今思えば酷い人生……褪せ人としての人生だった。訳もわからず狭間の地に来たと思えば巫女なしとかいう絶望から始まり継ぎ木のゴドリック、星砕きのラダーン、満月の女王レナラ、法務官ライカード、忌み王モーゴット、アステールとかいうクソ虫、ミケラミケラと頭のおかしいモーグ……マレニアは美人じゃなければあのような所業まぢ許すまじ……おっとと思考が乱れてしまった。
まあなんやかんやでラダゴン……を殺しエルデの王となった私だが、玉座に座り祝福で休むように目を閉じたと思えば、いつか見た光景が目の前に広がっている。ああ夢か、と思い継ぎ木の貴公子を切り殺せばやけに生々しい感触。まさかと思い死んでみると、薪として焚べられたはずのメリナがまた居るではないか。思わず涙を流し、また会えて嬉しい、と言ってみれば……
『……?ごめんなさい、あなたと会うのはこれが初めてだと思うのだけれど……』
タチの悪い冗談かと思った。開いた口が塞がらないというのはラダーン撃破後に見たあの流れ星以来だっただろう。私が驚愕に包まれているうちに昔のようにメリナが取引をしましょうと言ってきたのだ。頭が回っていなかった私は反射でYESと意思表示をしてしまい彼女は姿を消した。
ならばと思い夜まで祝福で時間を潰しエレの教会へトレントを駆った。いつもの調子だったのであまり記憶にないが商人であるカーレの私に対する反応も、そういえば以前と比べて他人行儀だったかもしれない。ブライヴを紹介してくれたあの時の声音ではなかった。
そして何より、あの教会で私は運命と出会った。彼女なら、彼女だけが私の事を覚えてくれていればいい。エルデンリングを手にし新たな律と共にあの夜へと消えていった彼女ならば……
そして……私は絶望した。すまない、思い出したくもないんだ。これだけは語らせないでくれ。
『忘れたならばもう一度、関係を築いていけばいい』
あの時の私はなんと楽観的だったのであろうか。何故、昔手に入れた数々の武器、防具、魔術、祈祷……それら全てを保持したまま新たな地でもう一度やり直すことができると当たり前のように感じていたのだろうか。
ツリーガード?5秒で消し飛ばした。
パッチ?力加減を誤り、巨人砕きで文字通り砕いてしまった。
マルギット?彗星アズールで喋る暇もなく消し飛んでいった。
今まで苦戦していた数々の領域支配者達は私の力になすすべなくルーンへと変わった。デミゴッドも同様だ。慢心故に死にかけたことは幾度もあったが、死ぬことなんて一体につき一度か二度、ラダーンを誰の手も借りず一人で鏖殺した時には化け物を見る目でブライヴに見られた。
どいつもこいつも歯ごたえがない。私は何をやっているのだろうか、ラダーンがアレキサンダーや翁達を吹き飛ばしていたのはこのような感覚なのだろう。徒らに強かった私は、彼らを有象無象と認識せざるを得なかった。それほどの実力差があった。
それでも、彼女は……ラニだけは以前と同じように私を王と呼んでくれた。指輪を大切そうに見つめる彼女が旅立ったあと、満を持して2度目のラダゴン、エルデの獣との戦い。幾度も死んだ経験が活きたのか以前よりも格段に死ぬ回数を減らし忌々しい害獣を駆除した。
暗月の大剣を装備した私を見て、ラニは嬉しそうな声でおめでとうと言ってくれた。またもや彼女が旅立ち、私はエルデの王となった。
玉座を前に、私は足を止めてしまった。また始まりのあの地へ戻ってしまったら私は正気でいられるのだろうか。夢などではない、2度目だと思ったあの光景は全て現実で今まさにもう一度この玉座で目を閉じてしまったら……嫌な妄想が頭を駆け巡り脳が警鐘を鳴らしている。
全てを雑魚として蹴散らしてきた私には、退屈な感情が微かにあったのかもしれない。それゆえに、未知という好奇心に心が動かされた。意を決して玉座に座り目を閉じる……そして目を開けると……
『ハハッ……ハハハハハハハハハハハハh………クソがァァッァァ!!!!!!』
思えば既にあの瞬間私は壊れていたのかもしれない。『終わらぬ冒険』……いや冒険とももう呼べないだろう、そして私は
どうすればこの地獄が終わるのだろうか……ゴドリックの死体の上で思考に耽っている私にゴストークが語りかけていたのだが、気づかなかった。あまりにも煩かったので思わず殺してしまったのは流石に申し訳なかったな。
そして私は思い出した。ハイータという巫女の存在を。今思えば何故彼女はシャブリリの葡萄など求めていたのだろうか。ラニからの使命をこなすことに夢中で忘れていた。私は彼女に3つのシャブリリのブドウを渡し、指痕のブドウも贈った。
思い出したかのようにデミゴッド達を殺し巨人達の山嶺に辿り着けば、ユラの見た目をしたシャブリリと名乗る男に出会った。
混沌……そうだ。ラニの律でエルデの王となっていたから3周目などという意味のわからない現象が起きているのではないか。愛したはずの女を疑ってしまった私は、狂い火に魅せられ……彼女に敵対した。彼女の律は終わらない夜が関連している。つまり原因はソレにあると考えたのだ。
そしてシャブリリの言う通りドブみたいな色のモーグを殺しその先を目指す。道中メリナがいつになく強い口調で私の行動を咎めてきたが、知ったことではない。
『私がこの終わらない世界を終わらせる』
破顔したメリナの顔は見ものだったがそれ以降、メリナは現れなかった。狂い火の封印と呼ばれる祝福のそばにはハイータがいた。曰く、全てを脱ぎ捨て扉を開けろ、と……言われるがままに下着姿となって扉を開ける。そこにいたのは忌まわしき二本指ではなく三本指。狂い火を我が身に宿した私は各地に散らばる狂い火の祈祷を集め、ラダゴンを蹂躙した。
混沌の……狂い火の王となった私は世界の全てを狂い火の下に等しく全てを終わらせた……はずだった。
そして
狂い火は私の目的を達成するに不足だった。ならば次だ。
フィアに心酔し死王子の修復ルーンを以てエルデの王となった、ダメだった。私には死という終わりももたらしてはくれなかった。
金仮面卿の考えを理解し、完全律の修復ルーンを以てエルデの王となった、ダメだった。私を……エルデの王を完全な機械の部品としたその世界は終わりなどもたらさなかった。
嫌々ながらも糞喰いと会話を重ね忌み呪いの修復ルーンを以てエルデの王となった、ダメだった。
10周、20周、30周……この時既に私の力は成長することがなかった。成長に
フィアは、金仮面卿は、糞喰いは、彼らは絶対的なその意志により新たな修復ルーンを生み出した。ならば、私にだって【終焉】を司る修復ルーンを生み出すことができるはずなのに……私には出来なかった。私は彼らと同じ褪せ人のはずなのにも関わらず、だ。
「……終わりだ」
頭部が崩れ落ちたマリカ像を目前に、私は呟いた。いや終わりなどではない。また次が始まるのだ。ここまで律儀に数えてきたが、もうここからは数えなくてもいいだろう。
「50……50回だ。何故ここまでして未だ私は報われない。それもこれも外なる存在が原因なのか」
この世界の基盤は黄金樹。そしてそれらを修復しようとしている二本指とは大いなる意志の使い……つまりさらに上位の存在がいる。二本指は、大いなる意志が指読みの老婆達に言葉を伝えるためのいわばタイプライターのようなもの。奴らを穢したところでなんの意味もないのだ。
「…………次は貴様らだ。震えて待っていろ、神ども」
女王マリカや黄金律ラダゴンは神と呼ばれたが、所詮はこの世界の法則の下に存在していたただの稀人。時を経て神として祭り上げられたがゆえに神格を得ただけの人造神にすぎないのだ。それよりももっと外にいる存在達を神と仮定し、殺すことが出来れば……
「終焉を……この世に、私に、本当の終焉を齎すために……寄越せ」
50に至る今までの道筋を重ねてきた私がたどり着いた答え。絶対的な意志を以て私は初めて、生み出すことに成功した。
【終焉のルーンで、エルデンリングを修復する】
今、この場で私が手に入れた新たな力、【終焉の修復ルーン】。修復をして持続させるのにも関わらず、それが司るのは終焉という矛盾。なんとも皮肉な話だが、全てが始まりに還っているのにも関わらず変わらずあり続ける私という存在にはふさわしいルーンだと言えるだろう。
『…………ッ!?!?!?』
違和感を感じた。ふと空を見上げると何かが光った気がした。ここは黄金樹の中であって空など見えないはずなのに、ソレは輝きを増している。
「待て……待っていろ。まだ私はエルデンリングを修復していないのだ!!」
『!!!!!!』
言葉などなくてもわかる。ソレが……外なる存在が干渉してきている。二本指を通して高みの見物を決め込んでいただけだったはずの奴らが、私にエルデンリングを修復させまいと力を行使している。
「ハハハッ!!滑稽なものだなぁ神め!!貴様らは遅すぎたのだよ!!さあ、終焉を……私に終焉をもたらせ!!」
強引にマリカ像の頭部を持ち上げ首にはめる。そして手元に現れた【終焉の修復ルーン】をエルデンリングへとかざす。
『%£$&#*々※〆&$&€£々{〒〆$£€!!!!!!!』
パリンッ
「…………あぁ、やってくれたな。だが、成功はしているのだ。次、51の世界で……私は私を終わらせる」
外なる存在の、過剰とも言える干渉が私のルーンを砕いた。
しかし私は口元のにやけが止まらなかった。希望が打ち砕かれようとも、次を与えたのは貴様らなのだ。希望があると知れただけ、今回は良かったとしよう。
仕方なく、いつも通りにエルデンリングを修復し、玉座に座る。
「あぁ、楽しみで仕方がないよ。ようやく、終わりが見えたのだから」
漏れ出そうになる高笑いを抑え、次の世界へと舞い戻るために目を閉じる。
『出て行け……この地から、出て行け!!』
怒りとも取れるそんな言葉が、一瞬聞こえた気がしたが高揚で気が気じゃない私には関係のない話だった。
◆
「カズマさん、カズマさん!!こ、この男から神の気配を感じるわ!!いや神ではないんだけどそれと同等というか、それ以上というか……とにかくこの場から今すぐ離れましょう!!最悪魔王城にでも保護してもらいましょうよ!?」
「女神のくせに何言ってんだお前。やっと馬小屋暮らしが安定してきたってのにこの街を出てけるわけないだろ!?つくならもっとマシな嘘つけよ!!……にしてもコイツ……めっちゃいい鎧着てんなぁ」
【終焉の修復ルーン】
エルデの王となり続けた褪せ人が宿したルーン
エルデの王がエルデンリングを掲げる時
その修復に使用できる
終わらない世界で終わりを望み
その身に抱えた矛盾を律とする
否、それは律にあらず
全ての者に終焉を
そして私に本当の終わりを