推しに貢ぎたい転生者   作:だいこん君

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11話 入学式

 

 秀華高校の入学式の日がやって来た。

 

 昨夜も深夜の一時近くまでギターを練習していたひーちゃんを無理やりベッドに連れ込んだけど、もう慣れてしまったのか抵抗もなくすぐに寝付いていた。こういった行事の前は彼女は不安で眠れないと前に聞いていたけど、安心しきった顔で寝ている姿に安心する。

 

 学校の準備などは昨日の内に済ませていたので、朝起きて来たひーちゃんと一緒に朝食を食べてから制服に着替える。同じ部屋で生活しているけど、着替えまで一緒にすることはせずに、彼女が寝室で僕はウォークインクローゼットで着替える。

 

 何故か出て来たら彼女は学校の制服じゃなくて私服を着ていた。

 

「制服は?」

「…好みじゃないから」

 

 ひーちゃんが言うに校則には指定の制服でないといけないなどがなかったらしい。校則が緩いとは聞いていたけどそこまで緩かったのか秀華高校。もしかして制服以外の私服登校も結構多いのかと心配してしまうけど、一応今日は入学式だし制服も用意してあるから着ていった方がいいと思う。

 

「ひーちゃんの制服姿見たかったな」

「…着替える」

 

 僕が少し残念そうに呟くと、ひーちゃんはそう言って服を脱ごうとしたから僕は慌てて部屋から出る。彼女は肌を晒す事にそこまで抵抗がないのか、気にしていないようだったけど年頃の女の子なのだから羞恥心を持ってほしい。毎日同じベッドで寝ているから今更なのかな。

 

 少ししたら制服に着替えて部屋から出て来てくれた。薄いクリーム色の制服に赤いリボンが映えたとても可愛いと思うけど、彼女には受け入れにくい様子だった。

 

「可愛いよ」

「…ありがと」

 

 少し微妙そうな表情を浮かべてから、まあいいかと切り替えてくれる。鞄にはとくに指定の物がなく自由だったので、ひーちゃんは使いなれたトートバッグで僕はショルダーバッグを肩にかけて家を出る。

 

 中学の頃や出かける時と同じく、僕と彼女はしっかりと手を恋人繋ぎで登校する。はじめの頃は真っ赤になったり崩れたりしていたのに、もう慣れたのか笑みを浮かべる余裕すら見られる。

 

 学校に着くけど制服姿の生徒ばかりで、私服登校をしている人はいなかったので、ひーちゃんを着替えさせておいて良かったと思う。自分から話しかけたりする事が出来ない彼女は、入学式から一人違う行動をしていると腫れ物扱いでクラスで孤立する確率があったので、これでもしもクラスが違ったとしても話しかけてくれる人が存在する可能性が残された。

 

 昇降口付近に張り出されているクラス分けを確認しようとした時に、ひーちゃんは俯いて僕の腕に抱き着いてきた。不安そうな顔を見るにクラスが別れてしまうのが怖くて無意識の行動だと思うから、周りの生徒に注目されてしまっている事にも気づいてないだろう。

 

「同じクラスだったよ」

「ほんと?…よかった」

 

 ひーちゃんは僕と同じクラスになれて安心してほっとした表情をしていた。彼女の大きな胸に僕の腕が埋まったままだけど出来るだけ気にしない事にする。

 

「喜多さんは…違うクラスみたいだね」

「そっか」

 

 同じバンドのメンバーで友達になれそうな相手だけど、ひーちゃんの反応は薄かった。

 

 僕以外にもクラスに話し相手を作ると意気込んでいて、喜多さんと同じクラスになれたら目標達成だったのに、この反応はその事を忘れていそうだ。

 

 僕も最優先はひーちゃんで、喜多さんとはまだそこまで親しくないので同じクラスになれたら良かったなと少し残念に思う程度だ。

 

 腕を組んだまま教室まで行って、既に教室にいるクラスメイトの注目を集めてからひーちゃんはどういう状況か気づき、真っ赤になって僕から離れると自分の席で溶けてしまった。他の生徒たちがギョッとしてから僕の方をチラチラ見てくるけど、液体化した時は冷やさないと治りが悪いので彼女が冷静になるまで置いておくしかない。長年の経験から考えるに、先生が来るまでには何事も無かったかのように元に戻っているだろう。

 

 新しく教室に入って来るクラスメイト達もひーちゃんを見てビクッとしているので、これまでと変わらず話しかけてくれる人はいないだろうなと彼女を憐れんでしまう。崩壊系だったらすぐに治せたのに。

 

 先生が来るまで席が近い生徒達と軽く話をしながら男女問わず顔を繋いでおく。

 

 僕まで交流を投げ捨てたら班行動が必要な時などに、ひーちゃんが孤立してしまうので友達と言わずとも知り合いは増やしておくに越したことはない。

 

 僕の予想通りひーちゃんは、担任の先生が教室に入ってくる頃には何事も無かったかのように復活していた。

 

 先生が教壇に立つと、これからの入学式の進行を説明される。僕たちは並んで入学式が行われる体育館に移動してから、校長先生や来賓の方の話を聞く。

 

「新入生代表、富士鷹志」

「はい」

 

 彼女に合わせる為に受験する高校のレベルを大分落としていたので、入試の成績が一位になり新入生代表に僕が選ばれていた。近くに下北沢高校などの進学校もあって、秀華高校は偏差値も低い方なので成績上位には入っていると思っていたけどまさか一位とは僕も思わず、学校側から連絡を貰った時は驚いた。

 

「春の息吹が感じられる今日、僕たちは秀華高校に入学いたします」

 

 挨拶を進めながらもつい周りを確認してしまう。ズレを感じながらも舞台の上からは周りの様子がよく見えた。ひーちゃんは知っているので驚いていないけど、他のクラスの列で見つけた喜多さんは少し驚いた顔で僕を見ている。

 

 こちらを見て話を聞いている生徒は半数程で、他は興味が無さそうだったり、近くの友達と小声で話しているような生徒も見える。壇上などに立つ先生からも僕らの行動はしっかりと見られていそうだから、こういう場では真面目に話を聞いていた方が良さそうだなと再確認しながらもそろそろ挨拶が終わりそうだ。

 

「以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます」

 

 面白味のない普通の挨拶を終えて僕は元の位置に戻る。その後も進行通りに入学式を終わって、教室に戻ると自己紹介の時間になった。

 

 クラスメイトになった生徒たちのどこの中学から来たとかどんな趣味などの自己紹介を聞いていくと、ついに彼女の番になった。

 

「あっ、え…えっと…後藤ひとりです」

 

 人前で話すという行為自体が苦手なひーちゃんは、やはり自己紹介でまともに喋れずに名前だけを言ってすぐに着席してしまっていた。どんよりとした重い空気を放っていて周囲のクラスメイトが急に息苦しくなり不思議そうにしている。

 

 ギターを持った時などの格好良い彼女も好きだけど、やっぱりこういう駄目な所が好きだと実感してしまう。ずっと面倒を見てあげたいし、甘やかしてあげたくなってしまう。

 

 自己紹介の時間も終わり、先生から明日からの予定などを聞いて今日は解散となった。

 

 今日は入学式だけで、時刻はまだお昼頃。すぐに帰宅する人やこれから何処かに寄ろうかと話し合っている人もいる。

 

「ひーちゃん?」

「えっと、喜多さんからロインが」

 

 これからどうするか彼女に聞こうと思ったら、喜多さんから僕ら二人に相談したい事があると連絡があったらしい。

 

 喜多さんのクラスに行って見ると既に人気者なのか複数の友達に囲まれてる姿を発見する。向こうも僕らを見つけると断りを入れてから荷物を持って此方に方に合流した。喜多さんは入学式の日からベースを持って来ていて、これから練習に行くのだろうか。

 

「急にごめんなさい。あ、富士君代表挨拶するなんて凄いのね、なんで教えてくれなかったの?」

「事前に教えるのは自慢みたいだし、少し嫌じゃない?」

「そういう物なのかしら」

 

 他の生徒も多い学校じゃ相談しにくいらしく、入学したばかりで人が少ない場所も知らない。とりあえず移動してお昼ご飯もまだだと言う事もありファミレスで話を聞くことになった。

 

 ひーちゃんは学校帰りに友達と買い食いと密かに喜んでいるけど、これは買い食いの範囲なのかと少し疑問を持ってしまうけど彼女が嬉しそうだから別にいいか。

 

 

 

〈視点変更:ひとり〉

 

 

 

 学校からそう離れていないファミレスに私たちは入って注文を済ませる。

 

 タカくんの作る料理も美味しいけど、こういうファミレスのメニューもシンプルで私は結構好きだった。家事などで彼にばかり負担をかけるのもアレなので外食や出前を増やしても良いと思うけど、栄養面や体調管理を気にして色々作ってくれて頭が上がらない。

 

「私、リョウ先輩にベースを教えてもらう事になったじゃない?」

 

 喜多さんはリョウさんに憧れてるって言ってたから、沈んだ声でそう言うので相談というからにはそこで何かあったのかな。

 

「それで練習の後、先輩に新宿のフォルトってライブハウスに連れて行ってもらったの。凄いベースボーカルの人がいるから目標にしたらいいって」

「それで自信がなくなってしまったと」

「そーなの」

 

 難しそうな顔をする喜多さんに、どう返事をしたら良いか分からず私とタカくんは顔を見合わせてしまう。前にセッションした時にリョウさんのベースが上手い事は知っていたので、そんなリョウさんが凄いと言うからには、プロかそれに近いミュージシャンなのかな。

 

 喜多さんはまだベースを習い始めたばかりの初心者で、そういう人にトップレベルの実力者を見せたら、自分もそう成りたいと憧れを抱くか、自分には無理だと心が折れてしまうか。少し話した印象だけど私と違って喜多さんは前者だと思っていたけど、実際には後者になってしまったのだろうかと少し同族意識が芽生える。

 

「あっ、あの…喜多さんはまだ始めたばかりですし、そんなに思い詰めなくても…」

「そのベースの人、ライブしながらお酒飲んだりそれを観客に吹きかけたり、酔った勢いで機材壊したりしていて、バンドのパフォーマンスってあそこまで求められるものなの?私まだお酒飲めないのよね」

 

 ドリンクを飲みながらそう語る喜多さんに先ほどと違いなんて声をかけたら良いのかわからなくなった。視点が違いすぎて私の芽生え始めた同族意識は枯れた。

 

「まあ、ライブ中に生きた蝙蝠を食べて病院に運ばれたバンドもあるらしいから、パフォーマンスも一長一短ですよ」

「ロックって難しいのね」

「…あ、はい。そうですね」

 

 そして機材を壊すと言う事で過去を思い出して微妙な気持ちになってしまう。

 

 中学生の頃、私にはデスメタルなどに嵌っていた時期があって、スライドギターや歯ギターなども練習してできるようになっていた。

 

 タカくんと一緒にメタル系のバンドのライブ映像を見ていた時に、ギターを壊す場面があったのだ。それを見て、彼は私もギターを破壊してみないかと何気なく聞いて来た。私が持っているギターは彼が私の誕生日に贈ってくれた一番の宝物で、それを壊すなんて言う彼の言葉に理解できずにしばらく呆然としてしまってから、生まれて初めてタカくんに怒ってしまった。その後も感情がぐちゃぐちゃになって私は泣いて彼を困らせてしまった事を思い出す。

 

 後になって知ったけどロックファンならギターを破壊したりする事に憧れる人も一定数存在するらしく、破壊専用ギターなどという物もあるらしいけど、私には理解できない世界だ。

 

「やっぱり私もパフォーマンスの勉強もした方がいいのかしら」

「その辺は伊地知さん達がいる時に相談しましょうか」

「あっ。そ、そうですね」

 

 考え事をしている間にも話が進んでいて、相談に上手く乗れていない事に気づき、私はとってつけたような相槌を入れてしまって死にたくなってしまう。

 

 パフォーマンスやMCもそのバンドの方向性を感じられて確かに大切だけど、機材や楽器を壊したりするバンドなら正直抜けたい。

 

 私が使っている音楽道具は殆どが彼からのプレゼントなので、全部大切な宝物だ。だからか道具を大切にしない人とは一緒にやりたくない。色々ぶっ飛んだバンドの方が話題性もあってメジャーデビューには近いのかもしれないけど、結束バンドがそっち方向のバンドじゃない事を祈る。

 

 話をしている間に私たちが注文したメニューが運ばれて来た。

 

 私はハンバーグで喜多さんはドリア、タカくんはパスタだった。

 

 やっぱりタカくんはパスタとか麺類が好きだから、約束した通りに私が作った方がいいのかな。けど学校の調理実習くらいでしか料理をやったことないし、彼みたいに美味しく作れる自信がない。

 

「どうしたの?」

「…ううん、何でもない」

 

 私が考え込んでいるとタカくんが声をかけてくれる。いつでも私を気遣ってくれる彼に甘えっぱなしだから、頑張って彼の望み通りに料理もやってみようかな。

 

「二人とも話を聞いてくれてありがとう」

 

 食べ終わって少し落ち着いたら喜多さんにお礼を言われた。私は殆ど相談に乗れなかったので、少し居心地が悪くなってしまう。

 

「あ、喜多さんはこの後もベースの練習ですか?」

「ええ、リョウ先輩に教えてもらうの。虹夏先輩も来るみたいだからよければ二人も一緒にどう?」

「あ、はい。大丈夫です」

 

 入学式だけだったとはいえ、自己紹介で失敗したりして正直疲れているけど、喜多さんがどれくらい上達したのかとバンドの方向性は興味があるのでよければ参加したい。

 

 話も纏まって席を立とうとしたら、タカくんが伝票を持って先に席を立った。

 

「あ、相談に乗って貰ったのだし、私が払うわ」

「でも喜多さん、ベース買ってお小遣いないって言ってなかった?」

「う…」

 

 確かに喜多さんはベースを買うためにお年玉とお小遣いを全部つぎ込んだって言っていた気がする。それを考えると、ギターをタカくんに買って貰った私がどうしようもなく狡く思えてしまう。

 

「…富士君って結構強引なのね」

「そういう所も良いと思います」

 

 何もできない私を強引にでも引っ張ってくれる彼には感謝しているし、そういう姿は格好良いと思うけど、喜多さんがタカくんに惚れてしまわないか私は心配してしまった。

 

 楽器の腕ではまだ辛うじて私が勝っているけど、それ以外に私が勝っている所が思い浮かばない。喜多さんはお洒落で綺麗だし良い匂いするし、コミュ力もあって歌も歌える。正直、私より喜多さんの方がタカくんの隣に相応しいと思ってしまう。

 

「喜多さん」

「ん?どうしたの、後藤さん」

「私負けませんから!」

「え、唐突な宣戦布告!?」

 

 困惑している喜多さんを置いて私はタカくんの隣に立つ。

 

 まだギターしかない私だけど、この場所は誰にも譲りたくないと決意する。

 

 




もう(ぼっちちゃんの圧倒的勝利で)勝負ついてるから。


更新が遅れて大変申し訳ない。

はじめはオリジナル展開だし喜多ちゃんと同じクラスにしていたのですが、アニメ勢だからさっつーなる人物が分からずに、描写なしで進めていたけど喜多ちゃんに引っ張られてクラスでカラオケとか行ってたら出さないのもおかしいので漫画を買うか検討してました。
ネットで調べている内はいいけど、実際に資料や原作を集め始めたらそれだけで満足して書くのやめちゃう事があるので結局見送り。
違うクラスにしたけどプロットだと全員同じクラスでやりたい事もあったので迷いが経ち切れずにグダグダして迷走してました。
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