(無意識に)鬼ぃちゃん目指します   作:全智一皆

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Man confronts. With those who know their own truth.


第四話「王都での戦い」

 

■  ■

 夜、寒空の下。

 朝も晩も構わず、王都は賊に溢れている。

「…」

 そんな夜の王都を、男は堂々と歩いていた。

 黒いコートと閻魔刀という、いつも通りの格好で、男は人気の無い、静かな夜の王都を歩いていたのだ。

 数日前、男は少女をカゲノー本家に渡し、離れた。

 少女をミドガル魔剣士学園に入学させる為には、貴族としての履歴が必要だ。

 その理由を与える為に、男は少女を強引に気絶させて実家であるカゲノー本家に預けたのだ。

 見覚えのある使用人が、少女について特に何を言うでもなく「承りました」とだけ言って、少女を預かってくれた。

 去ろうと背を向ければ、その使用人は少女を抱えたまま、

『どうか、貴方の願いが叶いますように。』

 と、使用人らしい言葉を残して屋敷へと戻って行った。

 それからは王都に潜り、その影で、男は生きていた。

「見つけたぞ、『ウェルギリウス』。」

 王都の道、静けさばかりが広がっている道で、男の背後からそんな言葉が掛けられる。

 ゆっくりと、男は背後を向く。親指で、閻魔刀の鍔を押し上げながら、じっくりと。

 其処に立っていたのは、直剣を携える、学園の教師のような格好をした男だった。

「…ディアボロス教団か。」

 だが、男は、その教師のような格好をした男がただの人間などではなく―――ディアボロス教団に所属している人間であると気づく。

 ウェルギリウス―――ディアボロス教団で実験体にされていた時に名付けられた名前である。

「御名答。ディアボロス教団、ナイト・オブ・ラウンズ第三席、アドラ・フェルトだ。」

「…ほう。」

 ナイト・オブ・ラウンズ―――ディアボロス教団における、12人の最高戦力。

 その第三席ともなれば、その実力は高いだろう。

 男はアドラ・フェルトへと、彼の実力の高さへと期待を膨らませ、

「何の用だ?」

 何故、俺に接触してきた――と、問を投げた。

「おいおい、そりゃ早とちりだ。別に、俺はお前を連れ戻そうなんて考えてない。」

「…では尚更、不思議だな。何故、俺に声を掛けた。」

「んー…そうだな。一足先の宣言だな。」

「…」

「お前が育て上げてるアイツを、俺達が」貰う。

 そう、言おうとして、止めた。

 いや、正確には止め“させられた”――だ。

 最後まで言おうとした次の瞬間、アドラの眼前に鋭い刃が迫っていたのだから。

「っ!」

 ギンッ!

 咄嗟に抜いた直剣と閻魔刀が打つかり、鈍い音と火花が夜の街に散り、虚しく響く。

「貰うだと? 戯言を抜かすな。奴は俺の“弟子”だ。」

「弟子だと…!? お前、そんな他者に思い入れる奴じゃなかったろ!」

「貴様に指摘される筋は無いな…!」

 ドンッ!

 男は、閻魔刀を受け止めることに集中してしまったことにより隙だらけとなったアドラの腹部に容赦の無い蹴りを放ち、後方へと吹き飛ばす。

 その衝撃によって、アドラの態勢が一瞬、崩れたのを、男は隙と見て、決して見逃さない。

die(死ぬ)

 疾走。そして、抜刀。

 次元を切り裂き、閻魔刀に無数の斬撃を纏い、男はアドラへと疾走する。

 対し、

penetrate(貫け)!」

 アドラは、防ぐことも躱すこともせず、あろうことか無理矢理に態勢を戻して刺突の攻撃を放ってきたのだ。

 “赤いオーラ”を纏ったその刺突は、男の閻魔刀と直撃し、そして互いを“弾いた”。

「…ほう。」

 男は驚いた。いや、驚いた、というよりは感心した、といったところだろうか。

 今の今まで、自分の剣を防ぐ者は数少なく、躱す者など居なかった。

 だが、眼の前の男は、アドラは防ぎも躱しもせず、ただ己の剣技のみで、己の技量のみで、『居合疾走』を弾き返したのだ。

「どうだ? ちょっとは“似てた”かな?」

 楽しそうな顔を浮かべるアドラの言葉に、男は顔を顰めた。

「…貴様、」

「みなまで言うなよ、ウェルギリウス―――いや、「バージル」。お前の実験と訓練の計画を練ったのは俺なんだ、お前のことは隅から隅まで知ってるよ。」その魂についても、な。

 その最後の言葉を聞き、男はかつてない程の不快感に襲われた。

 何に対する不快感だ? 自分の事を隅から隅まで知られていることか? 自分の剣技を知られていることか? それとも―――先程の、自分の剣技に“似た剣技”に対する不快感か?

「…いいだろう。貴様は今、此処ですぐに殺してやる。」

 だが、それよりも、不快感なんかよりも、男の殺意がそれに勝った。

 今此処で、この時に、眼の前の男を斬り殺さなければ―――そんな、使命じみた執念に駆られて。

 アドラは、また楽しそうに笑う。

「良いぜ、来いよバージル。俺は「ダンテ」には成れねぇがな。」

 両者が剣を構え―――踏み込む。

 鞘に納まった閻魔刀の柄を逆手で掴み、下から上へと振り上げるように男は殺意を込めて抜刀する。

 抜刀は神速。だが、アドラは男の剣を見切り、体を横に逸らして躱し、男の首へと直剣を振り下ろす。

 カァンッ!

 火花が散る。鞘と直剣が殴り合い、また弾かれ、

「シィッ!」

 されど男は隙を見せぬ。

 閻魔刀を逆手から順手に持ち替え、男の首をそのまま切り落とす勢いで、閻魔刀を薙ぐように振るう。

 それが通常の相手であれば、そのまま首を斬り落とされ、絶命していたことだろう。

 だが、この男は。アドラ・フェルトは違う。

「よっと!」

 アドラは即座に直剣を地面に突き刺し、その鍔を踏み台にして空へと跳ね、閻魔刀の一撃を躱したのだ。

 閻魔刀の一撃は空振りで終わり、しかしアドラのターンは未だ終わっていない。

 空へ跳んだアドラは、男の真上で脚を振り翳し、

Fall!(落ちろ)

 男の脳天目掛けて、兜割りの一撃を叩き込

「―――」

 む事は、叶わなず。

 閻魔刀は消え、男の両手両足には―――黒い籠手と具足が纏われていた。

 男は腰を落とし、両足に力を込める。

 ぐん、と、具足から発せられる赤い光が強くなっていき、男は――“ただ、跳ねた”。

「マジかッ…!」

 だが、アドラは“それを知っている”。

 バギッ…!

 何かが砕ける音が、夜に響き渡る。

 びちゃびちゃと、大量の血が地面へと落ち、広がっていく。

「ッッ…あぁ、クソっ。まさか“ベオウルフ”をもう手にいれてるとはな…!」

 地面に倒れ、呻きながらアドラが愚痴を吐く。だが、男にはアドラが何を言っているかなど、分からなかった。

「…」

 不快だ。これは、純粋な不快感だ。

 ベオウルフだと? そんなものは知らない。

 これはディアボロスだ。『魔拳ディアボロス』―――この世界で、ただ一人、自分の剣を純粋に褒めた女の魂、その証だ。

 断じて―――ベオウルフなどというものでは、ない。

 男は具足を履いた足を、アドラに向けて振り上げ、

「目障りだ。」

 そう言って―――アドラの顔面目掛けて、脚を振り下ろした。

 

□  □

 アドラ・フェルトを殺し、盗賊を狩りながら情報収集を続けて数週間が経った。

 王都の暮らしにも素早く慣れ、『シャドウガーデン』という組織の情報を集めながら毎日を過ごしていた男だったのだが。

「――に、兄さん…!?」

 偶然にも、身内と再会する事となったのである。

 クレア・カゲノー―――カゲノー家の長女にして、男が自ら斬り捨てた、血の繋がった実の妹である。

「…クレアか。」

「…!?」

 彼女の名を呼べば、彼女は目を見開き、開いた口元を手で抑えた。

 男は「…何に驚いている?」と、若干、顔を顰めながら彼女へ何に驚いているのかを問う。

「に、兄さんが…私の名前を、憶えててくれた…!?」

「……」

 彼女はどうやら、男が自分の名を憶えていたことに感動しているらしい。

 思い返してみれば、男はクレアの事を人として気にした事が一度足りとも無く、基本的には剣で斬り伏せるか無視するかの二つしかしていなかったのだ。

 彼女からしみてれば、自分など『そういえば居たな』程度の認知さえされていればマシだったのだろう。

 それが名前を憶えていてくれたのだから、感激ものである。

「…クレア、お前もミドガルに入ったのか。」

「え、えぇ。…お前も?」

「…聞いていないのか? チッ…報告も出来ないのか、あの男は。」

 舌を打ち、男は自分の父親へと毒を吐く。

 親であるならば自分の娘に何らかの報告くらいしないのか、と男は更に愚痴を吐き捨てる。

「えっと…どういうことなの?」

「…俺の弟子もミドガルに入る。」

 

「―――弟子?」

 クレアは、その場に倒れた。

「………」

 男は、訳が分からないと頭を抱えた。




The time will come when the master of shadows and the man will cross swords.
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