Fate/Shadow Out of Time 【完結】   作:らくべえ09

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第2話  接触

 

 

 

 

 聖杯戦争の先端は、セイバーとランサーの戦闘から始まった。

 それに対してライダーが乱入したことで、場はさらに混乱する。

 ライダーの挑発によって出現したアーチャー。

 ここにまず四騎のサーヴァントが出てきたわけである。

 

 そして、そこに第五のサーヴァントが出現することとなった。

 

 黒い霧をまとった、黒いフルプレートの戦士。

 それがセイバーの背後に出現したわけだが、

 

「なにっ!?」

「……!?」

 

 セイバーとほぼランサーは同時に、その姿を見ることとなった。

 というのは、コンマレベルの時間差を置き、ランサーの背後にも同じ姿の戦士が現れたのだ。

 話はそれで終わらない。

 

「ほぉ? 何やら芸達者なヤツよな?」

 

 面白そうに後ろを見やるライダーの背後にも、やはり同じ姿の戦士がいた。

 

「目くらましか、小癪な真似を!」

 

 憤然とするセイバーだが、奇妙なことにも気づいていた。

 現れた複数の戦士は、いずれもハッキリと気配を感じ取れること。

 つまり、幻覚や虚像の類ではないということだった。

 セイバーとランサーは背中を合わせるような形で戦士に対して身構えた。

 

「良いのか、セイバー。敵に背中を見せて」

 

「それはお前も同じことだろう」

 

「ふむ、違いない」

 

 二人の騎士は顔を見ることなく笑い合い、刃を戦士に向ける。

 

「で、坊主。あいつは何者だ。アサシンか? まさか、キャスターではあるまい」

 

 ライダーは戦車に同伴させているマスターにたずねる。

 

「わ、わかるかよ!? ステータスがぜんぜん見えない……。てか、あいつに誘いかけないのか?」

 

「おうとも、と言いたいが、ありゃ話が通じそうにないしなあ」

 

「なら、バーサーカー?」

 

「それとも、よほど飼い主の首輪がたちの悪いものらしいわ」

 

「……!? まさか、サーヴァントを完全にコントロールしてるのか!?」

 

「らしいな……」

 

「だとすれば、とんでもない魔術師だぞ……。いったい。いや、令呪を使った……?」

 

 ライダーのマスターであるウェイバーがそうつぶやいた時、戦士が動いた。

 いや、さらに数を増したのだ。

 3つが6に。6が12に。12が36という風に、数を増やしていく。

 しかも、明らかな実体をもって。

 

「こ、これは……!?」 

 

「まさか、分裂しているのか!?」

 

「ほっほお! こりゃ一人で軍隊さえできるかもな!?」

 

「い、いや、そんな馬鹿な……! いや、もしそうならそれだけ力も分散されるはず……」

 

 耳に入ったウェイバーのつぶやきが、騎士たちのきっかけになった。

 セイバーとランサーは、それぞれ黒い戦士に切りかかっていった。

 ランサーの場合、マスターより命令されたこともある。

 その時、黒い戦士たちの両腕に変化が起きた。

 装甲の一部が変形と膨張を行い、両腕に奇妙な武器が装着されたのだ。

 それは、蟹や蠍のハサミを思わせるものだった。

 

 ガン!!

 ガギンッ!!

 

 黒い戦士は騎士たちの攻撃をなんなく受け止めた。

 そればかりか、

 

 ザシュン!!

 

 黒いハサミが騎士たちの装束や甲冑をえぐり、恐ろしい力で叩きつけてくる。

 さすがに歴史や伝説に残る英霊だけあり、騎士たちも簡単にやられない。

 だが、問題は相手が多数であったことだ。

 1対1でも苦慮するのに、さらに複数が様々な角度から攻撃を加えてきた。

 しかも、バラバラではなく統一され、完璧な計算がされたような動きだった。

 あっという間に騎士たちは血まみれとなって、地に膝をつくこととなった。

 しかも、気づけばお互いが孤立した格好になっている。

 

「くっ……! 何という不覚……」

 

「まずい。見誤ったか……!!」

 

 周囲を囲まれ、もはや袋のネズミと化してしまった騎士たちを、ウェイバーは茫然としていた。

 彼らが超人的力を持っていることは、戦闘を観察した上で理解している。

 だが、黒い戦士をそれを上回る非常識さだったのだ。

 

「いかんな、これはいかん……!」

 

 渋い顔となったライダーが、戦車の手綱を握った時だった。

 

「ぬう――」

 

 いつの間にか、戦車も黒い戦士に囲まれていた。

 

「あ、あわわわ……!! ど、ど、どうすんだよ、ライダー!!」

 

「さて……。一気に殺さぬところをみると、何か考えがあるのかな? 名も知れぬ英雄よ。いや、英雄たちというすべきか?」

 

 ライダーは戦士たちを見まわしながら、面白そうに言った。

 口元にはライオンかトラを思わせる獰猛な笑みが浮いている。

 

「残念だが、ライダー。君に用はない」

 

 黒の戦士からは、似合わない理性的な声が響いた。

 あるいは理性的というよりは機械的な、と表現するほうが的確かもしれない。

 

「用があるのは、君のマスターであるウェイバー・ベルベットだ」

 

「はぁ!? ぼ、ぼ、ボクぅ!?」

 

「ほーん? そりゃまたどういうわけだ? この坊主に用事とな?」

 

 ライダーは太い笑みを浮かべて、ウェイバーの頭にその大きな手を置いた。

 

「いや、そもそもだ。お前は自分の意思で話しておるのか?」

 

「私自身は、この場にいない。だから、サーヴァントの声帯を借りて君たちと話している」

 

「まさか、そ、そんなことが……!? じゃあ、そいつに意思はないのかよ!?」

 

「このサーヴァントが特性上理性を常時失っている状態にある。制御は容易い」

 

「つまり、そいつはバーサーカーか」

 

 ウェイバーがうなずき、ライダーは丸太のような腕を組んだ。

 

「なるほど、なるほど。手腕は見事だ。しかし、気に入らぬな。飼い犬の口を借りて話し、自分は姿を見せぬとは」

 

「君の意見は無意味だ、ライダー」

 

「――いや、僕自身も同意見だね。話があるなら、まず顔を見せたらどうだ? 話は……それからだ」

 

 怯えを見せながら、それでも、胸を張ってウェイバーは言い切った。

 

「ほお」

 

 と、ライダーは意外そうながら嬉しそうに笑う。

 

「わかった。話は後日だ。これから他サーヴァントの殲滅を行う。君たちは退去したまえ」

 

「――殲滅だと? それは我も入っているのか、雑種」

 

 不遜な声が上から響いた。

 今まで無言で様子を見ていたアーチャーである。

 黒い戦士は何も言わずに、上を向く。

 するとその黒い装甲が空中へ浮き上がっていった。

 

「なんでもありかよ……」

 

 見上げるウェイバーの頭上高く、バーサーカーはアーチャーより高度で停止した。

 

「我の問いに答えぬばかりか、上から見下ろすか……!!」

 

 逆立ったアーチャーの髪に、稲妻のような魔力が走った。

 

「せめて散り際で我を興じさせろ!!!」

 

 アーチャーの背後から黄金の波紋が広がった。

 そこから、無数の武器が雨のごとくバーサーカーに飛んでいく。

 バーサーカーは、ハサミのついた右腕で静かに突き出す。

 

 そのまま、動かない。

 

 ウェイバーは、一瞬でバーサーカーがミンチとなる図を想像した。

 だが、ミサイルのように飛んだ武器の数々は、まるで見えない壁に突き刺さるように空中で停止した。

 停止した武器の周辺を、無数の数式らしきものが浮かび、飛び交う。

 

「まさか、宝具を解析してる……!?」

 

「その通りだ、ミスター・ベルベット。やはり理解力があるようだな」

 

 戦車を囲んだままの、別のバーサーカーが言った。

 

「我が宝に、汚れた魔術で触れるか、雑種!!」

 

 より激怒したアーチャーはさらに、武器を射出する。

 しかし、結果は変わらなかった。

 むしろ繰り返すごとに、アーチャーは自慢の宝具を奪われていく形だった。

 停止した武器は、やがて黒い渦のようなものに呑まれて、消えてしまう。

 

「……宝具を、奪った!?」

 

 敵の宝具を停止させ、操るばかりか完全に奪い取ることさえ可能とは。

 ウェイバーの常識を超える能力だった。

 

「……おのれ、おのれ、おのれ!! 小賢しい盗人が!!! ならば、これはどうする!!」

 

 次にアーチャーが繰り出したのは、武器ではなかった。

 あるいは、それも兵器と言えるものだったかもしれない。

 黄金に輝く、空を駆ける船であった。

 

「まさか、ヴィマーナか!? インド神話の宝具まで……!!」

 

「ほっほっほー! 本格的な空中の戦闘とはな……! なあ、余らも見物してかまわんよな?」

 

「……」

 

 戦車を囲むバーサーカーは、何も言わずに姿を消した。

 

「どうやら、OKらしいぞ!!」

 

「嘘だろぉ…………」

 

 嬉々として叫ぶライダーに対して、ウェイバーは蒼白な顔である。

 

 その時だった。

 

「……!!」

 

 悲鳴ともつかない叫びが響いた。

 

「へ!?」

 

「しまった!!」

 

 同時に振り替えるライダー陣営は、セイバーとランサーが塵のように消えていくのを見た。

 

「いかん、余としたことことが……! 何たる杜撰、失敗であった」

 

 ライダーは無念そうに首を振り、ため息を吐き出す。

 

「力と数の差が歴然ではあったが、一騎当千の強者と言え相手もまた一騎当千では……」

 

「こ、こんなにあっさり……ハハハ、ドラマならすげえつまらないよな……」

 

「しっかりしろ坊主! 残念だが、これもまた戦争にはつきものだ。今は、ほれ!」

 

 ライダーが指さす上空では、アーチャーとバーサーカーがドッグファイトの真っ最中だった。

 

「ああ、もう!!」

 

 ウェイバーは自分の顔をはたくと、

 

「行くぞ、ライダー! 相手の手の内をできるだけ見るんだ!!」

 

「そうこなくてはな! では、行くぞ!!」

 

 

 

 神牛の引く戦車が空を飛び立った後、そこには静寂だけがあった。

 いや、静寂の中に言いようのない感情が渦巻いていた。

 

(……まさか、あんな規格外は参戦していたとは。アサシンと同じ能力……? いや、それではあの戦闘力が説明できない。どちらにしろ、至急次のサーヴァントを見つけなれば……!!)

 

 セイバーをあっさり失った衛宮切嗣は感情を切り替え、次なる駒について考えていた。

 

(残るは、アサシンとキャスター、一応はアーチャーか……。あのアーチャーはセイバー以上に扱いの面倒そうなタイプだ。キャスターは、詳細不明。一番欲しいのはアサシンだが……)

 

 果たして、それであの異常なサーヴァントと、それ操るマスターを倒せるものか。

 さらに懸念もある。

 

(アサシンのマスターである言峰と戦うことに……。いや、言峰が遠坂時臣にサーヴァントを譲渡する可能性も高いか……。ダメだ、情報が整理しきれない!)

 

 衛宮切嗣は歯がみをして、女たちに連絡を入れる。

 

「アイリ。舞弥。一時撤退しよう。あのバーサーカーと接触するのは、絶対に避けたい」

 

<え、ええ。わかったわ……>

 

 アイリスフィールは返事をした。

 しかし、もう一人は、

 

「舞弥? 舞弥? どうした!?」

 

 

<――残念だが、お前の片腕は死んだ>

 

 

 あの、バーサーカーの発した無感情な声が通信越しに響いた。

 

 

 

 動揺する切嗣とは別に、また苦慮している人間がいた。

 ランサーのマスターである、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだった。

 

(おのれ、ランサーめ……!! 大言壮語を吐いて、この体たらく……!!)

 

 敗北の屈辱に震えるが、事態はそれどころではなかった。

 

(……一刻も早く撤退せねば!)

 

 もはや彼は敗退した身の上だが、このまま他陣営が見逃す可能性がわからない。

 ボヤボヤすれば、許嫁であるソラウの身にも危険が及ぶ。

 

(この屈辱、忘れんぞ!! 必ずや!!)

 

 ケイネスは次のリベンジを誓いながら、急ぎその場から離れていった。

 その背後を、黒い戦士が音もなく追っていることには気づかずに。

 もし仮に気づいたとしても、彼にできることは多くなかったろう。

 

 

 

 そしてライダーたちが追っていった空中では、激しい戦いが続いている。

 

「消え失せよ、(いぬ)!!」

 

 ヴィマーナを駆りながら、アーチャーは攻撃を放ち続ける。

 今までのように武器を直接飛ばすことはしていない。

 バズーカや、銃器によく似た宝具を使って、バーサーカーを狙っていた。

 SFのビーム攻撃を思わせる光の矢が飛ぶ。

 しかし、それらをバーサーカーは苦も無く回避していた。

 中には背後から追尾してくるもののあったが、バーサーカーの背後から新たなバーサーカーが出現する。

 背後のバーサーカーによって、追尾攻撃はことごとく撃ち落された。

 

「くっ……」

 

 黄金のサーヴァントも、薄々はわかっていた。

 黒いバーサーカーが余裕を持って勝てる存在ではないことを。

 だが、彼の高いプライドがそれを許さなかった。

 一方で加減なしの攻撃は、マスターすなわち魔力の供給源を大きく疲弊させている。

 長期戦は不可能だった。

 彼にとってマスターなど塵芥のようなものだったが、マスターなくしては現界にも限りが出てくる。

 このまま、時間切れでこのバーサーカーに敗北することなど許容しがたい。

 

(いぬ)め……! もはや手加減はせぬ!! 茶番は終わりだ!!!」

 

 ついに、アーチャーは自らの最強宝具を使わんとしていた。

 もしそれが振るわれれば、この地の被害は甚大なものだろう。

 いや、一個の都市を消滅させるなどたやすい。

 その危険に、バーサーカー、正確にはそのマスターが気づかないわけはなかった。

 

 茶番は終わり。

 

 むしろ、それはバーサーカー陣営の言葉だったのである。

 不意に、バーサーカーが姿を消した。

 

「なにっ!?」

 

 アーチャーは剣を手に振り返る。

 瞬間、乖離剣エアを手にした腕が紙のように引き千切られた。

 続いて瞠目したアーチャーの頭部が黒いハサミがつかみ、やはり容易くねじ切った。

 

 かくして、最初の夜に3騎のサーヴァントが脱落することとなった。

 偶然か、三大騎士とされるクラスが一度にである。

 

「……こうもあっけないとはな」

 

 消滅していくアーチャーを見て、どこか悲しそうにライダーはつぶやいた。

 

「もしも、ヤツが慢心しておらねば……。いや、無理だったかなあ。残念だ、奴らとは一度酒を酌み交わしたかったのだが……」

 

「なに呑気なこと言ってんだよ、今度は僕らがあいつと……」

 

 ライダーに肩をつかんでウェイバーが言いかけた時、黒い戦士がその近くに現れた。

 

「ウェイバー・ベルベット。近く君に連絡を取ろう。互いに協力して、実りあることを願う」

 

「……待てよ」

 

 黒い戦士に、ひるみながらウェイバーが語りかける。

 

「今話してるのは、バーサーカーのマスターだな? なら、名前くらい聞かせろよ。礼儀だろ」

 

「そういうものか。私は、間桐雁夜。次は直接お会いしよう。では」

 

 言い残して、バーサーカーは消えた。

 

「マトウ……? そうか、御三家の間桐か。けど……」

 

 ウェイバーの記憶に、カリヤという名におぼえはなかった。

 

(こんなバケモノみたいな魔術師が、無名だったはずが……。いや、それともだからこそ隠れてたのか? じゃあ、なんで今おもてに出てきた?)

 

 脳をフル稼働させて考えるが、答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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