50周目終わりなエルデの王に祝福を!   作:ゼノアplus+

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5話

 

 

カズマ殿のパーティーを抜けて3日が経った。その間私はというと、以前の野蛮な考えを捨てこの街に唯一ある祝福の周辺の土地を買ってしまえばいいという思考に至った。いやはや女神に頼りきりではよくないからな、今までも自力でなんとかしてきたのだ。

 

と、いうことで私は自分の実力に合う依頼をこなすことにした。受付嬢(ルナというらしい)に確認したところ、レイスはそこそこ強いモンスターらしく、それを討伐している私なら大丈夫だろうという判断で高難易度(アクセル基準)の依頼をこなしていた。特に、出来高によって報酬が変わる依頼はお手のもので街に悪影響を与える木の伐採に関しては1ヶ月分の生活費を稼げたほどだ。『ラダゴンの光輪』恐るべし、戦闘ではあまり使う場面がなかったがこんなところで役に立つとは……

 

目標の金額にはまだ足りないが、金以外のところで利益を得たので十分すぎる恩恵がある。住人たちからの信用度がなかなかに高いのだ。報酬を高い順に見て、自分が本当に可能かどうかのみを選別した結果、誰もが受注したくないような評判の悪い依頼が大半を占めていた。それを達成していたら『面倒なクエストをこなしてくれる凄い鎧の人』という印象にレベルが上がってしまった。意図したわけではないのだが、この程度で他人を信用していたら思わぬところで足を掬われるというのに……

 

いや、私たち褪せ人がお互い心の底から信頼する、みたいな事が無さすぎたのが問題か。

 

この世界にいると気が抜けてしまうな。10周目あたりにはもう装備を落とす敵を殺し続ける作業のような感覚だったので気が抜けるも何もないんだが。

 

 

「アセビトさーん、ちょっと寄ってってよー」

 

「む?ああ、今行くよ」

 

 

今声を掛けてきたのは八百屋の店主だ。畑の雑草を抜くクエストを息抜きがてら受けたらこのように話す仲になった。たまに野菜をくれるのだが、これがまた美味いのだ。この時を境に私は気が向くと食事を取るようになった。今は貯める方を優先しているので頻度は多くないが落ち着ける場所が出来たら料理を作ってみるのも面白い。

 

さて、ここで一つ疑問なのだが……ここ2日ほど、何かが爆発するような音が1日に一度聞こえてくる。ギルドに訪ねても苦笑いされるだけであまり詳しくは教えてもらえず、調査の依頼も貼られないので街的には問題がないのだろうと考えている。まあ私が個人的に気になるだけだ、例えるなら……そう、ラダーンが星となって降ってきたあの瞬間のような衝撃だ。

 

 

「ついでといっちゃなぁなんだが、一つ頼まれてくれねぇか?」

 

「暇を持て余していたところだ。構わない」

 

「ああいや、今日の話じゃねぇんだ。実はよぉ……」

 

「ふむふむ……ほう?そんなことが」

 

「アセビトさんこの国の出身じゃないだろ?もしかしたら知らないと思ってなぁ」

 

「ああ、確かに知らなかった。礼と言っては足りないがその件については尽力しよう」

 

「ほんとか!!いやぁーアンタに頼んでよかったぜ!!ささ、もっと食っておくれよ」

 

 

いや待ってくれそんなに貰っても私には……はぁ、はっきりと断れないなんて今まで無かったのだが……純粋な善意というのはなんとも断りづらい。店主に見送られながら店を後にした私は、彼から貰ったトマトという野菜を齧りながら道を歩いていた。

 

ふむ……店主の話によるとこの世界の野菜は飛んで動き回るらしい。言っている意味はあまり理解できなかったが、それを捕獲したら優先的に彼の店に卸してほしいとの事だ。ギルドよりも買取金額は安くなるらしいが、美味いものを食わせてくれているから引き受けた。情報料も兼ねている。

 

 

「さて、気分的にだが腹も膨れたことだ。気になっていた一撃熊の討伐にでも行こうか」

 

 

今日は『カタール』でいこう。未強化品が二つあるので二刀流の形だ。ふむ……『命奪拳』の戦技があれば楽しいのだが、生憎戦技の付与ができる人材がいない。自分でしても良いのだがいつもヒューグにして貰っていたから自分でやるのは違和感がある。

 

 

「拳系の武器を装備するのは久々だな。さて、物は試しだ一撃熊のついでに手頃なモンスターで肩慣らしで……も……」

 

「だーはははは!!!!」

 

「いやー!!パンツ返してぇぇぇぇ!!!!」

 

「…………カズマ殿?」

 

「はははは……え?」

 

 

気が早いかもしれないが右手にカタールを装備した私が武器の具合を見ながら道を歩いていると、泣いている女性のものと思われる下着を振り回しながら高笑いしているカズマ殿に出会った。

 

「褪せ人さん……いや、その、えっとですね……」

 

「…………遺言だけ、聞いておこう」

 

「ああもう…………誤解なんですうぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

 

 

悪漢死すべし、慈悲はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ほんとに殺しちゃったの?」

 

「そんなわけないだろう。素手で気絶させただけだ」

 

「ふーん……でもまぁ、童貞でヒキニートなカズマがそんなことできるなんてねぇ」

 

 

ヒキニート……?アクア殿のいう言葉もニホンでは一般的な言葉なのだろうか。

 

私は現在、現行犯で気絶させたカズマ殿を引きずり、被害女性と仲間だろう女性騎士と共にギルドにやってきた。タイミングよくアクア殿がいたこともあり引き渡しも済ませたのである。女性騎士にあまり良い思い出がない……

 

 

「まあ私も居合わせただけで要所しか見ていない。主観が入っても構わないから説明をしていただいてもよろしいか?」

 

 

私が被害女性ともう1人に声を掛けると、2人とも了承してくれた。ちなみにアクア殿の隣に魔術師の格好をした女性がいたのだが、少し前にパーティーメンバーとなっていたらしい。順調なようで何よりだ……今日が命日とならなければな。

 

 

「私はダクネス、そしてこっちがクリスだ。実は私は彼にパーティーメンバー入りをお願いしていたんだが、クリスが冒険者の彼に盗賊のスキルを教えようとしていたんだ。それが『スティール』だったんだが……クリスが運良く財布をとってしまってな。覚えた『スティール』でクリスの物をなんでも一つ盗んでいいという賭け事をしたんだが……んんっ、やはり素晴らしいな!!」

 

 

なにが素晴らしいのだろうか。恍惚な表情を浮かべている騎士ことダクネス殿の発言を聞くかぎりカズマ殿が一概に悪いとも言えない。

 

 

「クリス殿でよかったかな?今の内容に相違点は?」

 

「ないよ〜、でもまさか『自分のパンツの値段は自分で決めな』って言われて有り金全部取られたのは流石に堪えたけどね」

 

「「「……」」」

 

 

私達のカズマ殿を見る目が変わった。気絶中の彼はとても安らかな表情をしているが……別の理由な気がする。

 

 

「ま、まぁ両者非があるということで……いいだろうか?」

 

「あの褪せ人をここまで困惑させるなんて……やるわねカズマ」

 

 

ああ、私も本当にそう思うよ。格下も格下にここまで心が翻弄されたのは初めてだ。

 

こうして、被疑者?の意思に関係なくこの事件は終了した。ダクネス殿はどうやらクルセイダーという戦士系の上級職らしく、アクア殿がカズマ殿に断りなくパーティーに入れていた。

 

 

「ふむ、そういえば貴公の名を聞いていいだろうか」

 

「ふっふっふ、ようやく私の出番ですか。我が名はめぐみん!!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操る者!!かっちょいい鎧の人、噂は聞いていますよ!!漆黒の炎でレイスを蹂躙したとか」

 

「褪せ人だ。漆黒の炎とはこれのことかね?」

 

「おお!!なんとも禍々しい炎なのでしょう!!」

 

「……あのテンションに冷静に返すとかアンタ凄いわね」

 

 

めぐみん殿に『黒炎』を見せると目を輝かせて近寄って来た。ふむ、帽子で分からなかったが意外と小さいな。

 

 

「他には、他にはそういうのないのですか!!」

 

「他か、今使用できる祈祷だと……『ランサクスの薙刀』」

 

 

右手に装備した『指の聖印』から赤い雷が放出され薙刀の形をとった。普段ならばこれを振り切るのだが、今は見せるだけなので手元で押さえている。

 

 

「おぉ……ぉぉぉおおお!!!!素晴らしい、素晴らしいです!!私の知らない魔法ばかりですしこんなにカッコいいのがあるなんて!!」

 

「魔法ではない。祈祷という……まあ精神力を使い、祈ることでこのように技として顕現させているんだ」

 

「魔法じゃないんですか!?道理で見たことないわけです」

 

 

なんだか懐かれてしまった気がする。もしや道端で会う度に何か祈祷を見せなければならないのだろうか……

 

 

「ん……んぅ?いてて……あっ」

 

「ようやく起きたかカズマ殿」

 

 

ここでようやくカズマ殿が目を覚ました。寝ぼけていたようだが私の顔を見た瞬間、先程のことを思い出したらしい。

 

 

「まずは弁明をさせていただきたいというかここはどこっていうかなんで皆さん揃ってらっしゃるっていうかそのー……」

 

「安心してくれ、その件については解決済みだ」

 

「……へ?」

 

「クリス殿とダクネス殿がまともな人間で良かったよ。一方的な供述をされていても私達に否定材料がなかったからな」

 

「そうよー、普通ぼったくられてもおかしくなかったんだから。運だけは良いわねカズマ」

 

「んなっ、騎士の誇りに懸けて私は嘘などつかんぞ!!」

 

 

なにが起こっているのかわかっていない様子のカズマ殿だが、私達の言葉でなんとなく状況を察することが出来たようで少しずつ表情に元気が出て来ている。

 

 

「それは……つまり?」

 

「喧嘩両成敗、というやつだ。クリス殿はまあ自己責任で()()を『スティール』され、貴公は……まあ、私に気絶させられたからそれで良いだろう。次からは目立たないようにやってくれ」

 

「はい、ほんっっとにすんませんした」

 

 

カズマ殿も反省したようで何よりだ。とりあえず一件落着、という事で私は依頼を受けようとしたのだが……アクア殿に誘われ卓を囲んでいる。私の鎧姿は大きいので邪魔になると言ったのだが、意外にも席が広くて座れてしまった。

 

 

席順は

 

私、カズマ殿、アクア殿

 

テーブル

 

ダクネス殿、クリス殿、めぐみん殿

 

だ。

 

 

「なにやらいつのまにかダクネスがうちのパーティー入りをしているのはこの際もう仕方ない……いややっぱり仕方なくない気がする」

 

「しかし彼女はクルセイダーなのだろう?上級職なら貴公らの言っていた条件には適しているが」

 

「性格面の方だよ」

 

「いや……うむ、すまない。私は力になれそうにないな」

 

 

うすうす察していたが、罵倒に近い言葉が出る度に鼻息を荒くしていたダクネス殿のことを思うに……そういう事なのだろう。エルデにああいった手合いが居なかったので扱いが分からん。カズマ殿の周りには特殊な人間以外集まってこないのだろうか……ああ、既に私もその1人か。

 

私が自分の(本当にどうでも良い)無力さに目頭を抑えていると、神妙な表情でカズマ殿が語り始めた。

 

 

「実はな、俺たち3人は本気で魔王討伐を目指してる。褪せ人さんとは別行動だけどな」

 

「ふっふーん、すごいでしょ!!」

 

「背負う使命は同じ、という事だ」

 

「へー」「ほう」「そうなんですねー」

 

 

コイツら興味ないだろ……っとと、失礼、思考が乱れた。苛立つ、という感情も久しぶりだな。

 

 

「特にダクネス、女騎士のお前なんて魔王に捕まったりしたらどんな目に遭わされるか分からないという役どころだ」

 

 

……なぜ今ゴドリックの顔が思い浮かんだのか、まあ酷い光景と言えば奴が1番だったな。モーゴットやモーグのように出生に関係なく奴はやり方に問題があった。むしろあの2人はその生き様まで美しかったのだがな。

 

 

「ああ、全くその通りだ。昔から魔王にエロい目に遭わされるのは女騎士と相場が決まってるからな!!それだけでも行く価値がある!!」

 

「えっ?」

 

「えっ?……私は何かおかしなことを言ったか?」

 

 

ああ、久しぶりにローデリカに会いたくなってきた。彼女とヒューグのやりとりを見ているだけで荒れていた心が安らぐというのに……この世界にまともな女性はいないのだろうか。いないんだろうなぁ……

 

こう考えるとゴドリックは早めに処しておいて本当によかった。次に似たような奴が現れたらチリも残らず消し飛ばそう。奴はデミゴッドの中でも最弱……どうせなら破砕戦争で敗北したというマレニアの技で叩き潰してやろう。

 

……というか、先ほどから感じていたがこのクリス殿、女神だな?アクア殿より気配は少ないが、隠しきれない神性を感じる。己の権能で気配を消しているのか、それとも分体を下界に送っているのか……今度2人きりのときに『回帰性原理』を使ってみるか?

 

なんだか面倒になって来たので、彼らの話を軽く聞き流していると……ギルド内に大きな声が響き渡った。

 

 

『緊急クエスト!!緊急クエスト!!街に中にいる冒険者各員は至急冒険者ギルドに集まってください!!』

 

 

……今度はなんだ。どこもかしこも騒々しい。




『ドM』

エルデに存在しなかった人種
どんな褪せ人だろうと
必ず恐れ慄くだろう

決して屈辱を与えてはいけない
奴らにとってはそれら全てが
快感を得る糧でしかないのだ


『厨二病』

エルデに存在しなかった人種
どんな褪せ人だろうとその瞳には
普通に映るだろう

そのような細事に拘るほど
褪せ人の生き様に勝る
病などないのだから


『???』

とある祈祷で暴かれる
女神エリス最大の謎

褪せ人には分かるまい
女神ではなく女のプライドが
そこには隠されている

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