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「ハク・カゲノーだな?」
ミドガル魔剣士学園、その校門前。
男によって、やや不本意ながらミドガル魔剣士学園へと通うことになり、それなりに長く過ごしてきた少女の前に、王都の騎士三人が立ち塞がっていた。
「そうだけど。」
ハク・カゲノーという、新しく与えられた名前が自分のものであると、少女は答えた。
男からはお前か貴様かのどちらかでしか呼ばれない為、よくよく、この名前を少女は忘れてしまう。
だが、今はそんな事など些細なことだ。
「貴様に、王都転覆協力罪が掛けられている。我々と共に来てもらう。」
朝っぱらから、少女は大変物騒な現実を叩き付けられる事となった。
王都転覆協力罪? それは、つまるところ、王都を転覆させる協力をした、という事だろうか。
少女は暫し考え、考え、考え…そして、
「やってないけど。」
と、何食わぬ顔で堂々と嘘を吐いた。
少女には、それに思い当たる節があったのだ。自分が何故、王都転覆協力罪に掛けられているのか。
恐らく、いや確実に、王都転覆罪を問われている者が居る―――そう、少女が師として慕う、あの男である。
王都の湖の破壊、街への大きな損害。そのどちらも範囲が大きく、また、途中から『真魔人化』を解いていたのだから、その生身も見られている筈だ。
そして、少女は男へとシャドウガーデンやディアボロス教団といった者達の情報を手紙で渡していた。
今回の場合、シドの情報を渡したのは少女である。その為、王都転覆、その協力をしたという罪が問われるのは当然と言えば当然である。
だが、少女は嘘を吐いた。面倒臭いが故に。
「あくまで白を切るつもりか…なら、強引にでも連れて行くぞ。」
しかし、それがさらなる面倒を運ぶ結果となってしまった。
騎士の一人が、がしっと、少女を絶対に逃すまいと力を込めて腕を掴み、
―――ボトッ。
「―――あ?」
損ねた。
視線が、地面の方へと向けられる。
其処に有るのは、赤の上に転がった―――人の手。
もとい…その騎士の、腕であった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
直後、その騎士の全身へと、煉獄の炎が如き熱と激痛が、暴れ馬の如く走り出す。
青空と、人々が行き交う王都へと絶叫が響き渡る。
少女は、平然としている。
「な、お、お前―――」
何をする。そう、別の騎士叫ぼうとした瞬間、ジッ、と青い稲妻が迸る。
その騎士が目を開けば、其処には少女は愚か、学園の門すら無く―――
ただただ、大きく広がった青空が目に写っていた。
ぐちゃ。びちゃ、びちゃ…
樽一杯程度の量の赤い液体が彩る地面に、一つの肉塊が落ちていく。
それは、その騎士の―――生首であった。
「あの人からの教えだから…」
稲妻を走らせる長脇差し―――男から渡された、雷獣バアルの魂が武器と化した魔具、少女の愛刀である『雷刃バアル』を構えたまま、少女は斃れた騎士を見下ろす。
未だ廃村で過ごしていた時、少女は男から多くのことを教えられた。
その一つに、こんなことを教えられた。
『斬るべきだと判断した際には即座に斬れ。相手が誰であろうと、迷いなく。』
自分が『この相手は斬るべき存在だ』と思った瞬間に、躊躇や容赦など捨て去って、すぐに斬り捨てろ―――そう、教えられたのだ。
故に、少女は騎士を斬った。殺したのだ。
「き、貴様っ…! 自分が何をしたか、わかって」
騎士が言い切る前に、少女はバアルを振り翳す。
「まて、待ってくれ!」
騎士が静止の声を掛けようと、しかし殺意が止まることはなく、またバアルには力が込められる。
バチッ、バチイッ―――白銀の刀身に、小さな稲妻が何度も迸る。もはや、何も変わることはない。
少女は騎士の言葉を聞き流し、その首へとバアルを振り下ろした。
ザンッ!
稲妻によって研ぎ澄まされた鋭利の刃は、一切の狂いもなく、兜を溶かして綺麗に騎士の首を斬り落とした。
「斬ったは良いけど、どうしようかな…」
少女はバアルを鞘へと納め、自分はこれからどうしたものかと、考えを巡らせた。
人を殺した。というか、それ以前に王都転覆罪のようなものを被せられている為、もう学園に通うことなど出来ないだろう。
恐らくは昨日の内に情報は行き渡っている。例え学園に行けども、教師達に捕らえられるだろう。
まぁ、その場合は襲い掛かってくる者を等しく斬り殺すだけなのだが。
「師匠は城に…居る訳ないか。師匠だし。」
あの男であれば、寧ろ自分よりも多くを斬り捨てるだろう。
何と言っても主犯格なのだ。自分より多くの騎士が男を捕らえようと来ている筈だ。
しかし、男が相手ならば数多の騎士であろうと、もはや大した意味を成さないだろうが。
大体は閻魔刀による剣技か、もしくは次元斬によって、その悉くが無残にも斬り刻まれ、そしてその結果として壁や地面が血によって覆われてしまうことだろう。
「…師匠の所に行けば良いかな。うん、そうしよ。」
取り敢えず、久しく会わなかった男の元へ行こう。
そう決めて、少女は男の家へと足を運び始めたのだった。
「な、なによ…あれ。あんなの…」
その光景を、ある一人の生徒が見ていた事にも気付かずに。
白い悪魔によって恐怖のみを植え付けられ、圧倒的強者の存在を刻まれた王女―――アレクシア・ミドガルである。
□ □
もはや、其処は死屍累々という言葉だけでは事足りなかった。
屍山血河―――積み上げられた屍の山、その下は綺麗な天然の水などは無く、屍からの流血によって海が出来上がっていた。
その数は、見るに三十人程度か。もしかすれば、それをも越えているのかもしれない。
「くだらん…」
血の一滴すら浴びていないその男は、髪を掻き上げて屍を踏む。
王都の騎士、その全ての実力は、あまりにも中途半端であった。
だが、それがこの世界においては常識的だった。
そも、この世界においての武術とは全て魔力による身体能力によって補われているものであり、武術を隅の隅まで極めている者など本当に数少ない。
男にとって王都とは、決して訪れるべきではない場所だった。
「巫山戯た連中だ。この程度の実力で騎士などと…」
中途半端な実力で挑んできた騎士への暴言を吐きながら、男は屍の山から地面へと降り立つ。
もはや居る必要も無い場所に、身を寄せる必要も無し。
「…」
また、力を求める旅へと立つ事にするか。
思えば、旅と言えども、ただ一定の場所に留まっていたというだけで、それ以外の場所には旅立ってはいなかったな、と男は思い返す。
国は一つではなく、世界は広い。
此処以外の場所を歩き、その場所で強者を探す。そんな旅をしてみるのも、良いのかもしれない。
求めるものは力。絶対的な力を求めてこそ、自分は自分だったのだ。
「…行くか」
誰に何を告げる訳でもなく、男はコートを翻して王都の入口へと足を運ぶ。
だが、
「師匠」
そんな、もう随分と聞いていなかった言葉を聞き、男は足を止めた。
振り向けば、バアルを持った制服姿の少女が、やはり立っていた。
「今度は何処に行く?」
「…また着いてくるつもりか?」
「まだ師匠を越えてないから。師匠に着いてこなくなるのは、師匠に殺された時だよ。」
「死の恐怖も無くなったか?」
人間の感情、その奥底に潜む死への恐怖。
それは少女にも有った。男との修行で、それを何度も経験した。
それを知っているが故に、男はその問いを投げた。
「師匠の強さの糧になれるなら、本望。」
少女は、相も変わらぬ仏頂面で告げた。
そして、
「居た、居たぞ!」
「早く捕らえろ!」
騎士が迫る。数多の騎士が、迫りくる。
「…学習せん馬鹿共が。」
「斬って良いんだよね。」
「無論だ。」
互いに刃を見せつけて―――疾走した。
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