風邪になった鹿目まどかが悪魔ほむらに看病されるだけ(完結)   作:曇天紫苑

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ほむらちゃん(まどか)が、わたしのことを……そんなの、ダメだよ(いけないわ)

 屋上へ入ってみると、気持ちの良い風が頬を撫でた。気分が良くなって、少し緊張が和らいでくれる。

 いつも話している筈の相手なのに、身体が強ばって、仕方が無い。でも、勇気を持って話しかけないと。そう決心して、一歩前へ進む。

 

「あ、あの、ほむらちゃん。来たよ」

「来てくれたのね、まどか」

 

 くるりと回って、ほむらちゃんは笑みに彩られた表情を見せてくれる。

 何時もわたしに向けてくれる仄かな微笑み。では無くて、作り笑いみたいに不敵な笑顔、と言う感じの表情を浮かべていた。

 凄く怖い笑い方だった。一番最初に会った時の、あの何だか嫌な感じとか、嫌悪感を煽る様な、わざとらしい雰囲気を漂わせた顔付きで、わたしを迎え入れてくれる。

 どうしたんだろう。何か、怒らせる様な事をしちゃったのかな。不安になってきた。

 

「佐倉杏子と美樹さやかは帰った様だけれど」

「き、気づいてたんだ」

 

 もしかしたら、さやかちゃん達を連れてきたのを怒っているのかも。そう思っていたけど、違ったみたいだ。

 

「ええ……ごめんなさい。急にわたしに呼び出されて、怖かったのね」

 

 ほむらちゃんは一気に落ち込んだ顔になって、あの怖い笑みを解いた。あの表情を見ていると何だか落ち着かなかったから、安心する。

 でも、そうやって落ち込ませていると、何だかわたしの方が悪い事をしている気がしてくる。ほむらちゃんは気にしているみたいだから、説明の為に、わたしは持っていた封筒と手紙を取り出した。

 

「違うの。封筒にも手紙にも名前が無くて、誰かな、て、ちょっと怖かったから、ほら……」

「……これ」

 

 手渡した封筒と手紙を見て、ほむらちゃんは目を丸くした。気づいていなかったんだ。名前を書き忘れるなんて、この人らしくない。

 

「……ああ、ごめんなさい、よく考えたら名前を書いていなかったわ。張り切りすぎてすっかり忘れていたの」

「そ、そうなんだ」

「不安にさせてしまったわね」

「う、ううん。良いの。ほむらちゃんが送ってきてくれたって分かったんだから、それで」

 

 ほむらちゃんが俯きがちになったのを見て、わたしは元気付ける為に声をかけていた。

 わたし達の側で小さな鳥が飛んでいる。一応は屋外で、高い所だからか、この場所に居ると町中の全てが見える様な錯覚が有る。

 

「でもビックリしちゃったよ。今日はほむらちゃん学校には来てないと思ってたから」

「いえ、学校には来ていたわ。ただ、教室には一度も行かなかったけど」

「へぇー……」

 

 それを聞いて、わたしは少し戸惑った。ほむらちゃんにしては、本当に珍しい。結構真面目な人だから、授業をサボったりはしないのに。

 よっぽどの事情が有ったんだ。そう察した所で、わたしは、少しひらめいた。

 

「まさか……朝からずっと、ここに居たの?」

「……まあ、その通りよ」

 

 ほむらちゃんが頷いた事で、わたしは自分の直感が本当だった事を理解する。

 教室に来ないのも納得だ。だって、ここに居たんだから。それにしても、あのほむらちゃんがこんな場所で、何をしていたんだろう。

 

「折角放課後にって書いたのに、いざとなると恥ずかしくなってきて、お陰で一日中此処で深呼吸の繰り返しだったわ」

「そんなに、恥ずかしかったの?」

「ええ。本当は口頭で、普通に言うつもりだったんだけど、いざそうするとなると、少し気後れがして。手紙で呼び出して、誰も居ない屋上で話す事にしたの。勇気が無いって思ってくれて良いわよ」

「思わないよ。だって凄く大切な事なんだよね? だったら、わたしも悩んじゃったり、どうしようって気持ちは分かるよ」

「ありがとう。そう言ってくれるだけで、心が軽くなるわ」

 

 ほむらちゃんの笑みに華やかさが籠もる。

 そんな、滅多に見れない表情にありがたみを感じつつ、わたしは背筋の裏辺りに嫌な汗が流れたのを感じていた。

 勘違いだと思ったけど、ほむらちゃんの言葉を聞いていると、段々、自分が予想していたのが間違いじゃ無かった気がしてくる。

 もし、本当にそうだったとしたら。ううん、きっとそうだ。いつもクールなほむらちゃんがこんなにも動揺して、言葉に迷っている感じを漂わせるなんて、絶対に普通じゃない。

 やっぱり、あれはラブレターだったんだ。ほむらちゃんは一生懸命、わたしに気持ちを伝えようとしてくれているんだ。きっと。

 

「あ、あの。ほむらちゃん」

「手間をかけさせてしまったわね、謝らせて貰うわ」

「あ、頭を上げて。気にしてないから……」

 

 深々と頭を下げているほむらちゃんに声をかけ、顔を上げて貰う。

 目が合った。それだけで、思わず目を逸らしてしまう。今のほむらちゃんと視線を合わせ続けるのは、とてもじゃないけど恥ずかし過ぎて、出来なかった。

 

「まどか?」

「あ、ああっ! なんでもないよ、あはは」

 

 怪訝そうなほむらちゃん。わたしは、極力顔を合わせない様にするので、精一杯だった。

 これなら、まだ知らない男の子とかが居てくれた方が良かったかも、なんて思う。だって相手はほむらちゃんなんだ。どんな事を言うにしても、出来るだけ仲良くしていられる様にしたいと思ってしまうから。

 

「そう……じゃあ、本題に入りたいんだけど……」

「い、いいよいいよ! どうぞ? 何でも言ってね! でも、でも、や、やさしくお願いね」

 

 自分が何を言っているのかがよく分からない。

 ほむらちゃんもそんなわたしを不思議そうに眺めてから、意を決した様に両手で握り拳を作って、一歩わたしの方へ近づいた。

 

「じゃあ、その……」

「う、うんっ。なに、かな……?」

 

 聞き返してみると、ほむらちゃんは唇を噛んで、目の前で胸に手を当てて、小さく息を整えた。

 まるで覚悟を決めるみたいに。

 ああ、空で黒い鳥が飛んでいて、ほむらちゃんの後ろを通り過ぎる。そこから落ちた羽が、まるでこの人の背中から生えている様に見えた。

 神秘的で不思議で、でも、ほむらちゃんにはそんな雰囲気がとても似合っていた。

 わたしと、ほむらちゃんの間の距離は、もう一歩分も無い。何かとっても重要な事を言おうとしているからか、彼女の頬は赤く、指は不自然に揺れて、身体はすっかり硬直していた。

 わたしまで、言葉が出なくなる。恥ずかしいのと戸惑うのとで、どうして良いのかも分からない。

 そして、ほむらちゃんは意を決した風に口を開いた。

 

「まどか、突然だけど……今度、貴女の家にお泊まりしても良いかしら」

 

 きゅ、急にお泊まり!?

 わたしは、思わず息が詰まりそうになった。色々と段階を踏むどころか、一気に上り詰めるなんて。

 普通、まずはデートとか、そういう所から始めるんじゃないかな。そんな事を考えながら、ほむらちゃんの顔を眺めてみた。

 凄く赤い。間違いなく、そういう意味で言ったんだ。

 

「え、あ、あの。えっとね、ほむらちゃん」

「急、だったかしら。そうね、戸惑うのも仕方の無い事よ。でも、お願いしたいの。駄目かしら」

 

 ほむらちゃんはわたしを困らせたくないのか、とても遠慮がちな顔で尋ねてくる。

 そこには悲しそうな色が見え隠れしていて、わたしは思わず首を振っていた。

 

「そんな事無いよ! ほむらちゃんに想って貰えるのは嬉しい、けど……」

「ご家族の事なら心配しないで、詢子さんには許可を取ってあるわ」

 

 か、家族への説明まで済んでるの!?

 驚きすぎて、むせるかと思った。知らない間にママがわたしとの交際を承諾していたなんて。全然知らなかったし、ほむらちゃんが必死で説得したと思うと、余計に断るのが難しくなった。

 

「あの。お泊まりは、それは……構わないけど……」

「なら、いつにしましょうか」

「そ、そうだね。今週の土曜日とか、空いてるよ」

 

 焦っているのか、変に押しの強いほむらちゃんの言葉に返事をする。

 まだ、はっきりと言われた訳じゃないから、お泊まりするのは構わなかった。けど、一緒のお布団で寝る事を想像するだけで、顔から火が出そうな気分になった。

 

「今週の土曜日ね。分かった、その日に行くって、詢子さんにも連絡を入れておくわ」

「わ、分かったよ」

 

 あっと言う間に予定が決まってしまった。

 そこでやっと肩の力が抜けたのか、ほむらちゃんは明らかに安心した素振りを見せる。

 

「それにしても、まどかが受けてくれて助かったわ、ありがとう」

「でも、お泊まりくらいなら、いつだって言ってくれれば……」

「ふふ、こういう事を誰かに言うのは生まれて初めてなの。だから少し、緊張して」

「は、はじめて、なんだ」

「ええ……言われるのは、何度か有ったんだけれど……」

「だよね。ほむらちゃん綺麗だし、魅力的だもん……」

「?」

「ううん、何でもないの」

 

 安心してくれたからか、ほむらちゃんの声はかなり穏やかになっていった。

 すっかり、わたしが受け入れた風になっちゃってる。お泊まりは良いけど、まだほむらちゃんの口から、決定的な言葉は聞いてない。

 でも、そんな安心した姿を見ていると、ほむらちゃんの中ではもう告白を済ませた様になってしまってるのかもしれない、と感じた。

 思わず、顔に熱が籠もるのが分かる。ほむらちゃんの熱意に心が浮き上がっているんだ。顔を冷ましたくなっていると、屋上に吹く風が心地よく流れてくれた。

 

「それにしてもビックリしちゃった。ほむらちゃん、凄い顔してたんだもん」

「まどかが言う程、凄い顔をしていたの?」

「うん。こう、いつものほむらちゃんとは違って、その、あれだよ、最初に会った時みたいな感じの顔だった」

「……そう。素面じゃ恥ずかしくて、何を言えば良いのかも分からなかったから……気持ちをね、強く持とうとしてたのよ」

「じゃあ、もしかして初対面の時もそうだったの?」

「……さあ、どうだったかしらね」

 

 答えたくないのか、ほむらちゃんははぐらかして見せた。けど、ほんの少しだけ、目が変な所を見ている様な気がする。

 本当に、出会った時は焦っていたんだ。あの不気味さの正体が見えて、わたしは何だか安心した。

 そういう、ほむらちゃんの隠された部分が見えると、仲良くなれて本当に嬉しくなった。でも、それと同じくらい、この子の想いが強烈な重さを持ってわたしの背中に乗っている。

 こんな調子でお泊まりなんてしたら、きっと頭が爆発しちゃう。嬉しいのと、女の子同士なのに、という戸惑いと、それに何より、どう答えるのが一番なんだろう、という困惑が、頭の中を何度も回っていた。

 

「まどか?」

「へ? あっ……うん、お泊まりだね。お泊まり」

「気兼ねする必要は無いのよ。予定が合わないなら、今度でも……わたしは、百年だって待てるから」

「ひゃ、百年は言い過ぎだよぉ」

「じゃあ五十年でお願いするわ」

 

 今一ピントの合ってない返事をされて、なんだかおかしくなった。

 こういう天然さんな所が、実はほむらちゃんらしさの証だったりする。滅多に見れないそういう所を認識できた事は嬉しい。まあ、それとこれとはまた別の話だけど。

 

「そ、それで。あのさ、ほむらちゃん」

「何かしら。返事は後でも良いのよ」

「そう、じゃなくて……その、えっと。ごめん、何でもないの」

 

 何を言おうとしたのかを忘れてしまって、しどろもどろに頭を迷わせる。

 こういう時に気の利いた事が言えない自分が悲しい。

 ほむらちゃんはわたしの中の迷いを即座に見破ったみたいで、優しげな笑みを浮かべて、わたしへ向かって腕を広げる。

 

「相談ならいつでも聞くわよ。どんな難しい事や、他の人には絶対に言えない事でも大丈夫。だって」

 

 そこで、言葉を切った。

 そして、ほむらちゃんは今までで一番素敵で、綺麗で、輝かしくて、魅力的で、愛らしくて、美しくて、かわいくて、艶やかで、密やかで、圧倒的で、究極で、最高で、最大の、温かくも熱い気持ちを現した。

 

「だって、わたしは世界で一番、まどかが大切なんだもの」

「にゃ!?」

「? どうしたの、変な声が出たわよ」

 

 怪訝そうなほむらちゃんとは、決して目を合わせない様に努力する。

 今までの人生で、一番に凄い愛情の表現だった。

 その顔の一つ一つが、言葉の中の欠片全てが、五感を通して伝わる何もかもが、ほむらちゃんという女の子の気持ちを伝播させる。ただ一緒の空間に居るだけで、恥ずかしくなってしまうくらいだった。

 

「あ、あのね。じゃあ、じゃあ、だよ。お泊まりの前にさ、どこかに遊びに行こうよ」

 

 思わず、わたしはそんな事を言っていた。

 何を言ってるんだろう。自分で口にしておいて何だけど、自分自身でも何を口走ったのかが分からない。

 それでも、ほむらちゃんはわたしの言葉の意味を受け止めようと必死になってくれたらしく、少し難しい顔をして、結局分からなかったんだろう、小首を傾げた。

 

+---

 

 まどかの様子がおかしい。それには最初から気づいていた。

 赤く、あるいは青くなったり、冷や汗を浮かべたり、目を泳がせる事も有る。そんな顔の変化とは別に、全身の揺れ方や喋り方の抑揚が普段より大きく有って、それでいて感情表現は控えめに、何かを押さえ込む雰囲気すら漂わせている。

 空気越しに伝わる感触を信じるなら、脈もかなり早い。何かしら、いや、相当に焦っているのだろう。その正体を探ろうと先程から揺さぶりをかけているのだが、まどかは話してくれなかった。

 そんな中で告げられた急な提案を受けて、私は少し驚いていた。まどかと遊びに行くのは、甘美で素晴らしい事だったけど。

 

「……遊びに?」

「う、うん! 遊びに!」

 

 まどかの顔が真っ赤だ。焦っているのか、それとも照れているのだろうか。

 両方、という線も捨て難い。まどかが何かの理由でわたしに対して照れや焦りを抱いているのなら、その正体は何だろうか。

 

「どこへ遊びに行くの?」

「それは、これから一緒に決めようよ。駄目かな」

「いいえ、決して駄目とは言わないわ。ただ、少し急な提案だったから。驚いたのを隠す気は無いけれど」

 

 いずれにせよ、まどかのお誘いなら大歓迎だ。

 

「そ、それじゃあ決まりだね! 」

 

 まどかは両手の平を合わせて、にっこり笑う。が、少しの無理を感じる。

 まどかから誘ってくれた。そんな彼女の積極性に感謝しつつも、わたしはやはり脳裏で思考を高速に回転させている。

 どうして照れるのだろう。焦るのだろう。照れを抱かせる様な事をした記憶は無い。焦らせる様な言動は……最近は、慎んでいる。

 なら、この可愛くて優しくて世界で唯一尊い女の子は、何でこんな反応をするのか。

 

「まどかが行きたいなら勿論私は構わないわ。でも、一体どうして急に言い出したのかしら?」

「あ、えっと。それはね」

 

 何かしらの説明をしようと、口を開いている。だが、その中に含まれる迷いの感情を、私は見逃さなかった。

 まさか、とは思いつつ、私の目が自然にまどかと合う。また、素早く逸らされてしまった。

 心の奥底に少しばかり傷が入った事を感じつつ、私は真剣な気持ちで対応する。

 

「……もし、誰かに強要されているのなら、そう言いなさい」

「ち、違うよ。そんな事無いよ」

「まどか。貴女が私に迷惑をかけまいとしているのなら……」

「だ、だから違うんだって!」

 

 割に強い口調で物を言った事に気づいたのか、まどかは「ご、ごめん」と謝ってくる。

 でも、今のは私が悪いのだ。心配が先んじて、まどかを思わず急かしてしまった。

 

「そう、違うのね。何かの罰ゲームを疑っていたわ。私を遊びに誘えと強要されているんだとばかり……」

「……ほむらちゃんとだったら、強制じゃなくても遊びに行くって」

「ありがとう、まどかにそんな風な事を言われるなんて、私は世界一の幸せ者ね」

 

 まどかの顔が真っ赤になった。

 

「い、い、言い過ぎ、じゃないかな」

「あら、世界一素晴らしい人と関係を持てるのは、世界一幸せな事ではないのかしら」

 

 こういう事を言って、好意を全開に見せていれば、まどかも物が言いやすくなるだろう。

 そんな醜い打算は有ったが、言葉自体はお世辞でも何でもない。偽りなど何一つ無く、まどかは世界一素晴らしく、世界一幸せになるべき女の子だ。それは、この私が誰よりも保証する。

 その真剣さはまどかにどういう気持ちを抱かせたのか、彼女は、その美しい音色の様な声で鳴いている。

 

「あ、あの。あのね! ほむらちゃんを誘った理由だけど……つまり、だよ」

 

 迷いを秘めた顔をして、まどかは口を開いては噤んだ。両手の人差し指を無意識からか何度も突き合わせ、首を左右へゆらゆらと。そして私とは顔を合わせてくれない。

 やがて、まどかは自分が口にするべき事を考え出したのか、一気に顔を上げた。その勢いがあまりに凄かったので、私は驚いて、それを顔に出さない為に総力を尽くした。

 

「ほ、ほら。そ、そういうのってさ、まずお互いをよく知り合ってから、って言うし、やっぱり、まずはデートしてからにしよ? って……」

「デー……ト?」

 

 引っかかる言葉だ。そう思っていると、まどかは慌てて首を振った。

 

「あ、ああ! そうじゃなかった、遊びに行くんだよ、うん!」

「まどか、貴女……」

「い、いや。そんなんじゃないよ! じゃ、じゃない。そうなんだけど、そうじゃないの!」

 

 まどかは、やけに必死で訂正している。

 些細な言葉の間違い。普段ならそう取って、あっさりと流す所だ。

 だが、今の私にはその顔色や話し方が、とても気になった。この場に来た時から様子が変で、ただ喋っているだけでも普段との違いを感じさせる。今だってそうだ、単純な間違いなのに、まどかは異様な程に気にしている。

 こんなまどか、今までで初めてだ。最初に出会った時から今まで、見た事が無い。

 

「つまり、デートという事ね」

「ち、ちがうよぉ、そうじゃないの。いや、そうじゃないわけじゃないよ。ほむらちゃんの事はその……だけど、だけどほら……その、わたしは、ね?」

 

 照れとか、羞恥心とか、好意とか、そういった物が深く感じられる顔が、私に向けられる。

 決して目は合わせて貰えないけれど、この割に人の気持ちに疎い私でさえ、まどかの今の気持ちは推し量る事が出来た。

 

 ……まさか、まどか。私の事を……

 

 まさか、まさか。いや、それでも。強い動揺に、私は足下がおぼつかなくなるのを感じた。

 

 まどかは、私に恋をしているのではないだろうか。

 

 普段なら鼻で笑う様な事が、恐ろしい重さで襲いかかってきた。

 あの程度の、軽く看病し合った仲だというのに、まどかの気持ちはもうそんな段階にまで至ってしまったのだろうか。

 しかし、恋に落ちるのに時間は要らないと何処かのドラマで聞いた気がする。まどかだって、私の看病をしていく中で何かしらの感情を覚えたのかもしれない。

 驚愕の余り、私の肉体は完全に凍結した。反応を見せない私の態度に、まどかは何を見たのだろう。ただ、覗き込む様に、真っ赤になりながら言葉を紡いでくれる。

 

「わっ……わたしね、ほむらちゃんが好きだよ。でも、もっとほら、お互いを知っていかないと、またそういうのは早いだろうし、ほむらちゃんも、わたしが分かった風な態度を取ってるんじゃダメだろうし、あの、駄目かな?」

 

 まどかの声は、小鳥のさえずりよりも甘い音色だった。

 だが、今はそれに聞き入っている余裕なんか無い。

 だって、確定してしまったのだ。

 この発言に、焦燥と照れの混じった表情。間違い無く、まどかは私に恋をしている。

 

「なんてこと」

「ぇ?」

「いえ……」

 

 恐ろしい程に残酷な、真実だった。魔法少女に纏わる呪われた運命なんか、これに比べれば小さい物だ。

 だって、私は、まどかの気持ちに答えてあげられない。私はまどかを愛しているけど、それは決して恋愛感情なんかじゃない。だから、どんなにまどかが私を好きになったとしても、それは虚しいだけの片思いだ。

 

 でも嬉しい。まどかに好きだって思って貰えるのは、世界で二番目の……つまり、まどかが存在するという単純にして最も重大な真実の次に、幸せな事だった。

 

 だからといって、まどかの気持ちに答えたら。

 来るかもしれない未来、もしこの子と私が戦う様な事になったら、そうなれば、この子はきっと酷く傷つくだろう。恋人を殺さなきゃいけないなんて、酷すぎる。

 私はこの子と戦う事になっても良い。でも、この子がそれで酷く傷つく様な事には、絶対になって欲しく無かった。

 

「ほむらちゃん?」

「……」

 

 だけれど、この子を失恋させて良いのだろうか。

 今、この子は私を見てくれている。気遣わしげな視線がとてつもなく、優しい。

 

 この子を失恋させて、傷つける。他なら無い、私が。

 

 嫌だ。絶対に嫌だ。その方が良いなんて思えない。

 でも、失恋させてでも私から遠ざけた方が。しかし、近くに居た方が何かと対応が楽になるし、恋人関係なら自然に様子を探れる。でも傷つけたくない。自分の気持ちに嘘を吐いてまどかに対する想いを誤魔化せば出来なくもない。

 ああ、どうしよう。

 

「やっぱり、遠回しなの、かな。ほむらちゃんはお泊まりがしたいんだもんね……」

「そんな事、無いわ……」

 

 桃色の瞳が、私を捉えて離さない。薄い桃色の宝石を散りばめ幾重にも乗せて、その内側から仄かな光を照らしているかの様な、言葉に出来ないくらいに優美な目が、私を捕まえている。

 決めなければならない。

 私は今までの人生で五本の指に入る程の思考速度で、これまでの生涯の中で三本指に数えられるくらい悩み、恐らくはこれからも無いであろう程に、素早く決断した。

 

「わ、分かったわ。一緒に遊びに行きましょう」

「そ、それがいいよ!」

 

 まどかの焦りと喜びの混じった顔を見て、自分が決めた事の重大さを認識する。

 

 私には、断れなかった。

 

 まどかを傷つけたくない、という気持ちと、まどかの監視が簡単になる、という打算が同時に頭で渦を巻き、私の口から返事を吐き出させていた。

 この子の好意を利用するなんて、私は人間以下になってしまった気がする。

 でも、良いのだ。私は今や悪魔であり、まどかの愛情を弄ぶ様な、最低の存在なのだから。




 初めてのお誘いでかなり焦っているので、暁美さんの言動は本音ダダ漏れです。原作ならもう少し隠し通せる気がしますが。
 ともあれ今の彼女は最終目標が「まどかの幸福な世界」なので、傷つけない為に結構言葉を選んで、出来るだけ好意的に接しています。

 でも、こういう感じで好意を積極的に表現する彼女の姿には私自身違和感を覚えているので、多分、次以降は原作通りの突き放す様な態度になる……かな? ここから先はデート編なので、ちょっと難しいかもしれません。接触が多くなるので、特に。

 後、本作はきのこなべ避難所先生からの影響が比較的強いです。この、『勘違いデート』も、あの方の作品『友達デート』からインスピレーションを受けて作りました。
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