転生魔術師クリプターくん ワイの担当した異聞帯が絶望すぎる   作:Uとマリーン見守りたかった隊

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恩の押し売り

 

 

 

「空想樹の発芽から90日…三ヶ月もの時間が経過した。濾過異聞史現象…異聞帯(ロストベルト)の書き換えは無事、完了した。まずは第一段階の終了を祝おう。これも諸君らの尽力によるものだ」

 

クリプター側がカルデアを襲撃してから三ヶ月。マーレは全く安定する気配すらない自分の異聞帯を協力者達に任せると、各地の異聞帯の様子を見て回り、その後キリシュタリアによって召集されたクリプター会議に参加していた。

 

「異聞帯の争いに興味はないか。まあ、結果が見えてるゲームだからなあ、コイツは」

 

そんな会議では、既に異聞帯間の争いを降りる事を宣言している芥ヒナコをカドックが疑い、その二人の会話を聞いて、ベリルはキリシュタリアに対して羨ましそうに言った。

 

(正直ベリルに同意だ。心の底から安定している異聞帯が羨ましい!おのれキリシュタリア!)

 

「オレたちは束になってもキリシュタリアには及ばない。地球の王様ゲームはほぼ出来レース状態だ。オレとデイビッド、そしてマーレのところなんざ酷いもんだしな。あれのどこが『有り得たかもしれない人類史』なんだよ。その点キリシュタリアのところは文句なしだ。ずるいよな、初めからエコ贔屓されてるときた。やっぱり生まれつき高貴なヤツは運が違うぜ!」

 

「ベリル!口を慎みなさい。キリシュタリア様はご自分の力であの都市を攻略されたのです!その証拠にキリシュタリア様には三体もの神霊が……」

 

「黙るのは君もだ、オフェリア。ベリルの言葉も的外れではない」

 

「ですが!」

 

「なに、最終的に私が勝利することは自明の理だ。その過程をどう語られようが事実は変わらない」

 

「キリシュタリア様!」

 

「とはいえ、私とて油断するつもりはない。マーレ。このゲームは私が勝たせてもらおう」

 

「確かにキリシュタリアに勝てる可能性があるのはマーレだけだ!同じゴロツキ同士、オレは応援するぜ。…尤も、それを見越してかマーレの配置された異聞帯は相当ヤバそうだけどな」

 

(…キリシュタリアはチェスに負けた事でもまだ根に持ってるのか?あるいは、試練で仮想の俺と何かあったのか……それとベリル、お前のところも相当ヤバい厄ネタ抱えているだろう。俺とベリル、そしてデイビッドの異聞帯は、まずキリシュタリアに勝つ前に星が終わるからな)

 

「あんたから応援されても嬉しくないよベリル。とはいえ、俺も今は星の覇権争いに参加できそうにない。このゲーム、最も勝利を手にする可能性が高いのはキリシュタリアで間違いないだろう。それで、わざわざ召集した要件はなんだキリシュタリア?」

 

「ああ、遠隔通信とはいえ、私が諸君らを召集したのは異聞帯の成長具合を確かめるためではない。1時間ほど前、私のサーヴァントの一騎が『霊基グラフ』と『召喚武装』の出現を予言した」

 

(カルデアが現れた、いよいよか…)

 

「なら、俺はカルデアに備える為に準備に取り掛かるとしよう。先に失礼するよ」

 

(さあ、ゲームを始めよう)

 

 

 

 

カルデアにとって最初の異聞帯であるロシア異聞帯。

最終局面を迎えたその異聞帯では、カルデアとクリプターであるカドックとそのサーヴァント、異聞帯の王となったアナスタシアとの決戦が行われていた。

そして、戦いはその経験値の差によって能力差を覆されたカドックとアナスタシアの敗北で幕を閉じた。

カドックはそれでも尚諦めずに最後の手段である『大令呪(シリウスライト)』を発動させようとするが、サーヴァント屈指の攻撃初速度を持つカルデア側のサーヴァント、ビリーを前にそれは悪手であった。コンマ1秒にも満たないビリーの攻撃を咄嗟に防ぐ術は、アナスタシアがカドックを庇う以外には存在しなかった。

 

イレギュラーな第三者がいなければ。

 

通行規制(アインヴィーク)

 

機械音声のような言葉が戦場に響く。

そして、カドックを庇おうとしたアナスタシアを狙い撃った弾丸が、突然無理やり軌道を歪曲させられ逸された。

 

「攻撃が逸された!?」

 

『今のは…まさかベクトル操作か!?』

 

ありえない事態にカルデア側が混乱する中、大令呪を使おうとしていたカドックの肩をいつの間にか現れた何者かがポンと叩いた。

 

「間に合ってよかったよカドック。さて、久しぶりだねマシュ、そして初めまして、人類最後のマスター藤丸立香。悪いけどカドックの身柄は引き取らせて貰おう」

 

「新たなクリプター!?」

 

突然新たに現れたクリプターの存在にカルデア側は動揺していた。現れたのは太平洋異聞帯のクリプター、マーレだった。後一歩で異聞帯の王となったアナスタシアを撃破し、貴重な情報源となりえるカドックの身柄を抑えるチャンスが、突然未知の戦力によって阻まれてしまったのだ。とはいえ、カルデア側としてはクリプターの情報を得られる絶好の機会を失う訳にはいかない。よって、カドックの身柄を諦めるという選択肢は最初はなかった。

 

「そうか、残念だ…やれ、ジブリール」

 

その選択がカルデアに絶望をもたらすと知らずに。

 

「待ちくたびれましたよマスター!…さて、初めまして♪…そして、さようならでございます」

 

クリプター、マーレによって絶望を齎す殺戮の天使が呼び出される。殺戮の天使は、まず小手調にビリーに向かって光弾を発射した。放たれた光弾は瞬く間にビリーを飲み込むとその肉体を消滅させ、爆風と共に大地を抉るクレーターを作り出した。

 

「おや、サーヴァントというプレミアな首をイージーにチョンパして差し上げる筈が、うっかり消し飛ばしてしまいました♪思ったより脆弱でしたね」

 

天使の名前はジブリール。最強の戦神、アルトシュによって創造された神殺しの兵器天翼種(フリューゲル)の一翼にして、特に力を持つ最強の番外個体である。

自身より上位の種である巨人種や龍精種すら殺し、異聞帯においては神霊種すら殺す域に至ったその戦闘力は余りにも隔絶したものだった。

 

「さて、まだやるか?カルデアのマスター。もし諦めないというのなら、ここで君達の旅路は終わることになるだろう」

 

冷徹に言い放つマーレの言葉が汎人類史最後のマスターである少女、藤丸立香にのしかかる。目の前には残酷な笑みを浮かべる絶望(ジブリール)。マシュ達ではどうすることもできないだろう。

ゆえに、彼女は旅路を終わらせない選択をとった。彼女の脳裏には、自身を庇ったパツシィの言葉が蘇る。汎人類史最後のマスターである自分はここで終わる訳にはいかない。自分の救いたいものの為に進み続けなければならないのだから。

 

「カドックの身柄を諦めたら、私達を見逃してくれますか?」

 

「ああ、約束しよう。我々クリプターにとっては空想樹の管理こそ最優先だ。俺が君達を見逃したところで何の問題もない(もっとも、うちの異聞帯の空想樹はどうしようもないけどな)」

 

「わかり…ました」

 

「ものわかりが良くて助かるよ。とはいえ、ロシア異聞帯に勝利した君達に得るものが何もないのは可哀想だ。少しヒントをあげよう」

 

「空想樹こそが異聞帯の要だ。そして、空想樹が育ちきった時、君達にとっての真の敵が降臨するだろう。それを防ぎたいなら一刻も早く全ての異聞帯の空想樹を切除することだ。もちろん、俺の異聞帯のやつも含めてな」

 

(さあ、焦るといいカルデア。そして、早く俺の異聞帯に来い!)

 

「ではまた会おう。転移だ、ジブリール」

 

こうして、カルデアとクリプター、マーレの初邂逅は終わった。

 

 

 

 

 

 

「なんで僕とアナスタシアを助けた。あの状況なら、あんたは口封じのためにカルデアごと始末できた筈だ」

 

「俺には俺の目的がある。それだけだ。とはいえ、お前にとって俺は命の恩人になった訳だ。そのうち恩人の俺に協力してもらうからな」

 

「恩の押し売りか…」

 

「なに、そう悪い話じゃない。…世界を救ってみたくないか?カドック・ゼムルプス」

 

転移した先でカドックの疑問に答えたマーレはにこやかに、されど熱意のこもった目でカドックを見ると、自身の目的をカドックに説明し、協力するよう持ちかけるのだった。勿論、いくつかの情報は伏せたままで。

 

「つまり、僕にその異聞帯で行われている聖杯大戦に参加しろと?」

 

「ああ、()()大戦にな」

 

「……いいだろう、これは証明だ。僕にも世界が救えるってね!」

 

なお、この時快諾したことを、カドックは後に死ぬ程後悔することになるのだが、それはまた別のお話しである。

 

 

 

 

 

「それで、なんでまだ着いてきているんだ?マカリー大司教…いや、異星の神の使徒言峰綺礼」

 

カドックをキリシュタリアのいるオリュンポスに送り、太平洋異聞帯に戻ろうとしたマーレだったが、何食わぬ顔でついてくる麻婆神父についイラッとして声を掛けた。

 

「なに、ロシア異聞帯の任が終わったので新たな任務で君の異聞帯の視察として同行することになったのだよ。異星の神はお望みだ。君の異聞帯に宇宙(ソラ)より飛来した他天体の使徒達(アリストテレス)白き巨人(セファール)…その霊基を」

 

「相変わらず情報が早いことで。だが、残念だったな。前者に関しては一体を除いて殆ど消滅している。その一体も、現在のうちの異聞帯にはいない。手に入れるなら南米の方が早いだろう。後者の残骸は俺が再利用済みだ。異星の神には使いものにならないだろうな」

 

「……冗談ではないのかね」

 

「残念だが事実だ。さて、仕事が無くなった訳だがそれでも来るか?俺の異聞帯(クソッタレな世界)へ」

 

「いや、やめておこう。異星の神の利益にならない以上、君の異聞帯を訪れる理由はない。今一度指示を仰ぐとしよう。」

 

「そうか、ならあんたもオリュンポスに送っておいてやるよ。あと、異星の神に伝えておけ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。うちに手を出すのはあまりお勧めしないぞ」

 

(敵となりえるのは、南米の異聞帯で眠っている蜘蛛(ORT)オリュンポス船団の母艦(カオス)ぐらいか。そいつらとアルトシュが接触したら確実に星は終わる。その前にアルトシュを打倒し、俺はテトを異聞帯の王にしてみせる。)

 

「キリシュタリア…俺はお前とは違う方法で、この惑星に争いのない新たな秩序を築いてみせるよ」

 

 

 





カドック、お前ならやれるさ…

ちなみにナレ死している型月側のインフレ勢も、過去の異聞帯世界では当然のように猛威を振るいまくっていました。そのため、インフレ(型月)とインフレ(ノゲノラ)のせいで異聞帯の世界の星はヤバいことになっている模様。

ちなみにアリストテレスとは、全員アルテミット・ワンの型月最強集団のことです。…全員推定ORTと同じ?とかヤバすぎますね…
そして、『最強』という概念の化身と他天体の最強種が出会ったら、一体どうなるのでしょう…

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