50周目終わりなエルデの王に祝福を!   作:ゼノアplus+

7 / 16
7話

 

 

「ふむ……『自分だけの居場所』というのは案外居心地がいいものだな」

 

 

キャベツの収穫祭から一夜明けた今日、私はついに『アクセルの街郊外』の祝福一帯の土地を購入することができた。買うまでの一連の流れを説明してくれた受付嬢には感謝せねばならないな。

 

 

『アクセルに常駐していただけるのですか!?』

 

 

という驚き方をしていたが、祝福同士でワープが出来るので買っただけだ。移動の手間も省けるので私にはメリットしかない。それに、()()しかいないのならばあまり警戒しなくて済む。

 

 

「さて、次は建物か……」

 

 

いくら祝福が我々以外に見えないとはいえ、逆になにも見えないところで座っている鎧の男は不自然だ。それに、一度文明的な生活を覚えてしまったら椅子やらテーブルやらが欲しくなってしまうのも困りものだ。当分は夢のマイハウスとやらを目指して貯金するしかなさそうだが……

 

そんなことも言ってられなくなった。街の構造を把握するために散歩をしていた時のことだ、路地の奥の方で魔道具を売っている店があった。エルデには魔道具という概念が無かったし、そんなものを使うなら魔術を鍛え、信仰心を捧げて祈る方が余程有用だったからな。しかし今の私はただの多少、知的好奇心が強い冒険者、使わずともコレクションとしてインベントリの肥やしにするのも悪くはない。本物の肥やしが入っているが気にしてはいけない。

 

 

 

というわけで到着した。以前来た時は店まで入らなかったのでこれが初来店だ。それにしても今まで商売といえば流浪の民ばかりだったから、こういうどっしりと構えた商人というのは違和感がすごいな。

 

ドアを開けると、カランカランという音が鳴る。トラップの増援か……いや、違うか。おそらく客が来店した時に知らせるための鈴だろう。

 

 

「あっ、いらっしゃいませ!あら……冒険者さんですか?」

 

「ああ、先日この街に来て登録をした。散歩をしていたら興味深い魔道具が見えたのでな」

 

「そうなんですかぁ!!ごゆっくりどうぞ〜」

 

 

紫色のゆったりとしたローブの女性、おそらく店主だろう者はのほほんとした笑顔をこちらに向けてくる。こうして見るとただの気の良さそうな女性だが……何か変だな。気配が強すぎるし、昔冒険者をしていたとかなら分かるがそれにしては見た目が若すぎる。

 

 

「邪魔をする」

 

 

とりあえずは保留だな。今のところ特に敵意を感じない。

 

 

「すごい鎧の人……もしかして結構な金持ち!?やっとこの貧困生活から抜け出せるかも……!!」

 

「…………」

 

 

敵意どころか、なにやらとても期待されている。というかこの規模の商品を仕入れることができるのに貧乏なのか……不憫すぎないか。

 

それにしても、品はなかなか悪くない。使い方は全くわからないがどれも魔力を秘めている。

 

 

「店主、この瓶はどういったものなんだ?」

 

「それらの棚は衝撃を与えると爆発するポーションです。気をつけてくださいね」

 

 

そのような物を店頭に置くな、というか街中で売るな。しかし……悪くないな。保存に関してはインベントリに入れておけばいい。使用の際はショートカットに登録していれば爆竹程度の威力にはなるか……?いくら素材が有り余っているとはいえこの世界であまり壺系を使いたくないのだ。何故かって……?私の能力値の補正を受けるからどのみち過剰火力になってしまうのだ。

 

 

「ふむ……そちらの棚は?」

 

「ボタンを押すと肉を串焼きにできる魔道具です。その人の魔力によって火力が両極端なのが玉に瑕ですね……えへへ」

 

 

一瞬心惹かれたが、私には絶対扱えないではないか。燃えるどころか爆発が起きるぞ。

 

 

「あ、あの棚は……?」

 

「使用者が透明になるブレスレットです。使うと視界も白飛びしますし物にも触れられず平衡感覚も消え失せるので一度使うと魔力が切れるまで身動き出来ないですね」

 

「使いようによっては、使えるかもしれんが……いや、流石にか……?」

 

 

他にも商品の説明を色々と受けたが、どれも絶妙に使い道がありそうでデメリットが8割を占めるような魔道具ばかりだ。それにこの街の物価を考えるととても値段が高い。そもそも駆け出しの街と言われているアクセルで魔道具を買える者がいるのか?

 

 

「とりあえず、あの爆発ポーションはあるだけいただこう。それとそのブレスレットは……ううむ、一つ、いや……二つ貰えるか。後あれとあれ、そこのそれと……あああの魔道具もだ」

 

「え、えぇぇぇぇぇぇ!?!?いいんですか!!私が言うのもなんですけど、あんまり良いマジックアイテムじゃないですよ!?……高いですし」

 

 

本当に貴公が言ってはいけないじゃないか。

 

 

「幸い昨日のキャベツ狩りでそこそこ稼いでいてな。それに……これで安全性も問題ない」

 

「え、そんな魔法、見たことないです。物を収納する魔法ですか?」

 

「似たような物だ。魔法ではなく私の……固有スキルと言ったところだがな」

 

 

私が手のひらで金を出し入れしてみせると、店主は驚いたように見つめた後少し焦ったように支払いを完了させた。大体30万エリスほど消し飛んだがそれに見合う満足感は得られた。これが収集癖……私にも業の深い趣味が出来たらしい。

 

 

「ほぇぇ……それにしても固有スキルですかぁ、もしかしてお客さんも人外の方だったり……なんて?」

 

「ほう?やはり人間じゃなかったか」

 

「……あっ」

 

 

この店主、自ら墓穴を掘ったな。彼女はやってしまったと言わんばかりに口を手で押さえ引き攣った笑みで後ろに下がった。どうやらなかなか愉快な性格をしているらしい。

 

 

「あ、あのっ、この事はどうか内緒にしていただきたいのですが……」

 

「ああ、構わない。なに、情報交換も兼ねて少し話をしようか。私の気が変わらないうちにな?」

 

「……あ、はい」

 

 

彼女の名前はウィズ。リッチーという種族だそうで、アンデッドの王……という役どころらしい。魔王の8人の幹部の1人と聞いた瞬間、『秘文字の剣』を抜きかけた。しかし、落ち着いて話を聞くと、いわゆる『なんちゃって幹部』らしく、結界の維持だけを担っているらしい。それ以外の幹部の役割は全て放棄することを魔王直々に認められているらしい。

 

……ふむ、魔王とは案外気弱な性格をしているのか?話を聞く限り王の威厳というものが一切感じられないのだが。

 

 

「エ、エルデ?という国で王様だったんですか!?こここここ、これはた、大変失礼を致しました!!!!」

 

「待て待て待て待て……王、と言っても王族の血とかそういうのではない。ただ実力で成り上がっただけの蛮族だ。普通に接してくれ」

 

 

ウィズ殿が目にも留まらぬ速さで土下座を披露してくる。やはり現地の人間……リッチー?いや、人間にはやはり王という事は言うべきではないか。

 

 

「実力で王様になったって……どれだけ強ければなれるんですか……」

 

「神を殺せるくらい強くなればだな」

 

「えぇ!?」

 

「冗談だ」

 

「ですよね!?え、ほんとに冗談ですよね!!」

 

「どう思うかは貴公次第だ」

 

「…………1番聞いちゃいけない事聞いた気がします」

 

 

ははは……魔王に是非とも報告してみて欲しいものだ。どう言った反応が得られるかみてみたい。

 

 

「ではそろそろ失礼する。長々とすまなかったな」

 

「い、いえ!!本当に、ほんッッとうにお買い上げありがとうございます!!!!またのお越しを心からお待ちしてます!!」

 

 

どれだけ貧困に喘いでいたんだこの店主……定期的に様子を見に来ることにしよう。

 

 

『お客さんかい……何か、買っていっておくれ……ずっとひもじくってなぁ……』

 

 

まさか。あの頃の私にそんな善性が存在していたわけがない。自らに終焉を齎すことだけにしか興味がなかったのだから。あれはただのアイテム補充だ。

 

 

「ふぅ……金を使った直後にまた散財してしまったな。いつ死んでもいいようにルーンをギリギリまで消費しておく癖が抜けていないな」

 

 

そういえば、結局私はこの世界のスキルという物を一つも習得していないな。せっかくルーンマスターという職業があるのだしスキルを取得してみるのも面白そうだ。

 

私は冒険者カードを取り出すと、カズマ殿がやっていたようにカードをなぞりスキル一覧を見た。

 

 

「……なにもない?」

 

 

記載が一つもない。まさか、本当に私がこの世界で活動するために用意されたただの設定だったというのか?いや、そんなわけがないだろう。職業を選ぶ時に感じたあの感覚、どう考えても私にとってまさに()()だと感じたはずだ。

 

時間がかかりそうだ。私は祝福にワープすると、ついでに購入したベンチを取り出し腰掛ける。

 

 

「精神力を使用してもなにも起きん……おかしいな、私の精神力とこの世界の魔力は大体共通した物なのだが……」

 

 

正規の方法でも魔力でも反応がない。そういえば受付嬢が私の冒険者カードを見て記載がおかしいと言っていたな。それを見る限り全ての能力値が上限を迎えている、と……それはつまり私の今までのルーンによる『レベルアップ』した数値が記載されていたことになる。

 

 

「ッ……まさか」

 

 

突拍子もない思いつきだが試してみる価値はある。私は他者へルーンを渡すのと同様に、ルーンを冒険者カードに送り込んだ。

 

 

「ほう、そういう仕組みか」

 

 

あからさまに冒険者カードが淡く光った。驚いた、この世界でルーンと言えば『ルーンナイト』のような【付与】を司る単語だと思っていた。しかし『ルーンマスター』とは、褪せ人流のルーン活用が出来る職業だったわけだ。ルーンを消費することであらゆる術をマスターすることが出来る。『冒険者』という職業のルーン版、というわけだ。

 

しかし……比率が不平等すぎるだろう?大体の計算だが、ルーンとスキルポイントの交換比率が100000:1……もっと気軽にスキルを得たかった。一旦、600万ルーンほどスキルポイントに変換し60ポイント得た。どうやらスキル会得のためにポイント数も冒険者よろしく増えているらしいのでスキル選びは慎重にせねばならない。今日のところは一旦保留、カズマ殿の依頼を手伝う代わりにアドバイスを得ることにしよう。

 

 

「スキルを得るならルーンを、物を買うならエリスを……面倒臭いにも程がある……」

 

 

つまり私はこれから、モンスターを討伐する際ルーンに変換しスキルのために貯めるか、そのまま持ち帰りギルドに買い取ってもらうかを選ぶ必要があるということだ。さらにウィズ魔道具店での買い物を考えるとさらに話がややこしくなる。

 

 

「久しぶりに、『金のスカラベ』を常備せねばならんな。どこかにルーン効率がいいモンスターはいないものか……」

 

 

金自体は依頼の達成報酬で受け取れば問題ない。しかしこの辺のモンスターはルーン効率が凄まじく悪いのだ。どれくらいかと言えばエルデの地でいう貴人程度だ。レイスでゴドリック兵程度なので余程のモンスターでなければ腐敗カラスと同等のルーンを得ることは出来まい。

 

 

「知的好奇心を満たす障害が、まさかこんな身近にあったとは」

 

 

いくら実力だけで成り上がれるような野蛮な世界にいたとはいえこの世界じゃ無意味。とりあえず当面スキルの取得は諦めるしかない、まずは家を建てねば……

 

 

「そうと決まれば早速依頼を受けよう。トレントを呼び出して遠出するのもありだな」

 

 

いくら遠出したとしても、祝福付近は安全が確保されたためすぐに帰って来れる。バレて指摘されなければなにも問題ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだなトレント」

 

『……』

 

「エルデの地ではないがまたお前の力を貸してくれよ」

 

『…………』

 

「お前がいればどんな場所へだって行けるからな」

 

『……………』

 

「分かった。フローズンレーズンだ」

 

『……ブルル』

 

「ああ、頼んだ相棒」

 

 

いつのまにかコイツは食いしん坊になったんだ……

 

私はギルドで依頼を受け守衛に挨拶をしてからアクセルの街を出た。誰にも見られていないことを確認して近くの草原の祝福までワープしトレントを呼び寄せたのだが、当分召喚していなかった分どうやら拗ねているらしい。最大限に褒め称えて賄賂がわりのおやつでなんとか許してもらった。

 

今まで受けてきた依頼は全て近場だったのでトレントの力を借りなくても済んでいたのだが今から行く場所は歩きだと半日はかかるため今回は仕方がない。それに、そろそろ機嫌を取らねばなとは思っていたのだ。時はすでに遅かったようだが。

 

それから私はトレントを駆り依頼に指定された鉱山へと向かっている。依頼によれば、ごく僅かだがマナタイトが採掘できる鉱山らしい。魔力が篭る性質があるせいか寄ってくるモンスターが多いそうだ。出来るだけその数を減らすことが今回の依頼内容で、報酬は出来高制となっている。つまり完全な達成というものが設定されていないのだ。定期的に調査隊が編成され内部状況を調べるようになっているため今回の私の働きによっては臨時報酬の可能性まである。近くに祝福さえあれば時間をかけて何度でも挑戦が出来る素晴らしい依頼となっている。

 

……さて、では何故こんなにも報酬が美味しい依頼が残っていたのか、その説明をしよう。常に毒が充満しているらしいのだ。最寄りの街であるアクセルにはもちろん毒の対策を完璧にしている冒険者などいないので人気があるわけない。それに加えて数も分からないようなモンスター共が多くいる。派遣される調査隊は王都お抱えのエリート集団らしく潤沢な資源による毒対策でゴリ押しをするらしい。

 

私?……聞くな、本当に装備したくはないが免疫力のある装備を真面目に選んだ結果本当に好みでない装備しか該当しなかったんだ。誰が何と言おうと今回は普段通りの坩堝一式でやらせてもらう。

 

毒の解除用に苔薬と『火の癒しよ』を用意し聖杯瓶も青寄りである。そして皆が気になっているであろう武器の紹介だ。まず『ダガー』、『猟犬のステップ』を付与した所謂()()()()だ。メインウェポンとなるのは『夜と炎の剣』、そして『星見の杖』だ。これと言った理由はない、雑魚処理で楽をしたいためだ。タリスマンも火力メインで揃えているがまあ領域支配者……ボスとやらもいないだろう。ああ、もちろん『指の聖印』もある。

 

 

「ほう……祝福があるとは、ありがたい話だ」

 

 

さて、蹂躙開始といこう。




『ルーンマスター』

褪せ人のみが成れる職業
膨大なルーンと引き換えに
スキルポイントを得る

大層な肩書きだが
冒険者の職業で可能な事が
ルーンを使わねばならない

とある女神曰く
まだ強くなる気ですか?
とのことだ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。