僕の名前は富士鷹志というらしい。一富士二鷹三茄子ってか。そこまでいくなら富士鷹那須でもよかった気がするが流石に語呂が悪いか。転生者であり、自分の死因もわからなければ、神に会った記憶もない。
「あーうー」
気が付いたら赤ん坊になっていて意識は割とハッキリしていた。前世の記憶は朧気で、自分が男で今世も男であるというぐらいしかわからない。前世の自分の名前や親の顔も思い出せないのに、アニメや漫画の知識が中途半端に残っていたのが気持ち悪い。
周りは普通のよく見た景色で、流行りの異世界というわけじゃなく僕が知る前世との差は少ない。しかし細かい所が確かに違うので平行世界というやつだろうか。
他の子と遊んだりしないでずっと独りでいる幼少期だった。その事に両親や先生が心配していたが、前世の知識があるから幼子に混ざることが恥ずかしいというわけではない。むしろ肉体に引っ張られるのか、泣いたり笑ったりと子供らしい感情が制御できなくて困ったくらいだ。そんな僕が何故頑なに一人でいるのかというと。
「…気持ち悪い」
僕はずっと既視感を感じて生きているのだ。やること成す事全て体験した事があるような、気持ち悪さがずっと付きまとっている。前世の記憶があるから当たり前と思うかもしれないが、初めて挑戦する事でも会ったことがない人との初対面でも『知らない筈なのに知っている』と漠然重な。だがそこにあるモノとその『知っている筈なのに知らない』は完全には一致せず絶妙にずれている。手ブレが酷い写真や動画を延々と見せられるものと考えて貰ったらわかりやすいのかもしれない。その気持ち悪さと恐怖に思わず吐いてしまい涙が出てくる。こんなことなら前世の記憶なんていらなかったと何度も思ってしまうほどだ。既視感が起こらないのは一人で何もしないときだけ。今の両親でさえ前世の両親なのか別の『何か』なのかわからないモノと重なりブレるのだ。だから僕は何も見ず、何も聞かず、自分の殻に籠っていった。
そんな僕の様子を見かねた両親は環境が合わないのかと引越しをすることにしたらしい。ある意味障害を負ったような子供でも我が子はかわいいものだと言うのでいい親なんだろう。だがそんな両親にも生活と仕事があり、むしろ子供ができたからこそ余計稼がないといけない。そこで東京にある仕事場からそれ程離れていなくてベッドタウンでもある神奈川や埼玉と迷ったらしいが、最終的には母親の実家のある横浜の方にしたらしい。今までより通勤時間も伸び、忙しい中で僕の面倒を見てもらえるとの事が決まり手らしい。
引越しを終え、近所に両親と一緒に挨拶周りをすることになった。そこでも浮かない顔をしていたが、僕と同い年の子供がいるというので顔を合わせる事になってしまった。その子も友達がいないらしく良ければ仲良くしてほしいと言われた。どうせ今までと何も変わらない。さっさと終わらせたいと思っていたら、相手側の母親が俯いている小さな女の子の手を引いて連れてくる。僕はその子から目が離せなかった。今まで感じていたブレがその子からは一切感じなかったのだ。
「僕は富士鷹志。一富士二鷹三茄子の富士と鷹なんだ!」
僕がしっかりと自己紹介した事に両親はとても驚いて、けれど少し心配していた。心配かけないように無理に明るく振舞って後に吐いていたのを知っているからだろう。まるで砂漠でオアシスを見つけたような心境だった僕は無理なんてせずに今は自然体でいれた。その女の子は「あっ」とか「うっ」とか言葉に詰まっていたので僕は「ゆっくり自分の速度で話していいよ」と極めて優しく呟いた。自分でもこんな声が出たことで驚く。すると小さく深呼吸したこの子は小さく、けれどしっかりと言葉を紡いだ。
「あ…後藤、ひとりです」
「よろしくひとりちゃん!」
「あ…よ、よろしく」
その様子に互いの親がえらく感激し、僕が無理していないと感じた家の両親なんて涙を流していた。その後うちと後藤家は家族ぐるみの付き合いになるのだった。
転校初日、後藤ひとりと一緒に小学校へ向かう。彼女は話すのが苦手なのか会話は殆どなかったけど、少ないけど確かに会話をしていた。学校に着いた時、ひとりちゃんと別れるのがとても残念に感じる。また既視感だらけの日常に戻るのかと億劫になりながらも彼女がいれば頑張れると気合を入れ直した。職員室まで案内して貰ったので彼女にありがとうと言って別れて、担任の先生に挨拶をした。ホームルームで担任の先生に呼ばれ、クラスに入るとひとりを見つけた。その瞬間世界に光が満ちたような気持ちだ。小学生の女の子にそのような気持ちを抱く自分に気持ち悪さを感じ、思わず笑ってしまった。引っ込み思案な彼女といれるようにできるだけ明るく振舞う。彼女の事を思うだけで頑張れる気がした。
そこから僕はずっとひとりちゃんと一緒にいた。流石に彼女の気持ちが最優先で、彼女が嫌がるようだったら身を引くつもりだった。彼女は別に一人でいるのが好きなわけじゃなくて皆の輪に入りたいけど考えているうちに機を逃し諦めるような性格だと分かった。ひとりちゃんも僕と一緒にいるのは苦じゃないのが幸いだ。彼女は僕にとっての光だ。彼女に出会わなかったらそのうち自殺していたかもしれない。その恩に報いないと気がすまない。
それから僕はひとりを最優先に行動し、プレゼントなども吟味して送った。その様子にお互いの両親は好きな子の気を引きたい行動に映ったらしく「あらあら」「まあまあ」と微笑ましげな視線を送ってくる。小学校を卒業するころには、彼女は僕相手にどもることもなく、親しげに会話できるようになって喜びに人知れず涙を流した程だ。なおその様子は母親に写真を撮られていた。
僕はひとりちゃん改めひーちゃん(そう呼ぶ事を許可してもらった時の彼女の赤面はとても可愛かった)に恩を返すために今まで苦痛で消えてほしいとさえ思っていた前世の知識を利用する事を決めた。あらゆる事に既視感を感じるほど前世との違いが少ないこの世界で、僕はこの先急成長するだろう株を買い、その株が当たったら投資をして初期投資の何倍にも増やせた。有名企業でも微妙に名前が違ったり、ブレが激しいので失敗することも視野にいれていたので当たってよかった。流石に増やしすぎて、確定申告など含め両親に報告したら、僕が株をやって成功した事にそこまで驚いてはいなかった事に逆に驚いてしまった。幼少期の様々な事も天才故の何かだと思っているらしい。まあ、ある意味天与呪縛みたいなものだけど、流石に人生二周目とは思うまい。「マイナスだけの人間はいない、必ずマイナスを帳消しにできるだけのプラスがある。それが見つからないだけだ」とは父親の言。見つかってよかったなと笑う両親に前世の知識を利用しただけの僕はいたたまれなくなった。稼いだ額は親孝行として殆ど渡そうとしたが将来の為に残せと怒られてしまった。重ね重ねごめんなさい、稼いだお金は僕の将来より後藤ひとりの為に使います。とはいえ、流石に現ナマを渡すのは宜しくない。さてどうするかと考えていたら突如ひとりがギターを始めると言うではないか。音楽に限らず芸術系の趣味は初期投資でも結構お金がかかるし、将来的にバンドを組むのならいくらあっても足りない。売れないミュージシャンの苦労はよく聞く話だ。ひとりの為なら買い支えた上で、毎日パチンコ代を渡す事も厭わない。
ともかく、お金の使い先は決まった。あとはどうやって渡すかだ。
「え?ひーちゃんギター始めたの!?かっこいい!」
「えへへ」
彼女は承認欲求が強く、誉め言葉にも弱いので誉めてあげると柔らかく笑う。かわいい。このままギターを買ってあげたい。
「けどどうして急に?」
「バンドの番組を見て興味をもって…お父さんにギター借りて練習してるんだ」
「ギターをお父さんから借りて…なら自分のギターがあったほうがいいよね?お父さんから教わる時にも便利だし」
既に借りて弾いているのか。ギター教室の費用などを出したいが、会話が苦手な彼女には苦痛だろうし、行くにしても彼女の両親が出すだろう。そもそも彼女のお父さんが弾けるし教える事もできるだろう。ならギター本体を買ってあげればいいか。けど今貸してもらっているギターをそのままひとりちゃんに譲りそうだな。もう殆ど使ってないしひとりがやるならあげるよって。けど僕は諦めない。自分のギターがあれば遠慮なく使えるし普通にスペアとしても使える。曲によって使うギターを変える事もあるはずだ。最悪パフォーマンスでの壊し用にしてもらって構わない。ひとりちゃんはうーんと暫く考えると何故かボンっと爆発した。このような場面を見ても気にしなくなったのはいつからだろうか。偶に奇行に走るひとりちゃんを見るとギャグマンガの世界だったのかなと感じる転生者心。けどそんな彼女が堪らなく愛しいと感じる。
「…あ、えっと…すぐやめちゃうかもしれないし、お父さんのギターでせめて一曲弾けるようになってからじゃ…ないと」
「確かにそうだね。高い買い物になるし慎重に考えた方がいいよね。ごめんね、先走って」
ひとりに貢ぐことを考えたら全然高くなんてないけど、無理に押し付けるのは駄目だよね。あと彼女は一度始めた事を投げ出したことがないのは知っているのですぐやめるなんて事はないだろう。押しに弱く押し付けられた掃除当番でも最後まで頑張っていたのを僕は知っている。もちろん手伝ったよ。あ、小さくガッツポーズをするひとりちゃんかわいい。脳内に永久保存したい。
「じゃあ弾けるようになったら絶対に聴かせてね!そしたら一緒に楽器見に行こっか」
「…はい」
諦めたような顔の彼女に一瞬そんなに僕と出かけるのは嫌なのかと軽くショックを受けたが、どっちかというと彼女は変な方向に考えを飛躍し勝手に落ち込むことがあるので、きっと楽器店の店員が怖そうとか、そもそも外出したくないとか考えているのだろうと自分を慰める。彼女に嫌われたら生きていけない。
それから毎日遅くまで練習しているのか、朝登校する時の彼女はとても眠そうにしていた。学校で居眠りすると先生に注意されて皆に注目されてしまう。目立つのが苦手な彼女は、授業中頑張って起きていたが、休み時間などはうとうとし僕にもたれかかってくる。中学校は小学校からそのまま上がってくる生徒が多数を占める。よって昔から登下校含めずっと一緒にいるのでクラス内どころか学年では僕と後藤ひとりが付き合っていると思われているのでチラっと見られるだけでスルーされた。昔こそ好奇心で構われたが、僕は意味深に笑うだけで、ひとりは口下手なうえ、話しかけられるとオーバーヒートし奇行に走るので割とすぐに放置されてしまっている。ちなみに僕以外に話し相手もいなくて、昔そのことを聞かれた時にはバグってしまっていたひーちゃんはそう思われている事を知らない。まあ、既に他のクラスメイト内でもリア充カップルがいるし、根暗で奇行に走る女子とイケメンでもない僕の恋愛事情にそこまで興味がないのだろう。
そんな日常が続き、ひーちゃんがどれくらいギターを弾けるようになったかは本人の口からではなく、定期的に彼女のお父さんから知らせがくる。報告というか「うちのひとりは凄い!もうあんなに弾けるようになったんだよ。昨日はあの曲の練習をー」とデレデレした親ばか的な話をずっとしている。お酒でも飲んでるのかと思うが素面でこれだ。そしてひーちゃんが僕にギターを披露する為に頑張っているのを察していた彼女のお母さんがいつ僕を呼ぶのかと声をかけようかとしたら、「次の休みにしよう」とこぼしていたのを聞いたと教えてもらった。ひーちゃんからは特に連絡はなかったが、自信のない彼女の事だ。ずっと先延ばしになりそうだし次の休みに突撃させてもらおう。
後藤ひとりが奏でるギターに僕は心を奪われた。
どんくさい方である彼女からは想像もできないほど激しく動き音を奏でる指先。激しく掻き鳴らされるメロディ。そして、今まで見たこともない彼女の真剣な表情。登校時の嫌そう顔、学校で見る真顔や変顔。下校時の少し困ったような顔、そして偶に見せてくれる笑顔。そのどれでもない、私はここにいると言っているように思える真剣な顔に僕の心は高鳴る。彼女の演奏の良し悪し自体は素人の僕にはわからない。音楽も既視感を感じてしまい前世の似た曲と二重に聴こえたのだ。彼女の演奏はオリジナルじゃなく有名バンドのコピーだろう。知っている、聞いたことがあると認識はしても、彼女の奏でる曲は今までのように別の曲と重なって聞こえなかった。その事実だけでたとえ下手くそでも僕は喜んで聴いただろう。だが、彼女のギターは素人ながらにとても上手だと感じだ。僕には理解できないほど練習したのだとわかってしまう演奏にどんどん惹かれていく。人間本当に感動した時はすごい、やばい。そのくらいしか感想しか出てこないのかもしれない。
「…はぁ…はぁ」
響いていた音が止む。終わって欲しくないとも感じた演奏が終わり、ひーちゃんはギターを下げる。そこまで本気で弾いていたのか息を乱し、かいた汗で髪が引っ付いている。
「…推せる」
「え?」
「い、いや、何でもないよ。凄すぎてびっくりしたんだ。ひーちゃんが余りにも恰好良くて見惚れちゃった」
つい呟いてしまった言葉をかき消すように感想を述べる。
推せるというのも本心だ。彼女が本格的にバンドを始めたら最後まで買い支える気持ちがある。今までの恩返しだとかじゃなく、ただ推しに貢ぎたい。勿論、恩返ししたいのも事実であり、推し認定と合わさり、ひーちゃんには金銭だけじゃなくこの身の全てを捧げてもいいくらいだ。
「みっ…!?」
何故か真っ赤になったひーちゃんが倒れたので優しく受け止めると、肩にかけていたギターを外し横に置いて彼女を膝枕する。男の膝なんて硬いし、ここは彼女の部屋だ。枕も座布団も近くにあるだろうが、例え自分本位だろうと頑張ってくれた彼女にこうしたい気分だった。汗で絡まった彼女の髪を撫でるように解す。
「…緊張の糸が途切れたのかな?お疲れ。そして聴かせてくれてありがと、ひーちゃん」
彼女が起きるまでそうしていたが、目が開いた瞬間またバグっていたのでそれ程疲れたのであろう。これ以上邪魔するのはよくないと僕は彼女に貢ぐには何がいいかと考えながら帰路についた。
昔は1日で1万文字以上余裕だったのに今じゃ数日以上かかる…。
次回は殆ど書けてないので未定。