(無意識に)鬼ぃちゃん目指します   作:全智一皆

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And the journey continues...


終章「そして、彼らは」

 

■  ■

「……」

 シド・カゲノーはシャドウガーデンのベッドで目を覚ました。

 力を入れれば、全身が痛んだ。まだ、男の攻撃によって受けた傷が完全には癒えていない証拠だ。

「…あぁ、そっか」

 僕は、負けたんだ。

 呟き、そして、

「…ッ」

 後悔する。

 慢心していた。力に酔っていた。甘く見ていた。そして、調子に乗っていた。

 あぁ、なんという笑い話だろうか。彼は、ただ他人の力で調子に乗って、生き方を真似ている訳ではなく、本当に『その在り方』で生きている人間で、自分こそが力に飲まれていた愚者であった、などと。

 陰の実力者としての行動? あぁ、実に馬鹿馬鹿しい。そんな行動、あの男には無意味であったというのに。

 あの時の自分は、まさしくモブ。噛ませ犬だったのだ。自分こそが最強であると信じて疑わなかった、馬鹿だった。

 恥ずかしい。実に恥ずかしく、とても愚かだった。

 自分が最も軽んじていた生き方を、まさか自分がしていたなど。これが滑稽でないならば、いったい何だというのか。

「…」

 その挙げ句、多くが自分の代わりになって死んだ。

 付き合いが長いデルタもまた、重症を負った。

 情けない。これが陰の実力者? 陰に潜み、陰を狩る者達を統べる長?

 そんな訳があるか。そんなことがあってたまるか。自分は、ただ調子に乗っていただけの莫迦だったのだ。

「………」

 悔しい。恥ずかしい。

 自分がしてきた事の全てが壊された気分だ。自分の行い全てが無意味だと世界から言われたような気分だ。

 自分が、あまりにも情けない。

「…シド。」

 アルファ。自分が初めて助けた女性。

 心配するような表情の彼女を見れば、グサッ、とナイフを突き立てられたような鋭い罪悪感に襲われた。

「アルファ…」

 彼は、そもそもとして彼女を、いや、彼女達を、心の底から信じていなかった。

 自分が異端である事を理解しているが故に。自分の思考が、行動が、世間一般からすれば異常であると知っているが故に。

 陰の実力者ごっこに付き合わせている。皆はそれに付き合ってくれている。そう思っていた。

 だが、彼の存在を知ってから、自分の言動が全て真実であった事に気付いた。

 ギルバ・カゲノー。またの名を、ヴェルギリウス。

 ディアボロス教団の実験体、その最高傑作。

 ただの作り話であった筈のディアボロス教団は、魔人ディアボロスは、実在していたのだ。

「…ごめん、アルファ」

「え…」

 故に、彼は謝罪した。

「これは、僕の責任だ。愚かな僕が、君たちを巻き込んでしまった。」

 最初から事実に気付いていれば。

 事実を受け入れて、彼女を信じて、本気で鍛錬を積んでいれば。

 もしかすれば、結末は違ったかもしれない。

「そ、そんな…! シドは何も…!」

「いや、僕の所為だ。僕の生半可な覚悟と行動の所為で、犠牲を出した。」

 彼女の言葉を遮るようにして、彼は続ける。

「浅はかで、愚かだったよ。僕は…ただの道化に過ぎなかった。」

「シド…」

「僕は責任を取る。その為に…強くならなければいけない。」

 彼女達の為に、そして責任を取る為に―――遊びは、もう、辞めだ。

 道化を止めるなら、悪魔を倒すのなら、さっさと修羅に墜ちる覚悟を決めろ―――影野実。

 

□  □

 クレア・カゲノーは、立ち尽くしていた。

 屍ばかりが積み上げられた王都。その道を、平然と歩く二人に呆然としていた。

 片方は実の兄。片方は後輩。受け入れられない事実ばかりには、呆然とする他なかった。

「にいさん…」

 呼べど、振り返らず。男は、少女と共に王都の外へ行こうと歩を進める。

「――」

 かちゃ、と、音がする。それと同時に、手が何かを握り締める。

 何の音だ? 自分は何を握り締めている?

 一歩、踏み出す。/行かないで。

 二歩、踏み出す。/まだ行かないで。

 三歩、駆け出す。/せめて、一度だけ。

 四歩―――振り翳す。/せめて、もう一度だけ――剣を交えたい。

「…」

 男は即座に振り返り、抜刀しないまま、振り下ろされる直剣へと閻魔刀を振り上げる。

 キィンッ――!

 クレアの直剣と、閻魔刀の鞘が打つかり合い、鋭い音を響かせる。

 直剣は弾かれ、体ががら空きとなった瞬間、

「ぐあっ!?」

 男は振り上げた閻魔刀をそのまま振り下ろし、クレアの脳天を叩いて地面へと打ち付ける。

 剣は手放され、脳が揺れる。視界が霞み、二人の姿が遠くなる。

「待って…」

 男は止まらない。

「まって…」

 男は前に進む。

「にいさん…」

 男は少女と共に歩む。

「―――おいていかないで」

「……」

 足が、止まった。

 男は振り向かない。だが、少しだけ、本当に少しだけ、立ち止まり、

「世話になったな。」

 一言、彼女へと感謝を述べた。

 それは、正確には彼女だけに向けられたものではなく、カゲノー一家に向けられたものなのだが。

「―――」

 だが、彼女はそれを自分のものと受け取った。

 しかし、それでも良いのかもしれない。それこそが、兄に感謝を述べられた事が無かった彼女にとっての救いとなるのだから。

 

 

「王都の次は、何処に行きますか?」

「カエルム帝国という国に向かう。其処は傭兵の国と聞いた。」

「傭兵の国…」

「腕利きの傭兵が数多く居るらしい。お前も、腕を試すには丁度いいだろう。」

「そうですね。そうある事を願います」

 男は、少女と共に力を求める旅へと、再び向かう。




第一章は、これにて終了。
次章はオリジナルストーリー、カエルム帝国編となります。
次章も皆さんに楽しんでいただけたなら、幸いです。
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