戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
「二階の制圧は完了した!一階はどうだ!」
「4人いやがりましたが3人は仕留めました1人逃げ足の速いのは次の建物に!」
「何やってんだ馬鹿野郎!」
「次の建物――――――」
「ヴォオオン!」
「うぐぉ!?」
小隊長が下の階の人達と意思疎通をしている中で仲間の一人がこっそり次の建物を偵察しようと顔を覗かせようとした瞬間、遮蔽にしていた壁諸共に穴だらけにされた。
時間にして1秒だったのに夥しい数の弾丸が発射され、撃たれた人はひき肉にされた。
「あ、があ・・・腹を撃たれた・・・!」
「しっかり、大丈夫です!すぐに助けますから!」
「来るな馬鹿!」
「で、でも!」
「あいつらわざとやってるんだ!一回で殺しきらずにわざと負傷させて・・・助けに来た奴も始末するんだ!」
「そんな事ないですよ!」
「とにかく来るなぁ!」
助けたいのにそれを拒まれる。
距離にして数メートル、走って引っ張って元の場所に戻るまで三秒はかかる。
そんな僅かな時間すらも許されないのか。
撃たれた味方は、さっき私を助けてくれた命の恩人の体からは刻々と血が流れ出ていた。
傷口からはみ出したピンク色の臓物が目に焼き付く。
「そ、そうだ!なら・・・敵は見えたんですか!?」
「一瞬だが銃撃炎が・・・同じ階のかなり遠くに・・・っ!」
「分かりました、同じ階・・・・同じ階なら・・・・」
「ま、待て何をする気だ・・・・!」
「手榴弾、投擲します!伏せててください!」
「まだ若いんだから死に急ぐなよ畜生!!」
隙間と隙間を縫って遠くに投げるために下方向から手榴弾を投擲する。
投擲してから慌てずに心の中で秒数を数える。
「2・・・3、4!」
「ボン!」
「ッ今しか・・ないんだ!!」
爆発と同時に飛び出す。
噴煙が敵の視界を遮ると思ったけどこちらの視界もそこそこに遮られてしまう誤算が発生する。
だけどそれくらい何だ、超えて見せる。
先程の光景を思い出す、傷を押さえて、痛みに悶えて、尚も最後まで後の人達に為に敵の居場所を探して伝えてくれた仲間の事を。
私達が死なせてしまった、だけど今度は死なせはしない。
煙の中から倒れている味方の襟を両手で探り当てた。
「ぅ・・・ぅううう!!」
「ヴォオン、ヴォンン!!」
「げほぉ!ごへぇ!」
目の前は煙が充満していて先までは見えなかったけど敵が向かい側の建物から射撃をしてきているのは分かる。
先程と同じ驚異的な発砲音が響き、私のすぐ隣を緑色と赤色の銃弾が掠めて通り過ぎたから。
周りの壁や地面に命中し細かな粉を散らす。
緊張で息が上がっているので思いっきりそれを吸い込んでしまい咳き込む、だけど足を止めることなく掴んだ味方を二つ後ろの部屋まで引き込んだ。
「大丈夫かカフンカ!」
「私は無事です!」
「よ、よしお手柄だぞ!ったく酷え怪我だなダァンツ!」
「また勲章が一つ増えるぜ・・・・!」
「何が勲章ですか馬鹿ぁ!死ぬかもしれなかったんですよ!」
「男は受けた傷だけ強くなるんだ・・・」
「怪我なんてない方が良い決まってるじゃないですか!・・・・あぁ・・・っつぅう・・・ふぅ、ふぅ・・・あぁ・・・」
「ははは、今更ビビり始めたのか?・・・うぐ・・・可愛い奴め」
遅れて疲れと緊張感に襲われる。
壁にもたれかかって何とか立とうとしていたけど、折角助けたのに馬鹿な事を言われて力なく座り込んでしまう。
私の運び方が悪かったせいで傷口から臓物が垂れているけどヴォルス小隊長が頑張って中に押し込んでいる。
死ぬほど痛そうなのに私の言葉にわざわざ苦笑いしてくれる、痛みを堪えてくれている。
「ヴォオン!」
「っくぅ!ダメだ、ずっとこっちを見てやがる!体を一瞬でも晒せば撃ってきやがる!」
「完全に待ちの姿勢に入られているって事だなぁ!道なき道を進むかぁ!」
「ダメそうです!次の建物に突進すれば俺達ぁこびりついたガムか、粘着力不足で剥がれて地面とキスの二択ですよ!」
悶々とした感情を払拭する為に両手で頭をぎゅっと圧迫して頬を叩いて気分を整える。
しっかりしろ、冷静さを保ち続けるんだ。
いつもは息を潜め静かに機会を待つ側だけど、今ばかりはそれに立ち向かう側として出来る限りを尽くさないといけない。
「それでどうするんだ!」
「1階も2階も見張られてる!手榴弾を沢山投げて当たる事を祈る案が一つ、全員仲良く第二回塹壕チキンレースを開催するのが一つ、妙案が思いつくまで待つが一つだ、好きなのを選べ!」
「どれも嫌だね!俺は負傷したこいつを、ダンツを安全な場所まで運ぶ仕事をさせてもらいますぜ!」
「悪いな兄弟、自力で歩いて帰れるんだ、目の前の仕事に集中しな」
「お前ぇって奴は!」
「案その4を提案させてください!」
「お、何だ通訳係!」
「1階も2階もダメなら3階からです!」
「それだ!屋根と言う名の三階が俺達にはついている!敵の意識を引くために半分は残れ!高い場所と屋根に上りたい奴は俺についてこい!」
「了解です!」
通りの敵の射線に入らないように建物の屋根によじ登る。
次の建物は集合住宅で5階ほどの高い建物でその上横幅も奥行きもある。
これを制圧すれば恐らく通りに陣取っている敵への攻撃が可能になる。
「敵影無し!」
「よぉし!間違えても通り側に転がり落ちるなよ!敵の掃射を受けてミンチにされちまうからな!」
傾斜になっている屋根に立つ、ちょうど集合住宅の3階から4階の間ぐらいの高さに位置して敵が見えない。
逆に言えば敵もこちらが見えていない事になる・・・・筈である。
屋根の頭の向こうをこっそり見れば反対側の建物を占拠するために激戦を繰り広げている友軍が見える。
「俺達は下に向かう、お前らは上を制圧しろ!!クソッたれ共に俺達の力を思い知らせやれ!」
「「「了解!」」」
屋根に上がって来た一分隊は四階から侵入してそのまま五階を制圧する算段だ。
私は下を抑えに行くヴォルス小隊長に追随する、今回は先程のように道を切り拓いて進んで存在を知らしめる爆音は鳴らしていない。
だから敵はこちらに気付いていないかもしれないし、気付いていて静かに奇襲の体制を整えているかもしれない。
「そろぉ~り静かにだ、耳を澄ませ、空気の流れを読め、匂いを感じろ・・・・」
「ヴォルス小隊長、この部屋から・・・・」
「・・・・・・全員、お料理教室の時間だ」
ヴォルス小隊長は腰にぶら下げた手榴弾のキャップを取り除く。
私もキャップを取り除いて出て来た紐に指を引っかける。
投擲係の私と小隊長はドアの左側へ、そしてドア開閉係としてチャンリーは右側に待機して出来るだけ体を遠ざけてドアノブに手をかけた。
「畜生ったくアイツら顔を出さねえ」
「三人おっ
「下の階の奴らの銃声が止んだな、回り込んで来た敵は始末したのか?」
「向かい側の奴らは何してんだよ、たった十数人にこっぴどくやられやがって、こっちも全力で援護してやってるてのに」
中にいる敵の会話が聞こえてくる。
どうやら向かい側の建物を進んでいる私達の味方を撃ち殺しているようだった
奇襲が出来ると言う事で少し微笑み気味だったヴォルス小隊長の顔が険しくなる。
「キィイイ、コロン」
「ん、ヴィクトル!こっちに来るときは大声で名前と合言葉を叫べと「バタン」さっき言ったばかり・・・・何で閉め――――――」
「ボォオンン!」
「う、あが!?」
手榴弾を投げ入れてすぐにドアが閉じられる。
直後、爆発と共に悲鳴が聞こえ、部屋の中に突入する。
今度はご丁寧に手ではなく足を使ってドアを開ける。
開ける力に耐えきれなくなったドアは案の定吹き飛ぶ、運の悪い事にそれが敵の一人に命中して顔とドアが半融合した形になる。
「て、敵だ――――」
「バァン、バン!」「バン、バン、バン!」
「あ、・・・あ・・・・ぅうう゛・・・」
数人は手榴弾で吹き飛んで無力化されていたけど部屋の隅に居た二人は健在だったので銃撃した。
一人に3発も4発も銃弾が撃ち込まれて、撃たれた衝撃で押し込まれた敵は壁に銃創アートを作った。
白い壁が赤く塗装された。
「6・・いや腕の数的に8人だな、一人吹き飛んで落ちたか?」
「た、助け・・・・」
「悪いな、その傷はノーマルには無理だ」
嬉々として仕留めた敵の数を数えるチャンリーと命乞いして来る敵を冷たくあしらうヴォルス小隊長。
私は廊下に戻って敵がやって来ないか見張る役だったけど・・・集中は出来なかった。
「カチ」
「ヴぉ、ヴォルス小隊長・・・・」
「何だ?」
「・・・・殺す・・・んですか?」
「苦しませてやりたいのか?味方の仇かもしれないが・・・・」
「い、いや・・・・・何でも、ありません」
ヴォルス小隊長は投降した敵に銃口を向けた。
そして次の瞬間―――――
「――――バン!」
まだ息のあった敵が、人間がその命を終えた。
止めるべきだったのかもしれない、だけど、あの時とは違う。
五体満足のこれからも長く生きていけるであろう人達とは違う。
普通の人は足や腕が吹き飛んで、ぐちゃぐちゃになるような怪我をしたら普通は死ぬ。
「・・・・・助かりようがなかった、だからこれは優しさだ。って言えば聞こえはいいけどな、無駄に喚かれると面倒だから黙らせたってのが正直な感想だ、悪いな」
「いえ・・・・どの道助かる人では・・・なかったかもしれません」
「勇敢で少しデキるのに通訳係は惜しいと思ったが、カフンカは通訳係が適任だな、この戦いが終わったら通常業務に戻れ、道端で招集して悪かったな」
「そんな事は、これも役目です。任せっきりにして逃げる事はしません」
「良い心構えだ、じゃあ仕事の続きだ。さあ進むぞ!」
「りょうか―――――」
「バン!」
「ッ!?」
感情のせいで集中力が削がれて注意が回っていなかった。
通路上のドアが一つ開かれておりそこから敵が顔と銃口を覗かせてこちらを狙っていた。
幸いにも私を狙った初弾は命中しなかったけど反射的に部屋の中に飛び込んだ。
「大丈夫か!?」
「大丈夫です!敵が三・・・少なくとも三人見えました!」
「モンスターハウスかよ、ったく!」
急な動きでずれて視界を遮るヘルメットを被り直す。
ヴォルス小隊長が壁に張り付いて通路側の敵の牽制をする為に銃だけを晒して適当に発砲する。
命中するかどうか知らないけど、
「俺はここから牽制する!さっきの再挑戦だ、分かるなカフンカ!」
「はい、今度は失敗しません・・・・!」
「安心しろ、ベテランの俺が付いている」
「ぶるって帰りたいって言ってた頃のお前が懐かしいぜチャンリー!」
「今はもうぶるっても口には出さない立派なオトコだぜ」
小隊長が空になった弾倉を放り捨てて、替えの弾倉を差し込む。
目線でコンタクトを取って、一緒に突入するチャンリーと歩調を合わせる。
「おら、くらぇ弾幕をォオオ!」
「行くぞ通訳係!」
「もうひと頑張り行きましょう!」
撃鉄を起こした拳銃を構えて私は壁に向かって走っていく。
空いた片手で顔の前を遮りながら前に進む。
壁が一枚壊れる、誰もいない部屋を走り抜ける、壁が二枚壊れる――――――――
「なっ!?どこから現れ――――――」
「殺せ――――」
「バンバンバン!」
走っている勢いを緩めないまま手当たり次第に、目に入った順に敵に銃撃を加えていく。
一人に二発、敵は7人で私とチャンリーで6人は撃った。
最後の一人を撃つ弾は残っていない、そして銃口は私に向いている。
「し、ねぇえええ!!!」
「―――――――――いけるっ・・・!」
前屈みに、ひたすらに前屈みに、雪の大地をかける狼の様に、顔と手が地面に触れるぐらいに。
四足で大地を翔ける獣のように先鋭的に、獰猛に、野性的に。
「ババ――――」
静止して立っている自分の半分ぐらいになるまで前のめりになる。
私の頭上を無数の銃弾が通過する。
銃口は屈んだ私に合わせて徐々に下がってきている、だから私は手を伸ばす。
私を害す銃口に、落ち始めた断頭台の刃に手を伸ばす。
「―――ババババ!!」
「うぐぉおおお!?」
下がっていた銃口を掴んで真上に向ける。
そして勢いそのままに掴んだ手とは別に、体は前に進み続け、銃撃をしてきた敵に衝突して押し倒した。
「ぐほぉ!?・・・・この!」
地面に突き倒した敵にそのまま乗る。
倒れた拍子に敵は銃を手放しており大の字に倒れていたから両足で手を押さえつける。
そして私は握ったままの銃口を敵の脳天に付きつける。
「ッつう!?」
「・・・・降伏してください」
「く、くそが・・・・参った、勘弁してくれ・・・・」
「いい判断です。・・・・妙な真似はしないでくださいね」
「ひゅうう~♪・・・やるね通訳係ちゃん・・・・」
私の一連の動きが傍から見たら奇麗に見えたのか、口笛交じりに褒められる。
「・・・・いつまで乗ってるんだ兵士、降りてくれないか?」
「あ、ごめんなさい」
「勿体ないな、女の子に上に乗られるなんて途轍もなく珍しく貴重な体験なのに」
「だとしても兵士は御免だ」
はっと気づいて乗っかっていた敵から降りる。
投降した敵が変な気を起こさないか見張る、緩慢とした動きで膝まづいていつまでも手を頭の上にあげている。
慎重に近づいて手持ち品を探っても武器は出てこない。
「敵は全員やったか?って・・・投降した敵か?」
「はいヴォルス小隊長、手と足を縛って部屋の隅っこに置いておきますか?」
「そうだな、後続の奴らか撤退する時に持って帰るとしよう」
「っち、自分で持ってきた物に縛られるのかよ・・・・・」
投降した敵の所持品を検めた時に縛るに最適な物があったので、早速利用して足と手を縛って頑丈そうな柱につなげた。
3階の制圧完了して、下の階の敵は戦闘音がうるさすぎて頭上の事に気付いていないのか援軍に駆け付けて来ることはなかった。
「気を引き締めろお前等、下に降りるぞ」
私は途中で投げ捨てた拳銃を拾って薬莢を全て排出して弾丸を装填する。
向こうの建物で待っている仲間の為にも、通りで待っている仲間の為にも、早々に2階の敵を排除して敵の側面まで前進しなければいけない。
戦いの終わりは遠く、まだ休む時間には早い。