地獄でコベニと踊ろうぜ!   作:砂漠谷

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短め最終話です。


留まるな大人よ遊べ

 蛇足である。

 

 殻木はあの病院崩壊に巻き込まれて死んでいたらしい。

 拉致監禁の犯人の死としてではなく、慈善活動家の院長の死として大々的に報道され、悼まれた。

 義爛さんについては、雄英に戻った岳山ちゃんが、雄英教師の伝手でタルタロスに面会に行った。結果、やはり偽物だった。

 その後、警察のヴィラン輸送班の一部が別件で逮捕され、すり替えを自白したらしい。

 家族を人質に取られていたとかなんとか。ぼんやりと殺そうとも思ったが、これ以上ことを荒立てるのもどうかと思い、何もしなかった。

 

 赤黒君は、無事あの場から逃げおおせ、ヴィランとしての認定もされなかった。ただ、病院で出没したヴィランに個性が似ているということで、公安にはマークされたようだ。今後しばらくは面倒だが合法路線で行くとも言っていた。

 岳山ちゃんは、雄英に戻った。逃亡生活で学業の遅れが目立ち、留年しそうと半泣きになっていた。先生方に個別で夜中まで指導されているらしい。

 エンデヴァーは、個性を失ってヒーローを引退し、昼間から抗鬱剤を酒で流し込みながらぶらぶらしていると週刊誌に報道されていた。

 それを見た荼毘は、気が抜けたようにぼんやりしている。喋り方も、挙動もぼんやりしていて、こっちが心配になるほどだ。ただ日常生活に支障はない。

 日本での私の指名手配は解除されていない。どこかの永住権を得られる訳もなく、小規模なヴィラン集団相手の窃盗で生活費を稼ぎながら、荼毘と二人で世界中をふらふら漫遊している。

 そして、一年後。東欧のとある場所で。

 

 

 

「……始めるよ」

 

 横たわる荼毘に、私は問いかける。

 

「ああ、頼む」

 

 荼毘に麻酔吸引マスクを付けて、オペを開始する。

 

 私の皮膚から培養した『人間』細胞の活用法を、殻木は見出していた。

 小型のデバイスに纏められた殻木の研究録を私は回収しており、それを学び、荼毘の皮膚を再度付け替える。

 一つの細胞から殖やせる細胞には限度があるので、殻木は大量に私の皮膚を剥いでいたようだが、荼毘一人分なら、私の臀部の皮膚を少し剥ぐだけで全身分の皮膚が培養できる。

 そして、脳の針も除去するために、脳の僅かな損傷で取り出せる極小針型機械を設計し、裏の世界で有名なサポートアイテム技師に依頼する。

 治療のための培養機器代を稼ぐために一年ほど時間が掛かった

 

 手技は百戦錬磨の闇医者に任せるが、治療法の検討や機器の操作は私がやる。そのために、一年間資金稼ぎの合間を縫って勉強してきた。しかし、前例のない手術である。成功率は9割以上あるが、逆に言えば一割弱の可能性で荼毘は命を落としてしまう。

 

「では、お願いします」

 

 地下にある闇病院の特別治療室で、手技担当の医師にメスを渡す。

 

 オペは半日に渡った。

 麻酔が抜け、眼が覚めた荼毘は包帯でぐるぐる巻きにされており、一週間は微動だに出来ない姿にされていた。

 

 10日が経ち、口が利けるようになった。

 

「あ゛……ああ。あり……がとう。肌がずるずる剥けていく感触が無い。きちんと体にくっついている。それに、頭もすっきりしている。枷が外れたようだ」

 

 普段ぼんやりしていた荼毘だが、口数も多く話せていることを目の当たりにして、私は泣いてしまった。

 

「う……うう、荼毘ぃ。こっちこそ、ありがっ……ありがとう。生きててくれて、ありがとう!」

 

 山場は超えた。後は、快復を待つだけだ。

 

 手術から一か月後、無事に退院した荼毘は、左手の薬指に指輪を付けながら、私の補助のもと杖を付きながらショッピングモールを歩いていた。

 もやもやする。入院中にナースとでも恋に落ちたのだろうか。

 だが、直接尋ねる勇気はない。左手を凝視することでそれに興味があることをアピールする。

 

 私のアピールに気付いた荼毘は、ニヤリと笑い。

 

「手、出せ」

「え?はい」

 

 言われた通りに右手を出す。

「ちがう、そっちじゃない」

 と言われたので、左手を差し出す。

 

 いきなり、薬指に何かを嵌められた。

 

 指輪である。小さいダイヤが嵌っている。

 

 え。

「え?」

 

「これで良し」

 

 まるで犬に首輪を嵌めるかのように、私に指輪を、おそらく婚約指輪を嵌めたのだ、この男は。

 

「あ、あわわわわわ」

 

 混乱で頭が沸騰し、思考が回らなくなる。それを見て、彼は笑っていた。

 

「アハハハハハ!」

「あわわわわわ!」

「アッハハハハハ!!!」

「あわわわわわわわ!!」

 

 彼の珍しい根明風の笑い声と、私の久しぶりの混乱の声。

 奇妙なモノに向ける通行人の視線を気にせず、二つの声はショッピングモールのフロアに響き続けていた。

 




これで、『地獄でコベニと踊ろうぜ』は完結とさせて頂きます。

およそ11か月間、お付き合いさせてしまい申し訳ありません。
最初は数か月で終わる予定だったのですが、自分の怠惰さと飽き性が想像以上でした。なんとか今年中に終わらせようと、怠惰な自分に鞭打ちました。

彼と彼女がその後どうなったのかは、ご想像にお任せします。
まあ、もう不幸になることは無いでしょう。彼と彼女が一緒であれば。
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