50周目終わりなエルデの王に祝福を!   作:ゼノアplus+

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12話

 

 

最近、何やら不穏な話をよく聞く。この近くの廃城に魔王軍の幹部が1人棲みつくようになったとか。今更そんなものどうでもいいだろう。近くの廃城どころか街の中に、魔王軍幹部の1人が既に住んでいるのだから。そもそも私達は魔王軍の幹部、という存在をウィズ殿しか知らないため他の者がどの程度強いのかを知らない。ウィズ殿が1番下となれば私もエルデの時のように真面目にやらねばならんのだがな。

ミラが魔王城に居た時があるらしいので聞くのが手っ取り早いのだが……彼女は今、神殺しの研究に忙しい。というか研究を始めた日から一度も地下室から出てきていないのだ。私達は飲まず食わず寝ず、というのが可能であるが流石に根を詰めすぎだろう。一応、扉の前で声をかけると反応は返ってくるので放っておいている。何かあれば勝手になんとかするはずだ。今までもそうしてきたのだから。

 

 

「で、どうよネロイド」

 

「……分からんがシュワシュワよりかはマシだな」

 

「だよな!!酒飲まない奴らは大体これ飲むようになんのよ」

 

「褪せ人さんがこの時間から酒場にいんのも珍しいけどな」

 

 

私は今冒険者ギルドに併設されている酒場に来ていた。というのも先ほど話した通り幹部がこの街の近くにいるせいで、弱いモンスター達が怯えて出てこない。そのせいでクエストもそれ相応の高難易度依頼しか残っておらず、駆け出し冒険者ばかりのアクセルでは受注する者もいない。元凶である幹部を倒せる実力者がいるわけでもないので酒場で呆けているという悪循環である。私もその1人で、現在カズマ殿や名前も知らない1人の冒険者と談笑をしている。

今し方話した情報もこの男から聞いたものだ。カズマ殿曰くこういうコミュニケーションも情報収集の一環だ、とな。

 

 

「正直に言うとやる気がないのだよ。目標だった家に加え先日入金された莫大な金が入ったからな」

 

「あーあれな。今まで見たことない金だったぜ」

 

 

ミラの住んでいた鉱山の調査依頼の報酬は今までのものを遥かに上回る量だった。流石の私でも目を丸くし受け取るのに少し緊張してしまったほどだ。ミラが育てたコボルト達を狩って得た金なので半分ほど渡すつもりだったが、研究中で反応がなかった。

 

 

「しかも今は美人研究者と同棲生活だろ?なあなあ、イイコトしたか?」

 

「してないな。同棲というより同居だ。貴公らも馬小屋でパーティーメンバーの女性と寝ることはあろう?」

 

「いや、あるけどよ。家持ちだとなんか違うのかなって」

 

「まあ……ミラサクスさんだしなぁ……」

 

「カズマ殿、分かってくれるか」

 

 

墓地での一件でなんとなくミラのことを察したのだろう。私と同郷という時点であまりいい予感はしていなかったらしい。

 

 

「まっ、そういうことだからよ。今は城付近のクエストを受けるのはやめておいた方がいいぜ」

 

 

そう言って男は去っていった。残された私とカズマ殿は今注がれている杯を飲み切ると同時に立ち上がった。

 

 

「俺はパーティーメンバーのところに戻る。今はクエストに行く予定もないし……あそこで飲み散らかしてるしな」

 

「分かった。私は帰るとしよう」

 

 

カズマ殿の視線の先には、シュワシュワを飲んでいるアクア殿達の姿があった。何やら野菜スティックというのを食べているらしい。カズマ殿に挨拶をして私はギルドから出ていった。

 

路地裏に入ってから、私は自宅の祝福へワープをする。言い方が悪いがミラが居なければ祝福ワープが出来るのでこのように時間の短縮がありがたい。何をしている訳でもない現在、このように時間を気にするのも意味がないのだがな。

 

 

「ただいま」

 

 

家に帰るとこう言うのだと、ミラに教わった。形式的なものだがこの家なら帰宅を告げるのにはちょうどよく、地下室にも聞こえるらしい。尤も研究に夢中だろうから耳に入っているかは知らん。

 

情報交換という名目の交流を終えたが、今日は素晴らしい成果だ。魔王の幹部が近くにいるという情報は大きい、そのうち乗り込もう。

 

 

ガッシャーーーン!!!!

 

 

「む!?……地下室?」

 

 

何かが崩れたような大きな音が地下室から聞こえてきた。ミラに限ってまさか寝落ちたかと思い小走りで地下室を開けた。

 

 

「どうしたミラ……ッ!!」

 

「褪せ……人……はぁ……うぅ……」

 

 

そこには胸を押さえて床に這いつくばって苦しんでいるミラの姿があった。先ほどの大きな音は机のものを薙ぎ倒した音だったらしい。

 

 

「何があった!?」

 

「腕を……ぐぅ……拘束してください!!」

 

「腕?何故だ」

 

「はや……く……!!」

 

 

今までに見たことのない焦りの声に私はインベントリから『紐』と『トリーナの剣』を4本取り出した。昔見たセレン師のように片手ずつ拘束し『トリーナの剣』を手のひらに刺す。そしてミラからの追加希望で両足にも刺し完全に身動きを取れなくした。

 

 

「ぐぁ……!!…………ありがとうございます……はぁ、はぁ……」

 

「落ち着いたか?」

 

「いえ…まだ、衝動が抑えきれていません……」

 

「私に出来ることはあるか?」

 

 

脂汗をかいているミラに水を飲ませながら尋ねる。本当に一体何があった?

 

 

「この剣は睡眠が付与されていますが……もしかしたらダメかもしれません。ミラが寝ている途中に暴れ出したら、『誘惑の枝』を……おねが……い……し、ま………」

 

「お、おい……『誘惑の枝』?古竜にそんなものが効くとは思えんが」

 

 

『トリーナの剣』には睡眠属性があるため滅多刺しにされているミラにはすぐ効いたらしく話している途中で寝てしまった。寝ている途中に暴れ出すとか、説明が足りていない。

 

 

「………………!!!!」

 

「なに!?バカな!!」

 

 

ガックリと首を落としていたはずのミラが目を閉じたまま動き始めた。しかも刺されているはずの手が痛そうなそぶりもなく動き出しそのまま剣を掴んだ。

 

 

「『誘惑の枝』で魅了しろということか」

 

 

ミラ?は器用に紐を切り取るとその剣を自らの心臓に向けて突き刺そうとした。

 

 

「間に合え!!」

 

 

私は急いで『誘惑の枝』を発動、そしてミラの手が止まった。

 

 

「…………どういうことだ」

 

 

疑問しかない。なぜこのような状態になっていたのか、なぜ寝ているはずなのに動き出したか、なぜ魅了の状態異常が古竜に効いたのか……

 

まあ今はいい。なんというか、気疲れしてしまった……ミラの監視を兼ねて地下室の修復でもしておくとしよう。また悪さをしかねないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……迷惑をかけましたね褪せ人」

 

「気にするな」

 

 

数刻の後、魅了と睡眠の効果が切れ目が覚めたミラはしっかり正気に戻っていた。

 

 

「何があった?」

 

「話すと長いのですが……」

 

「構わん。再発防止のためにも聞いておかねばな」

 

 

ミラは本当に申し訳なさそうに正座をしている。珍しい感じだ。

 

 

「まず、原因は褪せ人の修復ルーンです。貴方の願った【終焉】がミラに作用しました」

 

「………ん?」

 

「貴方は50周目が終わる直前、『私に本当の終わりを』と望みましたね。修復ルーンを用いれば新たな『律』を作ることができます……エルデンリングでなくとも、エルデンリングに何かしらの要素を作用させる修復ルーン、貴方の【終焉】が、あの瞬間限定的にミラの『律』になったのです」

 

「……なるほど、一旦修復ルーンを返してもらおうか」

 

「ええ、これ以上はミラの気が狂いかねません」

 

 

私は修復ルーンを受け取るとインベントリにしまった。話を聞く限り危険物極まりないな……

 

 

「研究の過程で修復ルーンの深淵に触れた影響でミラは『自らに終焉をもたらす』事が律となり、言うなれば『自殺衝動』に駆られていました」

 

「なんと……」

 

 

絶対に他人に渡してはいけないものではないか。そうなれば他の修復ルーンもまずいものでしかない。特に忌み呪いはもってのほかだ。

 

 

「もう少しで死ぬところでした。自分の力であれば容易に自殺出来ますからね」

 

 

ふぅ……とミラは真面目なため息をついた。この研究者、そろそろ自重しないだろうか。

 

 

「そこまでは理解した。では何故古竜であるお前に『誘惑の枝』が効いたんだ?試したことはないがあれは失地騎士など狂った人間種専用だと思っていたのだが」

 

「その事ですか、まあ今のミラは人化して能力を制限していますからね。詳細は省きますが耐性は『褪せ人』並みですよ。それに貴方……どうやらミケラに縁があるようですし」

 

「ミケラ?…………ああ、指読みに同じような事を言われた事があるな。どういう意味だ?」

 

「さあ、そこまではミラも分かりません。研究したかったですけどミケラの聖樹までは辿り着けませんでしたからね」

 

 

ミケラはモーグウィン王朝に居たのだが………まあ本題ではないのでわざわざ言う必要はないだろう。

 

 

「ミケラに縁がある私は、魅了の力を持っていたミケラとのつながりで『誘惑の枝』にブーストをかけたとでも言うのか」

 

「今のところその説が最有力ですね。ミラも褪せ人も狭間の地を追放された身、真実は闇の中ですよ」

 

「…………」

 

 

指読みと言っても所詮は占い、戯言かと思っていたが……

 

私は一体何者だ?ミケラに縁があるということは……そういえば私の先祖について詳しく知らんな。いや覚えてないというのも正しいが……あの時、殺してでもミケラの繭?を破壊しておけば何かわかったのだろうか。モーグめ……ミケラを誘拐するなど、面倒な事をしてくれた。

 

 

「ですがまぁ、そのおかげでこうしてミラが無事でしたしありがとうございます」

 

「礼を言われる筋合いはない。むしろこちらが謝罪せねばならんというのに」

 

「いいえ、あれを研究したいと申し出たのはミラです。ならばその責任は全てミラにあります。自己責任の下、研究を行っていたに過ぎません」

 

「いやしかし」「いえいえいえ」

 

「「…………」」

 

 

お互いにやめ時を見失ってしまいずるずるとこのやり取りが続いている。少し経ってから、私から口を開いた。

 

 

「では喧嘩両成敗というやつだな」

 

「ええ……それが良いでしょう。それよりも褪せ人、貴方とんでもない激情を秘めてましたね。ミラの状態異常耐性を貫通するなんて思いませんでした。これでも色んな実験を自分で試してたので耐性にだけは自信あったんですけどね……エルデンリングの修復ルーンというものを過小評価していました」

 

「そうなのか?…………今思えば、あの時は高揚していて他のことを気にしていなかったな」

 

「修復ルーンには文字通り貴方の願う【終焉】が凝縮されています。今の褪せ人は抜け殻のような状態なのですよ」

 

「……ほう」

 

 

よく考えれば二本指とその神に対してあれほどまでに激昂し殺意を抱いていたというのにその後エリス殿の下で、私はやけに大人しかったな。状況説明があったとはいえ神の1柱を目の前にしてあれほど冷静でいたとは到底信じられん。修復ルーンがなければその勢いでエリス殿に斬りかかっていたかもしれんな。

 

……む?この女、今とんでもないことを口走らなかったか?

 

 

「そうですね……例えば貴方のいう『黄金律 ラダゴン』の腹にエルデンリングが収まっていた、ように自身の中に修復ルーンを取り込むようなことさえなければ先程のミラのようにはならないでしょう」

 

「分かった。確認なのだが、私の目的は未だ自身の終焉だ。一切の全てが修復ルーンに凝縮されていないのならばコレは未完成ではないのか?」

 

「話を聞く限り、修復ルーンは問題なくマリカ像に使用できたのでしょう?何よりその瞬間大いなる意志が干渉してきたのですから、使われたらマズいと認識していたのだと考えます。それに、例え『律』と言えど人の想いまで踏み躙ることは出来ませんよ。研究者としてはこのような意見、捨て置くべきですがね」

 

 

死んだ者は黄金樹へと還りもう一度生まれ直す、それが『黄金律』だ。しかしエルデにはアギールの炎に焼かれる事を望んだ者がいた、黄金樹を拒否し死に生きる者がいた、新たな律を求め暗き路へ進んだ者がいた。『律』とはあくまでルールだということを、私は今改めて認識した。

 

 

「まあこれからは気楽に行きましょう。幸いミラ達に時間の概念は関係ないですし。ほら、初対面の時ミラ言いましたよね、『バカンスしてます』って。褪せ人も少し休めばいいんです。今まで苦労してきたんですから、どことも知らない土地で自分を知ってる他者がいなければ何にも気にしなくていいですし。うーん……やっぱミラは人を慰めるの得意じゃないですね。単刀直入に言いましょうか」

 

 

突然軽い口調と雰囲気になったミラは楽しそうに私に提案してくる。まあ私自身休む、といっても結局は何かと戦っていたのは確かだ。彼女は頬を掻きながら私から目を逸らすと少し考えてから口に出した。

 

 

「貴方はこの世界にいる限り、何にも縛られることはありません。呪いじみた周回も、最終目標となった【終焉】も、誰かから託されたものも、神からの干渉も……」

 

「……ああ」

 

 

ミラはそこまで言うと、一息ついた。そして少し長めに溜めると立ち上がって言った。

 

 

「恐らく誰にも言われてないでしょうからミラが代わりに言ってあげます」

 

 

「この素晴らしい世界にようこそ」

 

 

私の【終焉】を見て、ミラがどう思ったのか知らない。同情したのかもしれないし呆れ果てたかもしれない。

 

しかしこの瞬間、私は本当の意味でこの世界の住人となった。




『$£€&〆#のエストック』※文字化けして読めない

人化したミラサクス愛用の得物
それは古竜の一部である

矮小な人間に適したその大きさは
古竜が忌み嫌うものであった
異端の古竜に相応しいと言われる所以である


戦技『神鳴る氷剣』

武器に属性を付与する

永遠の都で生まれた竜人兵は
一度だけ目にした竜の力
白き異端の雷に憧れを抱いた
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