「ここか」
ミラを救い、ミラに救われたあの日から数日。別の方向から色々アプローチを続けるといって再び研究室に篭ってしまった彼女を置いて、私は魔王軍幹部が住んでいると言う城に来ていた。
道中特に障害となりうるモンスターや罠などは存在しなかったためあっさりと来れたのだが何故だろうか。しかし流石にもぬけの殻というわけではないらしい、門番のように2体のアンデッドが立っている。鎧を着ているアレらはギルドで入手した資料によるとアンデッドナイトというそうだ。通常のアンデッドよりも強力な個体程度の認識でいいだろう。
「悩ましいな……」
ウィズ殿のような上位なアンデッドではないため恐らく会話は通じないだろう。ならば先手必勝で押し入るのが最も早い。しかし敵戦力の規模がわかっていない以上迂闊に行動すると敵対の意思ありと判断され街へ攻め込まれる可能性もなくはないのだ。
ちなみに今のところ祝福は見当たらない。よって死んだ場合アクセルに戻ることになるので移動が大変面倒だ。
「仕方あるまい」
私はインベントリから『擬態のヴェール』を取り出した。ゴドリックがローデイルから逃げ出す時に重宝したこれは、精神力をわずかに消費し自らの姿を風景にあったものに変える。派手な行動をすると擬態が解けてしまうため動きには注意が必要だ。今回擬態したのは普通の木だ。まだ城内に入っていないから仕方ないのだがこの状態で忍び込むと違和感がある。
さて、聡明な諸君ならお分かりだろう。私は正面から城に入る気など毛頭ない。ストームヴィル城、赤獅子城、各種砦……まともに正面から入った場所などレアルカリア学院くらいだろう。今考えればストームヴィルの正門はなかなか愉快な場所だったな。
門番に見つからないように城の外周を回っていると、何やら様子がおかしい。もともと廃城だったとは聞いているがそれにしては破損具合が酷いのだ。まるで何かが
「……暗いな」
『ランタン』を腰につければ適切な明るさを確保できた。やはりアンデッド系ならば暗い方がいいのだろう。これで見つかることも多くなるだろうが必要経費だ。
どこぞのストームヴィルのように厄介な構造になってないこの廃城、侵入した部屋はキッチンだ。キッチンと言えば……ふむ、何処だったか。ローデイルの円卓に似た空間の一階部分しか記憶にないな。狂っていなければ、交渉次第でエルデの飯にありつけたかもしれん。今考えるとエルデの……そう、郷土料理のようなものが気になるところだ。
警戒をしながらキッチンを出ると、無駄に大きな廊下に出る。今のところアンデッドに見つかる気配はないが一応もう一度『擬態のヴェール』を使用しておく。新しく擬態したのはこの廊下にも時折見かける、壊れかけの甲冑だ。片手にはハルバードを持っておりこういった心霊の類が苦手であれば動き出すかもしれないとでも考えてしまうかもしれんな。
廊下をゆっくりと進み正面玄関に出た私だが流石に違和感を覚える。敵が一体たりとも居ないのだ。わざわざ裏手から入ったにも関わらず正門のアンデッドを切り殺してから入っても変わらなかったというわけだ。
時間を返せ。
「無駄な消費をさせてくれる……」
『擬態のヴェール』で消費した精神力がもったいない。微々たる消費だがこの少しの減少で使いたい魔術、祈祷、戦技が一回分使えないなど……死亡一回分に値する。もちろん可能性の話だ。
改めて左手の『黄金樹の聖印』を握りしめる。アンデッドならば回復系の祈祷が有効のはず、それに王族の幽鬼レベルでなければ斬り殺せばいい。復活する前にルーンに変換してしまえば関係ないのだ。つくづく思うが、この世界は私と相性がいい。
正面玄関から階段を登り、踊り場にかけられた元主であろう絵画を無視し2階へ。
自慢ではないが、私は学がない。今まで何度も言ってきたが褪せ人としてエルデの地に召喚され、巫女無しで、ミケラと縁があって……人に恵まれて、故に王にまで成り上がった。戦術というものも知らなければストームヴィル城を作った誉ある建築など知らん。
そんな私だが分かることがある。この城は砦の役割を兼ね備えていない。先ほどからずっと話題に上げているストームヴィル城だが……構造が複雑すぎる。明らかに侵入者を迎撃するためにあるような造りにされている。対してこの城はただ貴族が住むためにあるような城だ。防衛面が一切考慮されていないようにしか思えない。
何が言いたいかというと、油断する必要がない。常に奇襲を警戒していたあの頃とは違い今この場では悠々と歩いていても何も起こっていない。なんだこの城は……
「……ここか」
せっかくなのでランタンを外し松明で城の造りを照らしながら見学している。どうやら現在の城主は私を襲うつもりもないらしいので平然と歩くこともできている。そしてたどり着いたのは最上階のやけに豪華な(といっても廃城なので普通に寂れてはいるが)扉の前だ。特に躊躇う必要もないので扉を開ける。
「ほう……よく来たな冒険者よ」
「貴公が魔王軍幹部か」
「いかにも!!俺は魔王軍幹部、デュラハンのベルディアである!!」
扉を開けた先にいたのは、漆黒の鎧に身を包み自らの頭部を小脇に抱えた男……男?がいた。
「私も名乗るべきか?」
「どっちでも構わん。はっきり言って今は貴様の相手をしている暇などない」
「というと?」
「……まあ魔王軍幹部が住む城と知っていてここまで来た豪胆な貴様なら話しても構わんか。この城は今、何者かの攻撃を受けているのだ」
んん?そんな話は冒険者ギルドから聞いていないのだが。
「俺たちがこの城に住み始めてから少し経ったある日、この城に1発の爆裂魔法が打ち込まれた」
…………ほう。
「それは魔王軍幹部である俺から見てもなかなかの威力だった。いくらこの廃城だとしても我々の探知範囲外からあの爆裂魔法を狙い澄ますなど……並の術者では成せぬことだ。そして……その日々は毎日始まった」
「毎日」
「毎日だ!!」
目に見えて頭を持つ手が強く締まってきていた。兜から嫌な音が鳴っているが、激情に駆られているらしいベルディア殿は気づいていない。ああ……全身が震えているではないか。
「魔王様からの命でアクセルの街を調べに来たというのに……なんだこの仕打ちは!!俺たちが何をしたというんだ!!来るんだったら正々堂々と攻め入ってこいよぉ……!!!!」
ついに口調が崩れ始めた。何故か自分から魔王軍の機密情報らしいものを言っているが、運が良かった。しかしベルディア殿には同情してしまうな。まあ間違いなくあの頭のおかしい爆裂娘だろう。しかし彼女は1発爆裂魔法を放てば動けなくなるはず……もう1人協力者がいるな。
「……んんっ!!見苦しいところを見せたな」
「いや、構わない。失礼かもしれんが……同情する」
「分かってくれるか!!」
「ああ……」
半分ほど、責任を感じているのだ。パーティーメンバーでない、しかし……何故か責任を感じずにはいられない。
「やはり名を教えてくれ。冒険者と魔王軍幹部……決して相容れぬ者だが今日会えたのは何かの縁!!……ついでに俺の愚痴も聞いてくれると嬉しい」
「褪せ人と名乗っている」
私は最初からずっと戦闘態勢だったのだが、なぜかベルディア殿はその場に胡座をかいて座り始めた。
そして長い愚痴が始まった。
先ほどの通りここ最近の鬱憤の愚痴から始まり、次は同僚の幹部がうるさいだの庶民的な愚痴、そして気づけば頭すら地面に投げ出して体だけが床をどつき始めていた。
「ああ、それは辛かったな」「貴公も努力しているのだろう」「皆まで言うな。今を大切にしよう」
何故私は魔王軍幹部を慰めているのだろう。私も何度か主に仕えた騎士ではあるが……果たしてこの惨状をどう収拾つければいいのか分からない。飲めるのかは知らないが何もしないよりはマシだろうと、私はインベントリから保冷状態で仕舞ってあったシャワシャワを取り出した。
「まあ飲んでくれ。酒ではないがな」
「感謝するアセビト……ああ、悪くはないな」
頭にシャワシャワを飲ませているが、首がつながってないので液体がどんどん溢れていく。味はわかるのだな……
布……ああ、『血の君主の誓布』でいいか、使えるだろう。ヴァレーが文句を言ってきても知らん、モーグはもう殺している。ヴァレーも殺している。
私は布でこぼれ落ちた液体を拭き取りながらベルディア殿に尋ねた。
「冒険者としてではなく私個人としての疑問なのだが、なぜ配下のアンデッドが少ないのだ?」
「ああ……殆どは地下に隠してある。それでも連れてきた7割ほどは爆裂魔法で消し飛んでしまってな……騎士として戦場で死なせてやりたかった。アンデッドだが。現在は門番として最低限しか運用していない」
……魔王軍の戦力を減らしている分、下手にめぐみん殿を叱るに叱れない。むしろよくやったと周りがもてはやしそうだ。
「なるほど。辛いことを聞いたな」
「気にしないでくれ心の友よ……」
誰がいつから心の友になった。いや、立場を差し引けば色々と言葉を酌み交わしてみたいと思うのは間違いない。
「はぁ……そろそろ気を引き締めるとしよう。アセビト」
「ッ」
ベルディア殿が立ち上がり、最初のように威厳を示してきた。私も真面目にやるか。
「何故この城へやってきた。アクセルの街といえば駆け出し冒険者の巣窟、物見遊山ならば……この場で切り捨てるのも悪くはない。大変遺憾だがな」
「……私を見て、本当にそう言えるかね。ベルディア殿」
「なにっ!?アセビト……貴様、実力を隠していたとでも……」
「別に隠していないが、実力を察そうともせず愚痴ばかりこぼしていたのは貴公だろう」
「今めっちゃシリアスな場面なんだから少しは考えろよ!?」
ベルディア殿の鋭い……ツッコミ、ツッコミと言うんだったな。ツッコミが入った。カズマ殿と馬が合いそうだな。
私はベルディア殿との会話をしながら、先ほど外していた武器を改めて装備し直す。ベルディア殿の得物はどうやら私の『グレートソード』のような大剣……どうせなら本物の騎士から剣術を教わるのも悪くないということで私も『グレートソード』を右手に抱えている。
「んんっ!!ほう……生前はとある大国で騎士団長として名を馳せていたこの俺に対して同じ大剣で挑むとは笑止千万!!」
「貴公の剣……とくと学ばさせていただく」
私とベルディア殿はお互いに片手で剣を構えて向かい合う。お互い隙を窺っているので一歩も動くことはない。ああ……久々だな、挑む側というのも。
「「…………」」
本当に、隙がない。エルデなら……挑む側であった私はとりあえず情報収拾とばかりに突撃していた。しかしこの勝負、そのような雑なものにしたくはない。
「埒があかんな。貴様が来ないのであれば俺から行かせてもらおう!!」
「ッ!!」
ベルディア殿が踏み込んできた。思ったより早い、騎士としての実力はやはり想定いzy
『エクスプロージョンッ!!!!』
「「は?」」
刹那、轟音と共にどこかで経験したかのような衝撃が身を包む。
「と、友よーーー!?!?」
「ぬぅぅぅおおおおおおお!?!?!?」
ああ……あれだ。今日はまだこの城に撃ち込んでいなかったのだな、めぐみん殿。
前回の経験から、かろうじて生き残ることができるのは分かっていた。そのまま吹き飛んだ天井から身を投げ出した私は……多分、首を打った。
「ど、どこにいやがるクソ魔法使いがァァァァァァァァ!!!!俺の、こ、心の友になんてことをォォォォォォ!!!!あま、ぁまつさえ、神聖な決闘を汚しよってぇぇぇぇぇ!!!!」
いやまてベルディア殿。出来れば……ああ、落ち着いてほしい。
全面的に同情するが……いや、別にもういいか。どうぞご自由に、あの小娘……フルボッコにしてやれ。
◆
「あら、褪せ人……死にました?」
「ミラか……ああ、今ちょうど祝福に帰ってきた。庭に出てきているなんて珍しいな」
「貴方が知らないだけでそこそこ休憩してるんですよ……ええ(決して、祝福を調べたくて色々してたわけではありません)」
「それとだな……近々、面倒ごとになるかもしれん」
「……え?」
『魔王軍のグレートソード』
ベルディアが魔王より授かった大剣
特殊な能力は無いが最高硬度の金属が使われている
幹部として、騎士として己が誇りを魔王様に捧げます
あわよくば、美女のパンツをこの目で拝めますように