(無意識に)鬼ぃちゃん目指します   作:全智一皆

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Both men and girls seek power.


第三話「力を求め合う者」

 

■  ■

 少女に剣を教えるようになって、一週間という時間が経過した。

 結論から言えば、少女は見込みのある実力者だった。

 英雄の血を引くからなのか、それとも元から素質があったのか。場所が場所であれば、『天才の剣』と称されるであろう剣の腕を、少女は持っていた。

 男は考えた。元が天才であるならば、いつかは高みへと登る。その時に、最終過程として自らと死合わせよう――と。

 元々、少女に剣を教えようと考えたのは自分を重ねたから、という訳ではない。

 どれだけ意思が強かろうと、いつかは限界を迎えるだろう。そんな考えで、そうすれば切り捨てようという程度の考えを抱いていた。

 だが、現実は、その真逆。少女は意思も実力も強いものだったのだ。

 であれば、自分と同等になるか、もしくはそれ以上の力を得るに足りる少女がそうなった際に、切り捨てれば、自分はさらなる力への一歩を踏めるのではないか。

 そう、男は考えたのだ。

『Gaaaaaaaaa!!!!!!!』

「…殺るッ」

 故に、遠慮は必要無い訳だ。

 少女の修行内容―――それは、ただ只管に実戦訓練である。

 雑学ならば兎も角、剣を振るうのであれば理論云々など大した意味を成さない。

 実戦で剣を振るい、どうすれば簡単に敵を斬れるかのか、どう剣を振れば敵に致命傷を負わせることが出来るのか、それを考え、経験する。

 それが最も早く実力を身につけるのに効果的なのである。

 まぁ、そもそもとして常日頃から剣を振るい、今の剣技の領域へと至った男にとっては、理論云々の説明など考えた事も無いのだ。

 そんな訳で、少女は現在、魔獣と対峙していた。

 男はその様子を、先に自らの手で葬った魔獣の屍の上で見ていた。

 少女は、賊から奪った直剣を構え、唸る魔獣へと切っ先を向ける。

「…」

『Gu!』

 先に仕掛けたのは、魔獣の方だった。

 魔獣は鋭利な爪を持った腕を振り上げ、少女の小さな体を斬り裂く勢いで振り下ろす。

 流石は魔獣と言ったところか。その攻撃は素早く、並の魔剣士では対応する事も出来ない一撃だった。

 だが、長きに渡る間、男の剣技や戦闘を見てきた少女にとっては、男に何度も何度も斬り付けられ、死ぬ寸前まで剣を振るった男との修行に比べれば、それはどうという事も無い一撃だ。

 少女は下がるではなく、前へと動いて腕の一撃を躱し、同時に構えた直剣を振り上げて魔獣の腕に一閃を入れ込んだ。

「…」

 男は、やはり天賦の才を持っているな、と少女の一閃を見て確信する。

 剣に対する天賦の才能―――本能的に、敵を斬るべき瞬間を理解する事が出来る頭脳とそれに対応出来る身体能力を、少女は持っているのだ。

 高い魔力による身体能力の強化もあって、少女の剣は戦闘を重ねるごとに着実に上がっている。

 一週間という僅かな時間であるにも関わらず、しかし少女は強くなっている。それが何よりの証明だ。

「…フッ!」

『Ga!?』

 少女の剣が、魔獣の腹に一閃を刻む。

 鮮血は跳ぶ。だが、少女は鮮血すらも避け、更に魔獣へと剣撃を叩き込んでいく。

 一撃一撃、その全てが音速の域。普通の人間の目には、映ることも無いだろう。

「…」

 だが、男にとっては、それではまだ足りない。

 神速の領域に立っている男にとっては、音速程度の実力で留まってもらっては困るのだ。

『――』

 深く、少女と魔獣の戦いを見届けている男の背後に―――また一匹の魔獣が、忍び寄っていた。

 大人よりも大きな肉体、黒い翼と蛇の尻尾を持った獅子。

 この世界における悪魔の一体―――「雷獣バアル」である。

「っ、師匠!」

 いつの間にか魔獣を仕留めていた少女が、バアルの存在に気付き、師匠と、男に叫ぶ。

 だが、男は振り向くこともしない。寧ろ、はぁ…と深く溜息を吐き、

「Shut up.」

 と、厳しく言った。

 ドゴォンッ! と、男が座っていた、魔獣の屍へと雷が落ちた。

 だが、其処には男の姿など無く、ただ黒ずんだ魔獣の屍だけが残っていた。

 バアルが慌てるように辺りを見渡す。ついさっきまで眼の前に居た筈の男が、何処にも居ないのだから。

 少女も同じように辺りを見渡し――そして、

 バアルの真上で、閻魔刀を振り下ろすように構えている男を、見付けたのだ。

「跪け」

 自重によって地面へと落ちていく男の手に握り締められるは、次元をも斬り裂く鋭利を持った硬く流麗な剣―――『閻魔刀』である。

 落下の勢いと男の力、そして閻魔刀の鋭利が重なった兜割りの如き一撃―――『閻魔刀墜撃斬』。

 ザンッッ―――

 バアルの顔面に、大きな一閃が刻まれ、その顔面には鮮血と共に縦に斬撃の跡が残った。

『Gaaaaaaaa!?!?!?!?』

「…弱いな。」

 たった一撃によって、大きな悲痛な叫びをあげる魔獣バアルに、男は呆れ、そして失望する。

 バアルが叫ぶ中、鞘に納めた閻魔刀の柄を握り、斬り捨てようと刃の半身を鞘から現し―――

 キンッ。

『―――』

「え」

 時が止まったのではないか。そう錯覚してしまう程の無音が、バアルと少女を襲った。

 男は、背を向けて抜刀していた。

 鞘から抜き、そして薙いだであろう態勢で、男はバアルに背を向けていた。

 やがて男は前を向き、閻魔刀を鞘へと戻していき、

「―――もう斬ったぞ。」

 チャキ―――と、鍔を鳴らした。

 その瞬間、パリン、という何かが割れる音と共に、魔獣の体が横から崩れ落ち、ぐちゃ…と、その場に斃れた。

 何をしたか? 実に単純だ。

 ただ、目に映るどころか、他人の感覚が追い付かない程の速度で抜刀し、斬り捨てた―――ただ、それだけのことだ。

 男が持つ、抜刀術という技術の中でも『次元斬』に次いで速いとされる神速の剣技―――『時空裂閃』である。

「…」

 崩れ落ちた魔獣バアルの死体から、燦々と輝く塊のようなものが浮かび、男の方へと向かっていく。

 男はそれを右手で掴み取り、強く握り締める。

 男の右手に現れたのは―――現代において、『長脇差』という種類に分類される刀であった。

「…ふん」

 閻魔刀を腰へ差し、その脇差しを左手に持った瞬間―――男は、茫然としていた少女の方へと疾走し、抜刀した。

「っ!?」

 バチッ、ギィンッ!

 咄嗟に直剣を構え、どうにか男の一撃を防ぐ事が出来た少女だが、その目線が自らの直剣へと向けられる。

 じ、じじじ…と、嫌な音を立てながら――直剣が、少しずつ脇差しの刀身によって解けていたのだ。

「…ほう」

 その武器の特性を理解したのか、男は更に力を込めて刃を押していく。

 押し込まれ、押し込まれ、そして―――遂に、直剣はパキッ、という音と共に、呆気なく切り捨てられたのだった。

 武器を壊された少女が、その事実に驚愕する。だが、それは隙である。

 バチッ、バチバチ…と、小さな雷が迸っている刀身が、少女の小さな首へと、刃が触れる寸前のところまで近付けられた。

「…ふん」

 だが、男は少女の首を斬ることはなく、そのまま脇差しの刀身を少女の首元から離し、鞘へと納め、帰路を辿るのか少し歩いてから

「俺には不要だ。貴様が持っていろ。」

 と、その脇差しを少女へと投げたのだ。

 少女は少し驚きはしたものの、しかしその脇差しをしっかりと受け取り、

「…!」

 嬉しそうに、その脇差しを腰に差して男の後を追うように早足で駆けた。

 

【雷刃バアル】

雷の魔獣バアルの魂によって創られた魔具。その刀身と鞘には雷の力が宿っており、それが鉄であろうと溶かし、斬り裂くことが出来る。

 

いつか墓標の代わりにもなるか、それとも愛用され続ける武器となるか。それは、その時の男が決めることだ。

 

□  □

 少女に剣を教えると言い、共に暮らす事となってから一気に二年という長い時間が経った。

 男にとって、それは予想外だった。まさか二年もの間、少女と共に暮らす事となるとは思いもしなかったのだ。

「魔物、もう居なくなったね。」

「…そうだな。」

 ある時、少女が言ったそれの、男は同意を示した。これもまた、驚くべきことだった。

 大体は無視するか短い言葉で済ませるだけだった男が、少女と会話を成立させているのだ。

 まぁ、大事なことではあるがさておいて。

 二人が住む廃村の周りに居た魔物は、その全てが居なくなってしまった。

 何故か? この二人が、周辺に居た全ての魔物を狩り尽くしてしまったからである。

「これじゃあ、修行も碌に出来ない…」

「…場所を移すか。」

「行く宛があるの?」

「前に、この辺りに来た騎士の事を憶えているな?」

 男の問いに、少女は憶えてると返す。

 過去、一年ほど前の事だ。二人が住む廃村に、幾人かの騎士達が訪れたのだ。

 魔物の数が激減しているという情報が何処からか流れ、調べに来たのだ。

 恐らくは、この廃村の周辺以外にも村があるのだろう。其処の住人が、王都へとその情報を流したのだろう。

「確か、難癖つけてきたから殺しかけたよね?」

「あぁ。喧しい連中だったからな。」

 どうやら少女も男に似て、殺伐に育ってしまったらしい。

「聞き出した情報が正しければ、其処には『ミドガル魔剣士学園』という魔剣士を育成する学園が有るらしい。」

「…あ、もしかして私が其処に行く?」

「それ以外に何がある。」

 さも当然のように、男は言った。

 ミドガル魔剣士学園に、少女を入学させる、と。

 だが、少女は反論した。

「でも、それだと“父さん”が一緒じゃない。」

 男が一緒ではない、と。

 父さん、と呼んだ少女を男が久しく睨む。だが、少女は平然としている。

 彼女には血の繋がった父親が居たにも関わらず、彼女は男の事を父と呼び始めた。男にとっては、これが実に不快であった。

 だが、もう数年。男も半ば諦めていた。

 男は続ける。

「俺が行く必要など無い。貴様が一人で経験すれば良い。」

 男が少女を学園に向かわせるのは、鬱陶しいからという理由も有る。だが、その理由よりも重要なものがある。

 今の今まで、ほぼ常日頃から男と少女は共に居た。

 修行の時は勿論、食事といった生活の中でも、だ。

 つまり、一人での経験があまりにも乏しいということである。

 実戦は一人ではないのか、と聞かれれば、その答えはNo。基本的、実戦は自分の他に仲間が居るか、それとも敵に仲間が居るかの二択である。

 一人で戦う事に少女は慣れていない。何故なら、少女の戦闘を見届ける者が常に居たのだから。

 少女は無意識に、安心してしまっているのだ。

 男は、少女を強く育てなければならない。その為に、少女には一人で暮らしてもらわなければならないのだ。

「…此処に留まるの?」

「誰がそんな事を言った?」

「え…?」

 少女の、男は此処にとどまるのか? という質問を、男はばっさりと斬り捨てた。

「いい加減、この廃村も真の意味で廃れてきた。暮らすには不十分過ぎる。賊や騎士から奪った金も、王都であれば役に立つだろう。」

 廃村も長い月日が経った事で、遂に本当の意味で廃れきったようだ。

 男としても、そんな村で暮らすのは御免なのだろう。

「それに…ある噂も聞いた。」

「噂?」

「騎士によれば、最近―――

 

『シャドウガーデン』という組織の名が、王都で上がっているとな。」

 

 影に潜み、影を狩る者達の組織『シャドウガーデン』と、力を求め、悪魔の力を手にした男が接触するまで―――あと、僅か。




Not long until the shadow and the devil face each other.
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