50周目終わりなエルデの王に祝福を!   作:ゼノアplus+

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11話

 

 

「これはなんだ?」

 

「魔法陣です。この世界では大規模な術を使う時このように補助的な陣を組むことで範囲や威力を上げるんですよ。狭間の地でだと……『黄金樹に誓って』とかですかね」

 

「バフ効果、ということか」

 

 

夜、私達は準備を終えウィズ殿と共に共同墓地にやってきた。夜の方が霊が集まりやすいらしくそれらを纏めて天に帰す準備をしているウィズ殿を眺めている。

 

 

「さてと……敵ですかね。神の気配がします」

 

「アクア殿だろう。今朝言った紹介したい人物のパーティーメンバーだ。大方依頼でも受けてきたというところだ……アレでもアークプリーストだからな。頭は悪いが」

 

「頭の悪い神とか……帰っていいですか」

 

「別に構わんが……」

 

 

ぺっ、と唾を地面に吐き捨てながら険しい顔をしているミラに私は呆れる。ここは墓地なのだからそういった行為はやめてほしいのだが……いや、私も墓荒らしはよくしていたか。尤も、全てルーンに帰っていたから無問題だ。

 

 

「神聖なオーラが街中にずっといると思ったら神様がいるんですか!?」

 

「ああ、アクシズ教の女神アクアが下界に降りてきている。青い見た目で知能が低ければ大体彼女だ」

 

「ちなみに近づいてきていますね。まあ戦闘能力はないようですし、褪せ人もいます」

 

「私が居れば何の問題もない。ダクネス殿でも盾にすれば間違って殺すことはないだろう」

 

 

防御力だけが取り柄なのだ。私も殺傷力高めの武器ではないとはいえもしもがあるからな、今日は趣向を変えて『トリーナの剣』だ。最悪眠らせて有耶無耶にすればいい。

 

 

「それよりもウィズ、周りのアンデッド達は何とかならないんですか?臭いんですけど」

 

「別に匂わな……竜でしたねそういえば。はっ!!まさか私も!?」

 

「ウィズは別に匂いませんよ。そうですよね褪せ人」

 

「私は鼻は利かん」

 

「あーーーーー!!!!」

 

 

雑談をしながらカズマパーティーの到着を待っていると、突如大きな叫び声が聞こえ足音がこちらに近づいてきた。

 

 

「「ッ!!」」

 

 

私とミラはその魔の手がウィズ殿に触れる前に、剣とエストックがその首元に突きつけられた。

 

 

「足を止めよ侵入者」

 

「凍りますか?感電しますか?穴だらけになりますか?全部ですか?」

 

「ひぃぃぃぃぃ!?!?!?」

 

 

さて、ここで私の装備を紹介しよう、黒き刃一式である。深夜で視認性が悪い上に暗殺集団の装備、アクア殿からは私が誰か分かっていないだろう。どうしてこんなことをしている……彼らの今の実力が気になったというただの好奇心だ。ウィズ殿には魔法に集中するように言っているしミラは何故か乗り気なので放置だ。

 

 

「アクアから離れろ!!」

 

「おい待てダクネス、今の動き見ただろ。絶対ヤバい奴らだって帰るぞ!!」

 

「何言ってるんですかカズマ。ゾンビメーカーではないとはいえアンデッドの仲間?が居るんですから」

 

「…………ぷっ」

 

 

漫才のような彼らのやり取りに、ミラが笑いを必死に堪えている。お前……

 

 

「彼女は今、迷える魂を天に返そうとしているところだ。邪魔は許さん」

 

「……へ?」

 

「かじゅまさーん!!たすけてぇぇぇ!!!!」

 

「何を世迷言をっ、貴様らがアンデッドを生み出しているのは分かっているんだ!!」

 

 

何故か鎧を着ていないダクネス殿が直剣を私に向けている。ふむ……こうしていると、彼女もまともに騎士なんだがなぁ。

 

 

「あのー……ちょっとよろしいでしょうかぁ……?」

 

「どうした?」

 

「お話を……詳しいお話を聞きたいなぁ……と思いましてですね……ええ」

 

 

随分と腰が低いカズマ殿、こうしたプライドをすぐに捨てれるところはもはや長所だな。引き際を見極めるのが上手いとも言う。

 

 

「ちょ、カズマ!?相手はアンデッドですよ!!」

 

「そうだぞカズマ、アクアだって危ないんだぞ!!」

 

「無理だっつってんだろぉ!!ダクネスは今鎧もない、めぐみんが詠唱できる隙もない、アクアは元々役に立たない、俺も出来ることがないんだから」

 

「ふふふ……あっははははは!!!!面白すぎますね!!」

 

「「「「……え?」」」」

 

 

ここで黙って笑いを堪えていたミラの表情筋が決壊した。テンションの落差に、武器を突きつけられていたアクア殿はもちろん口論をしていたカズマ殿達も困惑の表情だ。

 

 

「はぁ……ミラ、もう少し耐えてくれないか」

 

「いやいや、こんなの無理に決まっていますよ……ふふっ」

 

「まだ笑うか貴様」

 

「え?………ええ?」

 

 

ミラが口元を抑えて笑っている姿を見て私は呆れながらもカズマ殿の方を向いた。

 

 

「こういうことだ」

 

「褪せ人さん!?」

 

 

私は黒き刃一式を坩堝一式に変えた。この姿でようやく私だと理解できたのか驚きながら駆け寄ってきた。ちなみにアクア殿は腰を抜かしたのかへたりこんでいてめぐみん殿とダクネス殿が介抱していた。

 

 

「アセビトさーん。除霊終わりましたぁ……どうかされました?」

 

「ああウィズ殿、貴公を討伐しにきた冒険者と和解し掛けていたところだ」

 

「本当にどうされたんですか!?」

 

 

そこへ作業を終えたウィズ殿が合流してきた。彼女はカオスとなった現場を見てひどく驚いたが、近くにいる人物が女神そのものであると気づきそそくさとミラの後ろに隠れた。

 

 

「褪せ人!!何でリッチーなんかと一緒にいるのよ!!はっ、まさかリッチーが褪せ人を操っているのね!!」

 

「「「リッチー!?」」」

 

「ちちち違いますよ!!アセビトさんとミラさんは私の護衛依頼を正式に引き受けてもらってるんですからぁ!!」

 

「嘘おっしゃい!!そんな嘘で女神が騙せるわけないでしょ!!見てなさい、リッチー程度私の力で共同墓地ごと浄化してあげるわ!!」

 

「待て待て待て待てーい!?」

 

 

とんでもない大声と早口で捲し立てたアクア殿が右腕を天に掲げ魔法を発動しようとした。それに気づいた私は無言で『トリーナの剣』を振り上げたところ……それに気づいたカズマ殿が大慌てでアクア殿を押さえつけた。

 

 

「何で止めるのよカズマ!!」

 

「リッチーの人言ってただろ、除霊終わったって。わざわざリッチーがそんなことするわけないだろうし話だけ聞こうぜ?それに褪せ人さん相手に勝てるわけないだろうが」

 

「うっ……ぐぬぬ」

 

 

カズマ殿の説得でひとまず拳を収めたアクア殿。何故貴公は拳にこだわる……この間は杖を持っていただろうに。

 

ここで両者共に完全に戦意がなくなったので話し合いの時間が始まった。

 

 

「まずは自己紹介を、リッチーのウィズと申します。普段は街でマジックアイテム店を営んでいます」

 

 

カズマパーティーがそれぞれ自己紹介をする。アクア殿だけは機嫌が悪そうだったが私の手前、形式だけでも挨拶していた。

 

 

「それでそちらの女の人は誰なのですか?」

 

「ああ、私も気になっていたんだ。先ほどは素晴らしい剣捌きだったが……」

 

「ん?ミラですか。ミラサクスと言います。褪せ人とは同郷で、最近たまたま出会って、目的も一緒でしたのでついてきました。一応、研究者になるんですかね」

 

 

珍しく、ミラでいい、とは言わなかったな。やはりどこかで線引きをしているんだろうか。

 

 

「褪せ人と同郷……アンタも『褪せ人』?」

 

「違いますよ。ほら」

 

「……『褪せ人』じゃないわね。でも……うーん……?」

 

 

アクア殿の問いにミラは瞳を見せることで応えた。我々褪せ人は、以て瞳が色褪せているという特徴がある。かつてエルデを追放された褪せ人の子孫である私達もそれは変わらん。しかしミラは古竜……褪せ人ではないがそれ以上の存在だ。話す気はないようだがアクア殿は何やら唸っている。女神なのは伊達ではないらしい。

 

各々、顔合わせを済ませると、カズマ殿が代表してウィズ殿の行いについて聞いてきた。ウィズ殿は私とミラに説明した時と同じような説明をすると、この街のプリーストが拝金主義者というところで、全員がアクア殿を見た。

 

彼女はバツが悪そうに目を逸らし下手な口笛を吹く……まあ気持ちは分からんでもないが。

 

 

「それはまあいいんだけど、ゾンビを呼び起こすのは何とかならないのか?俺達、ゾンビメーカーの討伐って依頼で来たんだが」

 

「あ……そうでしたか。ご存知の通りリッチーなので私の魔力に反応してこうやって目覚めちゃうんです。私としてはここに埋葬されてる方の魂が迷いなく天に帰ってくれればここに来る必要もなくなるんですけど……」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

 

結論から言うと、アクア殿が引き受けることになった。彼女は面倒だと駄々を捏ねたが、先ほどの拝金主義者の話を出すと一瞬唸ってから引き受けた。これでウィズ殿は墓地に来る必要がなくなり、ゾンビが目覚めることも無くなった、と言うわけだ。

 

ここで問題になるのが、カズマ殿達の依頼についてだ。

 

彼らは『ゾンビメーカー』の討伐が依頼であり、『共同墓地の異変の調査』ではない。まさかこの街にリッチーがいますと言えるはずもなく、冒険者カードにゾンビメーカーの討伐が記載されるわけでもない。つまり依頼は失敗になってしまうというわけだ。

 

そこで私はとある提案をした。エルデには複数体の『ティビアの呼び舟』という死に生きる者達がいるが奴らはその能力でスケルトンなどを呼び出していた。つまりアンデッド系の上位者であるリッチーのウィズ殿にも似たようなことが出来るのではないか、と思いその節を伝えたのだ。

 

 

「ゾンビメーカーですか……………えーと、手持ちのスキルには無いですね」

 

「任せてください。要はゾンビをクラスアップさせればいいのでしょう?」

 

「……は?」

 

 

ミラの一声でウィズ殿がリッチーのスキルで召喚したゾンビがゾンビメーカーとなった。カズマ殿は恐る恐るそれを討伐し、無事に依頼達成目標に到達した、というわけだ。彼らはそれだけで満足したのかホクホク顔?で帰って行った。今度酒を奢ると言ったが私はいらん、アレは苦手だ。

 

 

「いやー、面白い人達ですね」

 

「アクア様……怖かったです……ずっとチリチリと肌が焼けそうで……」

 

「話を聞くと神の中でもエリート出身だそうだ。力はあるのだろう、力は」

 

 

私達はカズマパーティーとは別れて帰還している。彼らは冒険者ギルドに、私達はウィズ魔道具店に、ということだ。

 

 

「それにしてもミラさん、エストックなんか使えたんですね。いつも雷だったのに」

 

「これですか?ミラの一部なので手足のように使えるんですよ」

 

 

ミラはそう言ってどこからか取り出したエストックを器用に操っている。

 

 

「似合わんな」

 

「そう、ですね……」

 

「仕方ないでしょう?格好が格好ですからね」

 

 

ただの町娘がエストックを振り回しているのはシュールすぎる絵面だ。私とウィズ殿の言葉に、ミラは興味を失うとエストックを懐にしまった。

 

 

「それにしても良かったのか。カズマ殿にリッチーのスキルを教える約束などしてしまって」

 

「構いませんよ。色々ありましたけど、アクア様を止めてくれる頼もしい人ですからね。それに……『冒険者』はどんなスキルでも取得できるのが長所なので、協力したくなっちゃうじゃないですか」

 

「魔王軍幹部としてそれはいかがなものかと思いますけどね」

 

 

ミラの鋭いツッコミに、あはは……と苦笑いするウィズ殿を横目に、店へと戻ってきた私達はウィズ殿から報酬を受け取ることにした。

 

 

「ではお約束の商品です。こんなものでいいんですか?」

 

「ああ、以前来た時には買わなかった品だからな。使う機会はないだろうが……」

 

「収集癖も行くとこまで行くと終わりがないですね」

 

 

ウィズ殿から貰ったのは所謂呪いの装備というもので装備すると外せなくなるらしいが、相手から自分への感情が色で分かるというものらしい。ブレスレット型らしく意外と邪魔なのに何色が何の感情を表しているのか分からない、作った本人すら、『つけたことがないのでどんな色が映るのか知らない』というゴミだ。売り物にするわけにはいかないが返品もできないとのことで今回の報酬としてもらったのだ。

 

 

「では、これで失礼する」

 

「はい。またのお越しをお待ちしてます」

 

「お疲れ様です」

 

 

俺とミラは店をでて帰路についた。謎の既視感があるが気のせいだろう。

 

 

「褪せ人、料理とか出来るわけがないですよね?」

 

「言い方が気になるが、その通りだ」

 

「はぁ……今日はあきらめましょうか」

 

「何か食べたいなら買ってくれば……そういえば店などやっている時間ではないな」

 

 

時間は深夜、なんならもう少しすると日が登ってくるような時間である。ミラも私も空腹を感じるような事はないはずだが、習慣になってしまっているのだろう。この世界の飯は美味いからな、食べたくなる気持ちもわかる。

 

 

「褪せ人、『終焉の修復ルーン』を数日ほど貸してください」

 

「何故だ?」

 

「研究に取り掛かります」

 

「ッ!!……分かった、よろしく頼む」

 

 

私は貴重品から『終焉の修復ルーン』を取り出すとミラに手渡した。ミラはそれを懐にしまった。今どうやった?

 

 

「これですか?先日褪せ人が言ったじゃないですか、『劣化版インベントリ』です。品質も時間が経てば劣化し、容量も5種類程度しか入りませんがなんとか完成に漕ぎ着けました。ミラにも祝福に触れることができれば、貴方の『木箱』の研究も捗るんですけどね」

 

「ほう」

 

 

……まあ良いだろう。一体いつそんな時間があったのか非常に気になるところだが、聞いても理解できないので聞かない方がいい。いつも通りだ。

 

 

(…………修復ルーンとはエルデンリングを修復する物です。つまり()()()()が永遠の女王マリカの伴侶となる際に【エルデとはこうあれ】と求め、それを新たな律とする……終焉を求めるまでの褪せ人の感情が嫌でも伝わってきます。幾ら永遠に近い寿命を持つミラ達古竜であっても、この境遇と感情の奔流には耐え切れるか分かりませんね。もう少し優しくしてあげましょうか……?)

 

 

ミラの奇行に頭を抱えていた私が彼女の思考など分かるはずもなく、なんの疑問も持たずに修復ルーンを渡してしまったことを後に後悔する事になる。

 

エルデの王、エルデンリング、マリカ、大いなる意志……理知の外を行く存在というのはどうあっても理解し難いのだ。




『褪せ人のアクアへの態度』


他の者よりも少し当たりがきつい。会話ではむしろアクアに対してまともに話しているが、行動の節々に過激な要素が見られる。『自分勝手で他人に苦痛を強いる神が嫌い』なだけなのだが、アクアの言動にそういう面が稀に見られるため。褪せ人も意識してやっている訳ではないが、50という回数を乗り越えた先に脳よりも先に体が反応してしまっている。

決してアクアは不憫な目にあった方が面白いという作者の個人的な考えではない。ないったらない。

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