裏バイト:鬼巫女ロリババァ   作:葛城

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お久しぶりの鬼ババァ


中編

 

 

 とりあえず、部屋を施錠するらしいので、管理指導の須藤より部屋を追い出されて……しばらく。

 

 

 当てはないが、突っ立っているだけではなんの意味もないので、鬼姫はソフィアと共に、建物の中を歩き回っていた。

 

 ……その際、こちらをジッと見つめていた金髪と黒髪の女は、最後までチラチラと視線を向けて来たが……気付いたら、居なくなっていた。

 

 

 おそらく、彼女たちも指定された場所を探しに移動したのだろう。

 

 

 気にはなったが、須藤の話では、各自指定された場所が違う。一緒に出たところで、すぐに別れるのだから……仕方がない、と鬼姫は諦めた。

 

 まあ、実は全員が同じ場所を指定されているという裏の可能性もあるけど、そこらへんを考えても意味は薄いだろう。

 

 

「ふむ……ソフィアよ、この『精密検査室』という場所に心当たりはあるかのう?」

 

 

 トボトボと歩きながら、鬼姫は傍のソフィアへと尋ねる。

 

 幾度も転生を果たしたのは伊達ではない。こういう鬼姫の手が届かない問題が生じた時、上手い具合に手を届かせてくれる……それが出来る事を知っているからこそ──

 

 

「あったらこんな当てもなくブラブラしていませんよ」

 

 

 ──尋ねたわけだが、まあ、そんなソフィアも万能ではないので、駄目なモノは普通に駄目だった。

 

 

 まあ、大して期待はしていなかったし、ソフィアは右往左往する行為を楽しむ癖……言い換えれば、無駄な行為を楽しむところがある。

 

 たとえば、今みたいに。

 

 本当にその気になったら、初めて訪れた場所であろうとも、すぐに目的地を見つけ出すだろう。

 

 そうしないのは、時間ギリギリまで敷地内を見学したいと思っているから。

 

 まあ、ソフィアの気持ちが鬼姫にも分かるので、とくに何も言わず……ダラダラと、気の向くままに施設内を回り、その次へ……と、いった調子であった。

 

 だって、こういう機会じゃないと、こんな場所に来る事なんてまず無いし。

 

 感覚的には、成り行きから工場見学(?)することになった……感じだろうか。

 

 報酬は欲しいが、最悪失敗したところで報酬が無いだけで、罰金などはない。他にも実入りの良いバイトがあるからとソフィアから言われている気楽さも影響してはいるけど。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 他にも『裏バイト』参加者が居るとはいえ、魔が悪いのか誰とも顔を合わせないまま、気付けば半分も時間を使っていた。

 

 

 だが、しかし。

 

 

 魔の悪さとは別に今日は運が良いのか、思いの外あっさり鬼姫たちは、目的地である『精密検査室』へと到着したのであった。

 

 

 ──率直に言おう。

 

 

 その時点での結論を述べるならば、拍子抜け、その一言だろう。

 

 いちおう、不安材料はたくさんあった。

 

 広い敷地にたくさんの建物、地図一つ渡されないまま、特定の場所へ向かえというのだ。

 

 時間はたっぷりあるが、建物を一つ一つ確認し、部屋を一つ一つ見回っていては、制限時間以内に終わらない可能性は大いにあるだろう。

 

 なにせ、パッと見回った限りではあるが、施設のどこにも案内板らしきものがほとんど見当たらなかったのだ。

 

 辛うじて見つかったのは、通路の壁に古ぼけた……それはもう年期の入った、施設の形が分かるだけの案内図だけだった。

 

 

 なんだ、見つかっているじゃないか……いやいや、そうではない。

 

 

 それは、デパート等の出入り口に設置されていることの多い、建物に入っているテナントとその位置を示した、頭上から見下ろしたタイプの全体図。

 

 しかし、肝心の、そこがどういう場所なのかを示す部分が空欄なのだ。

 

 つまり、分かるのはフロア全体の形と、各部屋の形だけ。

 

 そこに何があるのかは、実際に目視で確認しなければわからない……そういう案内図だったのだ。

 

 ぶっちゃけると、有っても無くても意味が無い……ぬか喜びとは、この事を言うのだろう……そんな印象すら覚える代物でしかなかった。

 

 さすがは『裏バイト』、なのだろうか。目的地に向かうだけでも、一筋縄ではいかないようだ。

 

 なので、時間が迫れば走り回るかも……と、二人は話し合っていた。

 

 実際、途中からちょっと小走りになっていたし、このペースだと半分ぐらいしか見て回れないから、ちょっと本気出そうか……みたいな感じで雑談を交わしていた、わけなのだが。

 

 

「あれ、もしやアレは……」

「む? おお、本当じゃな」

 

 

 まさか、そうしている間にサラッと目的地を見付けてしまうとは……さすがの二人も、想定外な事態であった。

 

 

 ……まあ、それだけだ。

 

 

 過程は何であれ、達成すれば結果は同じこと。

 

 目的は金であり、そもそも施設見学のために来たわけではないので、これで今日の仕事は終わったぞと鬼姫たちは『精密検査室』とプレートが張られた部屋へと入った。

 

 中には、鬼姫にとって見たことも触れたこともない大きな機械が幾つも設置されている。少なくとも、鬼姫にはそれをどう使うモノなのかは全く分からなかった。

 

 幾つかはカバーが掛けられており、外からは分からないようにされているが……パッと見た限りでは、同じ機械が複数あり、受かっていない機械にカバーを掛けているように見えた。

 

 ……ムクムクと、ちょっと中を覗いてみたい欲求が湧いてくる。でも、鬼姫はそこへ手を伸ばそうとはしなかった。

 

 

「ちなみに、うっかり触って壊したら億単位の金を請求されますよ。具体的には、お由宇さんの神社を1から立て直ししても余るぐらい高く付きます」

「わ、分かっておるわ……いくらワシでも、それぐらいは……うん……」

 

 

 それよりも前に、ソフィアより忠告が入ったからだ。

 

 それも、けっこう本気な顔で。触っても良いけど、何かあったら真っ先に逃げますよという言葉が、言外にこれでもかと込められていた。

 

 さすがに、そうまで力強く忠告されては、さすがの鬼姫もちょっと腰が引けるというものだろう。

 

 時の帝すらも恐れ戦いた大怨霊とはいえ、出来ない事はある。そのうちの一つである『金銭の用意』を突きつけられてしまえば、身動きを縛られるのも当然であった。

 

 

 ……話が逸れた。

 

 

 幸いにも、目的である『赤い椅子』はすぐに見つかった。あとは、その椅子の隣にリュックを置くだけで、今回の仕事は終わりだ。

 

 ただ、奇妙な事が一つ。キョロキョロと、室内を見回した鬼姫は……はて、と首を傾げた。

 

 

「なんで一個だけ赤いのじゃろうなあ」

「さあ、きっと赤色が好きな人が使っているんでしょう」

「しかし、そういうのがここでは許されるのか?」

 

 

 痒いところに手が届いていない……そんな、もどかしいモヤモヤが、鬼姫の顔に現れていた。

 

 

「他所をどうこう言える立場ではないのは分かっておるが……なんとも、腑に落ちないことじゃのう」

「貴女のような昔気質な人からすれば、1人だけ他とは違う……というのは揉め事の定番みたい事ですからね」

「うむ、そうなのじゃ」

 

 

 頷いた鬼姫の短い返答には、これでもかと実感が込められていた。

 

 まあ、実はの話だが、鬼姫は生前、そういう1人だけ他とは違うせいで崇められてはいたが、本当の本当に滅茶苦茶苦労している。

 

 そして、皆の為にその苦労を続けた結果、助けた皆から裏切られて殺され……爆発的に膨れ上がった憎悪のあまり、この様となったわけだ。

 

 今でこそ、文句があるならワシの前に出てこんかい──みたいな感じだが、生前は和を乱す危険性を考え、色々と我慢していた身である。

 

 だからこそ、職場の空気もあるが、1人だけ違うという、チラつく違和感が目に留まって仕方が無かった。

 

 なにせ、色が違うだけだから。

 

 この椅子が他より立派で、役職の者が座りそうな……そんな感じだったら鬼姫も気にしなかった。

 

 でも、色が違うだけ。

 

 まるで、この日のためだけに色違いの椅子を用意したかのような……椅子自体が妙に真新しいこともあって、鬼姫は違和感を覚えたのであった。

 

 

「それに、これは『うらばいと』なる、普通の仕事とは違うのじゃろう? ならば、なにかしらの裏があるのでは……と、思ったわけなのじゃ」

「おお、珍しく危機感が働いておりますね、その点については私も同意です」

「ふふん、ワシとてたまには……まて、珍しくとはどういう意味じゃ?」

「今日は冴えているっていう意味ですよ」

 

 

 ジロッと睨みつけるが、ソフィアは素知らぬ顔でさらりとかわすと、「よ~く、ごらんなさい」そう言って赤い椅子を指差した。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………??? 

 

 

「それで?」

 

 

 言われるがまま注意深く見ていたが、ソフィアの意図が分からない。なので、率直に尋ねれば……ソフィアは、ニコッと笑った。

 

 

「残念ですが、これは『赤い椅子』ではありません」

「は?」

 

 

 意味が分からず、鬼姫は椅子をジッと睨み……やっぱり分からず、首を傾げた。

 

 

「どこから見ても、赤い椅子ではないか」

「いえいえ、赤いように見えますけど、これは赤色ではありません。私の目にはピンク色……そうですね、ギリギリ桃色に見えなくもありません」

 

 

 言われて、鬼姫は首を傾げた。

 

 

「そんなの、お主がそう見えるだけではないのか?」

「はい、そうです。私にはそう見えます。ですが、問題はそこ──人によっては違う色に見えてしまうところなのですよ」

「???」

「つまり、ですね」

 

 

 意味が分からずにまたもや首を傾げる鬼姫に、ソフィアは簡潔に説明を述べた。

 

 

 その中身は……これが『赤い椅子』に見えるのは、鬼姫の思い込みだということだ。

 

 

 なんでそう見えるかって、それは最初に渡された指示書が原因。

 

 『精密検査室』の中にある、『赤い椅子』。

 

 ただ赤い椅子を見付けただけだったら気付く者が出てくるが、その前提に『精密検査室』という場所を入れることで、意図的に錯覚させるようにしているのだ。

 

 そう、実際、『精密検査室』に入って、その中にポツンと一つだけ目立っていた色違いの椅子を見て、鬼姫はなんの疑いもなく思った。

 

 

 ──アレが、赤い椅子か、と。

 

 

 加えて、この部屋に辿り着くまでにそれなりに時間を消費しており、既にタイムリミットは残り50%を切っている。

 

 いわゆる、コンコルド効果というやつだ。

 

 限られた時間の大半を使って見付けた物が、まさか違うわけがない。使用した時間の回収が出来ない以上は、これが本物でないと困ってしまう。

 

 これが正解であってほしいという、無意識の心の動きだ。

 

 偽物の可能性があるならば、本物を見付けるまで。だが、見つかる保証は無く、もしかしたら自分の勘違いでは……そう、思考が逃げてしまう。

 

 

 出発してすぐに見つかれば、だ。

 

 

 あまりの呆気なさに疑いの気持ちが少しは出てくるだろうし、なんなら鬼姫も、『これ、本当に赤色か?』と思ったかもしれない。

 

 さらには、『精密検査室』と書かれたプレート、中には用途が分からない大きな機械が幾つも置かれ、ご丁寧にカバーが掛けられている物まである。

 

 そのうえで、目的の椅子がポンと見つかるわけだ。

 

 この引っかけの一番性悪なところは、運が悪ければ『精密検査室』に辿り着けなかった……と、当人たちに思わせるところにある。

 

 そう、当てもなく歩き回り、与えられた時間の半分を使い、偶然にも辿り着いた部屋の中に、目的のモノがある……そう、認識させることなのだというのが、ソフィアの推測であった。

 

 

「……何故、そんなことをするのじゃ?」

「おそらくですけど、この荷物運びの真の目的は『指定されていない場所にリュックを置かせる』、なのだと思います」

 

 

 その推測に……はて、と鬼姫はまたもや首を傾げた。

 

 

「それ、何の意味があるのじゃ?」

「そんなの、私には分かりませんよ」

 

 

 苦笑したソフィアは……クイッと、己が背負っているリュックを指し示した。

 

 

「たぶん、リュックの中に居たアレが関係していたんじゃないですかね」

 

 

 言われて、鬼姫もクルリと身体を捻ってから……改めて眼前の椅子(偽)、を見やってから、う~んと腕を組んで唸った。

 

 なんで唸っているのかって、それは出発直前に、鬼姫はソレを食べちゃったからだ。ちなみに、感想は『しっとりとして、べたつかない』である。

 

 どうせロクでもない感じだったし、有っても害しかもたらさないだろうし、喧嘩を売ってきたのだから買ってやるまで論法で、パクッと行っちゃったわけである。

 

 そして、残念なことに、鬼姫は周囲に被害が及ばないようしっかりソレを食べてしまったし、ソフィアはソフィアで、ソレを消滅させてしまったので……今となっては、調べようがないのだ。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………どうしようか? 

 

 

「……とりあえず、置いてみます?」

 

 

 少しばかりの沈黙の後、ポツリとソフィアが提案した。

 

 

「それ、失敗扱いになるような気がするのじゃが」

「そうは言っても、今から探しても見つかる保障なんてありませんし、私のコレも結局は推測の域を出ませんし……もう失敗する前提で、試してみませんか?」

「ん~……そうじゃな、やってみるか」

 

 

 ちょっと迷った鬼姫だが、特に反対意見があるわけでもないので、ソフィアの提案を承諾した。

 

 実際、今から本当の精密検査室を探したところで見付かる保証は無い。それ以前に、そもそも正解が用意されている保障だって、無い。

 

 始めから間違っている場所……というか、適当な場所でリュックを置かせるのが目的なのだとしたら、探したところで正解は存在しないのだから。

 

 それならば、何が起こるか分からないが、一度リュックを置いてみては……二人がそう思うのも、致し方ないことであった。

 

 

 ……え、時間が来るまで背負ったままの方が良いのではって? 

 

 

 普段ならばその選択肢を選ぶところだが、今回は騙し討ちされかけたような状況だ……鬼姫は特にだが、ソフィアも内心ではちょっと思うところがあったので、そうはならなかった。

 

 で、特に申し合わせたわけではないのが、雰囲気的に……2人は、タイミングを合わせて同時に……赤い椅子(偽)の傍に下ろした。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………??? 

 

 

 こち、こち、こち、こち、と。

 

 

 設置されている時計の、規則正しい秒針の音だけが、静まり返った室内に響いていた。

 

 何かが起こるかもと思って身構えていたが、それらしい変化は何も起こらず……2人は、不思議そうに首を傾げた。

 

 

「何も起こらんのう」

「たぶん、アレを排除しちゃったからじゃないですかね」

 

 

 ソフィアの意見に、そうかもしれない……と、鬼姫は納得し──ふと、その視線が──先ほど通った出入り口へと向けられた。

 

 いったいどうして……それは、何時の間にかそこに、成人サイズのマネキン人形が立っていたからだ。

 

 しかし、普通のマネキンではない。

 

 そのマネキンには顔が無く、男女どちらにも使えそうな体形で、パッと見た限りはただのマネキンだが……一つだけ、違う部分がある。

 

 それは、マネキンの胸部……そこに、大きな穴が空いている。

 

 貫通こそしていないが、遠目にも穴は深く……文庫本サイズなら、数冊はスッポリ入るぐらいに大きな穴であった。

 

 

 ……なに、アレ? 

 

 

 特に敵意は無いのだが、なんとも場違い感のある異質な存在を前に、鬼姫とソフィアは困惑したままマネキンを見やった……と。

 

 かちゃ、かちゃ、かちゃ、と。

 

 マネキンが、ゆっくりと部屋に入って来た。

 

 まるで電池が切れる寸前の玩具のような不規則な動きで、鬼姫とソフィアの前を通ると、床に置かれたリュックに手を伸ばし……ジーッとチャックを開けた。

 

 

『──っ!?』

 

 

 直後、のっぺらぼうゆえに表情こそ分からなかったが、リアクションから、心底驚いているのが分かる動きをした後で……残ったもう一つのチャックを開けると。

 

 

 ……かくん、と。

 

 

 まるで、希望が全て潰えたかのように、ガクッと肩を落とすと……それっきり、動かなくなってしまった。

 

 突いても、蹴ってみても、放り投げても、まったく動かない。いちおう、ナニカが潜んでいるかと探ってみるも、それらしいモノいない。

 

 鬼姫とソフィアの診断では、正しく、ただのマネキン。その様は、電池が切れた玩具のような……そんな姿だったから。

 

 

「……これは、驚けば良いのか?」

「いや、私に聞かれましても……」

 

 

 はたして、コレが正解なのか間違っているのかが分からず……ふと、その視線が……今しがたマネキンが開けようとしていたリュックへと向けられた。

 

 

 ──そういえば、リュックの中身はいったいなんなのだろうか? 

 

 

 ロクでもない気配を感じ取ったのでパクパクしちゃったけど、実際に何が入っているのかはまだ、確認していない。

 

 開けるな、とは言われていない。

 

 だが、好奇心の結果、危険な目に遭う(あるいは、失敗扱い)のが『裏バイト』であると事前にソフィアから言われていたので、鬼姫も開けようとは思わなかった。

 

 けれども、今回は……開けたのではなく、既に開けられている状況だ。

 

 だったら、中を探ってもなんら問題はない。

 

 だって、こっちが開けたわけじゃないし、中を見てはいけないとも言われていないから……なので、だ。

 

 早速、中身を取り出した……わけなのだが。

 

 

「……なんじゃ、これ?」

 

 

 まず、鬼姫のリュックに入っていたのは、大量に詰められた綿によって厳重に守られた、精巧に作られた心臓の模型。

 

 そして、ソフィアのリュックに入っていたのは、ヒタヒタと吸いつくような質感の、半透明な球体のナニカであった。

 

 このナニカもそうだが、心臓模型も内部が空洞になっているのか、非常に軽い。下手すれば、リュックの方が重いのでは……と、思うぐらいに軽い。

 

 

(……? 模型は分かるのじゃが、コレはなんじゃろうか?)

 

 

 とりあえず、心臓模型は別として、気になるのはソフィアのリュックに入っていた半透明なナニカだ。

 

 触ってみた限り、特にべたつかない。しかし、指先に吸いつくというか、初めての手触りなソレの、正体に検討がつかない。

 

 

「……これってオナ、いえ、勝手な予想は止めましょう、場を混乱させたくない」

 

 

 なにやらブツブツと呟いているソフィアだが、ふざけているわけではないようだ。その証拠に、その目は難問を前にした数学者のように真剣で──っと。

 

 その指先が、ペリッとナニカの表面を剥がした……いや、違う。

 

 剥がしたのではなく、球体になっていたナニカを広げたのだ。グッと力を入れてしまえばあっという間に形が変わり……そうして露わになったのは、人型であった。

 

 そう、皺と折り目が付いてしまっているが、人型だ。人の形をした、材質不明なうえにとても軽い、半透明のナニカ。

 

 つまり、リュックの中に入っていたのは精巧な心臓模型と、妙な手触りの人型のナニカ……この二つであった。

 

 

「……oh、もしやと思ったけど、やっぱりコレって……あ~、うん、そっかぁ……」

 

 

 正直、鬼姫には何が何だか分からない謎の代物でしかなかったが、どうやらソフィアには心当たりがあるようだった。

 

 

「う~ん、これはまた、いったいどういう経緯でコレがここにあるのか……私としては、そっちの方が気になるのですが……」

「それは後にせい。まずは、コレが何なのかを教えるのじゃ」

 

 

 尋ねれば、ゴチャゴチャと説明が長くなりそうだったので、さっさと結論から言えと告げれば……だ。

 

 

「要は、人間二人を生贄にして、1人の家畜人形を作る……そういう儀式の道具なんですよね、これはね」

 

 

 なんだか文字だけでも胸糞悪い中身が透けてきそうな……そんな言葉が、ソフィアの口から出たのであった。

 

 

 

 




この二人のタッグだからね、全然不安感ないよね
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