キン、と張り詰めた空気に白い息が散っていく。スマートフォンの液晶画面が06:32を示していた。
赤くなった指先に息を吹きかけると、ほんのり甘い香りがする。朝に塗ったハンドクリームだと気づいたのは手袋を再び着けてからだった。
遠くでバイクが駆け抜けていき、鳥がさえずる凍雲の朝、コツコツと通学路を辿っていく。
ぼやけた頭とスッキリとした空気。道端に霜柱が少しだけ見えていて、わざと踏み荒らしてみる。シャリシャリ、パキパキ、と独特の音がちょっと楽しい。ひとしきり荒らした後に、ローファーが汚れたことに気づき、口を尖らせた。
駅までの徒歩20分くらいの道、車が通らないせいで広く感じる二車線道路。渡る人も少ないのに、せかせかと仕事をする信号機。まばらに歩く人の姿。静かで灰色なこの時間が私は大好きだった。
白くてモコモコとした手袋をまた外して、スマホをなぞる。LINEの既読はまだついていなかった。ふぅ、と息を漏らしてみる。少しだけ待ってみようかな。
中華まんフェアのノボリを立てているコンビニに入ると、おでんの香りが鼻を擽る。ウロウロと何も買う気もないのに商品棚を精査すると、肉まん、おでん、HOTのお茶。etcがこちらを見ている。 思わず財布に手が伸びそうになる欲求を退けて、いつか来たる放課後に思いを馳せることにした。
店内をうろつくこと4,5分経って、聞き覚えのある音が聞こえ、ばっ、と勢いよくスマホを見る。抑えが効かず、にんまりと口が上がった。ごめん、今行く。だそうだ。とんだ重役出勤ですこと、と思いながらもスタンプで返す。
待ち人来たるまでおおよそ3分。んー、と口元に指を添え悩むこと2秒未満。よしっ、と心の声を発奮して自動ドアの先へと踏み出した。
ヒョウ、と風が吹いて首を竦める。思わず寒い寒いと声を出しながら待ち合わせ場所へ。
もう一度スマホが鳴る。トクントクン、と胸が高鳴る。スリープにした画面に自分を映して前髪を整えた。
あとどれくらいで来るだろうか、あとどのくらい一限まで時間があるだろうか。一言目に掛ける言葉を探しながら、大きく真っ白い息を吐いてみる。
信号の点滅が繰り返すこと2回。自転車のチェーンが回転する音が聞こえてくる。もう少し油でも刺したらどうか、という甲高い音が目の前で鳴って、二人、目が合う。
「おはよう! 今日も寒いねっ!」
灰色だった世界に、柔らかな暖色が滲むように広がって、張り詰めた空気が寝起きの伸びをするように緩まった。そんな気がした。