推しに貢ぎたい転生者   作:だいこん君

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10話 結成祝い

 

 結束バンドに加入したその日は、伊地知さんと山田さんがこの後にバイトが入っていると言う事で、ロインの交換を済ませて解散することになった。喜多さんともスターリーの前で別れて、僕とひーちゃんの二人で帰路につく。

 

 ひーちゃんは僕と家族以外の連絡先ににやけていて、その嬉しそうな笑顔だけでもバンドに入った価値があると感じてしまう。

 

 明日も集まってバンドメンバーで結成のお祝い兼親睦会をすると言っていたけど、うちでも彼女の成長とバンド結成を祝って晩御飯は豪華にするべく、精肉店でいいお肉を購入した。A5ランクのステーキ肉を買った時のひーちゃんは少しビクビクしながら、お肉と僕の顔を交互に見ていてとても可愛かった。

 

「…タカくんはよかったの?」

「バンドに入った事?」

「うん」

 

 キッチンでお肉を塩胡椒で焼いていると、ひーちゃんがダイニングの机でノートパソコンを開いて投稿用の動画を編集しながらそう聞いてきた。彼女はスターリーに向かう途中に、少し弱音を吐いてしまって、自分に気を遣って僕がバンドに加入したのかと気にしてしまったのだろう。確かに僕は体質の事もあって、今までは部活動など多人数と深く関わるような事は避けていた。

 

「ひーちゃんは僕がいたら頑張れる、って言ってくれたよね」

「…うん」

「僕もひーちゃんがいるから頑張れるんだよ。セッションした時、君のギターを聴いて他の音も正常に聴こえたんだ」

「えっ治ったの!?」

 

 椅子から立ち上がって、作業中のパソコンをそのままに此方に来るひーちゃんは、まるで自分の事のように嬉しそうで僕も嬉しくなる。演奏中に大丈夫だと目配せはしていたけど、体質が治っていたとは思ってもなかったのだろう。

 

「演奏中だけだったけどね」

「なら私がもっとギターを頑張れば、タカくんはずっと大丈夫かもしれないんだよね」

 

 このままの勢いでギターの練習に行きそうだった彼女を苦笑いして止める。

 

「もうすぐ晩御飯できるから後でね」

「…はい」

 

 彼女はパソコンを閉じて片付けてから、しっかりと手を洗ってお皿を用意してくれる。共同生活も慣れてきていた。ミディアムに焼かれたお肉をカットしてから皿に移して、肉汁でグレイビーソースを作っていく。晩御飯はオニオンスープに生野菜を添えたマッシュポテト、そしてメインのビーフステーキだ。パンも用意してあるけど、白米もしっかりと炊いてある。

 

 料理が並んでいくとひーちゃんは椅子に座ってそわそわしていて、待てをされている犬のようでとても愛くるしかった。

 

「パンとご飯どっちにする?」

「ご飯」

 

 彼女の茶碗にご飯をよそう。その僕の姿を見てひーちゃんは男女逆だと感じてしまうのか複雑そうな顔をしていた。最近は主夫とかも多いらしいから気にしないでいいのに。

 

 食事を始めて少し経つと、彼女は何かに気づいたのか、僕の顔をジッと見てくる。ひーちゃんは美味しいって毎回しっかりと伝えてくれているから、何か別の問題でも思い出したのかな。

 

「…タカくん」

「どうしたの?」

「二人暮らし始めてから私の好きな料理ばかりで、タカくんが好きなの作ってなくない?」

「あー」

 

 僕の好きな食べ物って作るのが比較的簡単な麺類ばかりだから、手抜き感がして躊躇われるんだよね。その事でひーちゃんが気にしてしまっているらしく、時間がない時とかに作ったほうがいいのかな。

 

「あ、じゃあ今度ひーちゃんに作って欲しいな。うどんとか蕎麦なら茹でるだけだし」

「うっ…ま、任せて」

 

 地味にパスタマシンとかも用意してあるから麺から作る事もできるけど、料理が苦手な彼女には難しいだろうから今度乾麺とか買ってこないと。

 

 食事が終わって洗い物を手伝ってくれた直後に、ひーちゃんはスタジオ部屋に籠ってギターを弾いていた。さっき言っていたので本当に頑張ってくれているのだろうけど、編集作業中のパソコンを放置してまでギターに行ってしまった彼女には少し申し訳なくも思ってしまう。ひーちゃんには今回の事でも以外にもずっと助けられているから、何かを返したいと思ってしまうけど、現状に引け目を感じてそうだし難しい問題だった。

 

 その後零時を回ってもスタジオに籠っていたひーちゃんに流石にお風呂に入るように声をかけて、お風呂から上がった後もスタジオに行こうとする彼女をベッドに連れ込む。

 

「あばばばば」

 

 恥ずかしさや色々な感情でバグってスライムみたいになっている彼女を抱き枕にして眠りにつく。頑張ってくれるのは嬉しいけど何事も適度にやらないと効率が悪いし、明日はバンドメンバーとの集まりもあるから寝不足で行くのもよくない。

 

 

「それじゃあ、バンド結成を祝って乾杯」

「わー」

 

 翌日五人で下北沢のファミレスに集まって、全員分のドリンクバーとポテトなどの皆で摘まめるメニューを注文してから伊地知さんが音頭をとる。

 

 席順としては山田さん、伊地知さんと机を挟んで対面に喜多さん、ひーちゃん、僕で年上組みと年下組で形になった。

 

「バンドとしてはライブしたいよね」

「いつ頃するんですか?」

「新学期は色々大変だし…GWの前後かな。それまでに三人もノルマ分くらいは交友関係広げてねー」

「はい!」

 

 伊地知さんのその言葉にひーちゃんがピシリと石化してしまう。今までずっと僕以外に友達どころか話し相手すら出来なかった彼女にその言葉は即死呪文だった。

 

「どうしたの!?」

「後藤さん大丈夫!?」

 

 ひーちゃんの変化に慣れてない伊地知さんと喜多さんが驚いているけど、変わらずに黙々とポテトを食べている山田さんは大物だと思ってしまう。

 

「すみません、小学校や中学校でも友達出来なかった内気な子なので、交友関係の話は地雷だったりするんです」

「つまりぼっち」

「リョウもあたし以外友達いないから人の事言えないでしょ」

「大丈夫よ、後藤さん。私たちもう友達でしょ!」

 

 喜多さんはそう言ってくれたけど、ひーちゃんは面倒な性格をしているから友達認定早すぎて気遣って言っているだけだと思ってしまうんだろうな。

 

「あれ、けど2ピースでずっとやってたんだよね。あの腕前だったら人気になってそうだけど」

「ずっと練習だけで人前でやったのは文化祭のライブくらいですから」

「あー、リョウみたいにやっちゃったとか?」

「超マイナーな曲をやって会場をお通夜にしてやった」

「うっ…誰も私たちを知らない遠くへ来たのに過去が追い付いてくる」

 

 お通夜との言葉でトラウマが刺激されて貝みたいになってしまっている。隣に座っている喜多さんが慌てているけど、やはりこのギャグ描写はこの世界の常識ではないのか。

 

「遠くって、富士君たち秀華高でしょ?二人で上京してきたの?」

「自宅は横浜なので電車で二時間くらいですね」

「距離的にギリギリの通学範囲かー。バンド活動大丈夫なの?」

「…あっ今はこの辺に住んでるので、大丈夫です」

 

 復活までの時間が短くなっているのも成長なのかな。奇行に走っているひーちゃんも可愛くて好きだから、この成長は喜ぶべきか迷ってしまう。

 

「え、秀華高に寮とかあったっけ?」

「なかったと思いますけど」

「あっいや、タカくんと二人で同居してます」

「ロックだね」

 

 高校生の男女で二人暮らしはロックなのだろうか。ルームシェアとかシェアハウスもあるから普通だと思っていたけど。伊地知さんと喜多さんは興味津々でひーちゃんを質問攻めにしていた。

 

「なんかギターヒーローさんみたいだよね。完璧超人の彼氏にマンション買ってもらって二人暮らしって。いつもの虚言だと思われていたけど、撮影していたスタジオが特定できないから個人所有の場所で真実じゃないかって噂もあってね」

 

 伊地知さんのその発言にひーちゃんがショックを受けていた。まあ誇張していることも多いから仕方ないね。というか特定厨まで出てきていたのか。今までは彼女の実家だけど、今はセキュリティがしっかりしているマンションの部屋だし、場所が特定出来るような物は映してないから大丈夫かな。

 

「同じ年くらいでギターがめちゃ上手で幼馴染の彼氏が居て…」

 

 ギターヒーローの事を知らない喜多さんに説明しながら、途中で何かに気づいたのかひーちゃんと僕を見る伊地知さん。その場で追及したりせずに流してくれたけど。

 

 ひーちゃんも隠しているわけじゃなかったし、昨日のセッションでも前半は僕が足を引っ張って抑えてくれていたけど、後半は実力を発揮する事ができていたから分かる人もいるか。普通のファンならいいけど、変な人にバレて付きまとわれても困るから動画とは違うギターを使って貰った方が安心できるかな。

 

「話を戻すけど当分ノルマ代機材代が必要だけど、三人はバイトどうする?」

「バンドマンは売れるまでめちゃくちゃお金がいる」

「私は人と接するのが好きなのでどこでも問題ありません」

 

 ノルマとはライブハウスから集客を保証するためのチケットノルマの事らしい。

 

 先輩二人は既にバイトしているし、喜多さんもベースを買う為にお小遣いを全てつぎ込んだのでバイトすることに積極的で問題なさそうだった。問題のひーちゃんは対人スキルが低いのを自覚しているのでバイトを嫌がりそうだ。今も社会が怖いと沈んでしまっている。

 

「ひーちゃんのノルマ代とかは全額僕が払うから無理に働かなくていいよ?」

「え゛っ」

 

 なんか凄く葛藤している。働きたくない気持ちと僕にこれ以上甘えたくない気持ちがせめぎ合ってそうだ。将来養ってくれるなら今養われてくれてもいいのに。そして両親からの生活費と、動画サイトの広告費として彼女が稼いだ分が振り込まれている通帳を持って更に葛藤していた。そういえば二人暮らしなら色々物入りだろうからと、お義父さんから教えられて渡されていたな。

 

「ひとりちゃんと富士君はどうする?」

「彼女次第で」

「えっあ、何が…」

 

 自分の世界に入っていたひーちゃんは、伊地知さんたちの話を聞いていなくて状況が把握できていなかったようだ。

 

「喜多ちゃんはあたしらと一緒のスターリーでバイトする事になったけど、ひとりちゃん達も一緒にどうかなって」

「アットホームで和気あいあいとした職場です」

「後藤さんたちも一緒ならきっと楽しいわ」

「これでバイトは勘弁してください」

 

 伊地知さんに通帳を差し出して許しを請う事を選択したのか。いや、それなら素直に僕に甘えてくれた方がありがたいんだけど。

 

「えっ何これ」

「…これからの生活費と結婚費用に貯めていたお金です」

「受け取れないよ、そんな大事なお金!?」

「それもロック」

 

 あ、彼女が自分で稼いだお金はそういう扱いだったのか。必要な物は揃っていたし、彼女に物欲とかあまりないから使う機会がなかっただけだと思っていたけど、そういう認識のお金を差し出されるのはだいぶショックなんだけど。山田さんはロックだと言うけど、伊地知さんと喜多さんは確実にドン引きしていた。

 

「彼女の分は僕が全額出しますので」

「…やっぱり働きましゅ」

 

 結婚費用<バイトする<僕に甘える、と彼女の中の線引きが色々おかしいと思ってしまうけど、そこが可愛い。常人とは違う良さというか。

 

「あー、富士君はどうする?あたしとしては男手があると助かるんだけど」

「ひーちゃん一人だと色々心配なので良ければ」

「ん、おっけー」

 

 僕らはスターリーでバイトする事が決まる。伊地知さんが店長に連絡したら二つ返事でOKが出たらしく、妹に甘すぎないかと思ってしまうけど、僕もひーちゃんの頼み事なら深く考えずに了承するので人の事は言えないか。

 

 正直お金には困ってないからバイトをする必要はないんだけど、ライブハウスでの経験や人間関係はお金の問題じゃないから僕としても問題ない。

 

「そういえば三人は秀華高だけど入学式はいつ?」

「明後日ですね」

「後藤さんと富士君も一緒のクラスになれるといいわね!」

「あっそ、そうですね」

「その時はよろしくお願いします」

 

 キターンと笑顔で言われて、ひーちゃんが陽キャの光に焼かれながらもなんとか返事ができていた。地元からは離れたし、殆どゼロからのスタートの場所で知り合いが一人でもいるのは心強い。ただ喜多さんは陽キャで地元だから、中学からの付き合いの友達も多そうだ。友達とその友達がいる状態で、ひーちゃんに混じれるかと言われたら無理だろう。

 

 バンド活動やバイトはとりあえず高校生活が落ち着いてからの来週あたりからと話がついて、その日は解散する事になった。バイトをする事が決まったり、高校生活に不安を抱いたりとひーちゃんはだいぶ参ってしまっていたけど、とりあえず今日の出来事で僕が優先したいのはストーカー被害とかが怖いからギターヒーローの特定を防ぐことかな。そのためには動画とは違う感じで弾くのが良いだろうし。

 

「ひーちゃん、新しいギターは癖があるのか、弾きにくいのか、弦を増やすかどれがいい?」

「…え、なんで?」

 

 




話がとっ散らかって進んでない気がする。
オリジナル展開とか言いながらほぼ原作通りに進行していることを許して…。
正直音楽知識がないのにオリジナルでどうするか迷って色々調べて書く時間が足りなくなってます。対バンはまだ分かるけどフェスってなんだよ状態。
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