裏バイト:鬼巫女ロリババァ   作:葛城

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誰か虹を書いてくれよな~頼むよ~


前編

 

 

 

 

 そうして、その日の夕方16時。

 

 内容までは実際に現地に行かないと教えてもらえないということで、鬼姫がソフィアより教えられたのは、『裏バイト』全般の注意事項であった。

 

 曰く、『死んでも自己責任』であり、『常識で考えてはならない』危険な仕事である……らしい。

 

 常識で考えてはならないとはいったい、どういう事なのか……問い質してみたが、返答はその都度同じであった。

 

 

 ──口では説明出来ない。こればかりは、実際に体験した方が早い……と。

 

 

 そう言われてしまえば、しつこく問い質すのも悪い気がする。

 

 口では説明出来ないと言った以上、本当に説明する事が出来ないのを鬼姫も分かっていたからこそ、余計に。

 

 なので、鬼姫はそれ以上の事は何も尋ねず……だ。

 

 せっかくだからと電車を乗り継ぎ、ソフィアに案内された場所は……これまで鬼姫が一度として見たことが無い、とても広くて大きな工場であった。

 

 

 そう、工場だ。

 

 

 何の工場なのかは分からないが、とにかく広い。端から端まで、全体を確認出来ないぐらいに広い敷地全体を、フェンスがぐるりと囲っている。

 

 広大な敷地の大半がアスファルトで舗装され、幾つもの大きな建物(あるいは、倉庫?)が幾つも建てられていて……とにかく、鬼姫は圧倒された。

 

 ソフィアに聞けば、『東京ドーム30個分の広さ』とかいう返事をされた。

 

 東京ドームとやらで例えられても……と鬼姫は思ったが、とにかく、すごく広いという事だけは実感した。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 そんな広い工場だというのに、肝心の工場からは人の気配が全く感じ取れない。見える範囲の全てが静まりかえっており、一部はシャッターが下ろされているのすら確認出来る。

 

 

「……のう、ソフィアよ。ここは普段からこんなに静かなのじゃ?」

「いや、普段は機械とかトラックとか動き回っていると思いますよ」

「では、今日は休みなのかのう?」

「私たちのような部外者を大勢入れるわけですから、休日の日にやった方がいちいち職員に説明しなくて済むから楽なんでしょう」

「なるほど、それもそうじゃな」

 

 

 気になった鬼姫がソフィア(だいたい、何でも知っているので)に尋ねれば、そんなわけがないと言われた。

 

 まあ、考えてみれば……そう思いながら、鬼姫は集まっている者たちを見回す。

 

 人数にして、約40名。この仕事は2人一組が条件らしいので、つまりは20組。

 

 

 その顔ぶれに、共通点は見られない。

 

 

 大学生ぐらいの若者同士もいれば、恋人同士だと思われる者もいるし、友達同士……あるいは、このバイトの為だけに組んだと思われる者もいるのだろう。

 

 

 ただ、共通する事は一つある。

 

 

 それは、これが『裏バイト』と呼ばれる、命を落としても自己責任という危険な仕事に……彼ら彼女らは、リスクを承知のうえで参加しているということ。

 

 その証拠に、集まっている者たちの顔には緊張感や恐れや不安が滲み出ている。

 

 初めての仕事(バイト)に対するソレとは、全く違う。

 

 命の危機をうっすらと感じ取っている時にしか起こりえない、寒々とした怖れと不安を静かに耐える……誰も彼もが、そんな表情を浮かべていた。

 

 

(……麻薬を運べとか言われたら、殴り飛ばして帰るのじゃ)

 

 

 危険な仕事なのは承知しているが、だからといって、誰それを傷付けるような仕事を了承した覚えはない。

 

 なので、事前にソフィアには、『一線を越えるような仕事であれば、ワシは帰るのじゃ』とだけ告げており、ソフィアも了解したうえで、この場に居るのであった。

 

 

 ……さて、話を移そう。

 

 

 今回の『裏バイト』の待ち合わせ場所は、この工場の唯一の出入り口らしい正門前。見やれば、大きな錠前にてガッチリと固定されている。

 

 敷地を囲うフェンスの高さは、目測でも10m近くもある。途中で忍び返しが三つも設置されており、頂上付近にはグルグルと円を描く有刺鉄線が設置されている。

 

 そのうえ、その有刺鉄線のすぐ下には、『電流・注意!』の看板がペタッと等間隔で設置されている。

 

 ここをよじ登って出入りするのは至難の技だろう。というより、ここを登って出入りするぐらいなら、フェンスを切って脱出した方がよほど楽だ。

 

 ……言い換えれば、鍵を掛けられてしまえば最後、脱出するのは非常に困難というわけで……如何に、この『裏バイト』が表に出せない仕事であるのかが伺い……ん? 

 

 

(……なんじゃ、あやつは?)

 

 

 する事もなく、キョロキョロと視線をさ迷わせていた鬼姫の視線が、とある2人(組んでいるように、鬼姫には見えた)の女性を捉えた。

 

 

 1人は、金髪(いや、茶髪?)の……朗らかな感じの女性。

 

 大学生っぽい見た目をしているが、肝は据わっているようだ。明らかに余裕を失くしている周囲の人たちに比べて落ち着きを保っている。

 

 

 そして、もう一人は……長身の黒髪女性だ。

 

 地味な顔立ちをしているが、スタイルは服の上からでも分かるぐらいに大きい。化粧次第では化けそうな……が、それよりも鬼姫の気を引いたのは、浮かべている表情にあった。

 

 

 一言でいえば、鬼気迫る……といった感じだろうか。

 

 

 顔中に冷や汗を浮かべており、傍目にも平静を保てていないのが見て取れる。体調が悪いのかと首を傾げる鬼姫を他所に、その女性は忙しなく周囲を見回し……鬼姫と目が合った。

 

 

 ──途端、ぶわっと更なる冷や汗が滲み、明らかに顔を強張らせた。

 

 

 これには、不思議に思った鬼姫は反対方向へと首を傾げた。

 

 その女の異変に気付いたと思われる相方が、チラリと鬼姫へと視線を向け……黒髪女性の手を取ると、そっと鬼姫より距離を取った。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………はて、己は何かをしてしまったのだろうか? 

 

 

 己の特性を理解している鬼姫は、自分の事とはいえ、その可能性を否定出来なかった。

 

 なので、鬼姫は傍のソフィアに声を掛ける。

 

 すると、ふんふんと頷いていたソフィアは、さっきよりも離れた位置にある二人へと視線を向け……ああ、と手を叩いた。

 

 

「あの人、そういうのを感じ取れる人ですね」

「……漏れておったか?」

 

 

 そう思った鬼姫は、己の身体を見下ろした。

 

 周囲に害が出ない程度にまで己の『力』を抑えているので、今の鬼姫の外見は、巫女服姿の美少女である。

 

 しかし、いくら見た目を取り繕ったところで、その中身は大怨霊。

 

 当人にとっては気付くか気付かないかの僅かな漏れであっても、その影響力は計り知れない。

 

 ソレを、鬼姫は心配したわけだが……ソフィアは、首を横に振った。

 

 

「おそらく、異能と言っても過言ではないぐらいの優れた感知能力を持っているのでしょう。抑えたところで無駄な気がします」

「そうか……ワシからも、あの2人とは少し距離を取ることにするのじゃ」

「その方が良いですね──っと、来たみたいですね」

 

 

 ソフィアの言葉に顔を上げた鬼姫の目に映ったのは、フェンスの向こう(つまり、工場側)より近づいて来る、大きなバスであった。

 

 バスは、観光バスなどでよく見る普通のバスだ。

 

 違いは広告などが一切プリントされていないぐらいで、それは緩やかに速度を落としつつ、静かに集まった者たちの前へ向き合うようにして停車すると……入口より、男が出てきた。

 

 

「お待たせしました。今回のバイトの指導管理者を務めさせていただきます、須藤です。早速ですが、このバスに乗ってください。説明は、車内にて行います」

 

 

 『須藤』と印字された名札を首からぶら下げた男は、そう言いながら出入り口の錠前を外し……そこで、ピタリと手を止めた。

 

 

「──ただし、一つだけ。良いですね、如何なる時でも、これだけは御守りください」

 

 

 自然と、集まっている者たち(鬼姫とソフィアも同様に)の視線が一か所に……ソレを一身に受けた須藤は、全員の顔を見回してから……ハッキリと、告げた。

 

 

「指定された場所で業務が始まった後は、絶対に二人で行動してください。いいですね、絶対に、一人で動いてはいけません」

「え……1人で動くとどうなるんですか?」

 

 

 恐る恐る……そんな感じで尋ねたバイト志望者に対して、須藤は。

 

 

「お忘れですか? これは、『裏のバイト』です。どうして表ではなく裏なのか……それぐらい、言われなくても分かるでしょう?」

 

 

 と、だけ答えると、須藤は出入り口のフェンスを開いた。ちょうど、大人二人が並んで通れるだけの広さであった。

 

 

「了承していただけるのであれば、そのまま中へ進んでバスへと乗ってください。了承していただけないのであれば、このままお帰りください」

 

 

 そう言うと、須藤はそっと横に動いて道を開けた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………結局、その場で帰る者は誰一人として現れなかった。

 

 

 そりゃあ、そうだろう。

 

 

 報酬が高い『裏バイト』とはいえ、基本的に報酬は仕事を行ってから始めて支払われる。

 

 自給にしろ日割りにしろ、ただバイト先を訪れただけで報酬が貰えるなんて甘い話は、『裏バイト』にすらない。

 

 ここで怖気づいて帰ってしまえば、残るのは自腹の交通費だけ。

 

 わざわざ危険な『裏バイト』をやるには、それだけの理由がある。交通費ぐらい気にしない者なら、初めから『裏バイト』になんて参加しないのだ。

 

 なので、集まった40人、計20組のバイト志望者たちは、促されるがままバスへと乗り……仕事場である、敷地の中心部へと短いドライブをするのであった。

 

 

 

 

 

 ……で、大した距離を走らないままにバスから下ろされた鬼姫とソフィア(他、38名)は、工場の中へと通された。

 

 そのまま、カバーの掛けられた機械や、電源の入っていない大型機械の傍を通り、矢印マークの張り紙によってナビゲーションされた通路を通り……ようやく、到着したのは、だ。

 

 

「それでは皆様方、テーブルに置かれているリュックを1人一つずつ背負ってください」

 

 

 仕事場……というよりは控室にしか思えない、たいして広くも無い部屋であった。

 

 その部屋には、折り畳み式の安っぽい長テーブルが設置されており、その上には人数分のリュックサックが置かれていた。

 

 

「リュックの中身は見ないでください。説明も、致しません。1人一つですが、重くはないので女性でも問題は無いと思います」

 

 

 わざわざ『重くはない』と明言するだけあって、手に取った女性たちは1人の例外もなく、これなら……と少しばかり気を楽にしていた。

 

 いざという時、全てを放り出して逃げなければならないのもまた、『裏バイト』の恐ろしいところだ。

 

 業務上の命令とはいえ、わざわざリスクが跳ね上がるような行いは避けたい……それは、間違いなく本音である。

 

 中身は柔らかいのか、背負っても特にゴリゴリッとした感触もなく、まるで綿が詰め込んであるかのようにリュックは膨らんでいた。

 

 まるで意味の分からない状況だが、ここに来た時点でみな覚悟が出来ている。

 

 下手に機嫌を損ねて追い返されるのも……そう誰しもが思ったのか、わざわざ尋ねるようなこともせず、素直にリュックを背負っていった。

 

 

(……これ、妙な気配がするのじゃ)

 

 

 その中で……1人だけ。

 

 

(術か? あるいは別の……分からぬが、背負うことが何かしらの引き金になるナニカがあるのじゃ)

 

 

 リュックの中にある『ナニカ』の異質に気づいた鬼姫は、背負う際にソッと『黒蛇』を放った。

 

 『黒蛇』とは、鬼姫が持つ数多の術の中において、使い勝手も良く発動も速い呪いの一つである。

 

 その外見は、その名の通りに黒い蛇。あくまでも呪いなので、黒蛇自体は生きているわけではない。

 

 目も鼻も飾りでしかなく、まるで蛇のようにニュルニュルと這い回り、狙いを定めた相手へと食らいつく術である。

 

 それが、リュックの中へと入って行く。特に、今みたいに周囲に隠しながらやる時には、この術は最適だろう。

 

 そうして、『黒蛇』を通じて、中にある『ナニカ』へと接触したのを確認した鬼姫は……パクリと、『黒蛇』に呑み込ませた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………うむ! 

 

 

 腹の中で、バチバチっと『ナニカ』が暴れ回っているのを鬼姫は感じ取り……ポンポン、と腹を上から叩いた。

 

 

(しっとりとして、べたつかない……う~む、中々に業の深い呪物じゃな!)

 

 

 最近はあまり見かけなくなったが、『ナニカ』は相当に厄介な代物であるのを、鬼姫は感じ取る。

 

 しかし、厄介な代物であろうとも、鬼姫の前では無意味。

 

 溶鉱炉が如き鬼姫の腹の中へと収まった以上はもう、どういった代物なのかを調べる術はなく、瞬時に溶かされ、鬼姫という存在に呑み込まれてしまったからだ。

 

 ……まあ、ろくでもない代物なのは間違いない。少なくとも、常人には一切合財防ぎようがない代物だ。

 

 この手のモノは、さっさと処分するに限る。

 

 そう結論付けた鬼姫は、ただのリュックとなったソレを背負い……ふと、隣で百面相をしているソフィアを見やった。

 

 

「……何をしておるのじゃ?」

 

 

 声を潜めながらも尋ねれば、ソフィアは……微妙に赤らんだ頬を鬼姫へと向けた。

 

 

「いや……その、程よく死なない程度に加減してやりますと、何やら外からは見えないように触手を伸ばしてきまして……」

 

 

 ……触手? 

 

 え、そんな感じだったか……思わず目を瞬かせる鬼姫を他所に、「こ、こういうのも好きぃ……!」なにやら悶え始めたソフィアの足を踏みつけて、黙らせる。

 

 

「前にも言うたであろう、そういうのは1人でやれ、と。色情に耽るのはお主の自由じゃが、ワシの前では止めるのじゃ」

「す、すみません……」

 

 

 さすがに痛かったのか、赤らんだ顔を青ざめたソフィアは……一つ息を吐いて、リュックの中にある『ナニカ』へと『力』を送って黙らせた。

 

 だが、黙らせるだけだ。

 

 鬼姫のように、腹の中に入れてそのまま消化したりなどしない……はて、と鬼姫は首を傾げ、改めてソフィアを見やった。

 

 

「さっさと潰せば良いではないか。ろくでもない代物なのは分かっておるじゃろう?」

 

 

 率直に尋ねれば、ソフィアは……困ったように頭を掻いた。

 

 

「いや、この感じに手応え……新たな扉が開かれるかもと思うと、中々に迷いが……」

「……お主は本当に業の深いやつじゃな」

 

 

 ここが神社ならば、拳の一つでも叩き込んで黙らせるところだが……チラリと、鬼姫は周囲に視線を配る。

 

 幸いな事に、今の発言を耳にした者はいないようで、誰も彼もが今回の相棒となる相手と雑談をしていた。

 

 

 ……いや、聞こえなかったというよりは、耳を澄ますだけの余裕が無い者ばかりと見た方が、正しいのかもしれない。

 

 

 おそらく、この場に至るまでの異様な流れと雰囲気に呑まれているのだろう。

 

 取り乱している者はいないが、表情が強張っている者や、相棒と雑談をしながらも、その手を握り締めている者がそれなりに居た。

 

 

(……やれやれ、何をするかは分からぬが、助けられる範囲であれば助けてやるとするのじゃ)

 

 

 何とも言い難い不安を覚えつつも、須藤より呼ばれた鬼姫(と、ソフィアたち)は、指示に従うままその部屋を離れた。

 

 そうして、改めて案内されたのは……それまで見て来た部屋や倉庫とは違い、何一つ機材が置かれていない……殺風景な広間であった。

 

 だいたい、30㎡といった感じだろうか。普段は倉庫として使っているのかは不明だが、天井もそれぐらいに高そうであった。

 

 

「それでは、お待たせしました。只今より業務内容を説明致します」

 

 

 最後の1人が入り、今回参加した者たち全員が広間の中央辺りまで進んだところで……唐突に足を止めて須藤より、ようやくとなった。

 

 

「業務内容は……この『指定の時刻までに、こちらが指定した場所まで移動し、その場所でリュックを置く』、であります」

 

 

 ……? 

 

 

 ………?? 

 

 

 …………??? 

 

 

 まるで、意味が分からなかった。かくん、と鬼姫は首を傾げた。

 

 なんだか、今日は首を傾げてばかりだ……いや、須藤の言っている事は分かるのだ。

 

 

 それは、鬼姫にも分かった。

 

 だが、その意図がさっぱり分からない。

 

 

 わざわざ高額な報酬を払ってまでやらせるのが、リュックの配達。しかも、数百キロ離れた遠方ではなく、同じ敷地内ときた。

 

 いったい、そこに何の意味があるのだろうか。運びたいなら、さっきのバスに乗せてまとめて運んだ方が万倍も効率的ではないだろうか。

 

 

(もしや、目的はさっきの『ナニカ』か? あれ、もしや食べてはならぬモノなのじゃ!?)

 

 

 脳裏を過った嫌な予感に、ギクッと鬼姫は身を固くした。

 

 

 ……鬼姫の心臓は動いていないから、ただの気のせいなのだが……とにかく、取り返しのつかない事をしたかもしれぬと鬼姫は焦りを覚えた。

 

 

 けれども、そんな鬼姫の焦りを他所に、須藤は説明を続ける。

 

 

 

 

 ──一つ、指定した場所は各自違う。これから渡すメモを頼りに、各自で指定した場所を探すように。

 

 ──一つ、指定された場所以外に、リュックを下ろしてはならない。如何なる理由があっても、厳守するように。

 

 ──一つ、指定された場所に辿り着けなかった場合、指定された時刻になればアナウンスを流すので、その指示に従うように。

 

 ──一つ、指定された時刻までに仕事を終えたとしても、アナウンスが成されるまではその場で待機するように。

 

 

 

 

 それが、須藤より言い渡された、今回の仕事のルールであった。

 

 本当に、まるで意図も意味も理解出来ない仕事内容である。

 

 けれども、ここに集まったのは『裏バイト』の者たちだ。大なり小なり、理解不能を理解不能のままに受け入れる心の用意は出来ていた。

 

 まあ、それでも、まったく困惑しないわけではない。鬼姫と同じく、今回参加している誰も彼もが、受け入れつつも困惑を隠しきれずに顔を見合わせていた。

 

 

(……フィット感に期待が高まります)

(──お主、新年早々何をやっておるのじゃ)

 

 

 いや、訂正。

 

 1人だけ、信じ難い暴挙に勤しもうとしていたので、ひじ打ちで黙らせつつ……とりあえず、素知らぬ顔で須藤の話を聞く。

 

 他には細々とした(使用していいトイレとか、施設内の自販機は使用していいとか)説明がなされ、時間にして10分程度の話が終わると……いざ、勤務開始となった。

 

 

「それでは事前の取り決め通り、この仕事は2人一組としてカウントします。各自、ペアと一緒に指定された場所へ向かってください」

 

 

 その言葉と共に、須藤は折り畳められた用紙を手渡してゆく。他の者たちと同様に用紙を受け取った鬼姫は、覗き込んできたソフィアにも見えるように用紙を開いた。

 

 

 

『精密検査室の、赤い椅子の隣に置いてください。タイムリミットは、この用紙を受け取ってから120分以内です』

 

 

 

 用紙には、それだけが記されていた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………え、これだけ? 

 

 

 思わず、鬼姫はソフィアを見やる。ソフィアも、鬼姫を見やる。

 

 おそらく、他の者たちも似たような事が掛かれていたのだろう。

 

 誰も彼もが更に困惑を深めた様子で須藤を見やる。

 

 

「それでは、出発してください。全員がここを出ると共に施錠致しますので──あ、そうそう、一つ言い忘れていました」

 

 

 だが、須藤はそれらに一切の反応を示すことなく、腕時計にて時刻を確認しながらキッパリと告げた。

 

 

「今回の仕事は事前に明示した報酬の他にも、先着した上位3組に対して特別報酬を支払う予定になっております」

「……特別報酬、ですか?」

 

 

 そう呟いたのは、誰だったのか。

 

 しかし、その呟きをしっかり聞いていた須藤は、「はい、着順によって金額は変動しますが……」にこやかに笑みを浮かべると共に。

 

 

「1着は、800万円。2着は半分、3着はその半分となっております」

 

 

 ポツリと、告げた

 

 

 

 ──瞬間、それまで困惑していた者たちの誰もが、我先にと部屋を飛び出して行った。

 

 

 

 後に残されたのは、他の者たちより金に頓着していない鬼姫と、悶々と頭の中がピンク色に成り始めているソフィアと。

 

 

(……おや、さっきのやつらじゃな)

 

 

 緊張した面持ちで鬼姫たちを見つめてくる金髪女性と、影響を受けてしまったかもしれない黒髪女性の二人であった。

 

 

 

 

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