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神、などと表現したが、しかしソレはどちらかと言えば紛い物の類に当てはまる贋作だった。
ソレが何を言っているか、など男には理解出来なかった。否、そもそも男は理解しようともしなかった。
「失せろっ!」
殺せる相手を殺せず、邪魔された。
落胆した相手を殺せるチャンスを手放す破目になった原因を、男は斬り捨てる為に駆け抜けた。
自身の周りに『幻影剣』を展開し、男は閻魔刀を構え、ソレに向かって『疾走居合』を繰り出す。
だが、ソレはノーモーションで大きく空を飛び、簡単に斬撃を回避する。
「あの呆け老人がっ…。“管理”しておけと、あれだけ言ったというのに。」
ソレは苛立ちながら、その場には居ない誰かへと暴言を吐き捨てる。
ブォンッ―――
「なにっ!」
だが、その隙に男は次の手を打っていた。
ソレが飛んだ瞬間、男はソレの周囲を取り囲むような形で幻影剣を創り出したのだ。
上下左右―――その全てに。まさしく、四方八方と言い表すに相応しい。
ソレを取り囲む、その幻影剣の数―――三十。
「な、なんだと…!?」
それは、“本来”の姿しか知らぬソレにとっては予想外の技術であった。
だが、当然と言えば当然だ。何故ならば、ソレが識る現実において、このような技術は存在しなかったのだから。
“これ”は、完全なるオリジナル。
相手に逃げる空間を与えず、四方八方を幻影剣で取り囲み一斉に突き刺す…謂わば、幻影剣の“秘奥義”。
名を付けるとするならば―――『無尽幻影剣』。
「突き刺され」
男がそう告げた瞬間、数多の短剣が一斉にソレへと降り掛かる。
雨粒の如きその攻撃に回避方法など存在しない。何故ならば、そもそもこの技は相手の“回避する場所を与えない程の幻影剣”を創り出す技なのだから。
「あぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!!!!!!!」
グサッ、グサグサグサグサグサグサッッッ!!!!!!!!
全ての剣がソレへと突き刺さり、そしてソレの内部で爆散して砕け散る。
相手の外装だけでなく内装にまで深手を負わせる戦技。だが、勿論のことデメリットもまた存在する。
『無尽幻影剣』は確かに強力な奥義であるが、そのような多くの剣を創り出すならば、当然の如く膨大な魔力を消耗するのだ。
一度でも使えば、それ以上の使用は不可能。仮に使えたとしても、その数は大きく激減するだろう。
「die」
まぁ―――そもそもの前提として、幻影剣以外に魔力を用いることが無い男にとっては、そんなことは関係無いのだろうが。
キンッ―――
次元が斬り裂かれ、ソレの肉体がズタボロに斬り裂かれる。
普段ならば、それだけで終わっただろう。
だが、
「塵に成れ」
キンッ、キンキンッ―――
それだけでは、男の攻撃は終わらなかった。
一閃、二閃三閃。一度に限らず、男は三度も次元を斬り捨て、ソレの肉体を更に斬り裂いた。
閻魔刀という武器の特性は、『次元を斬る』というものである。
神速の抜刀術によって次元を斬り捨て、相手が居る空間へと斬撃を叩き込む剣技『次元斬』。
間を開ける事もなく次元斬を叩き込むそれは、現実においては『連続次元斬』と呼称される技術である。
それを喰らえば―――例え相手が神であろうとも、例外無くその肉を斬り裂かれるだろう。
「――」
もはや、喋ることすらままならず。
体内も体外も、どちらも絶望的なまでに傷付けられたソレは、空で鳥が事切れてしまったかのように呆気なく落下し、地面へと伏せた。
誰もが思うだろう。これが、神という枠に当てはまる存在なのだろうか…? と。
実際、男もそれを思っていた。
それは、ただ不気味さを放っているというだけで神秘的な何かを放っている、という訳ではなかった。
これが、神なのか?
「違うな。」
男は、即座にその思考を振り切った。
こんなものが、神な訳があるか。
この程度のものが、神などという存在であるものか。
「これも、どうせ教団絡みなのだろうな…。いったいどれだけ俺を落胆させれば気が済む…」
苛立ちながら、男がソレへと歩む。
「阿呆が。」
殺意を込めて、閻魔刀を、振り下ろした。
□ □
「…死んだか。」
其処は、ディアボロス教団が持つ研究所の一つ。
かつて、男が実験を行われていた場所。男が唯一、何度も死にかけた場所である。
その円卓で、一人の老人が呟くように言う。
「神の力を得て、神に成り上がろうとも所詮、元は人か…。『神が人を作ったのではなく、人が神を作った』という“原典論理”を元に実験しようと、意味は無かったということか。」
誕生の原典理論。
神が人を作ったのか、それとも人が神を作ったのかという、神と人の誕生を争う理論。
老人は、それを元にソレを生み出したらしい。
つまるところ、アレはただの贋作。もしくは実験体だった訳だ。
神本柱だった、という訳ではなく、ただ神の力を与えられただけの愚者だった、ということだ。
もしくは、シド・カゲノーのような転生者という存在か。
まぁ、どちらにせよ、そんなものは、あの男にとってすれば知ったことでもない些細なことなのだろうが。
「しかし、『ウェルギリウス』があそこまで強くなっているとはな…しかし、これはこれで想像以上の出来栄えか。」
老人は誇らしげに笑う。
アドラ・フェルトが考え、作り上げた内容の諸々は無駄ではなかったな、と思いながら、老人は「アドラには感謝せねばな。」と、今は亡きラウンズの三席に感謝の念を込めた。
「『ウェルギリウス』に加え、『ウェルギリウス』の弟子とされる少女や、あのシャドウという存在も気になるところではある…ふっ、全く。やはり世界には私の知らぬ事がまだまだ多い。」
魔人ディアボロス―――その細胞を利用し、不老不死の力を手に入れんとする集団『ディアボロス教団』。
その中にも派閥があり、この老人はその派閥の中では最も穏やかで、そして最も冒涜的な派閥の長である。
ディアボロス細胞を、自分ではなく他者に打ち、その過程で大きな戦力を創り出しては無駄に終わらせるような試練を課すという、常人なれば理解を示されぬ実験を繰り返す。
目にした者の全てを実験台にし、死して尚も実験台として生きながらえさせる狂気的思考。
争いでは中立の立場に立つにも関わらず、しかし実験という立場で言えば教団の中でも極めて危険な派閥。
誰もを利用し、誰もを鍛え、誰もを犯し、誰もを殺し、誰もを生かす極悪の派閥―――その名は『メメント・モリ』。
そして、その長を務める男の名前は―――「バチカル・ルシフェール」。
ディアボロス教団の古参、その殆どが恐れる狂人である。
「悪魔を殺すのは人か。それとも同じ悪魔か、それとも天使か…まぁ、どちらにせよ、“本物の神”は黙って見ていれば良い。
貴様等にとって、下界での戦争ほど愉快なものはないだろう?」
老人は、不愉快の表情を隠さず、天に向かって言い放った。
The devil is the devil. But men aren't just demons.
One day, even men will surpass legends.
A demon with a human heart who has won many times in the soul of a man.