マシン・マジック・マイメモリー   作:飛び回る蜂

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第二十話「絆」

 

 

 装備を整えた針谷隊が現場に到着した時、既に市街地は悲惨な様相であった。

 目につくのは崩れた家屋と建物の壁に刻まれた巨大な衝撃痕。暴れ狂った脅威は塀や柵はまるで意に介さなかったようだ。

 破壊された家の手前から地面のアスファルトが足跡のように丸く陥没しており、そして離れるようにまた後が遠ざかっている。

 足跡らしきものを追っていくと公園へと辿り着く。アスファルトには覆われていない地面が多く、見える範囲で敷地一帯が掘り返され荒らされている。

 花壇は特に被害を受けており、花は全て掘り返され、引き裂かれ、蹂躙されている。

 あまりの惨状に三人は閉口する。その中で木山が重々しく口を開いた。

 

 

「酷い有様ね。何もかも滅茶苦茶」

 

「やり方に悪意がある。猪に人生滅茶苦茶にされたと見たぜ」

 

「匂いに敏感で警戒心が高く俊敏、その上頑丈。猪は倒すとなると厄介極まりない生き物です。既に戦力の投入にも感づいていると見るべきです」

 

 

 事前の通達により、準備を完了した班員は市街地の半径500mから中心を囲むように展開している。

 その数70隊、人数にして210人。かつて笹島悠を救出する作戦において適性と言われたのが14部隊42人。

 今回はその4倍以上。被害範囲があまりに広い上に脅威の行動速度が尋常ではなく早いことを鑑みての展開である。

 

 故に取る作戦は周囲を囲んで少しずつその輪を狭めていき、脅威を発見次第伝達。

 その点を中心に集結、速攻で畳みかける。発見した部隊は生存を第一として足止めに徹する。

 この作戦は脅威を発見した部隊の負担が極めて大きい。だがまずは脅威の位置を特定しなくてはどうにもならない。

 脅威は発見されると高速でその場を移動している上、行動した痕に魔力の残滓がこびりついている。

 その為魔力を感知するセンサーが街のそこら中でデタラメに反応しており役に立たない。

 音や望遠での被害状況から察するに今は動きが無い。いずれにせよこちら側が動かなくては事態は解決しないのだ。

 そして彼らが二の足を踏む理由は別にあった。

 

 

「位置特定だけならヘリ……はダメそうね、隊長」

 

「……既に2級含む、()()()()()()()()退()されています。飛行する相手への有効打を持っていると見ていい」

 

「状況は絶望的と言っていいが、なんとかなるもんかね?隊長」

 

「フロンティアは1級を複数名、社長は決戦兵器の投入を急がせています。前者は既に他で対応中、後者は可決中です。時間稼ぎに徹しましょう」

 

 

 魔法少女4名の撃退。これは彼らにとってあまりに重い現実。

 そもそも魔法少女が負けることは滅多にない。膠着状態や不調によるダウンはあっても、正面切って戦いの場に挑んだ魔法少女はまず負けない。

 彼女らの人々を護りたいという意思は本物だ。不撓不屈の精神は揺らぐことなく、たとえ死の淵にあっても、否逆境でこそ尚輝くのが彼女達だ。

 その意思は魔力として作用し、どれ程の劣勢にあっても勝利を手にする。それが彼女達が人類の希望足り得る所以だ。

 

 そんな魔法少女が4名敗北している。これは文字通りの意味、戦闘において魔法少女を凌駕していると判断される。

 そしてその穴を埋めるのがML社なのだが、客観的に見ればあまりに荷が重い。

 空を飛び、一騎当千を誇る彼女達が複数人でかかって尚勝てない。そんな怪物がこの先にはいる。

 針谷達だけではない。この作戦に関わる全ての社員達が一様に同じ意見を持っていた。

 運悪く出くわせば死ぬかもしれない、と。

 

 

「出くわした時の策はあるか、隊長。無くてもいいが念のためな」

 

「……………………なくは、ないです」

 

「うっそ、本気で言ってる?ねぇそれって最近の出張と関係してる?」

 

「絞り込もうとしないでください。……全体周知が来ましたね、作戦開始です」

 

 

 顔を覆うヘルメットにアラームがなり、全部隊の準備が完了したことを告げる。

 同時に指令により作戦開始通知が言い渡される。これより針谷隊含め210人は死地へと歩まねばならない。

 今回はイレギュラーな大規模作戦となる。緊急事態である為細かなブリーフィングも無し。

 彼らは同時に市街地の周辺へと動き始めた。魔力センサーは役に立たない為切り、部隊位置を把握する方に切り替えてある。

 

 彼らは平和に慣れていた。ここ十数年あまり死者の無い作戦が続き、目の前に死があるという現実を忘れかけていた。

 脅威との戦いは何よりも『恐れてはならない』。その恐れすらも脅威は糧とし、より強大になる。

 脅威は恐怖の具現である。そして人が死を恐れるのはごく当たり前の事。

 それをここにいる常在戦場を貫く者を除き、人は死を恐れるものだと()()()()()()()()()()()()()()()

 脅威はその気配を敏感に感じ取っていた。

 自分を囲う恐怖の円が狭まるのを。そうして巨体は動き始めた。

 

 

『こっ、こちら11:15隊(ヒトヒトヒトゴー)っ!!脅威がっ、がっあああああぁぁぁ───!!

 

「包囲される前に動き始めたッ!?」

 

「奴さん頭使ってやがる、隊長ッ!」

 

「急行しましょう!」

 

 

 北を時計の00:00として針谷達の居場所は10:45。

 脅威の行動した場所は遠くない。速力を上げてすぐさま到着する。

 しかしその場所には既に脅威の姿はなく、既に先んじて到着した部隊が負傷者を運び始めているところであった。

 現場近く、まるで民家のド真ん中を通り抜けるかのように貫いた巨大なトンネル。そしてその左右をべったりと塗られた赤い液体。

 それが何を意味するかは火を見るよりも明らかであった。新入社員のものだろう嗚咽が近くから直接通信へと届く。

 急ぎ針谷が近くにいた目つきの悪い部隊長に事情を聴くも、返ってきたのは無情な報告だけであった。

 

 

「來堂隊、末徒隊、角庭隊、原隊。以上四部隊から11名死亡、一人は意識不明の重体。脅威は再度円の中へと退避。作戦は一時停止中だ」

 

「了解しました。お二人共、聞こえていましたね」

 

「当然」

 

「応」

 

 

 怯えてはならない。いつだって起こり得たことが目の前で起きただけ。

 人々を守るとはこういうことだと。災害の前に誰よりも前に立ち、その身を挺することだ。

 社訓に従い、人類最後の防波堤として荒れ狂う災厄に立ち向かうのが彼らの任務。

 芽生えた恐怖を押しつぶし、プライドと理性で荒波を押し留める者達。

 その筈だった。

 

 

「いっ、いやだッ!!俺には無理だ!!」

 

「あァ……!?テメェ何ほざいてんだァ!?」

 

「見ただろアンタは!!あんな、装備を軽く引き千切ってミンチにしやがったっ!俺っ、俺は死にたくないっ!!」

 

「それを承知でテメェはML社(ここ)に来たんだろうがァッ!甘ったれてんじゃねぇぞコラッ!!」

 

 

 彼の顔を針谷は知っている。怒鳴りつけた彼は『天王寺(てんのうじ) (ごう)』。

 天王寺隊の隊長にして生粋の戦闘屋。そして叫んだのは最近彼の元に就いた新人のようだ。

 腰が抜けて倒れ込んだ新人の胸倉を天王寺が掴み上げ、無造作に怒鳴り散らす。

 

 

「俺の部隊に来てテメェ言ったよなァ?俺の元に就いたからには出てくる脅威全部ぶっ殺してやるって。なァオイ、ありゃあ嘘だったんか?」

 

「こっ、こんな化け物勝てるわけが」

 

「寝言言ってんじゃねぇぞガキが。勝つだの負けるだのとくだらねぇ……もういい、テメェは俺の隊には要らねぇ。時間の無駄だとっとと失せろッ!!」

 

 

 掴んだ胸倉を放り、倒れ込んだ新人の尻を蹴り上げて遠くにやる。

 地面に情けなく身体で着地した隊員は獣のように四つん這いのまま、ほうほうの体で逃げていった。

 重く、鉛のような溜息を吐いた後、天王寺は針谷隊の三人をギロリと睨んだ。

 

 

「みっともねぇところを見せた。最近の新米はダメだ、どいつもこいつも……戦えば勝てるとしか思ってねェ」

 

「殉職者が出たんだ、それも目の前で。無理もねェ話でしょう」

 

「これを聞いたら更に希望が無くなるぜ?敵はケツから頭まで7mはあるクソ獰猛な猪だ。しかも家4軒ぶち抜いて特攻かましてきやがる。おまけに毛が分厚い、ちゃちな銃を通さねェぞ」

 

「となると狙いは眉間か目……違う、脅威にそういう弱点の概念は無い」

 

「純粋に力で抑え込むしかないってことだ。いっそ街ごと吹っ飛ばすか?」

 

「そりゃ最終手段でしょう。喧嘩っ早いのは変わりませんねェ、天王寺さん」

 

 

 大塚と天王寺、元部下と上司の二人に木山を併せた三人が物騒な話をする中、針谷は一人考えていた。

 死人が出た、これは想定を上回る被害と脅威規模だ。

 ML社が採用している魔力装甲は伊達ではない。出力を最大解放すれば走る2tトラックだろうが正面から受け止めるパワーがある。

 野を征く獣一匹に貫ける装甲などあり得ない。つまり今対応している脅威は殺傷力に極めて特化していると見るべき。

 重量体格か、速度貫通力か、魔力圧か、あるいはその全てか。

 

 

(もっと早く決断していれば……違う、考えるな。今すべきことはそれじゃない)

 

 

 いずれにせよML社の装備では紙切れ同然と分かった以上、この作戦は無謀を通り越して自殺と言っていい。

 それをこの場にいる、針谷隊と天王寺隊の計六名は肌で理解していた。

 そして他部隊の多くは情報としてしか知らない。そして恐怖が伝播したことをまた、脅威は察知しただろう。

 事態は一刻を争う。針谷は迷うことなく剣崎へのホットラインを起動した。

 通話の向こうから、死傷者の情報を受けた重々しい口調の剣崎が応えた。

 

 

『私だ』

 

「これより魔法を使用します。行動の許可を」

 

『いいのか。お前の平穏は遠ざかるぞ』

 

「構いません。僕もまた()()です」

 

『承知した。針谷大和隊員、これよりお前には独自の行動権を与える。……こちらも決戦兵器の投入を急ぐ、無事の帰還を祈る』

 

「了解」

 

 

 手があるのかとは聞かない。無いなら連絡などしない。

 ならば託す。死んだ部下の為に、これ以上部下を死なせない為に最善を尽くしてもらう。

 針谷は通信を切り、今尚策を出し合う三人の前へと歩を進める。

 三人は近づく針谷を見て会話を切り上げたのだが、その異様な雰囲気に思わず気圧されてしまう。

 

 

「大塚さん、木山さん、申し訳ありません。これより僕は単独行動を取ります。お二人には行動方針を言い渡します」

 

「ハァッ!?オイ待てや針谷、仮にもテメェ二人を預かる隊長だろうが!この状況で何抜かしてやがんだ、あァッ!?!」

 

「これ以上の被害を食い止める為です。身勝手は承知しています、ですが……」

 

「テメェ一人で何をするってんだァ!?指令は既に下ってるだろうがッ!」

 

 

 隊の二人を見捨てて行動する宣言をした針谷に天王寺がキレて食って掛かる。

 無論針谷とて見捨てるわけではない。これから取る行動はあまりに危険である為二人を連れていくことは出来ない。

 可能なら天王寺、もしくは近隣の部隊に一時所属、それまで指示に従ってほしい。

 だがそれを言う間に天王寺の怒号が畳みかける。取り付く島もない。

 その時、大塚が静かに天王寺の発言を遮った。

 

 

「分かった。後は頼んだぜ、隊長」

 

「……いいん、ですか?」

 

「あぁ。俺達はな、針谷を信じるって決めたんだ。なぁ?」

 

「うん。無事に帰って来てくれればそれでいいから。だから行って、隊長。」

 

「なぁにうちの隊長がどうにかするって言ってんだ、ならどうにかなる算段があるってことだろ!」

 

 

 それは手放しの信頼であった。

 疑わず、問わない。ただ針谷を信じ、その結末を共に見届けると言ったのだ。

 愚直とも言えるそれを針谷は、確かに受け取った。

 

 

「恐らくこの後再進行の命令が届きます。脅威発見次第、僕が足止めに徹しますので皆さんは攻撃の準備を」

 

「火力は波状?それとも集中?」

 

「敵は単独と想定し集中です」

 

「近接の用意は?」

 

「近射撃から貫通と切断に換装、できれば4名は欲しい。脚を奪って徹底的に叩きましょう」

 

「任せとけ。命知らずを掻き集めといてやるぜ」

 

「ありがとうございます。では……行って参ります」

 

「ちょ、待て針谷っ、あァ!?再進行命令!?それに特殊指示だァ!?なんで今……そうかテメェ針谷!お前後で絶対説明しやがれ!」

 

「必ず!」

 

 

 天王寺の静止を努めて無視。針谷は魔装の出力を上昇させ、足跡を単独で追い始める。

 先の攻防から単独で追う分には十分な足跡が付いている。後はそれに沿って進むだけ。

 だが見れば見る程、その足跡は異様さを示ししている。

 蹄状にアスファルトを陥没させる重量と脚力、そして連なった家屋を連続して貫く突進力。

 これらは隊員が退避行動を取る間もなく殺害せしめた。

 被害レベル、そして危険度はここ数十年に出現した脅威の中でも上位に位置すると言える。

 それを針谷は、単独で押し留めに行く。

 

 

(感覚は既に掴んでいる。あとは、僕に全てがかかっている)

 

 

 崩れ落ちた民家にビル、小枝のように容易く折られた電柱、踏み荒らされた道路。

 今まで遭遇してきた脅威を差し置いても圧倒的な被害を齎していた。

 恐らく脅威は敵を撃退しては『巣』に帰っているのだろう。そうして被害者から恐怖の感情を絞り尽くそうとしている。

 決戦兵器の投入が遅れているのは街中にいるであろう、標的者の存在が理由と当たりを付けた。

 

 この惨状に針谷は、脅威元には多くの人間の恐怖が絡んでいると予測していた。

 あるとしたら猟師会や農家の会合だろうか。そういったものを脅威が目敏く食い物にしたのだろう、と。

 そうなると脅威標的者達はどこにいるのか?それも容易に推測できる。

 

 市街地中心部にある大きな市民ホール。大人数での会議にも、巣を作るにも、外敵を迎撃するのにもうってつけだ。

 

 

 





 ただ一人、暴威に挑む。

次回 第二十一話「大役が過ぎる」
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