吹雪ど真ん中の吹きさらしのバス停で、怪しい美少女から一緒にコタツに入ろうと誘われるお話。


※小説家になろうさんへも投稿しています。

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4000文字のさくっと読める短編です。


Q.極寒の中美少女にコタツへ誘われた。どうする?

 何かを難しく考えている時、それはだいたいつまらない結果に続いている。

 どうしたらもっと単純に、簡単に考えられるのか。少なくとも俺は割く労力が同じなら後者を選ぶ。

 

――――下手の考え休むに似たり。

 

 俺はこれを他人への皮肉でなく、自分へ向ける言葉として格言にしているのだ。

 自分がいくら考えた所で良い発想など早々に浮かばない凡人だと知っているからな。これは別に自虐でもなんでもなく、ただの事実。

 達観ぶってて気に食わないと時々言われるが、この自己認識は俺がこの平凡な人生を生き抜くための処世術なのである。いくら他人が気に入らないと言ったって、そんなもの俺には関係ないね。

 いくら平凡だからといって、それがイコール平坦というわけではないからな。上り坂に下り坂、少しでも楽に歩みたいというものだ。

 

 

 だが人間、いつでも選択肢があるとは限らない。楽な考えに逃げられず、たった一つの迷宮のごとき思考を強いられることもあるのだ。

 俺は今それを身をもって体験している。

 

 

 

 

 

 

「……おこたつ、はいりませんか?」

「………………」

 

 ごちゃごちゃ考えている時点ですでに"現実逃避"という思考に捕らわれているのだよなぁと、他人事のように考えながら俺は沈黙を貫く。

 そんな俺をおずおずと窺っているのは、ふんわりした雰囲気の愛らしい少女だ。彼女は冬の天国ともいうべき暖房器具……こたつに入りながら、俺もどうかと誘ってきてくれている。

 

 もしここが彼女の家で、更には相手が知己ならば喜んでその誘いに乗っただろう。

 だが待って欲しい。場所の前提からすでに俺の願望とは異なっている。

 

 まずここは家の中ですらなく、目の前には視界をホワイトアウトさせる猛吹雪。屋外である。

 かろうじて屋根こそあるものの、それはいつ雪に押しつぶされてもおかしくない粗末なバス停のもの。これを屋内と称するには外気に対しての防御力が低すぎる。せめて扉がついていてほしかった。

 

(ああ……もう、なんだよこの状況は!)

 

 俺は口を真一文字に結びながらも、内心頭を抱えて盛大に混乱していた。

 

 

 

 

 

 

 遠くに住む親戚の法事に両親の代わりに遣わされ、もろもろ済んだのが数時間前。

 

 今冬初となる雪と田舎のバス運行数を舐めていた俺は、スーツの上に紙防御すぎるコートをひっかけたまま、野ざらしに近いバス停で身を震わせながらバスを待っていた。

 運行表を確認し一時間にひとつかふたつのそれを見て軽く絶望したのがついさっき。不幸中の幸いは、今日最後のバスはまだ来ていないということだけである。

 

 すでにあたりは徒歩で移動することを躊躇する程度には暗く、更には突然勢いを増した吹雪に身動きがとれない。

 法事でしこたま飲まされポカポカ温まった体でここまで来たが、それもすでに冷め切っていた。今は滲んでいた汗が冷え極寒を味わっている。辛い。

 目の前に道路はあるが行き交う車は無く、周囲に人家や店も無い。命綱はこれから来るであろう最終便のバスであり、親戚に駅まで送ってもらえば良かったと今さらながら後悔した。

 いや、全員俺と同じくらい飲んでたから怖すぎて断ったんだけど。

 

 最悪なことにスマホの電源も落ちている。

 タクシーを呼ぼうとしたのだが、余力を残していたはすの充電が目の前で一気に消滅し沈黙した。寒さのせいだろうか。冷気怖い。

 

(でも、あとほんの十五分だ)

 

 縋るように腕時計を見る。

 

 暗くて寒い。そのふたつが並ぶとこんなにも心細いのかと思い知らされた。

 少しでも熱を逃がさないように身動き一つとらずにいれば体は冷える一方だ。帰ったら絶対にガンガンに温めた部屋でこたつに入り鍋を用意して熱燗を飲もうと心に誓った。

 

 

 そんな中、現れたのがこの少女である。

 

 

 猛吹雪の中から見ているだけで寒いミニスカート(しかも生足)で現れた彼女を最初は「俺より寒そうだな。かわいそう」と見たものだが五秒後にその感情は否定された。

 狭い空間で二人きり。気まずいしお互い大変ですねとか寒いですねとか一言添えて挨拶すればいいかと思った。

 だから少し離れた位置に座った少女に目を向けたのだが……。

 

「よいしょ」

 

 そんな声と共に、彼女はコタツの上に蜜柑をセットしていた。

 

 

「…………」

 

 猛吹雪の中、扉もついていない屋根だけのバス停。

 その中にコタツと蜜柑と美少女。

 

 俺はまじまじとその光景を見てから目をそらし、こめかみを指でもんだ。

 まだ酔ってるのかな俺……。それか実は本当に死にかけてて死の間際の幻覚とか見てる? 馬鹿な。

 

 

 コタツは座ったまま入れるテーブルタイプ。まずそんなデカいものをどこから持ってきた?

 いかにも温かいですといった様子の表情をしているが、電源はどうしている? 本当に温かいのか?

 あ、こいつ蜜柑に留まらず鍋取り出しやがった。は? 取り出した? どこから!? 何、マジック!? 若き天才手品師!?

 この匂い……味噌か。しかも入ってるのは牡蛎か? 鍋の牡蛎美味いよな……。

 あ……ガスコンロの火あたたかそう……。

 

 

 気づけば俺は再び少女に目を向けていた。

 そんな時だ。

 

「あの」

「あ、はい」

 

 少女が声をかけてきた。そして。

 

 

「よかったら、いっしょにあたたまりませんか?」

 

 

 そのお誘いから五分。俺は鋼の意志でその誘いに耐えていた。

 

 

 

 

 はにかむ様な表情で上目遣い気味の視線を向けてくる少女は、正直めちゃくちゃ可愛い。

 だけど、どう考えたって怪しいだろ!

 

 この極寒の中でそこだけ暖房がきいているかのように錯覚する空間。抗いがたい誘惑を感じるが、酒と寒さで鈍った思考でも怪しいものに対する警鐘は正しく機能していた。

 

 だたちょっと気と緩めると、鍋美味しそうだなとか、コタツ暖かそうだなとか。一緒にって事は横並びにってことだよな? とか。そしたら肩と肩がくっつく位置になるよな、とか。ふとした瞬間に冷えた俺の脚が当たって「ひゃっ」とか可愛い声出すのかなとか。とかとか。妄想が溢れそうになる。

 

(ええい、バスはまだか!)

 

 ふとした瞬間この非常識な何かを受け入れてしまいそうだ。抗うように腕時計を見るが長針はなかなか動いてくれず、ここまでの五分も死ぬほど長かった。何度少女の誘いに頷きそうになったか分からない。

 

「来ませんよ、バス」

「え?」

 

 度重なるお誘いの中、不意打ち気味に告げられたそれに俺はぽかんと口を開いた。

 

「あのですねぇ。実はここ、雪女さんの結界の中でして」

「はぁ」

 

 気が抜けた声がこぼれる。目の前の非常識なものから更に非現実的な単語が出た。

 

「いや、ここ数年あいつも大人しかったんですがねぇ。にぃさん、ほら。都会的ってやつですかい? そのぱりっとしたお召し物、よくお似合いで。それでね。どうも熱をあげちまったようでっして」

 

 少し長く話し始めたと思ったら、ずいぶん見た目のイメージと違う話し方だ。

 

「直接手を出すと、山の掟に反するってんでね。とじこめたらしくて」

「へぇ」

 

 頭に話しが入ってこなくて気が抜けた声シリーズしか出てこない。

 

「もうだいぶやられちまってるようですねぇ。どうぞ、どうぞ。こちらでお温まりを」

 

 ぴらっとまくられたコタツ布団の中には白い太もも。もう考えるのが面倒になってきた俺は、保っていた抵抗を投げ捨てていそいそ少女の横に移動した。

 

「あっっっったかぁぁぁ~~~~い」

「ははっ。でしょう、そうでしょう」

 

 少女は自慢げに笑い俺の手をとった。少しドキッとするがどうやら色っぽい事ではないらしく……少女は俺の腕時計を見ている。

 

「人間さんてやつは、面白いすよねぇ。時間なんてものに、形を与えなさる。あっしらには出来ない芸当でさぁ」

「形……時計の事か?」

「ええ、ええ」

 

 

「時間に縛られる、なんてぼやきもよく聞きますがねぇ。時間を見れるってことは、それに縋れるってことです。これだけ待てばいいってな希望にもなる」

「時間が希望……」

「にぃさん、幸運でしたねぇ。あのカラクリの方は始末されたようですが、これがあって。にぃさんは自分の時間を見失わずにいられる」

「それってどういう……」

「ま、細かい事はいいじゃねぇですか。あっしが説明するには、ちとむずかしい」

 

 気になることを並べ立てられて気にするなとは、いささか殺生ではなかろうか。

 ……まあ、いいか。

 

 下手の考え休むに似たり、だ。

 

「もうちっと耐えれば結界もとけるでしょう。でもその前に凍死しちまったら可哀そうってんで、こうしておせっかい焼かせてもらったわけです」

「それはどうも、ご親切に……?」

「ま、お気になさらず。あっし、あの女嫌いなんでさ。親切ついでに、ちっと邪魔してやろうってね。魂胆ですよ」

「はぁ……」

 

 気づけば少女の与太話を信じている自分が居て、よそってもらった鍋をはふはふ食べながら礼を言った。

 

「にしてもにぃさん、強情でしたねぇ。死にかけてるってのに、暖かい場所を用意しても、かわいいおなごを装っても、旨そうな食べ物を見せても、なかなかこっちに来やしない」

「そりゃ、怪しすぎたから……。……ん? 装って?」

 

 言葉にひっかかりを覚えて少女を見れば、いつの間にか少女の目を周りを囲うように黒い模様が出来ていた。

 

「あの、君はいったい」

 

 言いかけた途中で時計の針が目に映る。長針は待ち焦がれた十五分後を指していた。

 

 

「どうやら耐えきったようですねぇ。今度は来ますよ、バス」

「!」

 

 少女が言うなりそれまで温まっていたコタツがぽんっと煙をあげて消え去り、一緒に少女の姿も消えた。蜜柑も、鍋もだ。

 最後とばかりに少女の声だけが響く。

 

 

 

『あっしの金玉こたつ、暖かかったですかい?』

「はぁ!?」

 

 

 

 悲鳴をあげた所で、吹雪の向こうからライトが光る。……バスだ。

 

 

 

 

――――何かを難しく考えている時、それはだいたいつまらない結果に続いている。

 

 

 

 

 ある冬の日に遭遇した不思議な出来事。

 首を傾げつつも、結局俺は受け入れることにした。

 

 

 

 雪女に殺されかけたらたぬきの金玉袋に助けられた。

 

 そんなふざけた思い出を忘れないように。

 俺はあの後何故か動かなくなった腕時計を修理もせず、今でも持っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。

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