パワフル緋真さん 作:汚名卍解
今回の話では、ちょっと白哉がポンコツを晒すのでカッコよくない白哉が見たくない方はご注意ください
「合同任務…ですか?」
朽木白哉と出会った数日後、私は一角さんからその任務を言い渡された。
「ああ。何でもそこそこの重霊地にかなり強力な虚が現れたんだとかで、六番隊の席官と合同任務だ」
「お前が行ってくれ」
いや私やっと仕事終わってすぐにでも寝たいんだけど…
「私じゃなくても他に適任がいるのでは?ていうか何で十一番隊が?」
「
一角さんから資料を受け取り、内容に目を通す。
被害に遭った隊員の数は約20名以上。
管轄下だった六番隊が主に被害に遭ってる。でも対象は移動して回ってるのか他の隊にも被害が出てる。
確かに十一番隊の隊員も何人か被害が出ている。
私を「姐さん!」と呼んでいた隊員もいた。
確かにこれは見て見ぬフリは出来ない。
それに十一番隊は荒くれ者が多いから他の隊と一緒に任務となると我が強くてチームに不和を持ち込んだり、却って足を引っ張りかねない。
確かにそういう任務は私か弓親さんが適任だ。
弓親さんは、今も書類の山と格闘してる。
確かに行けるの私しかいねぇわ。一角さんが十一番隊を離れる訳にはいかないし。
「分かりました。一緒に行く人はどういう方なんです?」
「有名な人だ。お前は興味ねぇかもしれねぇけどよ」
一角さんが死神の資料を渡してくる。
「朽木白哉。お前は知らねぇだろうが今の六番隊の三席で朽木家の次期当主って人だ」
私、その人めっちゃ知ってる〜
てかこの前に会ったし
そんなこんなで私と朽木白哉は現世に出張しました。
いや〜気まず過ぎる。
無言で穿界門の前に合流して、無言で断界に行って、そして無言で現世に辿り着きました。
ざっと1時間くらい無言だった気がする。
流石に苦しかったわ。
でもなんだかんだで私にとっては久々の現世だ。さっさと任務終わらせて空き時間作って現代の文化を満喫しよう。
なにしよっかなー?
久々にカレーとかシチューを食べてみたいな。
尸魂界だと殆ど和食だし、たまには洋食も食べたい。
雀部副隊長に頼んで偶にスコーンとか貰ってばかりじゃ満足できない。たまには前世で味わった自分の好きな物食べたい。
ちなみに雀部副隊長とは共に洋食好きの同好の士として仲が良いのだ。
私が雀部副隊長の入れた紅茶を褒めたり雀部副隊長自作のスコーンを絶賛した時に雀部副隊長がなんか凄い喜んでたっけ。
それ以来は雀部副隊長とはちょくちょく会ってるくらいの仲にはなってる。
だってあの人の作る洋食美味しいんだもん。
私も洋食作ってみたら、雀部副隊長も喜んで食べてくれるし。
せっかくの現世だ。あの人になんかお土産買ってこ。
「戌吊四席」
うわ、急に呼ばれた。
さっきまでずっと無言だったのに。
てっきり「俺に話しかけんな」って言ってるような雰囲気を纏ってるから話しかけちゃ駄目なのかと思ってたけど、案外話しかけて良かったのか?
分かんねぇよ言葉に出せ!言葉に!
「やけに嬉しそうだが、現世は初めてなのか?」
あ、久々の現世にウキウキしてたから初めてだと思われちゃったのか。
違う違う。ごく稀だけど私も任務とかで現世に行くよ?。
一番最初に行ったのは院生時代だった気がする。
「いえ、別に初めてではないですよ。久しぶりではありますけどね。ただせっかくの現世なのでお土産でも買っていこうかと思いまして」
「土産…十一番隊の者達にか?どんな物だ?」
なんだ?
やけに食いつくな?別に隠すような事じゃないし正直に言おう。
「まず、草鹿副隊長にお菓子ですかね。更木隊長と一角さんは要らないって言ってましたし、弓親さんには化粧品。後、雀部副隊長に紅茶の茶葉とかですかね」
女性死神協会の人達には弓親さんと同じ化粧品かお菓子で良いだろう。
「………なぜ一番隊の雀部副隊長に土産を渡すのだ?」
「個人的によく会うんですよ。一緒にお茶したりして雀部副隊長とは結構付き合いがあるんです」
そんな不思議な事?と思ったけど、そら不思議に思うわ。
だって十一番隊と一番隊に付き合いは仕事以外は皆無と言っていい。
あったとしても更木隊長に山本総隊長がこの間、「剣道を教える」とか言って少し一番隊の道場に通わされた事くらいだ。
まぁ更木隊長の剣圧で一番隊の道場全壊しちゃったけど…
「……………そうか」
また黙っちゃった。なんかイラついてるみたい。
さっきの会話の何処にそんなイラつく要素があった?
実は雀部副隊長嫌いなんか?
そんな会話をしてたらふと虚の霊圧を感じた。
「行きましょうか。朽木さん」
「…ああ」
そうして私達は虚の所に向かった。
朽木白哉は不機嫌だった。
緋真の口から嬉しそうに他の男の名前が出た事が妙に腹立たしかった。
白哉はとりあえずその苛立ちを索敵した虚にぶつける事にした。
辿り着いたのは町外れの山。
「死神か?」
霊圧を追って見つけた虚は、ライオンのような姿をした虚だった。
驚いたのはその霊圧。感知した時は何も思わなかったが、いざ対面するとその霊圧の大きさに驚愕する。
その霊圧は隊長格にも匹敵していた。
その霊圧の大きさから目の前の虚の階級が分かった。
目の前の虚は
「これほどとは…あれだけ被害が出る訳ですね」
強い個体となれば隊長格にも匹敵する個体も存在する。
平隊員や席官クラスでも相手にならないのは納得だ。
「これはこれは、久々のご馳走だな。良い霊圧だ。貴様等を喰らえば当分は免れそうだ」
緋真と白哉は知る由もないが、目の前の中級大虚の目的は退化から逃れるのが目的だ。
彼は虚圏から他の中級大虚に喰われ、進化を望めなくなった個体だった。
もはや弱者となり
それが目の前の中級大虚の経緯だ。つまる所、ただの負け犬だ。
もっともそんな事は緋真も白哉も知った事ではない。
「私が行こう」
まず白哉が目の前の中級大虚を討伐するべく名乗り出る。
「分かりました。では私は露払いを」
そう言って緋真は大物を譲り、中級大虚の霊圧に惹かれて集まっていた数十体の虚を片付ける為に疾走する。
結果だけいえば緋真と白哉の圧勝だった。
最初こそ白哉と中級大虚の戦いは拮抗していたが、緋真が周りの虚を片付け終わると、形勢は一気に白哉へ傾き中級大虚を圧倒した。
戦いの最中だというのに白哉は緋真の実力を確かめたかったのだ。
最初に緋真に会った時に白哉はつい彼女の事が気になってしまい緋真の事を調べていた。
曰く「天才を上回る鬼才」
曰く「鬼の如き女傑」
様々な話を聞いたが白哉はどれも半信半疑だった。
とても先程の現世にウキウキしながら話していた彼女には結びつかなかった。
その噂の中で白哉が最も信じられなかったのは「戌吊緋真は既に卍解を修得している」という情報だった。
卍解は斬魄刀戦術の最終奥義。
貴族の中でも限られた者しか辿り着けない領域に彼女がいるとは白哉には到底信じられなかった。
だから白哉は緋真がどういう戦い方をするのか観察したかった。
流麗な居合から放たれる神速の斬撃と舞うように敵を翻弄する体運び。
そしてある時は独自の鬼道である【幻影剣】を使って歩いてるだけで敵を倒す優雅さ。
その戦い方は白哉を魅了した。
ただそのせいで中級大虚との戦いは実力の半分も出せず決着に乗り出すのに時間がかかった。
そして緋真が虚を倒し終えた時を見計らって白哉は己の斬魄刀を解放する。
「散れ【
解放された白哉の斬魄刀は目に見えない程に枝分かれして散っていった。
枝分かれした千本の刃は、中級大虚を斬り刻み戦いに幕を引いた。
「ぐっ……き…キサマァ……手を抜いていたなッ⁉︎」
千本桜で全身を斬り裂かれた中級大虚は瀕死になりながらも立ち上がるが、その心は屈辱で満たされていた。
戦っている間は互角だと思っていたが、手を抜かれていた事実と相手が遥か格上だったという事実に中級大虚は拳を握りしめて悔しがる。
白哉の意識は既に瀕死となっている中級大虚から外れていた。
白哉の意識は緋真に向けられている。
今の白哉は完全に無防備だった。
その事に気づいた中級大虚は下卑た笑みを浮かべる。
「隙を見せ過ぎだ馬鹿め!」
中級大虚は自身の能力を発動させる。
「我が能力は
「今度は貴様が斬り刻まれる番だ!」
中級大虚は自身の能力で白哉の千本桜を操り、白哉を襲う。
流石の白哉もその可能性は想定していなかったので即座に瞬歩で回避しようとするが、完全には避けきれず腕を掠ってしまう。
僅かとはいえ千本桜の刃で斬り裂かれた白哉の腕には無数の切傷ができていた。
「逃さん!死ねぇい!」
中級大虚の操る千本桜は白哉の周囲を取り囲み一斉に襲いかかる。
白哉は咄嗟に鬼道で吹き飛ばそうとしたが、間に合わない。
「駄目か」という思考が白哉の脳内に流れた時、緋真の助太刀が入る。
刀を抜刀する音が鳴る
すると突然、緋真が白哉の目の前に現れる。
驚く白哉を他所に緋真は落ち着いて刀を納刀する。
緋真が刀を静かに納刀した瞬間、周囲の千本桜が斬り払われた。
緋真の周囲に美しい桜が舞い、その中心で静かに納刀する緋真を見て、白哉は呑気にもその美しい光景に見惚れてしまった。
「何ッ…⁉︎」
突然の緋真の乱入に中級大虚は驚くが、次の瞬間には喋る余裕すら無くなる。
無数の幻影剣が中級大虚の頭上に降り注いだ。
降り注いだ幻影剣は中級大虚を串刺しにし、最後に緋真が再度抜刀、目にも止まらぬ斬撃で一閃された中級大虚は緋真が納刀すると同時に断末魔を上げる事なく討伐された。
「大丈夫ですか?」
結局、1人で虚を討伐した緋真は白哉に駆け寄る。
白哉の負傷した腕を見て緋真は回道で治療する。
「済まぬ」
治療されている間、白哉は己の不甲斐なさを恥じる。
結局の所、今回の任務で白哉は恥を晒しただけだ。
中級大虚は1人では仕留めきれず、戦いの最中に余所見をして油断して、その油断を突かれて負傷した。
五大貴族【朽木家】の次期当主として恥ずべき失態だった。
「構いませんよ。ただこれからは
緋真の言葉に白哉は硬直する。
バレていたのか…と白哉は顔こそ無表情だがつい恥ずかしさに顔を俯いてしまう。
「私みたいな治安の悪い所から来た死神の素行が気になっているんでしょうけど、あまり気にしない方がよろしいかと。それで大怪我しては元も子もありません」
彼女の事を調べて彼女が流魂街でも治安の悪い78地区『戌吊』出身である事は分かっている。
本来ならそれだけで他者から軽蔑の対象となる。
それを気にしての発言だろう。
「違う。私が興味があるのはお前だ。戌吊緋真」
白哉が気になっているのは目の前の緋真だ。
出身地など些末な問題だ。
今の彼女が普段どういう生活をしているのか?
普段はどんな戦い方をしているのか?
十一番隊でどんな風に過ごしているのか?
緋真に関する様々な事を白哉は知りたかった。
「へ?」
白哉の言葉に緋真は呆気に取られる。
まさか白哉が自分に興味を持つなんて思っていなかったのか驚いている様子だった。
「と…とりあえず!虚は退治した事ですし、ちょっと寄り道しても構いませんか?」
「構わぬ」
緋真は少し照れながら寄り道を提案する。
その提案を承諾した白哉と共に、緋真は現世の街へと降りた。
「戌吊四席。少しいいか?」
「なんですか?」
街に下りる途中に白哉が緋真に話しかけた。
「土産が買い終わった後で良い。そなたの腕を見込んで頼みがある…」
「私の卍解の修練に付き合ってくれ」
次回もデート回
多分そろそろどちらかがベタ惚れになる
ちなみに作中に登場した虚が「中級大虚にしては弱すぎない?」と思う方もいらっしゃると思いますが、中級大虚の強さにもばらつきがあって、三席・副隊長クラスの者もいればグリムジョーのような隊長クラスの者もいます。
今回の中級大虚は単純に三席クラスまで弱かっただけの話です。それでも一般隊士からすれば充分な脅威ですけどね。