それは陽気故か、無気力故か。
「大変だなぁ。また異変か?」
早朝からせわしなくお札を用意する巫女を見ながら傍若無人な鬼は問う。
「分からないわ。白玉楼に行けって紫に言われただけだもん。でも、わざわざ呼ばれるってことはなんか起きたんじゃない?」
「ふーん。紫のやつ、私も呼べばいいのに」
勝手に住み着いた能天気な鬼は的外れな返事をする。そんな鬼に向かって巫女はびっしりと指をさす。
「いい? しばらく神社を空けることになるかもしれないけど、絶対に変なことをするんじゃないわよ」
「大丈夫大丈夫」
真っ赤な顔の前で手をひらひらさせながらよろめく鬼を見て巫女は顔をしかめる。
「本当に大丈夫かしら? それと、参拝客が来たら隠れなさいよ。あんたを見るとせっかくの参拝客が逃げちゃうんだから」
「おう、任せておけ」
ドンと胸を叩いてしたり顔を浮かべる鬼。どうせ参拝客なんて来ないのだから。
「それじゃ、行ってくるわ」
「おう、行ってらっしゃい」
飛び去っていく巫女を見送りながら、鬼は盃を傾ける。
楽園は、今日も平和だ。
「ぶはー! 今日も酒がうめぇー!」
鬼は今日も元気に酒を飲む。冥界に旅立った巫女のことなど気にも留めずに。
それは信頼故か、無関心故か。
「よう霊夢、来たぜ!」
気持ちの良い昼下がりに、元気な魔女が来訪した。
「ってあれ? いないのか?」
神社に人影はなく、居候の鬼しかいなかった。
「おう魔理沙、一杯どう?」
「いや、遠慮するぜ。ってか萃香、霊夢はいないのか?」
酒臭い鬼は魔女の拒絶を気にもせずに盃を差し出す。
「いないわよー。なんか紫に呼ばれたんだって。それより、飲もうよ。こんな晴れた日は昼飲みに限るよ」
「だから飲まないって。で、霊夢がどこに行ったのかは聞いてないのか?」
鬼はしばらく考えこんだ。そういえば、どこだったっけ。
「あそうだ! 確か白玉楼って言ってたね」
「サンキュー! じゃ、行ってくるぜ!」
「おう、行ってらっしゃい」
親友を追いかけて飛び去っていく魔女を見送りながら、鬼は盃を傾ける。
楽園は、今日も平和だろう。
「あー、酒がなくなっちゃったね。また作らないと」
瓢箪を空にした鬼は最後の一杯を楽しむ。未だ帰らぬ巫女など気にも留めずに。
それは気楽故か、無頓着故か。
「ごめんくださーい! 霊夢さんいますかー?」
さわやかな朝に、丁寧な風祝が訪問した。
「よう早苗。悪いけど霊夢はいないよ」
「あ、萃香さんこんにちは。そうですか、霊夢さんはいらっしゃらないのですね......」
巫女の不在を聞いて肩を落とす風祝。しかし、まだ諦めない。
「ちなみに、霊夢さんがどこに向かわれたのかご存じですか?」
「うん、白玉楼だね。しばらく神社を空けるそうよ」
風祝は顔に疑問を浮かべる。めんどくさがりの巫女は要件を済ませばすぐ帰ってくるのに。
「......もしかして異変だったりします?」
「知らないね。ただ、可能性はあるって言ってたよ」
目を見張る風祝。異変なら自分も参加しないと。
「そうなんですね。では、私も行ってまいります!」
「おう、行ってらっしゃい!」
ライバルを追いかけて飛び去っていく風祝を見送りながら、鬼は盃を傾ける。
楽園は、今日も平和のはずだ。
「ハハハ、どうだ我が百鬼夜行は!」
酔っ払いの鬼は妖精たちと戯れる。音沙汰のない巫女など気にも留めずに。
それは剛胆故か、無神経故か。
「あややや、本当に霊夢さんいませんね」
和やかな日の暮れに、愉快な天狗が出現した。
「博麗の巫女が二日も神社を空けるなんて! これは大スクープ間違いないですね!」
興奮気味にシャッターを切る天狗。はしゃいでいる妖精たちには目もくれずに。
「おう、射命丸よ。ほれ、あんたも鬼ごっこをやらないか?」
右腕を挙げて鬼は歓迎する。鬼ごっこではなく本物の鬼なのだが。
「あややや、申し訳ございません萃香さま。私は他にも取材するところが」
「なんだ? 他にも気になることがあるのか?」
鬼は珍しく他人に興味を示す。それは気まぐれか、それとも......。
「ええ、実は霊夢さん以外にも魔理沙さんと早苗さんが消えているみたいですよ。これは異変のにおいがしますね」
「ふーん」
考え込みながら盃を取り出す鬼。纏わりつく妖精をあしらいながら。
「その三人なら、白玉楼に向かったね」
「あや、もしかして何かご存じで?」
思わぬところで手がかりを得た天狗はカメラをしまい、代わりにペンとメモを取り出す。
「ああ、霊夢は白玉楼に行けって紫に言われたみたいでね、他の2人は霊夢を追いかけていったよ」
「あやや、あの隙間妖怪ですか......」
メモを取りながら考える天狗。一体何が起きているのだろうか。
「では、私も白玉楼に行ってみますね」
「おう、行ってらっしゃい」
ネタを追いかけて飛び去っていく天狗を見送りながら、鬼は盃を傾ける。
楽園は、今日も平和なのかもしれない。
「......」
無言で鬼は晩酌をする。消息のつかめない巫女を気にしながら。
それは寂寥故か、心配性故か。
「夜分遅くにすみません、霊夢さん!」
静寂な夜に、愚直な庭師が飛来した。
「霊夢さん、霊夢さんって、あれ?」
一人少ないだけで、神社はこんなにも閑散としていて、広く感じる。
「霊夢ならまだ帰ってないよ。てか白玉楼にいるんじゃないの?」
「いえ、来ていませんよ?」
愕然とする鬼。事態は、思っていた以上に深刻なのかもしれない。
「なっ!? じゃあ魔理沙と早苗は?」
「うん? あの二人も来ていませんよ?」
脳裏に浮かぶは行方も知らぬ太古の仲間たち。まさかあの巫女も......?
一気に酒を飲み干して立ち上がる鬼。
「妖夢、私を白玉楼に連れていけ」
日常を追いかけて、鬼は空を飛ぶ。
楽園は、今日も平和ではない。
「で、心配になっちゃって慌てて飛び出してきたわけ?」
赤面して温厚篤実な鬼は押し黙る。巫女の無事に安堵しながら。
それは誠実故か、直情的故か。
「可愛いところあるじゃねぇか」
「ふふ、確かに意外でしたね」
魔女と風祝は茶化す。鬼の心中など気にもせずに。
「いいえ、意外ではありませんよ。萃香さまは昔から」
「だー! うるせぇ! そんなことより飲めー!」
天狗の言葉を遮って鬼は騒ぐ。過去は所詮過去でしかない。
「でもまさか三人で異変を解決していたなんて」
「三人じゃなくて一人ね。他の二人なんて足手纏いなんだから」
庭師の言葉を訂正する巫女。文句を言いに詰めかける魔女と風祝。困ったように笑う庭師。しきりにシャッターを切る天狗。
「ハハハ、今宵も宴だな!」
いつか別れは来る。だが、それは今ではない
友人に囲まれて、鬼は盃を傾ける。
楽園は、今日も平和だ。
萃香ちゃんかわいいよ!