50周目終わりなエルデの王に祝福を!   作:ゼノアplus+

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4話

 

 

「『ローレッタの絶技』」

 

 

精神力を弓の形で固定し4本の矢を生成、しっかり弦を引き4体のジャイアントトードに1本ずつ発射し射抜いた。魔術であるため弓の術であろうとも追尾性は抜群だ。

 

 

「ほう……このように記載されるのか、やはり便利だな」

 

 

私が冒険者として登録をしたのが昨日の夜のことだ。それからカズマ殿とアクア殿にここまでの礼を言い、別れた後街のはずれで休息をするつもりで進んでいると、とある木の下に褪せ人を導く祝福を発見した。エリス殿にはさらに感謝せねばならないな。

 

祝福に触れ、休息を取ることにした私は木箱の中身を確認した。外なる存在に転送されたならば木箱の中身はエルデに置き去りになっていると思っていたが、どうやら祝福は世界を超えても共通のものであったらしい。しっかりと今まで集めた大量の素材が収納されていた。

 

それらを一通り確認し終えた私は朝まで時間を潰し、早朝に冒険者ギルドで依頼を受けた。戦闘の経験がある事を受付嬢に告げれば、今受けている『3日以内にジャイアントトードを5体討伐せよ』という依頼を勧めてくれた。それを今こなしている。

 

 

「戦技、祈祷、魔術共に問題なく発動できるな。問題は……モンスター達が弱すぎて出血や冷気、毒の状態異常を確認する前に倒してしまう事だが……まあ致し方ない」

 

 

この4体を倒す前に、『屍山血河』を使い戦技を使用しジャイアントトードを倒したのだが、あまりにも弱すぎてしまった。つまり今依頼を終了してしまったわけだが……さて、どうしたものか。

 

今の私は坩堝一式に『カーリアの王笏』を装備した状態だ。もちろん誰かに見られないように早朝を選んだわけだが、正直少し退屈している。もちろん、エルデと同じ水準をこの世界に求めているわけではないが、もう少し歯ごたえがあるモンスターは居ないものか。

例えるなら……そう、腐りゆくエグズキスほどではないが溶岩土竜マカールくらいの敵だ。一対一の戦闘なら確実に問題はないのだが多対一は最も苦手だ。幾らエルデの王と言えども、どんな攻撃でも命中すれば生命力は失われる。しかし現状攻撃を食らうどころか棒立ちでも問題ないのだから、本当に微妙な気分だ。

 

 

「装備を弱くする……自主的に縛りをかけるか」

 

 

昨日の登録の流れで、私は登録祝いとして多数の冒険者から『すごい鎧の人』と覚えられてしまった。つまり目立つ目立たないにかかわらず坩堝一式は私を象徴するものとして認識されてしまったので下手に外すわけにもいかない。ならば武器だ、そう。50回もエルデの地を彷徨っているので幸か不幸か未強化の武器だけは大量に所持している。

 

いい機会なので普段使っていなかった武器でも使うか。まあとりあえず依頼は達成しているので戻ろう。

 

 

「……むっ、祝福か。これで移動が楽になるな」

 

 

これは運がいい。アクセルから近いとは言え下手にトレントを呼ぶと余計な騒ぎを起こしかねないからな。町を出た後は当分この祝福へと移動することにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、報酬は確かに受け取った。討伐したジャイアントトードはどうするべきだ?一応街の外まで運んできているが……」

 

「本来は業者に頼んで街まで運んでもらうのですが、流石アセビト様ですね!!手数料もいらないのでその場で買取となります。品質検査もありますので担当の者を同行させますね」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 

ジャイアントトードの買取を含め、私に入ってきたのは約十万エリス。ルーンで見れば普通に多すぎる量だが、エリス換算だとそこまででもないらしい。

 

 

「普通の人間はこの後食事をとるのか。いや、しかし……必要無いからな」

 

 

褪せ人のこの身でも食事をとることはできる。『勇者の肉塊』や『ゆでエビ』がいい例だが私にとって食事とは一時的なバフ効果を得るためのものだ。決して楽しむためのものではない。

 

そういえば、私の冒険者カードはどうなったのだろうか。気になった私は懐をまさぐるフリをしながら、インベントリからカードを取り出す。こうしなければ怪しまれる、とはカズマ殿のアドバイスだ。

 

 

「レベルは2、ほう……これがステータスポイントか。『メモリ・ストーン』が無くともこの世界の魔術……いや、魔法を好きなだけ使えるというのは凄まじいな」

 

 

昨日までは祝福が無かったため、エルデで最後に記憶していた魔術と祈祷しか使えなかった。『エルデの獣』用にしていたので対大型の術が多かったのだが、この世界の魔法はその制限を受けない。その代わりにルーンの支払いで伝授出来ず、職業に適したスキル、魔法のみしか習得できないと。分かりやすい制限だが、選択肢が広がるという意味ではやはりエルデ式の方が便利だな。

 

……そういえばカズマ殿の冒険者という職業は、職業ごとの恩恵を一切受けることができない代わりに誰かに伝授してもらうことで全てのスキルを会得できると聞いたな。『ルーンマスター』という職業を持っている私が教えれば、カズマ殿もエルデの術を使えるようになるのではないか?いや、しかし……それはよく吟味してから試さねばならないな。果たしてこの世界にエルデの技を広めていいものか未だ判断しかねる。

 

 

「お?おーい褪せ人さーん!!」

 

「……カズマ殿」

 

 

噂をすれば、という諺?がニホンにはあるそうだが今がこの状況だろう。私がギルド内の壁に背を預け思考に耽っていると丁度いいタイミングでカズマ殿とアクア殿が入ってきた。ちなみにどうでもいいことだが私のポーズはエンシャがギデオンの部屋の前で行っていたポーズだ。

 

 

「褪せ人さんもこれからクエストか?」

 

「いや、私は早朝から出かけていたのでな。今終わってきたところだ」

 

「マジか!?どんなクエストに行ってきたんだ?」

 

「ジャイアントトード5体の討伐だ。この世界に来たばかりなので自分の実力の確認をな。鈍っていないようで安心していたのだ」

 

「俺達が受けようと思っていたクエストじゃんか……もしかして無くなってる!?」

 

「カズマさーん、そのクエストまだあったわよー!!」

 

「奴らは数が多いという話だ。まだまだ同じような依頼は残っているだろうさ」

 

 

カズマ殿が悲しげな表情をした直後、クエストボードから依頼の紙を取ってきたであろうアクア殿が声を掛けてきた。私はフォローする様にカズマ殿に声をかけると、気を良くしたのかやけに笑顔だ。感情の起伏が激しいのは良いことだ。

 

 

「よし、じゃあそれを受けるぞアクア!!じゃあ褪せ人さん、またなー」

 

「あー、少し待ってくれ。貴公らが良ければなのだが、同行させてくれないか?」

 

「へ?そりゃあ褪せ人が一緒ならどんなモンスターだって余裕だろうけど、疲れてるだろ?」

 

 

私のよくないところだ。人との関わりがあるとつい関係を深めたくなってしまう。たとえそれが血の指であろうとも火山館の一員であろうともだ。

 

 

「あの程度で疲れを見せては王など名乗れんよ。この世界の戦い方がどういったものなのか、見学したいのだ。貴公のアドバイス通り、身の振り方というのはよく考えねばならないからな。なに、報酬などいらんよ。暇を持て余しただけなのでなぁ」

 

「そういうことなら、こっちからもお願いするぜ。アンタがいりゃあ安心して挑めるしな」

 

 

こうして、私達3人は臨時でパーティーを組むことにした……のだが……

 

 

 

「あああああああ!!!!助けてくれアクアぁ!!」

 

「プークスクス、超ウケるんですけど!!カズマったら顔真っ赤で涙目で超必死なんですけど!!」

 

 

ああ、やはりアクア殿もしっかりと神であったか。

 

私の目の前には、右手に剣を持っているカズマ殿がジャイアントトードに追われており、それを見てアクア殿が爆笑しているという光景が広がっている。

 

 

「アクア殿……無理やり連れてこられたことには同情するが、一応彼が居なければ天界にも帰れないのだろう?手伝った方がいいのではないか?」

 

「大丈夫よ、死にたてほやほやなら私の蘇生魔法で復活させれるし。まあ……仕方ないわね。今日のご飯代はなんとしても稼がないといけないし、カズマー!!褪せ人に感謝することね!!彼のおかげでこの水の女神アクア様の支援を受けることができるのだか……ふぎゅっ」

 

「アクアー!?」

 

 

私は気づいていたが、アクア殿は背後に迫っていたジャイアントトード(彼ら曰くカエルと略せばいいそうだ)にぱっくりと捕食された。

 

 

「うおりゃあああ!!」

 

「ほう、やるな」

 

 

アクア殿がカエルに食われているのを見て覚醒したのか、カズマ殿は拙いながらも剣でジャイアントトードを一体討伐、急いでこちらにやってきた。

 

 

「すんません褪せ人さん!!後でなんか奢るんであのバカ助けてあげてー!?」

 

「方法は問わないか?」

 

「ああ、あんなのでも一応パーティーメンバーだからな!!オナシャス!!」

 

「仕方ない」

 

 

私はインベントリから『巨人砕き』を取り出すと両手で装備する。

 

 

「え……あの、それハンマーだよな」

 

「ああ」

 

「カエルには打撃は効かないんだよ。剣のほうがいいと思うんだけど」

 

「まあ見ていろ。下手に切断するとアクア殿ごと切りかねんからな……ふんっ!!」

 

 

私は巨人砕きを地面に勢いよく叩きつけるとその力を利用して跳躍、そのまま宙返りをする様に巨人砕きを宙に浮かせ……カエルのケツに叩きつけた。(R2最大溜め)

 

 

『オゲェェェェェェェェ!?!?!?』

 

 

カエルはあまりの……ケツが砕けて白目になるほどの衝撃を受け、ゲロと一緒にアクア殿を吐き出しながら爆発四散した。む、やはり打撃が効きにくいか。アクア殿が潰れないよう加減したとはいえこの程度の威力とは。

 

 

「…………えぇ……」

 

「おええぇぇぇぇぇぇ」

 

 

結果的にアクア殿は助かった。巨人砕きの衝撃で内臓をやられたのか女性として……人としての尊厳を撒き散らしながらという形ではあるが。

 

 

「カズマ殿、殺伐とした世界で生きてきた私が言うアドバイスではないが……やられたらやり返し給え。それができる相手は時に必要だ」

 

「お、おう……アクア」

 

「おえぇ……ひっぐ……なによ……ひっぐ」

 

 

カズマ殿は少し考えた末、意を決したように泣きじゃくっているアクア殿に決定的な一言を告げた。

 

 

「粘液まみれにゲロまみれの女神とか無いわ」

 

「『ピュリフィケーション』!!!!」

 

 

アクア殿は魔法で清潔な状態へと戻ったが、若干2名が絶望したのでこの日はもう帰ることにした。なんというか……かわいそうになってきたので今日は私が食事を奢ることにする。私が他者にかわいそうなどと思うとは、この2人なかなかやってくれる。

 

 

 

 

 

 

 

「アレね。2人じゃ無理だわ。褪せ人に正式にパーティーに加入してもらいましょう」

 

 

街に帰った後、2人は真っ先に大浴場で汚れを落としに行った。アクア殿は魔法で汚れを落としていたのだが、気分的なものらしい。私は血飛沫を浴びても祝福で休めばそういったものは取れているので特に気にしたことはないな。そもそも湯浴みなど狭間の地を追放されていた時にしかした覚えがないな。興味本位で行ってみるのも面白そうだ。

 

 

「ちょっと待てよ。確かに褪せ人さんはめっちゃ強いがそれは違うだろ。俺は寄生プレイヤーぜつゆるマンだぞ?」

 

「ふぉんなふぉとひってるふぁあいみゃないふぇしょ!!」

 

「食ってからしゃべれ!!」

 

 

今日討伐したジャイアントトードは2匹、しかし1匹は私が肉ごと消し飛ばしてしまったので仕方なくルーンに変換した。残りの一匹を私がインベントリに収納し持って帰って換金、そのお金で2人は夕飯を堪能している。

 

 

「もぐもぐ……んん、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!褪せ人はどうするのよ」

 

「私は別に構わないが、このパーティーのリーダーはカズマ殿だ。まずは貴公の意見を聞かせてほしい」

 

「おう、そりゃもちろん褪せ人さんの実力が足りないとかそんなわけじゃないんだけどさ……いつまでもアンタに頼ってばかりじゃ俺たちだって成長できない。ぶっちゃけ、命懸けた割にはあわねぇけど……これ以上他人の脛かじっていくのもなぁ」

 

「え……ヒキニートで親の脛齧りまくっていたカズマさんがそれ言うの?普通にドン引きなんですけど……」

 

「うるせぇ、分かってんだよ」

 

「……仕方ないわね。そういうことならパーティメンバーを募集しましょう!!」

 

「ほう、それは面白いな」

 

 

カズマ殿の真意が聞けたのはなかなか良かった。これで私の力を当てにするようなら関係性を少し考えねばならないと思っていたが、見た目や実力によらずしっかりした芯を持っているようだ。しかし宣言するばかりで妄言となるならば、それは意味を成さない。彼の今後次第では……私が弟子を持つことになるかもしれんな。トープスやセレン師匠に教え方というものを聞いておけばよかったか。

 

 

「簡単に言ってるけど、俺は最弱職の冒険者でお前はアークプリースト、そんでもって褪せ人さんは強すぎる。こんなチグハグなパーティーに入ってくれるやつはいるのかよ」

 

「経験則から言わせてもらうが実力差は創意工夫でどうとでもなる。しかし、人員の募集となればどうしても表面的な強さを示すべきであるだろうな」

 

「やっぱそうだよなぁ……てか、今回は見学っつーことで褪せ人とパーティー組んでるけど、俺らなんかと一緒に居ていいのか?それほど強いんだしこの街をすぐに出ていけるだろ?ああ、もちろん出ていってほしいわけじゃないぜ」

 

 

カズマ殿のいう通りだ。使命を持つ者としてそれ相応の場所に行くべきだとは私も考えている。しかし……正直、自分の知的好奇心が抑えられない。まあ別にいいだろう。

 

 

「実力はともかく、冒険者としては駆け出しも駆け出しなのだ。この街に来て2日目だが、意外と居心地がいいのだよ。まあ、一時的にパーティーを抜けるというのは選択肢としてありだな」

 

「え!?」

 

「しばらくの間はこの世界を謳歌しようと決めていてな。貴公らが本格的に魔王討伐に乗り出す時、また共に行こうではないか……とまあ適当なことを言ってみただけだ。街まで案内してくれた恩もある、助けが必要な時はいつでも呼んでくれて構わない」

 

「なるほどな、シャボンディってやつか。じゃあそれで頼む!今日は助けてもらったのにろくな恩返しができなくてマジですんません!!」

 

 

アクア殿はまたもや口に食べ物を詰め込んでいて喋れていないが、必死そうな目でコクコクと頷いているのでおそらく礼を言われてるのだと思う。

 

 

「ははっ、今度何か奢ってくれ。では失礼する」

 

 

さてと……まずは住居を得よう。そしてしっかりとエリス殿に祈って祝福を設置してもらえるようにきょうかt……交渉しよう。




『冒険者カード』


所有者の身分を証明し
能力向上をするためのカード

終わりを迎えた褪せ人に
新たな始まりを示した

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