(無意識に)鬼ぃちゃん目指します   作:全智一皆

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Journey to the land of mercenaries.


カエルム帝国編
序章「帝国への旅路」


 

■  ■

 カエルム帝国。

 それは古より実在し、傭兵として数多の戦に参戦しては勝利を収めてきた強者共の国。

 またの名を―――『傭兵の国』。

 其処に住む殆どの民が凄腕の傭兵であり、依頼によって昼夜とわずゴーストタウンのように人が居なくなるのは当たり前であるという。

 その帝国には、『争神』と呼ばれる傭兵が居るという。その噂を聞き付け、男と少女は帝国へと行き先を決めたのだ。

「そういえば師匠、弟さんはどうでしたか? 強かったですか?」

 森の中を歩いている時、ふと少女がそんな事を聞いてきた。

 弟―――シド・カゲノーは、シャドウは、男の眼鏡に叶う程に強かったか? と。

 男は不機嫌に顔を顰めながら、

「あれが弟など、断じて認めん。あれはただの道化だ。」

 強い、等とは決して言わず、そして自らの弟である事すらも否定し、戦士でもなければ組織の長でもなく、ただ力に振り回されていた道化であった、と答えた。

 男にとってすれば、王都で自ら剣を鍛え、最後には自分に剣を向けたクレアの方が断然マシだ。

 シド・カゲノーという存在は、男からすれば目にすることすらしたくないと思ってしまう程の嫌悪感を抱く、ただの道化でしかないのだ。

「道化…言い得て妙ですね。まぁ、あまり剣の鍛錬を積んでいた訳ではありませんでしたけど、魔力制御技術は高かったですよね。」

「魔力に頼った武術など、武術とは言えん。己の腕のみでの研鑽の先に、頂が有る。そう教えた筈だが?」

 男は、自身が持つ絶大な魔力による身体能力の強化を使わない。

 魔力を頼り、自身の身体能力を強化して振るう刃など、それはただの棒切れにも等しく、対した価値など無い。

「はい、私もそう思ってますよ。ただ、ちょっと勿体無いないな、って思っただけです。」

「シド・カゲノーがか?」

 あれに勿体無いと思う程の要素など有っただろうか? といった疑問を、男は浮かばせる。

 男には、あれの何処にもそのような要素は無かったのだ。

「彼、技術が全部中途半端だったんですよね。剣の腕も、武の腕も、全部。」

「…」

「多分、途中で止めてたんだと思います。様々な技術を学ぼうとして、中途半端で終わらせて。中途半端な技術を中途半端な技術で補って、まるでそれが完全なもののようにして。それに高い魔力制御技術が加わって、傍から見れば完全な戦士な様。」

 つまるところ、技術の完成度が50%のもの同士を組み合わせて、中途半端な技術をまるで完全に研ぎ終えた技術であるように振る舞っていた、という事である。

 少女から見て、シド・カゲノーは剣技のみならず、武技すらも中途半端なものであった。

 だが、彼はそれらの技術を組み合わせ、それに持ち前の高い魔力制御を加え、技術が中途半端である事を隠し通していた。

 事実、彼女以外の誰もが彼の技術が中途半端である事を見抜けていなかった。

「…ふん。一を極める事が出来ずして、全を極める事など出来る訳もなかろうに。」

 だが、例えそうであろうとも男はシド・カゲノーを認めない。

 シド・カゲノーが、道化を辞め、完全なる修羅に墜ちた瞬間を見るまでは―――決して。

 

□  □

 夜となり、二人は森の中で野宿をする事となった。

 だが―――ただ野宿をする程に、この二人の関係は緩いものなどではない。

「…!」

 刃が空を滑り、男の首目掛けて容赦無く振るわれる。

 完全なる間合い。だが、ソレは男にとっても同じである。

「…」

 男は閻魔刀の刀身を僅かに晒し、その僅かな刀身のみで少女の一撃を簡単に防ぐ。

「ぐっ!?」

 ドンッ! と、腹部に強い衝撃が伝わる共に、少女が後方へと呆気なく吹き飛ばされる。

 少女の一撃を防いだ瞬間に、男が少女の腹部へと蹴りを入れ込んだのだ。

 少女は吹き飛ばされ、されど苦しむ事はなく、すぐに態勢を立て直して呼吸を整えた。

「…ふ」

 男は感心する。

 少し前までは、この程度の攻撃で苦しんでいた少女が、今では痛みに慣れて、すぐさま態勢を立て直せるようにまでなっている。

 剣を振るう際には容赦も消え失せ、本当に敵を斬る勢いで戦うようにもなってくれた。

 鍛えた甲斐が有った。そして、これからも鍛え続けれる可能性を見出した。

「―――」

 少女の眼光が、鷹の如く鋭くなる。

 師を見る目ではなく、敵を見る目となっている。これも、成長の一つだった。

 雷刃を構え、小さく息を吐いた瞬間―――

 ビリッ!

 稲妻が、迸った。

 青い一筋の小さな閃光と共に、少女の体が消え失せた。

「…!」

 時間は、まさしく刹那の一瞬。

 一瞬にして、少女は男との距離を詰めるどころか背後を取り、薙ぐように雷刃を振るっていた。

 もしも、この修行を見ている者が居たならば、誰もが少女の勝ちを確信した事だろう。

 だが―――現実は、そうではない。

「ふっ―――」

 男は少女が消えた瞬間に閻魔刀を消し、『魔拳ディアボロス』に武器を入れ替えていたのだ。

 ガシッ――と、男が雷刃を掴む。

 それは少女がどんなに力を込めようとびくともせず―――

「ハッ!」

 ドゴッッ! と、少女の顔面に回し蹴りが叩き込まれた。

 鈍い音が森に響き渡り、顔面に蹴りがめり込まれた少女がバアルを手放し宙を舞う。

「―――ほう」

 だが、男は追い込まなかった。

 何故なら―――少女は、顔面に蹴りを食らっていなかったのだから。

 少女は、蹴られる瞬間にバアルの鞘を腰から抜き、盾のようにして男の回し蹴りを何とか防いでいたのだ。

「っ…」

 鞘を地面に突き刺し、衝撃で後ろに引き摺られそうな体をどうにかその場へと押し止める。

 衝撃を殺すことは出来なかったが、しかし直撃は免れた。

 瞬時の判断も出来るようになるとは。良い成長だ。

「…」

 刀本体を少女の方へと放り投げ、男はディアボロスを構える。

「ディアボロス…修行で使われるのは、これが始めてですね。」

「貴様が相手なら、奴も不満は無いだろう。」

「…よく奴って言いますけど、お気に入りの人だったんですか?」

 バアルを構えながら、少し不貞腐れたように少女が問う。

 それに対し、男は暫し考えて―――

「…そうだな。気に入っていた。」

 少し笑いながら、少女へと飛び掛かり、蹴りを放った。

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