ぶらっく・ぶれっとif -転生した少年とIQ210の少女-   作:篠崎峡

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第9話 久しぶりの

 俺と夏世は、近くの駅から電車に乗った。行き先は朝霞と言う少女のいると言う中央に向かって、だ。

 

「いやーしっかし誰もいねえなあ」

「こんな時間に乗る人は寝坊か馬鹿か響太郎くらいしかいません」

「えっすいません」

 

 ううむ、やっぱり単騎で謎の相手と戦わせたこと怒ってるな……。非は俺にあるし、このくらいの棘は甘んじて受け入れよう……。

 

「――ってその三択じゃ夏世は寝坊か馬鹿になっちまうな」

「何言ってるんですか」

「えっ」

「私は三番目ですよ」

「……ん? …………ん?」

 

 ジョークのつもりで茶化したら、理解不能な回答が返ってきた。もや○とボール投げていい? ちょっと夏世さんIQ高すぎんよ。三番目って俺じゃん。どう見ても違うじゃん。それともアレ? 高度なネタ? すまんな、どうやら俺の知能指数は牛レベルみたいだ。

 

「もおー」

「!? ど、どうしたんですか突然、牛の鳴き声なんてして」

 

 ビクリと身体を震わせ、露骨に驚く夏世。そりゃ当然か。

 

「似てただろ」

「全くさっぱり全然」

「うそやん」

「……家畜願望でもあるんですか」

「うわーその目マジでこわいです違いますぼくは人間のままでいたいです」

「じゃあ本当に頭がやられたんですね……ご愁傷さまです」

「い、いやお前の言ったことがよく分かんなくてさ」

 

 この年齢の子に頭の心配されると、結構堪えます。

 

「ぇ、あ、あれですか」

「なぜ動揺する」

「あ、あれはその、あれです」

「お、おう」

 

 夏世が突然うつむきもじもじし始める。貸し切り状態の電車の走る音が、せせら笑っているようにしか聞こえない。いや、違うからね。俺幼女に無理強いさせてるワケじゃないから。……って誰に弁解してんだ俺。こりゃ真剣に医者を検討した方が良いんじゃないのか……。

 

「わ、私は響太郎のイニシエーターですから……きょ、響太郎の一部、みたいなものです。で、ですから、わたた、わたしは響太郎なんです!」

「オーケーオーケー、クールダウンだ。頭を冷やそう。暑いもんなあ今日」

 

 誰もおらず非常に涼しい車内。天気も良好。イイネー東京エリア、最高。

 

「こ、ころします……」

「なぜ!」

 

 変な汗出てきた。やっぱ今日暑いんじゃない?

 目をぐるぐるさせ、口をあわあわと動かす夏世。見方によってはとても小さく可愛らしさを含んでいるのも関わらず、発言内容が物騒すぎて色褪せる。表情に思い切り動揺を現す夏世と、額に冷や汗を滲ませて引きつった苦笑いを漏らす俺。見つめ合う二人、その怪しい準犯罪現場を見咎めるように電車が止まった。停車時の揺れに合わせて理性が帰ってくる。

 

「コホンコホン……と、とにかくですね。イニシエーターとプロモーターは二人で一つなんですから、ちゃんと自覚してください! ね!」

「は、はい……」

 

 大げさに咳払いをして纏めた夏世だが、話がずれている気がする。咳払いが若干動揺していたことと、最後の「ね!」が投げやりな言い方になっていたのは指摘しないぞ。言ったら毒にやられる。

 

「あれ? あなた夏世じゃない?」

「……?」

 

 夏世側の扉から入ってきた少女から声をかけられる。声の方へ振り向いた夏世と同じくらいの年齢だろうか。全体的に短めの大人しいヘアスタイルの、少々キツそうな目つきの子だ。思案してから程なくして夏世が口を開く。

 

火垂(ほたる)?」

「やっぱり夏世ね。少し体型が膨れてたから分かりづらかったけど」

「……火垂こそ幸せそうに艶々しているから分からなかったです。お年ごろなんですね」

「……あ、相変わらずね」

「ふふ、火垂こそ」

 

 旧知の仲か? 俺の時と比べて遜色ないくらいの毒だが……相変わらずって、想像するだけでヤバい。

 蚊帳の外に捨てられっぱなしの俺が余計な詮索と浅い回想をしていると、どたどたと喧しい音を立てて学生服を着た男が同じ扉から駆け込んできた。

 

「あっぶねー! 間に合ったぜ……」

「もう、遅いじゃない鬼八さん」

「いやーわりぃわりぃ」

「ん……? 鬼八……?」

 

 リバイバル回想。どっかで聞いたぞ……鬼八……鬼八……蓮太郎と、確か……。

 

「あ」

「ん?」

「お前鬼八かよォ!」

「な、何だお前! ……って、響太郎、か?」

 

 まじまじとお互い見つめ合う。男を見つつ、我ながら自分の行動が気持ち悪いと思ったが確認が先決。仕方ないね。

 

「やっぱ鬼八だよなお前」

「おうよ」

「んで俺は響太郎だ」

「だよなあ」

 

 しばし沈黙。電車はいつの間にか進みだしていた。

 

「久々だな響太郎!」

「な、相変わらずうっさいなお前」

「馬鹿野郎お前、折角久しぶりに会ったのに騒がない奴がいるか!」

「ここ電車じゃねーか!」

 

 しまった、うっかりツッコんでしまった。そういやコイツのバカっぽさには、当時(小四)の時の俺や蓮太郎は結構助けられたっけな。同じくガストレア大戦で家族を奪われた身からすりゃ、凄えと思ったもんだ。……最も『今』の俺、もう一つの方の記憶じゃ俺の家族は生きてるんだよな……転生って言ったら普通、記憶は一本線で続くんじゃねーのかよ。まぁどうでも良いけどさ。

 

「って響太郎お前、民警なんかにいつなったんだよ」

「え? あー。まぁ色々あってな」

 

 いつの間にか鬼八が隣に座っていた。ちらりと夏世の方を見ると、火垂と呼ばれた少女は夏世の隣に座っている。談笑しているようだが、どんな内容かは高度な毒棘合戦に巻き込まれたくないため、聞かない。

 

「てか鬼八、お前らもどっか行くのかよ」

「あぁ。民警とか学校とか面倒な事は置いといて、今日は火垂と一緒に遊びに行くんだ!」

「え、何それ引く」

「オイオイ何言ってんだ、火垂は俺の妹みたいなモンなんだぜ? たまに遊びでも連れてってやらなきゃよ」

「……あー、そりゃまぁ」

 

 鬼八は確か……実の妹が赤目だったんだよな。この火垂って子は妹代わりみたいなものか。別段、他人のやり方に口を出す気は無いが……コイツもコイツで大変なのかもしれないし。

 

「いや待て」

「ど、どうした」

「鬼八お前民警かよ!」

「なんだ今更!」

「わかるか普通!」

「は? わかるだろそりゃ」

「エスパーか!?」

「いやいやいや、不自然に小さい女の子連れてる奴なんて民警くらいだろ。……まぁ、あんま幸せそうな顔してる子には会ったこと無いけどよ」

「それもそうか……」

 

 と、言うことはだ。つまり世界を間違えてたら俺は犯罪者……? それは流石にまずいですよ……。

 

「で、お前はどこに行くんだ? 今日学校じゃねえの?」

「堂々と遊びに行く宣言してるお前には言われたくねえよ! ……どこ行く、か……うーむ」

 

 なんて言うんだ、これ? 夏世のツテで怖そうなおっさんの元へ修行をしに行くって言えばいいのか? より都会チックになってきた窓の外をぼんやりと見ながらあれこれ考えるが、結局ウマイ言い訳は思いつかなかった。

 

「まぁ、あれだ……特訓しに行く」

「なんだそりゃ!」

 

 がはは、と鬼八が大袈裟な笑い声を立てる。仕方ないだろ! 他に適当な言葉が無かったんだから!

 

「てことは何か? 響太郎、民警になったの最近か?」

「あぁ、ついこの間だ」

「んじゃ、あのステージⅤは知らねえか?」

「ステージⅤ?」

「先月出たデケえガストレアだよ。確かスコーピオンとか言ったと思うが……噂じゃ触媒がどうだの出現時期がおかしいだのと、しっちゃかめっちゃかだ」

「そんなヤバかったのかよ」

「並大抵の民警が百人束になってかかっても勝てなさそうな奴だったけどな。なんか気づいたら倒されてて拍子抜けしたぜ」

「誰が倒したんだそれ……」

 

 一騎当千とか漫画の中だけの話じゃなかったのかよ……。そいつ一人で東京エリアの守護は事足りる気がするな……。

 

「響太郎」

「? どうした夏世」

 

 夏世が学生服の裾を引っ張っていた。振り返った俺が返事をして後、少し遅れて電車が停まる。

 

「着きました」

「おう。……んじゃな鬼八」

「ああ。またな」

 

「それじゃ夏世、また機会があれば」

「はい、また会いましょう」

 

 軽く別れの挨拶をする。夏世と火垂も心なしか嬉しそうな表情をしていた。お互い昔の友だちと出会えたってだけでも、今日出てきた甲斐はあったのかもしれないな。

 

「あ! ちょっと待て響太郎!」

「んだよ!」

「連絡先交換しよーぜ」

「そういや忘れてたな……って扉閉まるわ!」

 

 危ねえ! 足を外に踏み出した途端にコレだ。間に落ちたらどうしてくれんだこのスットコドッコイ。と言うか、携帯を出してもうっかり隙間に落としかねない。残念だが今は出来そうにないな。

 

「さっき夏世と交換したから、それを経由すれば良いじゃない」

「お、さっすが火垂!」

 

 言いながら鬼八がくしゃくしゃと火垂の頭を嬉しそうに撫で回す。ホントに家族だと思ってんだろうな、きっと。勿論俺も夏世の事、大切に思ってるけどな。赤目だの呪われた子ども達だの、クソ食らえだ。こいつらだって……人間なんだから。

 

「ってもう俺出るからなー。後で火垂ちゃんから夏世に送ってくれよ」

「あ、はいっ。わかりました」

 

 突然呼ばれて驚いたのだろうか、ふいっと顔を向けて返事をした火垂の表情は少し緊張していた。

 

「ありがと。んじゃまた」

「はい、それでは」

「じゃーなー」

 

 丁寧に返す火垂と適当に返す鬼八、その対称性は何か突き刺さるモノがあったが気にしないでおこう……。

 

「それでは、行きましょうか」

「……だな」

 

 扉が閉まり、電車が進みだす。それを見送り、俺と夏世は今日の目的地――壬生朝霞のプロモーター、我堂長政の住処へと歩を進めた。




今回は完全一人称にしてみました。
感想等いただけるとヒジョーに喜びます。作者が。

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