推しに貢ぎたい転生者   作:だいこん君

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3話 買い物デート

 

 ひーちゃんの演奏を聴いてから一夜明け、今日は日曜日だ。

 

 時刻は午前九時、僕は約束通り彼女と出かける為に朝から後藤家を訪れた。呼び鈴を鳴らし、ひーちゃんのお母さんに家に上げてもらうと彼女はジャージ姿でリビングにいた。うん、見慣れた格好に安心感さえ覚えてしまう。

 

「この子は…。せっかくのデートなんだから可愛い恰好したらいいのに」

「お、お母さん!デートじゃないよ、ただのお出かけ!うん、少し楽器を見に行くだけ!」

 

 呆れたように言い放つ母親に顔を赤くした彼女が否定する。親との買い物にすら「別にいい」や「私は待ってる」と言って着いていかずに、家に籠っていた彼女の成長を喜んでいいのか、それとも気になる男の子とのお出かけにジャージで出かける娘に嘆けばいいのか複雑そうにしていた。こういう会話の時によく混ざってくるひーちゃんのお父さんである直樹さんと、妹のふーちゃんも見当たらない。日曜日だし家にいると思ったんだけど。

 

「そういえば美智代さん、直樹さんとふたりちゃんは?」

「もう、いつもお義母さんでいいって言ってるのに。お父さんとふたりはジミヘンの散歩に公園に遊びに行っているわ」

「あっそれでジミヘンもいないんだ」

 

 ちなみに今の会話に出てきたジミヘンというのは後藤家で飼われている犬である。僕は彼女のお母さんの言葉にそうですかと返す。将来的にそう呼べたら嬉しいが、今はまだ何とも言えないので流すしかない。ひーちゃんは多分よくわかってない。文字で見たら慌てるかもしれないが、彼女は両親が僕の事も息子同然に思っているのを知っているし、音だけだとお母さんとお義母さんではわからない。

 

「やっぱり今からでも着替えない?お母さんひとりに似合いそうな服用意したのよ?」

「…お母さんが用意した服好みじゃないし」

 

 美智代さんは諦めずに真っ白なワンピースをひーちゃんに見せるが、拒絶する。確かに可愛いしひーちゃんがワンピースを来たら天使のように見えるだろう。

 

「じゃあ楽器の他にも一緒に服とか見る?」

「え」

「いいわねー。でもせっかくなら、鷹志君にコーディネートしてもらったら?」

「え!?」

 

 長年の付き合いだが彼女の私服姿はジャージやスウェット、Tシャツくらいしか見たことがない。彼女のお母さんがひーちゃんに買ってきた服を見せてもらった事があるが、清楚系のワンピースやセーラー服に近いものとかが多かったが一度も袖を通してもらえずに箪笥に眠っている。だが僕は長年の積み重ねで彼女の好みをリサーチしていた。ハンカチや小物をプレゼントしていた時、白系統より黒系統の方が心做しか喜んでいた気がするし、彼女を笑わせようと用意したネタ系統のジョークグッズの反応が一番よかった。ひーちゃんは常人とは違う独特なセンスを持っていることが分かった。彼女に選ばせたら良くて全身真っ黒な服、最悪鼻眼鏡のような宴会グッズを選ぶ可能性すらある。彼女のセンスからズラして、許容できるがそのうえでお洒落にするのはかなり難しかった。だが、今彼女はギターをやってバンドに嵌っている。そっち系のファッションならいけるか?

 

「はい、お小遣い。服とか買うなら必要でしょ?」

 

 ひーちゃんは何とも言えない顔をしていたが、お母さんから福沢さんを受け取るとあわあわと慌てていた。中学生に渡すにしては大金だが、女性服って意外と高いしコーディネートしようと思ったら足りないのではと思ってしまう。古着屋とか安い所でうまく合わせれば足りるのかな。そこのところ僕にはわからないが、まあ今回は全部貢ぐ予定なので彼女が財布の心配をすることはないだろう。

美智代さんに行ってきますと言いながら二人で後藤家を出発して歩き出す。

 

「服だけならショッピングモールでもいいけど楽器を見るなら少し遠出した方がいいかな?」

「え、電車に乗るの…?」

「軽く調べたら近くに楽器店少なくて、せっかくならいろいろみたいよね」

 

 ひーちゃんと二人で駅の方角に向かう。未だに馴れないのか繋がった手をチラチラと見る彼女の姿につい笑みがこぼれた。

 

 昔、出かけ馴れていなくて、ついあれこれ考え込んでしまっている内に歩みが緩んで、距離が空いてしまった彼女と逸れない為に繋いだのが初めてだったか。学校への登下校時は流石に恥ずかしいと拒否られてしまったが、二人での外出では手を繋ぐようになっていた。流石に恋人繋ぎじゃなく指を絡めずに握るような、逸れないようにギュッと繋いでいた。けどせっかくのデートなら違う方が良かったかなと思い、一度繋いでいた手を放した。

 

「あ…」

 

 少し残念そうにする彼女の手をもう一度、指を絡めるように優しく繋ぎ直す。所謂恋人繋ぎをすると、彼女はボンっと爆発してしまった。僕たちにはまだ早かったかと苦笑して、空気が抜けて薄くなった彼女を丁寧に抱えて駅に向かった。こんな姿の彼女を抱えていても気にされないのはやはりギャグマンガだよな。

 

 

 

「へー、こんなに種類があるんだ」

 

 途中で復活したひーちゃんと共に楽器店を覗くと僕はその楽器の多さに少し圧倒されてしまった。ひーちゃんを見ると、彼女はエレキギターの値段に唸っている。安めの物でも一万近くする上に、しっかりしたものは最低でも数万。ものによっては数十万以上している。しかも彼女の基準はその数十万以上する、お父さんから借りているギブソンのレスポール・カスタムというギターだ。最高級であるそのギターと比べたら殆どのギターが見劣りしてしまう。既に高級ギターを弾いてその音になれている彼女が今更安物を買うのもおかしな話だ。仮に気になったものがあっても中学生の懐事情では厳しい。結果ギターは見送って小物の方を物色するが、メンテナンスの道具はお父さんが使っていたのがあるらしい。音の自由度を上げるエフェクターの方に興味をもって眺めていた。

 

「気になるの?」

「うん、アンプもお父さんのを借りてるけど、こっちはわからない」

 

彼女の代わりに店員に聞いてみることにした。

 

「すいませんエフェクターにおすすめってありますか?」

 

 結構色んな種類があるらしく、正直歪みがどうとか僕にはわからない。それを感じ取ったのか初心者ならマルチエフェクターがいいと何個か勧められたので、僕の後ろで黙って聞いていた彼女にそれでもいいか確認すると頷いて、紹介されたうちの一つを選んだ。彼女が財布を出そうとしていたので、僕は彼女より速く財布を出して会計を済ませる。彼女が慌てていたが、今日は全額払うと決めていたのだ。

 

 本来は今日彼女にギターを貢ぐ予定だったのに、彼女の父親のギターが偉大過ぎて良い物が見つからなかった。せっかくプレゼントするなら喜んで使って欲しい。けど今彼女が使っている物には及ばず、下手な物を贈って彼女の音楽が崩れるのも困る。く、やはり父親が最大の壁か。

 

「私の道具だしお金払うよ」

「せっかくのデートなんだし、僕からのプレゼントだよ」

「で…!?…うん」

 

 親にも散々からかわれたのにデートにと言う言葉に反応して俯くひーちゃんは、とても可愛いらしかった。ずっと見ていたいけど、やりすぎると爆発したり崩壊したりするから取り扱いには注意が必要だ。

 

「お昼は私が代わりに払うからね…」

 

 九時に家を出たのに、電車に乗って移動したのと楽器店を何店か回ったので、気づけば十二時をまわっていた。ひーちゃんがいい子すぎて辛い。お昼も好きに貢がせて欲しいが、彼女はそんなことを許容できないだろう。そんな子だからこそ推せるのだが、推しに貢ぎたいのに推しに貢がせてもらえない葛藤。お貢は喜んで受け取ってもらってこそだし、無理やり押し付けるのはやはり違うだろうと彼女の提案を受け入れる。このままだとギターみたいな高価な物は贈っても受け取ってくれない気がしてきた。まずは外堀を埋めるか貢がれる事に慣れさせないと。

 

「で、でーと…だしあそこの店に、しよっか」

 

 考え事をしていたら、精一杯の見栄を張ったひーちゃんがカチコチになりながら入ったこともないようなお洒落な雰囲気の喫茶店を選んでいた。うん、普段の彼女なら絶対しないような選択だし、彼女もデートという事で精一杯の勇気を振り絞ってくれたのだろう。テラス席にカップルだと思われる男女が多いから、それを見て反射的に決めたのかもしないが。

 

 …ひーちゃん、そのジャージ姿であのような店を選べる行動力は尊敬できる。だが、これは僕のミスかもしれない。ひーちゃんと出かけられると浮かれ、デートコースを吟味できていなかった。冷静に考えると、ある程度行き先が決まっているのなら、初めに服を選んで、その服に合わせた店で食事をとり、結局買わなかったがギターなど重いものは最後に見た方がよかった気がする。

 

 この僕が彼女にすごい今どきのお洒落な店にジャージで入店なんて苦行を強いる事になるとは。でもどんな姿でも後藤ひとりは後藤ひとりというだけで素晴らしいのでその行動を尊重しよう。そう思って見守ろうとしたが、決めたのはいいがやはり勇気が足りなかったようで、ひーちゃんは僕の後ろに隠れて裾を摘まんで俯いていた。結局僕が先導して入ることになる。

 

「いらっしゃいませー二名様でよろしいですか」

「はい」

「テラス席もございますがいかがしますか?」

 

 ひーちゃんに確認すると首を高速回転させていたので、既に勇気を使い果たしてしまったのだろう。僕は店員に奥の席でも大丈夫ですかと確認して席に案内してもらう。

 

「…なんかお洒落なメニューだ」

 

 メニューを確認して何やら感動しているひーちゃんだったが、その値段を見て固まる。フードメニューは千五百円前後からで中学生の財布には少し厳しい。まあこういう店って高いよね。流石に二人分でもエフェクターより断然安いが一食の値段としては少し考えてしまう。場所によっては食べ放題にもいける値段だし。僕はとりあえず一番安かった日替わりパスタにする。ひーちゃんはよくわからないものにこの値段を払う勇気はなく、無難に本日のおすすめと書かれたオムライスにしたようだった。

 

「タカくんのは…ナポリタン?」

「プッタネスカだよ」

 

 彼女のデミグラスソースのふわふわオムライスと、僕のオリーブとアンチョビが入ったトマト系パスタが同時に運ばれてきた。ひーちゃんはパスタを見て首を傾げたが、日本じゃあまり身近ではない材料を使うので彼女の家では作ったことがないのだろう。

 

「はいあーん」

「あむ…あっ、美味しい」

 

 なんかお洒落な名前と彼女が目を輝かせていたのでフォークに巻いて一口差し出してみるとすぐに咥えた。普段の彼女らしからず平然としていたので、無意識なのか気づいていないのか。多分ふとしたきっかけで思い出して悶えるんだろうなと思いながら、オムライスも美味しいと食事を続ける彼女を微笑ましく見つめた。

 

 

 

 普段しない外出、それも楽器店や喫茶店という華やかな場所に当てられたからかひーちゃんは既に疲労困憊であった。食べている時は笑顔だったが、お会計の時にダメージを貰ったようだ。少ない人数で回している場合レジに人を置かずに呼び鈴が置いてある場合あるよね、つまりそういう事だ。だけど服を見るという理由でお母さんからお小遣いを貰っているのでせめて一着買うまでは帰れない。まだなんとか保っているものの、彼女の顔のパーツが崩れ始めて福笑いのような状態になってきている。その絶妙にズレた顔を可愛いと思ってしまい、僕にはブレて見えるこの世界も全部彼女みたいだったら良かったのに、と思ってしまうのは手遅れなのだろうか。

 

「うっ…」

「ほら、怖くないよー」

 

 洋服店やブティックを見て回るが、その華やかな雰囲気に彼女は踏み出せずにいたので彼女の手を引いて、服を見る。限界なのかもう僕のなすがままになっているが、聞いたことには答えてくれたのでサイズを参考にしつつ、僕個人が思うバンドっぽい服を選んでいく。流石に試着まではしてくれないので、中学生で体の凹凸も殆どない彼女の肩幅や着丈を軽く合わせるだけで選ぶ。まだ成長期である事を考え、同じくらいのサイズより少し余裕を持たせたくらいの物を選んでいく。多少の熟考はしたが、所詮男の買い物。そこまでの時間はかかっていない筈なのにひーちゃんの口から謎の煙が出始めていた。僕は急いで会計を済ませてひーちゃんを気遣いながら彼女の家に連れて帰る。家の前で持っていた荷物や買い物袋を手渡して、限界だったのか別れの挨拶もできずにふらふらと家に入っていく彼女を見送る。そんな姿に罪悪感を憶える。昨日の素晴らしい演奏のお礼に彼女に楽しんでほしかったけど、実際は疲れさせただけなのかもしれない。

 

「ごめんね、ひーちゃん」

 

 僕は自分の家に向かって歩きだす。このまま彼女の家の前にいたら、彼女の両親に質問攻めにされて、ひーちゃんもゆっくり休めないだろう。

ただお昼こそ彼女に払わせてしまったが、服一式と音楽の道具を貢げたのはよかった。あとは彼女が実際に着てくれるかと、復活した後に代金を返そうとするであろう彼女を振り切れるかだけだ。

 

 その後僕がコーディネートした服を着せられた真っ赤な顔のひーちゃんの写真が、彼女のお母さんから届いてその写真をついスマホの待ち受けにしてしまった。

 

 

 




1つ報告があります。

感想は確認していますが返信はしません。
それは読者に興味がないのではなく、昔別作品を書いていた時、返信してたらモチベ無くなってしまいエタった事があるからです。
返信の文面考えるのは難しいしネタバレにならないように色々考えたり、予想に引っ張られて書きたい場面が書けなくなったりした事があるので…。
応援でも罵倒も反応してもらえるだけでも嬉しい事だけは伝えときます。

申し訳ございません。
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