全体が冷凍室のように凍りつき、大鬼道長である宇餓鬼が片腕を失い血塗れで倒れていた。
身体には複数の切傷と刺し傷が残っており、何者かに襲撃されたと判断して鬼道衆や護廷十三隊と協力して捜査するも、なんの手掛かりが掴めずこの事件は迷宮入りする事となった。
ぶっちゃけこのヘンテコ詠唱がやりたくて宇餓鬼というキャラを作ったと言っても過言じゃありません。後悔はしてない。
次回、襲撃される緋真さん