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シャドウガーデン本拠地にて、シャドウガーデンの最高戦力たる『七陰』のリーダー的存在である「アルファ」は、リーダーである「シャドウ」―――もとい、「シド・カゲノー」にある男の情報を説明していた。
「『ウェルギリウス』?」
「えぇ。つい最近、夜の王都で、ラウンズの三席であるアドラ・フェルトがそう呼んでいたらしいわ。」
どうやら、シャドウガーデンが二人の戦闘を何処からか覗いていたらしい。
「例え貴方でも、注意しておいた方が良い人物なのは確定よ。相手をしていたのはラウンズの第三席…ディアボロス教団でもかなりの実力を持っていたアドラ。それを傷一つ負わず殺したのだから、ラウンズよりも強いことは明らかだわ。」
アルファの真剣な言葉に、しかしシドは「ふーん…そっか。」と、返すだけだった。
皆は思う。シャドウにとって、ウェルギリウスは気にする必要も無い相手である…と。
「あと、バージル…とも呼んでいたらしいわ。それが男の本名かもしれない。」
ぴくっ、と。シドの体が止まった。
(…バージル? バージルって、あのデビルメイクライのバージルか? 鬼ぃちゃんで有名なバージルさん? ってことは、僕と同じ転生者? そういえば、長男の名前はギルバ・カゲノーだったよな…あれ、もしかしてそういう事か?)
シドは、勘違いを始めていた。
カゲノーの長男――ギルバ・カゲノーは自分と同じ転生者であり、成り代わりプレイをしているのだ―――と。
(自分の力じゃなく、貰い物の力か…僕としては、あまり好ましいものじゃないな。)
シドは甘く考えた。何とかなるか――程度に。
妹であるクレア・カゲノーから、シド・カゲノーという弟の存在を知った男は、手紙でやり取りをしていた(不本意)自分の弟子である少女へと『シド・カゲノーという生徒について調べろ』という手紙を送った。
それから一週間が経ち、少女からの手紙が届いた。
犯罪者達に襲撃され、シド・カゲノーは教室で斬り殺されたらしい。だが、少女には、それが“あまりにも出来過ぎている”ように感じたらしい。
少女から見て、シド・カゲノーはローズ・オリアナという少女を庇いに自ら駆けたのではなく、斬られたいから駆けたように見えたらしい。
それから体育館に連行されたが、そこからはシャドウガーデンが現れては皆を救ったのだと。
リーダーを除き、その場に居る全員が女であり、また全員がかなりの実力者であったとも。
また、そのリーダーである「シャドウ」はシド・カゲノーと完全に同じ声をしていたらしい。
「…」
手紙が遅かったことに関してはとやかく言わず、男は手紙を読んで思考を始めた。
少女の情報は正しいものであると仮定して考えれば、シド・カゲノーがシャドウガーデンのリーダーである事は確定。
そうであるとして、活動の理由は分からない。
シャドウが、一体何のためにシャドウガーデンという組織を創設したのか。そして、何を理由に活動しているのか。
考え、考え―――男は、
「…聞けば分かるか。」
実力行使という最も速い方法に至った。
「…!」
手紙を閉じた直後―――膨大な魔力の波を、男は感じ取った。
壁に掛けた閻魔刀を掴み、扉からではなく窓から外に出れば、更に強くなり続ける魔力を肌を直に感じる。
あまりにも大きく、津波と大差のない魔力。現代で表すならば、まさしく、核兵器をも越える程のものだ。
男は理解した。その魔力が発生している場所に、男が越えるべき強き者が居るのだと。
「
己の魂、その叫びの言葉を口にし、男は―――『悪魔と化して』、その力の方へと飛び去った。
□ □
「真の最強を、その身に刻め―――I am」
剣を振り下ろし、シャドウを中心とし、紫の奔流による、核爆弾にも並ぶ程の大爆発が
―――起きなかった。
ドゴォォォンッッッッッッ!!!!!!!!!!
天井が崩れ落ち、蒼白い閃光がその場を包み込んだ。
鮮血が、シドの頬に跳ぶ。それは眼の前で、真の最強とやらを刻もうとしていた敵のものだった。
「
キンッ――、ザンッ!!
シャドウが立っていたその場の次元が歪み、シャドウの体が余すこと無く斬り刻まれる。
その衣服も、剣も、何もかもが斬り刻まれ、体の中身を含めた隅々が傷だらけとなる。
「ガッ…!?」
激痛が迸る。それまで感じたことのない苦痛が、全身へと走る。
何の痛みだ、何の傷みだ…? この、感じたことのない傷みは、一体何だ…!?
「
煙が晴れ、現れるは―――悪魔。
頭や腕から蒼い炎を発する白い肉体、背中に背負った青い光の剣。右手に持った反った流麗な剣。
「剣を構えろ、シャドウガーデン。」
閻魔刀を地面へと突き刺し、悪魔は宣告する。
「これが、貴様の墓標だ。」
本物の鋭い殺意が、シャドウを襲う。
それが、その本物の殺意が、それまで破綻してしまい、粉々に壊れてしまったと思っていた、シャドウの――否、「影野実」という一人の人間の、奥底に眠っていた『恐怖』という感情を呼び覚ました。
完全なる殺意。お前を殺すという想いだけが込められた、刃物のように鋭く、壁のように厚い気魄。
緊張や恐怖、熱意といった無駄な感情が一切籠もっていない純粋な殺意、殺気。
本当の死闘。本気でやらなければ―――死ぬ。
彼の本能が、精神破綻者である彼の意思が、そう叫んだのだ。
「ッ…」
「行くぞ――」
蒼い炎を鞘のようにして閻魔刀を納め――悪魔は、影の主へと駆ける。
居合疾走。神速の抜刀術による突進攻撃であり、閻魔刀によって次元を斬り裂いて別次元から数多の斬撃を呼び寄せ、突進する剣技。
『真魔人化』によって身体能力が極限にまで強化された状態で放つそれは―――『慣性の法則』を無いものであるかのように簡単に無視する。
ヒュン、ヒュンヒュンヒュン―――!
目に見えても、耳に聞いてもわかる程の無数の斬撃が迫ってくる。
シドは眼前にまで迫った無数の斬撃と刃を、何とか紙一重で躱す。
だが、
「なっ…!?」
躱した次の瞬間に、斬撃と刃は既にシドの眼前へと再び迫っていたのだ。
もはや瞬間移動したのと大して変わらないその速度。まさしく神速…!
「ぐはっ!?」
遂に、数多の斬撃はシドに直撃した。先の次元斬よりも多い斬傷が刻まれ、そこら中に流血が跳ぶ。
はやく、早く傷の修復を…!
「散れ」
キンッ――
再び、次元が斬り裂かれた。
鮮血が飛び、肉が裂ける。目が、舌が、喉が、何もかもが、再び更に斬り刻まれる。
瞬間、ブォンッ―――と、シドの周囲を囲むように、浅葱色の短剣が出現した。
「突き刺され」
ザキッ、グサッ!
短剣が一瞬にして突き刺さり、そして砕け散った。
だが、それはある意味での爆散である。短剣が突き刺さり砕け散ったのは、短剣の脆さもあるが決してそれだけではない。
突き刺さった瞬間に、魔力を乱し爆発させる技法だ。
それにより、シドは上空へと跳ね上げられた。
「翔べ」
疾走し、再び斬撃を呼び起こす。真上に行くシドを斬り裂き、そのまま斬り上げ、更に体を廻し、回転して斬り裂く。
居合疾走から繋ぐことが出来る回転斬り上げの剣技―――『羅閃天翔』である。
「っ…!」
宙に上がったシドは魔力制御を行い、スライムスーツとスライムソードの形を変え、球体のような状態となって防御に徹した。
相手は強い。あまりにも強い。自分以上に。自分よりも遥か高みの領域に立っているのだ。
防御に徹するが最良なのだ。
「フンッ!」
ならば、男はどうするか?
それは実に簡単だ―――『破壊』すれば良い。
ぐん、ぐんぐん―――と、段々と力が溜まっていく。
シドは感知する。外で、男の腕と脚に魔力が溜まっていくことを。
「壊れろ!」
ブンッ! と、籠手を振り抜けば、その球体は呆気なく粉々に破壊されてしまった。
「なんで簡単に壊せるんだ!」
つい、シドは吐き捨てた。
魔力伝導率99%、膨大かつ濃い魔力を溜め込むシドの魔力を持ってすれば、その防御力は絶対的なものだ。
だが、それが呆気なく壊された。それは何故か?
実に単純―――ただ単に、その魔具の力と男の魔力制御技術が、シドよりも高いというだけである。
魔力で物体を創り出し、更には手放しても細かく制御するなど、未だシドですら完全に出来ていない技術だ。
「…興醒めか。」
悪魔は落胆と共に、拳を大きく掲げた。
「これで終わりだ…!」
高密度な魔力が、拳へと集まり、高まっていく。
籠手が光り輝き、大気と空間が揺れる。
「…真の最強を、その身に刻め。」
剣を掲げる。魔力を切っ先へと集中させ、自身の周りに魔力の波が立つ。
螺旋の魔力、大気が揺るぐ。
「I am Atomic」
「
影の主は、その剣を、振り下ろした。紫色の奔流が、爆発を引き起こした。
白い悪魔は、その拳を、力強く地面へと叩き付けた。蒼白い魔力が、爆裂した。
What is the difference between demons and shadows?