僕達はギターを持ってマンションを出て、昨日約束をした伊地知さんと会うためにスターリーへと向か事になった。
「大丈夫?」
「うん、タカくんと一緒なら頑張れる」
実際にバンドを組むかはわからないけど、伊地知さんの提案は彼女には渡りに船だったのだろう。ライブに苦手意識を持ってしまい、けどバンドを組むのは諦められない。僕以外だと伊地知さんくらいぐいぐいと来る人じゃなければ内気な彼女がバンドを組むのは難しかった。
「僕との2ピースじゃ不満だった?」
「不満じゃないけど、それじゃタカくんを養えないし…」
少し俯いてそう語るひーちゃんは、今の僕に養われているような環境に少しの不満があったようで、彼女の僕を養ってくれると言った言葉は本気だったのだろう。これまで流されて決めてしまう事が多かった彼女が、自分の意志で決めたことに嬉しく思ってしまう。
「けどひーちゃん、気づいてる?」
「?」
「結局僕が一緒なら分け前が減るだけで、二人で組むのと変わらないよ」
「!?」
彼女が言う将来の印税やらなんやらはバンド内での分け合う訳で、僕がいたら彼女の収入と同じ分だけ僕にも入ってしまい、彼女が稼いで僕を養うのとは少し変わる気がする。
このバンドがひーちゃんの目指すメジャーデビューを狙っているのかはまだ分からないけど、どう転がっても彼女の経験になるだろう。
「僕は参加しない方がいいかな?」
「だめ、タカくんがいないと頑張れない…」
結局組めるかどうかは伊地知さん含む他のメンバー次第だ。
昨日少し話して僕にも楽器が出来るか聞いてきていたので、ガールズバンドにこだわっている訳でもアイドル路線で売る感じでもなさそうで、とりあえずバンドができれば男女混合バンドでも気にしてなさそうだった。
僕の胸に縋りついてくる彼女を撫でつつ道を歩くけど、何やら注目されている気がする。
約束の時間の少し前にスターリーに到着した。開店前だけど入れるのはバイトの特権なのだろうか。
「こっちこっち」
店内には既に伊地知さんがいて、テーブルから元気よく手を振っている。
ひーちゃんは僕と二人の時は問題なかったのに、慣れない人がいると借りて来た猫の如く静かになってしまう。
「お、ギグケース。富士君はベース?それともギター?」
「今日はギターです。他のメンバーは?」
「もう一人リョウって子がいるんだけど、まだ来てないんだよね」
伊地知さんと同じテーブルで椅子を引いて、ひーちゃんを座らせてから僕も横の席に座ると伊地知さんに興味深そうな目で見られていた。
「エスコートも手馴れてる。二人ともやっぱり付き合ってるの?」
「あっはい」
「へー、二人でバンド組んだりしてた?」
「あっえっ…2ピースで少し」
ひーちゃんと伊地知さんが話しているのを話が振られない限り黙って見ている。無理そうなら介入するけど、彼女が頑張っている内は見守る。
そうしているとスターリーに新しく二人が入って来た。青髪と赤髪の同じ年くらいの少女だけど、メンバーはあと一人と言っていた気がするが。
「虹夏」
「あ、リョウ。後ろの子は?」
「ギターボーカル出来るって子連れて来た」
「初めまして。私、喜多っていいます!」
「…ギター三人かー」
伊地知さんは何とも言えない顔をしていた。まるで前世の知識にある某ハンティングゲームで、一個だけ必要な素材が何回もクエストに行って最後に三個纏めて出た時のような顔だ。
伊地知さんがギターを探してひーちゃんを連れて来たように、もう一人のメンバーも同じタイミングで見つけて来たのだろう。けど一人でギターもボーカルも出来るなら僕らはお役御免かな、せっかく勇気を出して来たひーちゃんも「えっ、始まる前から不採用?」と泣きそうな顔になっている。
「とりあえず自己紹介しよっか。あたしは伊地知虹夏、来週から下高の二年生で楽器はドラムだよ。あたしが連れて来た二人はカップルギタリストのひとりちゃんと富士君」
「あっ後藤ひとり、ギタリストでカップルです…うへへ」
「富士鷹志です。二人とも来週から秀華高校一年生です」
伊地知さんに振られたので二人で頭を下げて軽く自己紹介をする。
カップルギタリストの言葉に喜多さんが目を輝かせてから、ダメージを食らったような顔をしていたけど何故だろうか。
「で、こっちがベーシストの山田リョウ。あたしの幼馴染なんだ」
「よろしく」
「喜多ちゃんはさっき自己紹介してくれたから大丈夫かな」
「はい!」
ひーちゃんは見事に進行する伊地知さんに尊敬の目を向けている。多人数を纏め上げるのはリーダーの才能があるのだろう。僕らにはない能力だ。
「んー、セッションしてから考えたらいっか。場合によっては他の楽器に転向してもらうか、喜多ちゃんにはボーカルに専念してもらったらいいし」
伊地知さんは実力を見る前から、せっかく集まったメンツに不採用通知を送る事はせず、五人で組む事を考えているようだった。
案内されてスタジオに移動する。バイトとはいえこんなに自由にして良いのか聞いてみると、このライブハウスの店長は伊地知さんのお姉さんらしくて結構自由に使っても許されているらしい。
「じゃあ早速全員でセッション!って、言いたい所だけどギターのアンプ2つなんだよね」
「どうする、追加借りて来ようか?」
「んー、実力が未知数な喜多ちゃんと私たちがセッションしてみて、その次に既に2ピースでやってたらしい二人に弾いてもらおうかな」
伊地知たちのその話を聞いて喜多さんが慌て始めている。ちなみにひーちゃんは慣れてない人が多くて、どんどん進んでいく会話についていけずに僕の背中に隠れて弱ってしまっていた。
「えっと、私はまずボーカルだけでお二人を入れた方が」
「まずは実力の確認だし、腕前次第でどうするか決めるよ?」
何故か喜多さんは出入口付近にいる僕らをチラリと確認してから、流れるような動きで土下座をした。
「すみませんギター弾けません」
「えっ」
話を聞くと喜多さんは山田さんに憧れていて、ギター・ボーカルの募集を聞いてつい勢いで参加してしまったらしい。ギターの練習をして本当に弾けるようになろうと考えていたら、そこには既にギタリストが二人もいて、今から練習しても間に合わないと考えてしまい、嘘を吐いたことを謝って土下座した、と泣きながら供述していた。
「ボーカルだけでもいいから、ねっ?だから泣き止んで!」
「うう…お父さんにお小遣いとお年玉前借して買ったのに…」
そう言ってギグケースを撫でる喜多さんを伊地知さんが慰めて、僕とひーちゃんは少し離れてその様子を見ていて、山田さんは鼻提灯を膨らませて寝てしまっている。自分のファンが目の前で泣いているけど寝ていていいのだろうか。
「あっえっと、ギター三人のバンドもあるし…ボーカル兼任ならコードだけでも…」
ひーちゃんもせっかくの自分の楽器を使いたくなる気持ちがわかるのか、慰めの言葉をかけている。途中チラリと僕を見たのは、僕が他の楽器も出来ると言いかけて、勝手に言ったら駄目だと思って飲み込んでくれたのだろう。ギター三人はバランスが悪そうだし、ひーちゃんのギターの音を殺しかねないので僕から言い出した方がいいのかな。
「一応他の楽器もある程度出来るので、キーボード辺りに転向しても問題ないですよ」
「えっすご。2ピースでやってきたんだよね、ひとりちゃんも色々出来るの?」
伊地知さんのその言葉にひーちゃんが青い顔をして首をブンブンと凄い勢いで振って否定しているけど、首を痛めるからやめなさいと彼女の頭に手を置いて止める。
「皆さん…私、頑張って追い付きます」
喜多さんはそう言ってギグケースからベースを取り出して、全員が停止してしまっていた。ギタボ募集を聞いてベースを持って来たのは無知なのかロックなのか。
「それ、ベース」
いつの間に起きたのか、山田さんのその言葉に喜多さんが固まってしまった。
「え…弦の数が6本あるのがギターなんじゃ…」
「あっ弦が6本のベースとかもあります」
「多弦ベースだね。多弦ギターなら弦が12本とかもあるよ」
「ギターの3カードじゃなく、ギターとベースの2ペアだったかー」
ひーちゃんと僕と伊地知さんの言葉にサラサラと崩れそうになった喜多さんの肩を山田さんはがしっと掴む。今までブレていたのにギャグ描写の時だけは、しっかりと見える僕の目はなんなのだろうか。ボーボボ世界とかの方が幸せに生きられた?
「逆に考えよう、ツインギターにツインベースのバンドはインパクトが強い」
「…先輩!」
「ベースがボーカルを兼任するのはギター以上に難しいけど、郁代ならきっとできる」
「先輩!?」
既にギターのコードやらを調べて難しさを知っているのか、それ以上の難易度と言われて喜多さんが絶望していた。
「まあしばらく喜多ちゃんにはボーカルに専念してもらって、その間にリョウに教えて貰ったらいいよ」
「リョウ先輩に…頑張ります!」
「人に教えるの苦手」
「話が纏まった所でギター三人問題も解決したし、全員でセッションするよ」
纏まりきってない気もするけど、痺れを切らしたのか伊地知さんがドラムスティックをタンタンと叩いて全員の注目を集める。
「とりあえず有名どころだけど難易度がそんなに高くないこの曲、三人はできる?」
「歌ったことあるので大丈夫です!」
「あっ大丈夫です」
「僕も問題ないです」
僕とひーちゃんと山田さんが楽器をアンプに繋いで、伊地知さんが備え付けのドラムセットに座り、喜多さんがマイクの前に立つ。
ひーちゃん以外との演奏が僕にどういう影響を与えるかはまだ未知数だ。彼女も僕の体質を知っているからか、自分の緊張よりも僕の方を心配そうに窺っている。
「始めは合わなくても仕方ないし、徐々に慣らしていったらいいから。それじゃいくよ」
伊地知さんがスティックを鳴らしてカウントを取り、演奏が始まった。
やはり僕の耳にはノイズが走り、他のリズムに合わせるのが難しくて、ズレた演奏をしてしまう。しかし、ノイズにまみれた音の中にハッキリと聴こえるギターの音が僕を引っ張り上げてくれて、彼女のメロディに合わせて僕の音も持ち直す。ひーちゃんに手を引かれるように進んでいくと、霧がかかっていたような脳が澄み渡っていくように感じられた。音楽ではいつも僕の手を引いてくれる彼女にますます惚れこんでしまう。
ひーちゃんに目配せをしてもう問題ない事を伝えて、しっかりと僕らの音楽を伝えようと見つめると彼女はしっかりと頷いてくれた。これまで僕に合わせるために、リズムギターに徹していたひーちゃんのギターと僕のギターの音が重なり合い、ドラムやベースのリズムに合わせながらもツインリードでガンガンとメロディをハモらせていく。その様子に他のメンバーが少し驚いた顔をしていて、彼女と一緒に音楽をしているこの瞬間は音にノイズが走らず視界もブレずに、バンドメンバーの顔がハッキリと見えた気がした。
演奏が終わって音が止んだ瞬間に、ひーちゃん以外の視界は元に戻ってしまった事に一抹の寂しさを覚えてしまう。やはりひーちゃんのギターは魔法だと思考するけど、その場合僕がシンデレラ…なんか嫌だな。喜多さんが凄いキラキラオーラを撒きながらメンバー全員を見る。やめてくれ、本当にメルヘンっぽくなりシンデレラになってしまう。
「凄かったです!」
「やっぱりメロディと歌があると全然違うね」
「あたしツインリードとかメタル以外じゃ初めて聴いたよ。後半のひとりちゃんと富士君の…って、どうしたの!?」
「疲れているだけなのですぐに復活するかと」
初めての大人数での演奏で精神が燃え尽きてしまったのか、真っ白になっているひーちゃんを僕は介抱していた。演奏が終わるまで僕の事を気にして頑張ってくれていたけど、終わった事で緊張の糸が切れてしまい、それまでのダメージが急に来たのだろう。
「それでバンドメンバーの審査はどうなったんですか?」
「あたしとしては全員入ってくれたら嬉しいんだけど」
「採用」
伊地知さんが少し言葉を濁していたら、山田さんが言葉を割り込ませてそう言った。
「現状男が僕だけなのでそこが不安要素ですか?僕はいいので彼女だけでも」
「いや、そこは気にしてないっていうか、そんな理由で仲が良さそうなカップルから引き抜くとか、鬼じゃないよ」
「あ、その場合私も断らせてもらいます」
僅かに復活したひーちゃんがそう言ってくれて、しっかりと断れる彼女の成長に嬉しく感じてしまい、よしよしと頭を撫でる。
「ハッキリと言った方がいいと思う」
「あー、二人とも現状でも完成度高くて2ピースでやっていけそうだし、うちのバンドに加入するメリットがないんじゃないかなって…」
ひーちゃんは伊地知さん達と合わせるのも楽しそうだったし、僕の事を考えて二の足を踏んでいたけど、ひーちゃんの音と一緒なら彼女達の音も問題なく合わせられた。
ひーちゃんもこれからも音楽で生きていくなら即席で組んだり。人と関わる事は避けられず、話しやすそうな人達と交流するのは悪くない。
僕が受けるのなら彼女が断る理由もないのだろう。ひーちゃんが休んで僕だけで合わせる事があれば大変そうだけど、それもいつか乗り越えなければならない壁だ。
「それなら問題ないです。これからよろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします」
「私もよろしくお願いします!」
2ピースから5ピースバンドになって、これから賑やかになりそうだった。
ひーちゃんは音楽の腕前は凄いけど、彼女たちと接して精神的な成長を助けてくれたら僕としても嬉しい。僕には支える事しかできないのだから。
「ちなみにバンド名は結束バンドだから」
「ちょ!?」
山田さんの言葉に伊地知さんが嫌そうな顔をしたけど何故だろうか。喜多さんは可愛いといい、ひーちゃんは気にして無さそうだし、何も問題ない気がする。
ご都合主義
ぼっちちゃんが本気を出すとオリ主の体質は一時的に治る。ヒーローがやってきたら混乱は収まるからね。これまでもオリ主の目が焼かれているのはぼっちちゃんが全力出している時ばかりだったりする。
ぼっちちゃんもずっとオリ主と合わせてきたし、ライブも経験しているのでオリ主と一緒なら実力が発揮できている。
始めに書いてた話だと喜多ちゃんが逃げ出してフェードアウトしてしまい、これ合流難しくね?と思って書き直してました。
あと5人いると会話が難しい。
誰か喋らなかったり、虹夏ちゃんがずっと進行してたり。