私達、冒険者達は今アクセルの街の正門前で待機している。何事かと思っていたら、今日八百屋の店主から聞いた動く野菜が襲来するとのことだ。なんともタイミングがいいのか悪いのか……1玉1万エリスでの買取だそうで、なかなかに高額。しかしとある問題がある……数が多すぎる()
「あの量は聞いてないが?」
丘の向こうに見えるのは緑色……そう、
ここまでの焦りはもう当分見られないだろうな。なぜなら私の鎧は防御力を上げるものではなく強靭度をあげるもの。どんな敵からでも必ずダメージを与えられてしまうのだ。店主との約束がある手前逃げ出すことはしないが、いつもならばトレントを呼び出し即座に逃げ帰っているところだ。
さて、今回使う装備を紹介しよう。坩堝装備一式は変わらない。
武器構成だが……『鋲壁の盾』の二刀流だ。え?なにを言っているのか分からない?はっはっはっ……まあ待て、言いたいことはわかる。だが最後まで聞いてほしい。
次にタリスマン……敵に狙われやすくなる『シャブリリの堝』、物理カット率を上げる『竜印の大盾のタリスマン』、生命力やスタミナを強化する『黄金樹の恩寵+2』、聖杯瓶を強化する『緋色種子のタリスマン』だ。
聖杯の振り分けは赤13、青1。霊薬の配合は瀕死の時自動的に生命力を回復する『緋色の泡雫』、受けたダメージを生命力に変換する『緋色渦の泡雫』
使う予定の遺灰は『しろがねのラティナ+10』だ。
エルデの地ではあり得ない、【生存】を第一に考えた装備だ。キャベツのヘイトを私に集め、突撃して来た者には出血属性のついた盾で迎え撃つ。ラティナには私の背後からその正確無比な射撃で射抜いてもらう。
ははっ、こんな事を思いつくのもそうだが、
「あのー……褪せ人さん?そのいかつすぎる装備は……?」
「絶対に生き残るという強い意志の下考案した対キャベツ用最終装備だ」
「ああもう褪せ人まで染まっちゃってるー!?なんだよ対キャベツ用最終装備って、頭おかしくなるわ!!」
カズマ殿はなにを騒いでいるのだろうか。それにしてもカズマ殿の防具は強靭度がなかなか低そうだな。布……だろうに。
「はぁ……はぁ……アセビト、その拷問器具の様に鋭い棘のついた盾はいったいなんなのだ!!そんな盾で挟まれたら、私なんてもう……くぅ!!」
「…………すまない、カズマ殿。こんな時、どうすればいいのか分からない」
「まさかの綾◯!?無視しときゃいいよ、下手なこと言うと余計につけあがるんで」
「放置プレイ!?それもまた、いい!!」
「な?」
「……なんと業の深い」
始まる前からやる気が失せる様なことは本当にやめていただきたい。
「攻撃力があるビッグ◯ールド◯ードナーじゃねえか……かっこ良すぎるだろ」
……どこかの地下墓にその様な名前の領域支配者などいたか?まあいいか。
「来るぞーー!!」
「ッ、ラティナ!!」
『霊呼びの鈴』でラティナを召喚する。
「私の後ろでアレらを射抜いてくれ」
『……』コクッ
「頼んだ」
「うおっ!?なんだそれ!!味方か!?」
「私が呼び出した従者だ、気にせず戦ってくれ!!」
他の冒険者達が驚いている、最初に説明をしておけばよかったか。そしてキャベツが私に集まってくる……
「くっ……なかなかの突撃……だが、まだ効かんなぁ!!」
物理カット率を上げたことにより、100%をカットできる様になった私の盾、両手でしっかり構えているので私の体がすっぽり埋まる様になっている。そして突撃したキャベツ達が盾に触れた瞬間、次々と串刺しになっていく。ちなみにラティナが射抜いたキャベツも自動的に私のインベントリに収納されていくので、これが本当の『懐が温まる』という奴だ。
「ぐぅぅぅ、ぉぉぉおおおお!!!!」
ヘイトを貯めるタリスマンのせいか、おかげか、私に向けて突撃してくるキャベツ達が増えてきた。いかに防ぐことができ、ダメージを負わないと言ってもそれはスタミナがあるうちの事。このように連続で攻撃されていてはガードも崩れてしまいそうだ。
「アセビト、私も協力しよう!!」
「いやいい!!他の冒険者を守ってやってくれ、貴公が請け負えない分はこちらで引き受けよう!!どうやら攻撃が当たらないようだしなぁ!?」
ダクネス殿が果敢に直剣で攻撃していたが、全く一撃も当てれていなかった。私もあのように小さな体で飛び回られていては攻撃を当てづらいと思ってこの装備にしたが、だからといって一度も当てていないとは………不器用とは聞いていたがこれほどだとは思わなかった。
「このような状況で人のコンプレックスを刺激するとは……!!肉体的にも精神的にもなんという快感……んん、たまらん!!」
ああもう本当にこっちににじり寄ってこないでほしいし盾役には盾役の仕事があると言うことしっかり理解してほしい、いやそれ以前に普通に近づかないでほしい。
「分かった、3秒私の前に立て。回復する」
「ああ、任せてくr……ぐっはぁ……あっ///」
「喘ぐなッ!?」
◆
あれから戦い続け私のインベントリには100を超えるキャベツが収納されている。この時点で単純計算100万エリスは稼げているため、帰りたいのだが……状況がそれを許してくれない。負傷した冒険者を私の後ろに複数匿っているので引くに引けないのだ。この時点で聖杯瓶は残り2本、霊薬はまだ使用していない。正直もっと早く無くなるかと思っていたが、アクア殿が微量ながらも回復魔法をかけてくれているお陰だ。
『狭間の地の褪せ人にはこの魔法対応してないのよー!!』
などと言っていたが、流石は女神だ。エリス殿くらい敬ってもいいのかもしれない。ラティナもまだ生きているし今なお討伐数は上昇しているが私の命が危ない。こんなに大勢の前で死ぬのだけは避けたい。
「褪せ人ー!!具体的なあれこれは省略するけど、周りのプリーストの回復魔法をあんたにも使えるようにしてあげたからもうちょっと耐えなさーい!!」
女神か?さては女神だな。切実な修羅場で私のテンションがおかしいことは重々承知しているが、こうでもしないと隣にただの変態がいると言う事実から目を逸せないのだ。
「くぅっ……!!汚物を見るような視線……時と場を弁えた方がいいのではないかアセビト!?」
「私はいま兜を被っているんだが?」
貴公が時と場を弁えてくれ……しかし、50周もエルデを旅して来たが他者から支援をされるというのは初めてではないか?遺灰は私の持ち物なので含まず、ラダーン祭りは協力というか個人が集まって戦っていただけだしな。真面目に連携して戦うのは良い経験になりそうだ。
「ここからは私の出番のようですね!!『光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ。紅魔の名のもとに原初の崩壊を顕現す。終焉の王国の地に、力の根源を隠匿せし者。我が前に統べよ!エクスプロージョン!』」
刹那、轟音と共に私の視界が真っ赤に染まり……最後にキャベツの突進が私本体に突き刺さり視界が暗転した。私が最後に見た景色は、口を手で隠しながら驚愕のあまり目を見開いているラティナの姿だった。
……最近の地響きの原因はこれか。凄まじい威力、私のアステールメテオにも匹敵するだろう。まさかこの世界にこれほどの術者がいるとは思いもしなかった、めぐみん殿。素直に賞賛を贈ろう……贈れたら良かったのだがな。
「…………はぁ、この世界での初デス、主な原因が味方の攻撃とはな」
【YOU DIED】
…………ふぅ、しっかりと『アクセルの街郊外』の祝福から復活できたな。時間もそれほど経っていなさそうだ。この世界の神もしっかりと仕事をしてくれて助かる。聖杯瓶が尽きかけていたとはいえまさか一撃で殺されるとは思っていなかったがね。
阿呆のような装備達を外し、物理火力重視のタリスマンに切り替えておく。インベントリのキャベツ達も無事なようなのでこれから八百屋へ卸に行こう。まあ、ギルドでの報告はそれからでも遅くはない。
◆
「ああーーー!!探しましたよアセビト!!今日の主役なのにどこ行ってたんですか!!」
「すまない、爆風で吹き飛ばされてしまってな。身なりを直してから来たから遅くなってしまった」
ギルドに入った瞬間、めぐみん殿が私を見つけて駆け寄って来た。私を爆殺し掛けたとは思えない娘だ。
「あの……褪せ人さん、もしかして……」
「うむ、死んだ」
「ですよねー!?」
「まあ最後の一撃はキャベツだったさ。爆裂魔法とやらで9割は持っていかれたがね」
小声で話しかけて来たカズマ殿は全力で私に謝っている。ちなみに彼には私の素性を話してあるので、死んでも復活できることは知っている。
「というか私が主役とはどういう事だ?」
「なに言ってんだ、アンタが今回のMVPだろうがよぉ!!あんな活躍されちゃあ見てるこっちも熱くなるってもんだぜ!!」
「アセビトに酒を渡せぇ!!今夜は宴だぁ!!」
「「「「「「ぉぉぉぉおおおおお!!!!」」」」」」
な、なんだ。なにが起こっている……モヒカン?みたいな髪型の男がギルド内に響くような大声で叫んだと思ったら、冒険者達が一斉に酒を呷り始めた。
「まあまあ、細かいことはいいのよ褪せ人。とりあえずほら、飲みなさい!!」
「むぐっ!?……ぷっはぁ!!なんだこれは?」
「酒よ酒、なに?もしかして飲んだことないの?」
「……液体が弾けるのは面白い感覚だが、苦いな」
どうやらシュワシュワ?(※クリムゾンビア)というらしいこの飲み物、この世界では一般的らしいが口に合わん。そもそも私が常飲しているのは聖杯と霊薬だぞ?味云々以前に効果優先だったんだ。食事というものになれるところからではないか。
「アセビト様、買取が終了しました」
「む、ああ助かる」
八百屋にある程度キャベツを卸し、残った分をギルドで買取してもらっていた。八百屋では50万ほどで売れたがこちらでは幾らだろうか。
「アセビト様が持って来られたキャベツは保存状態がよかったので少し高めの買取金額ですね。150万エリスになります」
「確かに受け取った」
「マジか!?……まああんだけ倒してりゃそりゃそこまで稼げるよなぁ」
「貴公もなかなかのものだったぞ?覚えたての『スティール』をあそこまで上手く使えるのは十分だと思う」
派手さはない、しかし一体一体丁寧に処理していき大きな被弾も受けていなかったのは評価できる。戦闘に関しては全くの初心者だと思っていたがそうではないのか?
それにしても合計二百万エリスの収穫……とりあえず土地代はなんとかなりそうだ。明日は土地を買いに行くことにしよう。
「そんなに稼いでんならちょっとは奢りなさいよ褪せ人!!すいませーんシュワシュワ追加でー!!褪せ人につけといて!!」
「なに言ってんだクソ女神ィ!!」
「……まあ、今日くらいはいいだろう」
回復してもらった礼だと思えばこの程度、というものだ。さて……さっさと酔い潰して帰ろうか。
『スティール』
褪せ人に使用すればインベントリからランダムで何か一つ奪える
しかし褪せ人の持ち物は膨大であり狙った物を盗むのはほぼ不可能である
大当たりは現在二つしか所持していない『古竜岩の喪色鍛石』
なおこの世界で加工できるかは現在不明である