マシン・マジック・マイメモリー   作:飛び回る蜂

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第十七話「実質休暇、実質勤務」

 

 

 

 お昼時、フロンティアスクールの学生食堂は笑顔で賑わう。

 魔法少女にとって食事は決して欠かせない。

 美味しい物は笑顔の活力、何よりの栄養となるのだ。

 

 

「そう睨まないでくれ。怪我をさせたことは悪かったと思ってる、だがこれも訓練の一環で……」

 

「むぅー!」

 

「悠君、今回の件は僕の望んだことでもありまして」

 

 

 あまりに多くのデータを得られ気分上々といった飾浜に見送られ、3人は学食までやってきた。

 悠も針谷に起きている事態を調査する為実戦的なデータ取り、そしてその為に生徒との模擬戦を行うという旨は事前に聞いていた。

 しかしカイナ相手にあれ程までに強烈な拳闘が行われているとは知らなかったのだ。

 その結果、人目もはばからず針谷の腕から離れない悠になってしまった。

 

 

「しかし強かった。あのまま戦闘を続けていれば負けていたのはこっちだ。流石だな、兵隊さんは」

 

「謙遜なさらず。同条件で戦っていただいたからこその結果で、全力なら成す術もありません」

 

「いや、そうでもないだろう。そもそも私達は一対一での戦いを想定していないからな……なんにせよ、次が楽しみだ」

 

 

 カイナからすれば「もっと鍛えれば全力を出しても互角に戦える」という認識である。

 確かに興が乗ってしまいあそこまで無遠慮に殴り合っていた、だが未だ互角とは言えない。

 そもそも魔法少女からすれば自分の身体能力だけに頼る必要は無い。

 一対一(タイマン)になった時点で全周を魔法により面制圧する。その手段を取ることはいつでもできた。

 しかしそれではなんの意味も無い。実験に際し予めそれは『無し』と取り決めていたのだ。

 

 

「カイナさんは青あざに出血、腕に骨折寸前のヒビです。わざと受けましたね?」

 

「うっ」

 

「針谷さんは肋骨のヒビ、腕と脚の一部に裂傷。おそらく慣れない魔力を込め過ぎた後遺症だと思います」

 

「……すみません」

 

「二人共もっと慎重になってください。針谷さんの身体はまだなんにも分かってないんですよ?体感で感覚を掴むのはしょうがないにしても、もう少しペースを考えて欲しいです。じゃないと……心配になります……」

 

「「ごめんなさい」」

 

 

 悠の言ったことに心当たりのあるカイナと、知らずとはいえ自分には過ぎる負荷を課していた針谷。

 あまりに強烈な泣き落としに2人は謝ることしかできなかった。

 普段ボス猫のような風格を持ち、戦えば怪力乱神と畏れられるカイナですら謝るしかできない。

 それ程までに幼い子が涙を堪えてする注意には説得力があった。

 自分の言動を顧みて少し行き過ぎたと感じたのか、悠は途端にしおらしくなってしまう。

 

 

「……すみません、わがままを言ってしまって」

 

「そんなことはありません。以後このような事の無いよう努めますので、どうか……」

 

「ほ、ほら。笹島も昼を楽しみにしていただろ。気持ちを切り替えないか」

 

 

 至って真面目に反省した針谷と、空気を入れ替えようと話題を逸らすカイナ。

 提示されている日替わりメニューは二種類。Aセットのロコモコ丼とBセットのパスタランチだ。

 券売機には数名の生徒が並んでおり3人もそれに倣う。

 並んでいる間突き刺さりる視線に針谷は居心地悪く感じるも、悠の方は慣れもあって然程気にしていない様だ。

 注目されているのは二人だけではない、カイナもだ。

 

 

「なんかすごい組み合わせで並んでるねぇ」

 

「あっちは笹島君で、あの人がML社から出張の人、それと……え、不動さん?なんで!?」

 

「わ、わかんない。あの人授業にもあんまり出席してないって聞くんだけど……」

 

 

 学食内は多くの生徒の話声で賑わっている為、ささやかれるヒソヒソ話が3人の耳に入ることはない。

 しかし幾つかの視線が自分達に向けられたものでないことは針谷も認識していた。

 本人に問うていいものか思案し、別に本人が気にしていないならいいかと話題を変える。

 

 

「それにしても広いですね。本社の社食の倍はありますよ」

 

「そうか?こんなものだと思うが。だが今日は人が多いな」

 

「お弁当や購買の生徒もいますが、高等部は半数が学食だそうです。討伐任務に出るようになればお給料が貰えますし、だからかもしれません」

 

「となると朝、夕は大変そうですね。学生の身で自炊は難易度が高い」

 

「寮住まいは申請すれば朝食が出るぞ。夜は自炊するものもいれば外に行くものもいる」

 

 

 話しながら徐々に前へと進み、券売機の前まで到着。

 思ったよりも多い品数に思わず針谷は唸る。

 日替わりのロコモコも確かにいい。疲れた身体には肉だろう。

 だがそれより一等目を引くメニューがある。針谷は思わず怯んでしまった。

 

 

(ステーキセット……!?学生が利用する食堂で、いや問題はそこじゃない。これは、まさかステーキセットを()()しているのか!?)

 

 

 メニューを眺めているとなんと『ステーキセット』と書いてあるではないか。

 学生食堂でステーキ、さすがの針谷も聞いたことが無かった。

 お値段なんと2300円。最安の定食で450円だ、いくらなんでも生徒の昼一食にしては高すぎる。

 

 

(ここは女子生徒ばかりの学園。そんな場所でこのカロリーと資本主義の権化を売り続けるのはあまりにリスキー。ということは教員向け?いや、教員も圧倒的に女性が多い筈だ。むしろカロリーコントロールにはより気を配る筈。では誰が買うんだ……!?)

 

「どうした針谷さん……あぁ、それか」

 

「えぇ、これはどの層に向けたメニューなんでしょうか」

 

「もし懐に余裕があるなら買うといい。いい思い出になると思う。あたしは……ロコモコがいいかな」

 

 

 ほんのしばし、針谷は考えた。

 学食の席でステーキ、悪目立ちするだろうか。

 だがこれを選ばない選択肢はあるだろうか。否、ない。

 せっかく美味と噂されるフロンティアスクールの学食に来たというのならば、これをオススメだと言う生徒がいるならば。

 それを選ばない理由はなかった。そしてそれを分かち合わない理由も無かった。

 

 

「二人は決まってますか?」

 

「はい。パスタセットにします」

 

「あたしも決まった……針谷さん?なんだその、悪戯っ子のような顔は」

 

 

 カイナの訝しげな顔に、針谷は笑顔で返した。

 

 

「お二人共。もしよければなんですが、ステーキセット(これ)にしませんか?お代は僕が出しますので」

 

「えっ?」

 

 

 針谷は想像した。二人が食事を取っている目の前でステーキを頬張る自分を。

 それはダメだ。流石に絵面が悪すぎる。自分だけ金にものを言わせて贅沢しているような絵はあまりに風聞が悪すぎる。

 でも食べたい。だって、マズいわけが無いのだ。

 チラとテーブルの方を見れば生徒達が食事を取っている。そしてそのどれもがかなりの高クオリティを伺わせる。

 

 笑顔の赤髪の生徒が頬張っているのは天丼。具は恐らくエビとカボチャ、ししとうにイカ。

 黙々と食事を取っている黒い髪の生徒が食べているのは焼き魚定食。その傍にはしっかりと冷奴に漬物が添えられている。

 天丼に焼き魚定食。このどちらもメニューに載っている。つまり恒常的に取り扱っているのだ。

 

 いったいどうやって採算を取っているのか分からない程に見目麗しい品目の数々。

 となればだ、その頂点にあるとも言えるステーキセットがマズい?そんなことはあり得ないだろう。

 しかし一人で食べるのはやはり気が引ける。だから同行者全員に食べてもらう。

 そうしてもいいくらいに、針谷のステーキへの好奇心は高まっていた。

 

 

「いいのかっ!?」

 

「不動さん!?」

 

「もちろんです。人生食事の回数は決まってます。食べてみたいと思ったのなら、行動しなくてはなりません」

 

「一理ある。実を言うと値段が高くてあたしも中々踏み切れなかった代物でな……ありがたくいただこう」

 

 

 あまりの遠慮の無さに悠は唖然と、針谷は気っ風のいい人だと微笑んだ。

 悠はというと悩んでいた。

 針谷の誘いを断ることはしたくない。しかし2300円、あまりに大金だ。

 どう見積もっても最低で2日分の食費。もしくはおやつの板チョコが20枚買える金額。

 最近お菓子というものに目覚めつつある勇にとって、それは沢山のおやつと引き換えに手に入るものなのでは?そう考えている。

 うんうんと悩み続け、午後の授業もあることだしと断ることに決めた。

 

 

「僕はやめときます。多分、食べきれません……」

 

「そうですか。でしたら、分けっこしましょう?せっかくなら、悠君にもいろんなものを食べてもらいたいです」

 

「わ、分けっこ……分かりました!それならぜひ!」

 

 

 そう返してくれた悠に笑顔を向けつつ、食券の購入ボタンを押す。

 ステーキセットが2枚、ランチパスタセットが1枚。購入し終えた針谷はカウンターへと持っていく。

 出迎えてくれたのは料理人らしき女性。髪色が紫の溌剌とした女性だ。

 

 

「食券お預かりします!あら男の人、珍しいお客さんがステーキ二つとはこれまた珍しい。じゃ、こちらの番号札でお呼びしますので!」

 

「ありがとうございます」

 

「ステーキ入りまーす!2つ!」

 

 

 注文は完了、先に席を取っている二人と合流する。

 悠はお茶を取りに行っていたようで席の前に置いている。

 ありがとうと告げつつ、針谷はさっきから気になっていたことをカイナに質問する。

 

 

「頼む人少ないでしょう?なぜあんなメニューが?」

 

「最初は確かに高すぎると言われていた。だが記念だったりゲン担ぎだったりお祝いだったり。たまに見かける程度には注文が入るからだな。半分はそれだろう。実際美味いらしいしな」

 

「へぇー。じゃあもう半分はなんですか?」

 

「笹島はここに来てまだ日が浅いから知らないか。生徒の中に、あれが好きで好きで仕方がない人がいるんだ。現場に出ずっぱりで学校にいる日の方が少ないが、戻ってきたら必ず食べる。もう半分はその人の為だな」

 

「生徒一人の為にメニューを残す……マナフロらしいというか、優しいエピソードですね」

 

「いや、無くすかもと言ったら滅茶苦茶に駄々をこねて取りやめさせたらしい。脅威討伐におけるその人の貢献度合いも大きかったから、特例であることは否定できない」

 

 

 なんだそれは。そんな雰囲気が話を聞いていた二人から察せられる。

 カイナも話していてややもにょもにょとした気持ちとなっている。

 だがそれも年相応のエピソードと言えばその通りだ。

 魔法少女が自由気ままに生きられることこそ、この学園では最も優先されるのだろう。

 

 

(学食といい脅威対応といい、学級崩壊しないのが奇跡みたいな学校だな……)

 

 

 針谷は不謹慎ながらもそう思わずにはいられなかった。

 実際問題、この学校では多少のサボりや無断欠席はあっても、いじめやそれに連なる問題があるとは今の所聞いていない。

 もしそんなことがあるのなら、針谷に出来るあらゆる手を尽くして無くすつもりだった。

 悠が学校生活を安心して過ごせる場所にする為なら、学園長琴森にいくらでも頭を下げるし仕事も請け負うだろう。

 その程度で家族の安全を買えるなら安い。だがその心配はいらないらしい。針谷は密かに安堵した。

 雑談を交えつつ3人が食事を待っていると、針谷は見覚えのある生徒が歩み寄ってくるのを見つける。

 

 

「秋山さんに入江さん、今朝ぶりですね」

 

「こんにちは。今日はお忙しい中ありがとうございます」

 

「どうもぉ。朝の口調やめたんだねぇ、よきよき」

 

「お二人共ご丁寧にありがとうございます。えぇ、あの口調で3日間過ごすのは、少々しんどいので……はい」

 

 

 青く伸ばした髪の『秋山(あきやま) (れい)』、目元を隠す程前髪を伸ばした猫背気味の『入江(いりえ) (みのる)』。

 二人はかつて『霧』の脅威を相手に針谷と共闘した2級討伐官である。

 秋山は卓越した剣技を、入江は影を媒介にした個性的な魔法を得意としている。

 そんな二人はあの任務を受けて以来話すようになり、今は友人としてよく一緒に過ごしている。

 彼女らもまた、遅まきの昼食を食べに来ていた。

 

 

「カイナちゃんに悠ちゃんも、やっほ」

 

「こんにちは、入江先輩」

 

「ちゃんはやめろ、稔」

 

「いいじゃん、同い年なんだしぃ」

 

「こら、困らせちゃダメ。よかったら相席しても?」

 

「もちろんです、どうぞ」

 

 

 長いテーブル席に二人が付く。

 彼女らが談笑する中、入江とカイナ、二人が同い年と言うことがにわかに信じがたい針谷であった。

 

 

「ちょいちょいちょい!あそこヤバくない!?」

 

「2級討伐官が3人もいる。それも不動先輩に……え、嘘あれ入江先輩!?ML社の人顔広すぎでしょ……!!」

 

 

 そんな彼らを尻目に学食の一角はにわかにざわついていた。

 2級討伐官が3人一緒、これ自体は然程珍しくない。食事を取れば一緒になることもあるだろう。

 だがメンバーがあまりに意外だった。影を好み滅多に人前に出てこない、たまに出て来れば誰かの影に潜んでいて見つからない入江。

 そしてそもそも見かけることが何故か少ないカイナ。実際は任務とサボりと鍛錬で授業に出てこないだけなのだが、野良生活をしているのではないかと噂される

 どちらも人がいる時間に学食に来ない生徒、かつ()()()()生徒だ。

 それがまるで旧友のように接している。しかも外から来た企業の偉い(?)人を介して。

 周りの生徒からすればどういうことかと覗き込みたくなる組み合わせで会った。

 そうこうしている内にカウンターから呼び出され、針谷と悠、カイナが席を立ち食事を取りに行く。

 

 

「おまたせしましたー!ステーキセット2つにランチパスタでーす!」

 

「ありがとう」

 

「ありがとうございます。なるほど、これは最高ですね」

 

「午後もお仕事頑張ってねぇ!」

 

 

 大きめのランチプレートの左半分。大きく、厚く、それでいて艶のあるステーキが鎮座。

 肉には赤く芳しいソースもあって彩りがいい。傍に備わった白い器には茶色のソース、これもまたいい香りがする、肉と合うのを確信する。

 その下に敷かれたサニーレタス。そして周囲をニンジンのグラッセ、ブロッコリー、プチトマトが飾る。見る者を楽しませるなんとも美しい装いだ。

 ステーキと言えば鉄板。そんな風に考えていた針谷であったが、考えてみればじゅうじゅうと音を立てる鉄板を学食で持ち歩くのは危ないし人目を引きすぎる。

 なるほど、これなら女子が頼んでも何ら不思議はない。むしろその上品さはここでこそ映えるとすら思える。

 

 一方でランチパスタも負けてない。白い深皿に盛られたのはカルボナーラパスタだ。

 ベーコンに黒胡椒、オーソドックスな具で纏まっているが濃厚なチーズの香りは隠せない。

 量もそれなり、少なくとも学生の昼食にしては多すぎるのでは?と感じる程しっかりとした重さを感じる。

 外で食べれば優に1000円に届くだろう。魔法少女連盟(マナ・フロンティア)の経済、恐るべし。

 悠はよく食べる子になってくれた、このくらいなら問題はないだろう。

 そこに自分の影響があるとは1ミリも考えていない針谷であった。

 

 

「お待たせしました、どうぞ」

 

「ありがとうございます!おいしそう……!」

 

「うぉ、それ二つも買ったの?社会人、お大尽~」

 

「懐かしいな。私も2級に上がった時先輩に奢ってもらったっけ」

 

「……ご飯、足りなくないか?」

 

「僕も思いました。後で買いに行きましょう」

 

 

 これなら午後も頑張れる。

 そう確信させてくれる昼食であった。

 

 






魔法とは何か。それは夢を叶える力。

夢を叶えるとは何か。理想を現実に変える力。

では理想と現実の間の隔たりを知ってしまったら?

夢は覚め、現実の中で生きるしかない。

次回 第十八話「魔法の矛盾」




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