風邪になった鹿目まどかが悪魔ほむらに看病されるだけ(完結)   作:曇天紫苑

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ああもう、なんでこんなにカワイイかなぁ!!

「ふぁ……」

 

 朝だ。

 珍しく、タツヤとまどかに叩き起こされずに済んだ。寝起きの悪い私には、あのきつめのモーニングコールがよく効くんだ。

 身体を軽く回してみると、いつもより良い感じの朝の気分が心と体を軽くしているのが分かる。

 ほむらちゃんとまどかから若い心を注ぎ込まれた気分だ。朝日が気持ちいい。

 

「はあぅ、おはよーママ……」

 

 目を擦りながら、まどかが身体を起こした。どうやら、まどかと私は同時に目を覚ましたらしい。

 まどかの髪は思い切り寝癖がついていて、かなり眠そうな目をしている。こういう寝起きの悪さは私譲りで、娘に自分の要素が受け継がれている気がして、少し嬉しかった。

 

「ん……よく眠れたぁ、ママも起きたんだね」

「ああ、お陰で最高の朝だよ。気分良いね」

 

 二人で一緒に腕を空へ伸ばすと、腕の伸び具合が気持ち良くなった。まどかと私はすっかり心と身体をぽかぽかにして、気分の良い目覚めを楽しんだ。

 ほむらちゃんもこの気分を共有してくれるだろうか。一緒に持っておきたくて、私達はベッドの真ん中に手を置いた。

 

「おはよー、ほむらちゃん……あれ?」

「ああ、ほむらちゃんも起きたか……うん?」

 

 ベッドの真ん中、私とまどかの間には誰も居ない。

 ほむらちゃんが居る筈なのに。起きた時の私とまどかは、殆ど真横で寝ていたんだ。だから、間に誰かが居る事は無い。

 

「ほむらちゃんは?」

「先に起きたのかな」

 

 まどかは何の危機感も無く答えた。

 けど、私は背筋が寒くなり、寝起きの身体に冷や汗が浮かんだ事を感じた。

 

 まさか、という嫌な予感がする。

 

 私達と触れ合った事で、ほむらちゃんに何か悲壮で後戻りの出来ない決意をさせてしまったんじゃないか、という懸念だ。

 何とか楽しんで貰おう、まどかと仲良くして貰おうとしたけど、それが逆に、ほむらちゃんに最後の一線を越える覚悟を決めさせたんじゃないか。そう考えると、気が気でない。

 とりあえず、私がほむらちゃんを覚えているから、まだ何か致命的な事が起きたとは思えないが、急がなければ間に合わない。

 

「まどか、ちょっと先起きる」

「えっ」

「先に洗面所に行っててくれ」

 

 まどかは困惑している様子だった。私は出来るだけ心配させない様に、走りたい気持ちを抑え込んで歩く。

 それでも、私は自然と足早になっていた。これでリビングにほむらちゃんが居れば問題は無い。

 

「おはよ、知久」

「ああ、おはよう」

 

 家庭菜園を触っていた知久がこっちを向いて、軽く手を挙げる。そこへ向かって返事をしながらも、私の目はほむらちゃんを探す。

 やっぱり、どこにも居ない。焦りと緊張が少しずつ広がっていく感触の中、知久に向かって尋ねかける。

 

「知久、ほむらちゃんは何処行った?」

「暁美さんなら、まどかの部屋で寝てるよ」

 

 あっさりとした返答に、一瞬だけ思考が止まった。

 少し経って、思考が戻ってくる。その時には、パジャマを着たまどかが私の横へ並んできていた。

 

「……え? 何でまた?」

「ほむらちゃん、わたしのお部屋に行っちゃったの?」

 

 まどかは横から話を聞いていたのか、小首を傾げて疑問を浮かべている。勿論、私にとっても疑問だ。

 知久はほむらちゃんが何処に行ったのかを知っていた様だ。それにしてもまどかの部屋で寝ているなんて、意外な事だ。あの子がまどかから離れるなんて、余程の理由が有ったのか。

 どんな事情が有ったのか、知久は知っているだろうか。知久の目が微妙に泳いで、気まずい空気を漂わせる。

 

「その……ほら、二人の寝相は凄いから、どうしても眠れなかったらしくて……水を飲もうと思った時に偶然鉢合わせしてね、それなら、と思って僕が勧めたんだ。まあ、気持ちは分かるから」

 一度そこまで言ってから、知久は首を振った。

「ああ、暁美さんがはっきり言った訳じゃないけどね。ただ、眠れないっていう事は、そうじゃないかと思って」

 

 知久の目に、何というか、言葉にし辛い微妙な感情が宿っていた。

 その瞳の奥に含まれた感情が、懐かしい記憶を想起させる。

 今はタツヤの世話が有るから別々だけど、知久とは夫婦として長い事一緒に寝ていた。

 だけど、私は今も昔も寝相は良くない方だ。寝相で締め上げてしまった時には、あの温厚な知久が怒るに怒れない、という微妙な顔をしていた事を覚えてる。

 

「……」

 

 やっちゃった、という顔をしたかと思うと、まどかが無言で顔を覆った。

 まどかも、私に似て結構な寝相だ。二人の寝相の悪い女に挟まれたほむらちゃんは、一体どれくらい身体を痛めつけられたんだろうか。

 

「そ、そうだった。ママって、結構凄い寝相なんだっけ」

「おい、おいおいおい、待て。自分を棚に上げるなよ。まどかだって寝起きは凄いし、ぬいぐるみを抱き締めすぎて形を崩した事だって有ったと思うぞ?」

「ママだって、ベッドから転がり落ちた事、有ったよね。わたしだって寝てる間に蹴られた事有るし」

「まどかだって寝相で私に肘打ちしたよな、結構前の話だけど」

 

 私達はお互いの罪を擦り付け合った。いや、本心では二人とも悪いのは分かってるんだけど、何となく認めたくない。

 そんな私達を呆れ顔で見届けると、知久は籠に今日の野菜を幾つか入れて立ち上がり、家の中へ戻る。

 微妙な顔をする私達の隣を通り過ぎ、思い出した様に振り向いて口を開いた。

 

「ああ、その。後でほむらちゃんに謝っておいた方が良いんじゃないかな。相当疲れた顔になってたよ、彼女」

「勿論だ、分かってる」

「うん、ちゃんと謝らないと、だよね……」

 

 知久に怒られた気分になって、私とまどかはしゅんとして沈んだ気持ちになった。

 眠っていたから全く記憶には無いけど、ほむらちゃんを締め上げてしまったのか。きっとほむらちゃんは笑って許してくれるけど、それがまた微妙に心へ来る。

 まどかと私は、揃って相手の目を見た。まどかの目にどうしよう、という意志が宿っている。私も分からない、と視線で返した。

 

 その時、まどかの部屋がある方向から、扉が開いた様な音が聞こえてくる。

 のんびりとした足取りで姿を見せたのは、やっぱりほむらちゃんだった。

 清楚なパジャマに身を包み、ほんのちょっとだけ眠たそうに目を擦っている。ゆっくり眠れたのか、身体は軽そうだ。

 

「おはようございます。まどかのお父様、二人はまだ寝て……」

 

 ほむらちゃんは私とまどかの顔を見て、石になっちまった様に固まった。

 

「おはよう、暁美さん。二人はもう起きてるよ」

「…………は、はい」

 

 かなり遅れて、知久に返事をするほむらちゃん。

 リビングへ歩きながら入ってきたけど、口は閉じたまま、私達の顔を見つめている。

 

「……」

 

 たっぷり十数秒くらいの沈黙。私には、ほむらちゃんが顔を強ばらせているのが見えた。

 私とまどかが何も言えずに固唾を飲んでほむらちゃんの言葉を待っていると、やっとあの子は息を大きく吐いて、口元に微笑みを作った。

 

「……おはよう、まどか」

「ご、ごめんねほむらちゃーん!」

 

 止まっていた空気が動き出して、まどかがほむらちゃんへ飛びついた。

 軽々と受け止めたほむらちゃんは、冷静な顔を維持したまま、首を傾げる。

 

「何の事かしら。私はただ、少し早く起きたからまどかの部屋に居ただけで」

「っていう設定で隠し通そうとしたら、私達が起きてたんで慌てた、って感じか?」

「……」

 

 ほむらちゃんは黙り込み、ほんの少しだけ私を睨む様に見つめた。

 大方、私が言った内容で合ってるだろう。ほむらちゃんが私達を気遣ったのは明らかだった。

 自分に抱きつくまどかの背中を軽く撫でている所が、また気遣いだ。

 

「ほんとにごめんね! 痛くなかった?」

「平気よ」

「本当か?」

「本当です。これに関しては嘘じゃありませんから」

 

 ただ、ほむらちゃんの目元の隈は普段より酷かった。

 多分、そんな最低の環境でも、ほむらちゃんは頑張って眠ろうとしてくれたんだろう。悪ぶってるけど根が純朴で真面目な子だ。それでも上手く行かなかったから、仕方無く『一度別な場所で寝て、私達が起きるより早く何事も無かったかの様にベッドへ戻る』という作戦に切り替えたに違いない。

 その計画も、私達が想定より早く起きてしまったから、台無しになった様だ。

 

「でも寝心地悪かったよね、わたし全然考えてなかった……」

「悪いね。私も自分とまどかの寝相の事を忘れてたんだ」

「いえ……お二人の寝息を聞きながら眠るのは、とても良い気分でした」

 

 ほむらちゃんは淡く微笑んでるが、裏を返せば、それくらい良い気分であっても、逃げ出さざるを得ないくらい酷い寝相に挟まれた、という事だ。

 何だか凄く申し訳無い。泊まりに来いと誘ったのは私なのに、それで寝不足にさせちゃ後味が悪い。

 

「うし、じゃあほむらちゃん。何かお詫びをするよ」

「いえ、大丈夫です」

「そ、そうか」

 

 一蹴されてしまって、私は次の言葉に迷う。

 でも、そういう反応をされる事は分かっていた。

 ほむらちゃんはそれまでの会話を無かった事にしたらしく、静かにまどかの肩を叩く。

 

「それよりも、まどか。早く歯を磨かないといけないわ。それに顔も洗わないと」

「あ、うん」

「詢子さんも、行きましょう」

「お、おう」

 

 有無を言わさない形でほむらちゃんが私達を引っ張っていく。

 寝起きの薄ぼんやりとした表情は既に無くて、普段通りの凛々しい美少女へ戻っていた。ただ、少しだけ髪は乱れているが。

 

「まどか、目を擦っちゃダメよ。目に悪いわ」

「だって……」

「ダメ、どうしてもと言うなら、清潔な布で拭くから」

 

 どっちが保護者なのか分からないな。そう考えながらも、私は大人しくほむらちゃんの後ろを歩く。横を歩くまどかとの会話の邪魔にならない様に。その程度の気配りは、出来た。

 

+----

 

 髪の乱れを直して服を着替えてから、わたしとほむらちゃんはリビングの椅子へ座っている。昨日と同じで、隣合った席だ。

 いつもの朝ご飯が、ほむらちゃんと一緒だと楽しく輝いている気がする。対面に居るママも、何だか嬉しそうだった。でも、寝相で締め上げちゃったのを気にしているのか、ちょっとだけ落ち込んでるみたいだ。

 

「ほむらちゃんは、朝はパン派?」

「いえ……あまり食べていなくて」

「ダメだよー、食べないと」

「そう、ね。少しずつ食べていくわ」

 

 食パンを前にしたほむらちゃんが、丁寧な手つきでバターを塗っていく。バター派なのかな。

 寝起きのコーヒーとセットにすると、ほむらちゃんが大人びて見える。そこで、髪に残った寝癖が女の子らしさを演出していて、ギャップの可愛らしさを感じる。

 

「まどか?」

「えっ」

「食べないの? 美味しいわよ」

「あ、食べるよ。うん」

 

 ほむらちゃんを見ていた、とは言い辛くて、とっさにパンを口にした。今日はブルーベリージャムだった。冴えた甘みが寝起きの頭を起こしてくれる。

 

「ふふ」

 

 わたしが食べている所を確認すると、ほむらちゃんは両手でパンの端を持ち、ハムスターがご飯を食べる時みたいに両手で丁寧に口へ運んだ。

 はむはむと食べている所はまるで小さな動物さんみたい。

 

「美味しいです。このバターはどこで?」

「近くのパン屋さんで売ってたんだ。この間見つけたんだよ」

「そうですか……今度、買ってみますね」

 

 パパへ朗らかな笑い顔を見せ、ほむらちゃんはもう一度コーヒーを飲んだ。起きたばかりでも仕草は綺麗で、丁寧だった。

 人の家だからって遠慮している、という感じはしない。ほむらちゃんがリラックスしているのはよく分かる。

 大人びているけど、ちょこんと座って朝ご飯を食べている所を見ていると、ほむらちゃんは私と同い年なんだ、という事を思い出した。

 

「あら。タツヤ君、頬にケチャップが着いてるわ、取るわね」

 

 ナプキンでタツヤの頬を拭くと、ほむらちゃんはタツヤの頭を撫でた。

 とっても優しい手つきに、タツヤが嬉しそうな声を出す。なんだか、ちょっと羨ましい。

 

「知久、にしてもよく分かったな。ほむらちゃんが私達の寝相に耐えかねてるって」

 

 タツヤの顔を眺めていたママが、思い出した様にパパへ話しかける。

 

「顔を見て、何が有ったのかはすぐに分かったよ。僕も昔はやられたからね、いや、痛かった。本当に」

「あはは……」

 

 ママが乾いた笑い声をあげ、誤魔化す様にコーヒーを飲んだ。

 ほむらちゃんには悪い事をしちゃったと思う。ママもわたしも結構寝相が悪いのに、すっかり忘れてた。

 

「ああ、どんな感じだったんだ? 私とまどかの寝相はさ」

「そう、ですね……」

「正直に言ってくれて良いんだよ」

 

 ほむらちゃんが少し考える。そこまで言葉に迷うって事は、相当凄い寝相だったんだ。

 当たり前だけど、わたしは寝ていたから、何とも言えない。でも、眠れないくらいの寝相っていうのは、かなり痛くて苦しそうだ。

 どんなに凄かったんだろう。ちょっと不安になりながら、ほむらちゃんの言葉に耳を傾ける。

 

「……あの、話は変わるんですが、その、また来て良いですか?」

「え? ああ、勿論」

 

 ほむらちゃんが話題を変えると、ママは戸惑いながら頷いた。

 いつもなら、休日のママは野暮ったい服を着ているんだけど、今日はちょっとカッコ付けて、派手めの服を選んでいた。ほむらちゃんの前だから、いつもより見栄えがよくなる様に頑張ってるんだ。

 

「いっそ、お泊まり二日目行くか?」

「ちょっと、ママ。駄目だよ、ほむらちゃんにだって都合が」

「大丈夫よ、まどか。そういう事なら、制服と明日の用意を持ってくるから」

 

 静けさの漂うほむらちゃんが、口元の笑みを今までより優しい物に変える。明日は学校なのに、全然気にしてないみたいだ。

 今日も泊まってくれるのは嬉しいけど、良いのかな。そう思っていると、ほむらちゃんが小さく頷いてくれた。

 

「ん、お泊まり二日目、するんだな?」

「はい。是非、お願いします」

 

 頭を下げて、ほむらちゃんがママへ頼んだ。

 

「ねえ、ほんとに良いの?」

「ええ。特に予定も無いから。まどかこそ、誰かと約束をしているのではないの?」

「ううん、今日は平気だよ」

 

 実は、今日もほむらちゃんの為に予定を開けていた。お泊まりの後だし、何かやる事が有るだろうと思っていたから。

 ほむらちゃんこそ、他の人と約束が有ったりはしないのかな。わたし以外の人と付き合っている所を見た事が殆どないから、分からない。

 悲しい様な、こんなに素敵な人を独り占めに出来る優越感が有る様な。

 

「じゃあ、決定だな。今日もお泊まりだ」

「よろしくお願いします」

 

 迷う様子が欠片も無い、ほむらちゃんの姿。

 これで、二日目のお泊まりが完全に決まった。パパとママが楽しそうにしていて、わたしも、とっても嬉しい。

 

「ね、ほむらちゃん。今日もお泊まりするなら、昨日言ったあそこに行っても大丈夫そうだね」

「ああ、そうね」

 

 昨日、ほむらちゃんから聞いた場所。そこへ行ってみたくなった。

 夜景を二人で見るなんて、まるでデートだ。でも、勘違いだと分かった今は、昨日みたいに焦ったりする事は無い。

 でも、昨日の気持ちがまだ残っているからか、何だか緊張する所は有った。

 

「何の話だ?」

 

 ママが興味津々で尋ねてきた。

 夜に行くんだし、家族にはちゃんと行き先を話しておかないと。そう思って、わたしは一度ほむらちゃんの顔を確認してから、説明を始めた。

 

「えっとね……」

 

 




次は20日の0時に投稿します。これだけでは短いので。
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